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最終更新日:2023/2/3

生前贈与された居住用不動産に3,000万円控除は利用可能!適用要件とは

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 居住用不動産を売却した際の3,000万円控除の内容を知ることができる
  • 居住用不動産の3,000万円控除の適用を受けるための要件がわかる
  • 居住用不動産の3,000万円控除の適用を受ける際の流れがわかる

居住用不動産を売却して所得が発生すると、その所得に対して所得税が課されます。

ただ、居住用不動産、つまり自宅を売却すれば、新たな住む場所を確保するためのお金が必要です。

そこで、居住用不動産を売却して所得が発生しても、その全額に課税されないよう、3,000万円控除という制度が設けられています。

これに対して、相続した家を売却すると、3,000万円控除の適用を受けるのは非常に難しいです。

これはなぜなのでしょうか。

この記事によって、親の住む家を相続後どうしたいのかを考えて、今後の対処法を考えるきっかけとしていきましょう。

居住用不動産の3,000万円控除とは

居住用不動産の3,000万円控除とは、自宅の土地や建物を売却して発生した所得(利益)から3,000万円を控除する制度です。

最大3,000万円の所得が控除されるため、その分所得税の負担を大きく減額することができます。

このように、居住用不動産を売却した時に大きな控除が適用されるのは、居住用不動産売却後にお金がかかるためです。

居住用不動産を売却しても、その後に新しい自宅を探さなければなりません。

マイホームを新築・購入する場合もあれば、別の賃貸物件に入居する場合もあります。

ただいずれの場合も、多額の資金が必要になってしまいます。

そこで、所得金額を大幅に控除して、税負担が少なくなるように配慮されて設けられた制度です。

空き家には居住用不動産の3,000万円控除は使えない

居住用不動産を売却した場合の3,000万円控除が適用されるのは、基本的に、自宅の土地や建物を売却した場合です。

親が住んでいた自宅を相続し、その後に売却した場合は、居住用不動産の売却には該当しません。

一方で、空き家となっていた建物を相続した場合には、相続空き家の特例があり、所得税の負担が軽減されることがあります。

ただ、実際に空き家を相続した場合、居住用不動産の特例だけでなく相続空き家の特例も適用できないケースが多くなっています。

相続した空き家は居住用不動産ではない

親が亡くなるまで住んでいた自宅を、その家に一緒に住んでいた子どもが相続した場合、居住用不動産の3,000万円控除が適用されます。

相続が発生した時点で子どもが住んでいれば、その家は空き家ではなく、相続人の自宅と言えるからです。

しかし、相続が発生した時点で、子どもが親と同居していない場合があります。

子どもが同居していなければ、親が住んでいた家は両親が亡くなった時に、空き家になってしまいます。

相続の際には空き家であっても、相続人の誰かがその空き家を相続しなければなりません。

しかし、空き家を相続した人は別の場所に住んでいるため、相続した家に住まないことも多いようです。

相続した空き家には住まない上、空き家を保有していても維持費がかかってしまうため、売却することも考えられます。

空き家を売却して所得が発生すれば所得税がかかりますが、空き家は居住用不動産とは異なります。

また、空き家を売却した人は新居を探す必要がないため、税負担を軽減する必要はありません

そのため、空き家を売却しても、居住用不動産の3,000万円控除は適用されません。

相続空き家の特例とは

空き家を相続した後、その空き家を売却して所得が発生した場合、その所得から3,000万円が控除される特例があります。

この特例を「相続空き家の3,000万円の特別控除」と言います。

3,000万円の所得控除を受けられるのであれば、居住用不動産を売却するのと違いがないように思われるかもしれません。

しかし、相続空き家の特例は適用要件が厳しく、居住用不動産の3,000万円控除より適用を受けられる可能性は低くなります。

特に問題になるのは、次の2つの要件です。

①昭和56(1981)年5月31日以前に建築された建物である

これ以後に建てられた建物については、どのような事情があっても、相続空き家の特例の適用は受けられません。

相続する建物は古いことが多いのですが、それでも40年以上前の建物でなければ適用されないのは、高いハードルとなります。

②耐震基準を満たすようにリフォームを行うか、建物を取り壊す

①の要件にある昭和56年5月31日というのは、旧耐震基準による建築が認められていた期間の末日です。

そのため、相続空き家の特例の適用を受けようとする建物の多くは、現在の耐震基準を満たしていません。

そこで②の要件を満たすためには、耐震工事を行うか建物の取り壊しが必要となります。

いずれを選択しても、数百万円の支出となることが予想されます。

これらの要件をクリアすることができず、相続空き家の特例の適用を受けられないケースが多いです。

これから相続が発生する人は自身の自宅、あるいは親の家がこれらの要件を満たすのか確認しておくといいでしょう。

空き家を相続する前に贈与するメリット

相続空き家の特例を適用するには高いハードルがあり、また建築時期により適用できないケースもあります。

そのような場合には、相続が発生する前に親の自宅を子どもに贈与することも選択肢に入ります。

自宅の土地や建物を贈与すれば、贈与された子どもには贈与税が発生します。

ただ、贈与された土地・建物を売却して居住用不動産の特例の適用を受ければ、所得税の負担は大幅に減らすことができます。

これらの税負担を比較した上で、より効果的な節税になる方を選択することができるという仕組みです。

相続空き家の特例の適用を阻む「昭和56年3月31日までの建築」「耐震基準」という要件は、居住用不動産の特例にはありません

相続空き家の特例の適用を受けられないことがわかっている場合は、贈与を検討する価値がありそうです。

ただし、居住用不動産の3,000万円控除の特例は、自身の住んでいる土地・建物でなければ適用されません。

そのため、贈与されるとすべて効果的な節税になるわけではないことに注意しましょう。

計算例

平成5年に建築された親の自宅は、土地と建物合わせて相続税評価額1,500万円の物件です。

この物件は、売却するとその代金が3,000万円になることがわかっています。

ここでは①同居していない子どもが相続して売却した場合と、②自宅を贈与され同居を始めた成人の子どもが売却した場合を比較します。

なお、譲渡所得の計算は概算取得費(譲渡価額の5%)によるものとします。

①同居していない子どもが相続して売却した場合

土地・建物を売却した時の譲渡所得は、3,000万円-3,000万円×5%=2,850万円となります。

譲渡所得2,850万円に対する所得税・住民税は、5年以上の所有期間があるため、20.315%となります。

そのため、所得税・住民税の税額は、2,850万円×20.315%=約579万円となります。

また、相続時には相続税が発生する可能性もあります。

②贈与後に同居を始めた成人の子どもが売却した場合

土地・建物の贈与税の計算は、相続税評価額を基に計算します。

成人の子どもに贈与した場合、特例贈与財産に該当するため、贈与税額は(1,500万円-110万円)×40%-190万円=366万円となります。

その後、この物件を3,000万円で売却した場合、居住用不動産の特例が適用されるため、所得税は発生しません

この事例のように、贈与された後に売却した方が、税負担が少なくなるケースがあります

事前に相続税評価額と売却見込額がいくらになるのかリサーチしておき、効果的な節税になる選択ができるようにしておきましょう。

居住用不動産の3,000万円控除の適用要件

居住用不動産の3,000万円控除の適用を受ける際も、適用要件が定められています。

  • 自分が住んでいた、あるいは住まなくなってから3年を経過する日を含む年の12月31日までに売却する
  • 売り手と買い手が親子や夫婦、生計を一にする親族などの特別な関係にない
  • 前年や前々年に居住用不動産の3,000万円控除の特例などの適用を受けていない

相続空き家の特例のように、建築時期や耐震基準に関する要件はありません。

そのため、売却時期や売却先に気をつけていれば、3,000万円控除の適用を受けられます。

居住用不動産の3,000万円控除を適用する流れ・必要書類

居住用不動産の3,000万円控除の適用を受ける際は、どのような流れで手続きを進めればいいでしょうか。

また、その際に必要になる書類もあわせて確認しておきましょう。

居住用不動産を売却する

居住用不動産の3,000万円控除の適用が受けられるのは、現在住んでいる、あるいは3年前まで住んでいた土地・建物です。

まずは、その要件を満たすことを事前に確認しておきましょう。

また、前年や前々年に居住用不動産の3,000万円控除の特例などを利用した場合、その年は適用を受けることができません。

このような場合は売却時期を見直して、3,000万円控除の適用を受けられるようにすることもできます。

不動産の売却にあたっては、売買契約書を作成する他、登記手続きなどが必要になります

通常は、仲介業務を行う不動産業者や購入者が融資を受ける金融機関により、これらの手続きは進められます。

確定申告を行う

居住用不動産の3,000万円控除の適用を受けるためには、確定申告書を提出しなければなりません

仮に、3,000万円控除の適用を受ければ所得税が発生しない場合でも、申告書の提出は必要です。

確定申告書を作成する際には、「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」をあわせて作成し、税務署に提出します。

また、居住用不動産を売却した日の前日における住民票の住所と、居住用不動産の所在地が異なる場合は、戸籍の附票の写しなどが必要です。

まとめ

居住用不動産の3,000万円控除の特例は、マイホームの買い替えという事情をふまえ、大きな税額の減少が期待できます。

一方、相続空き家の特例は、空き家の増加という問題の解決を目指してできた特例ですが、非常に要件が厳しくなっています。

そのため、誰もが利用できる特例とはなっていないのが現状です。

相続した不動産をいずれ手放すのであれば、贈与税を負担しても有益となることがあるため、事前に試算しておくことをおすすめします。

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