この記事でわかること
- 相続人と連絡が取れない場合の対応策
- 遺言書がある場合と遺産分割協議の場合
- 相続人に無視や拒否された場合の対処法
- 相続手続きを放置した場合のリスク
- 相続人と連絡が取れない場合の相談先と費用
相続手続きを進める中で、相続人の一人と音信普通などで連絡が取れないケースは珍しくありません。
しかし、連絡が取れないと相続手続きは滞り、様々な問題が発生するでしょう。
本記事では、連絡が取れない相続人がいる場合の影響や対処法、そして放置することのリスクについて詳しく解説します。
また、住所調査や連絡方法、法的手段である不在者財産管理人の選任や遺産分割調停など、段階的な対応策を紹介します。
さらに、専門家への相談内容や費用についても触れ、適切な行動を取れるようサポートします。
相続人と連絡が取れない中、相続手続きを進めるための具体的な方法を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
相続人の一人と連絡が取れないとどうなる?
相続人の一人と連絡が取れない場合、相続手続きが滞る原因となり、他の相続人にも影響を及ぼします。
その結果、相続全体の進行が遅れ、手続きが長期化する可能性があるでしょう。
たとえば、連絡が取れない相続人がいる場合でも、遺言書の有無によって手続きの進め方は異なります。
ここでは、それぞれのケースについて詳しく解説します。
遺言書がある場合
遺言書がある場合、連絡が取れない相続人がいても、原則として遺言の内容に従って手続きが進められます。
特に、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が相続手続きを主導します。
また、遺言執行者には、すべての相続人に遺言の内容を通知する義務があります。
この義務は、相続人には遺留分という最低限の相続分が保障されているために生じるものです。
たとえば、遺言書に「長男にすべて相続させる」と記載されていたとしても、他の相続人には遺留分を主張する権利があります。
そのため、遺言執行者はすべての相続人に遺言の内容を通知し、権利を行使できる機会を与える必要があります。
このように、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、相続人は後から遺留分を請求される可能性があることを認識しておきましょう。
遺産分割協議で相続手続きを進める場合
遺言書がない場合、相続手続きを進めるには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
この協議は、相続人全員の同意がなければ成立しません。
連絡が取れない相続人を除外して進めた場合、その協議は無効となってしまいます。
そのため、まずは該当の相続人と連絡を取ることが最優先となるでしょう。
遺産分割協議の前提として、相続人を確定する過程では、相続人全員の戸籍を取得する機会があります。
その際に、連絡が取れない相続人の戸籍の附票を取得しておくことで、住民票の住所を把握できるでしょう。
戸籍の附票に記載された住所に連絡を試みた上で、相続人全員の同意を得て遺産分割協議を行い、相続財産を分配します。
不動産がある場合は相続登記を行い、相続税の申告が必要な場合は、相続開始の翌日から10カ月以内に済ませましょう。
相続人の一人と連絡が取れない場合の対処法
前述したように、相続人の一人と連絡が取れない場合、まずは住所調査から始め、様々な方法で連絡を試みる必要があります。
それでも連絡が取れない場合は、法的手続きを検討する必要があるでしょう。
ここでは、各々の方法について詳しく解説します。
住所調査と連絡方法
相続人に連絡が取れない場合、まずは住所の調査を行う必要があります。
調査方法として、その相続人の最新の本籍地がある市町村役場で戸籍の附票を取得するのが一般的です。
戸籍の附票には過去の住所履歴が記載されており、そこから現在の住民票の住所を特定できます。
遠方に住んでいる場合は、郵送での取り寄せも可能です。
申請方法は市区町村によって異なるため、ホームページを確認し、不明点があれば問い合わせをするとよいでしょう。
住所が判明したら、その住所に特定記録郵便や本人限定受取郵便で手紙を送ることで連絡を試みます。
また、可能であれば直接その住所を訪問することで、実際に住んでいるか確認もできるでしょう。
それでも連絡が取れない場合は、専門家に相談し、内容証明郵便を送付することを検討しましょう。
内容証明郵便は、送付した事実を証拠として残すことができるため、今後の手続きを進める上で有効です。
相続人が連絡を無視や拒否された場合
相続人の住民票の住所が判明しても、意図的に連絡を無視や拒否をされることがあります。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- 家族間の関係が悪化していて連絡したくない
- 音信が途絶えた嫡出子
- ずっと関わりがなかった非嫡出子
- 高齢や病気のため放置された
- 相続財産が少ないため関与したくない
- そもそも相続する意思がない
相続人が協力しない場合は、相続手続きの必要性を改めて伝えることが重要です。
中立的な第三者を介することで話が進むこともあるため、親族や信頼できる人物に協力を依頼するのも一つの方法です。
また、弁護士など専門家に相談し、内容証明郵便を送付することも効果的です。
専門家からの正式な通知が届くことで、相続人の対応が変わる可能性があるでしょう。
不在者財産管理人の選任
連絡を試みても連絡が取れない場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。
申立ては原則として、不在者の住所地または居住地の家庭裁判所にて行います。
住所地や居住地が不明の場合は、相続財産の所在地を管轄する家庭裁判所、もしくは東京家庭裁判所に申し立てることもできます。
標準的な必要書類は以下のとおりです。
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍の附票
- 不在者財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料
- 利害関係を証する資料
申立ては相続人(利害関係人)が行い、選任された管理人は裁判所の監督下で相続手続きの職務を遂行します。
不在者財産管理人のほとんどは、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
不在財産管理人への報酬や予納金などの費用がかかるため、相続財産の規模や状況を考慮して判断しましょう。
また、申立ての判断や必要書類の準備は法律的な知識が求められるため、専門家に相談することをおすすめします。
遺産分割調停
遺産分割調停とは、相続人同士で遺産分割について合意できない場合に、家庭裁判所で申し立てる手続きです。
調停では、裁判所から連絡の取れない相続人にも呼び出し状が送られるため、相続人が直接連絡を取る必要がありません。
そのため、相続人と連絡が取れない場合にも、有効な解決策のひとつとされています。
調停は、以下の流れで進みます。
- 家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行う
- 調停期日が決まると、裁判所からすべての相続人に呼び出し状が送付される
- 調停では、当事者それぞれが別々の部屋で待機し、交互に調停委員と話し合う
- 合意に至れば調停が成立し、調停調書が作成される
- 調停調書に基づき、相続手続きを進める
もし相手が調停に応じない場合や、話し合いが成立しない場合は、遺産分割審判に移行することがあります。
この場合、裁判官が遺産分割の方法を決定します。
調停の手続きは法律の知識が求められるため、専門家に相談することでスムーズに進めることができるでしょう。
失踪宣告
相続手続きにおいて、相続人の一人とまったく連絡が取れない場合、失踪宣告の申立てが選択肢の一つとなります。
失踪宣告とは、裁判所が失踪者の生死不明を公式に認定し、法的に死亡したものとみなす手続きです。
申立てには、生死不明な状態が7年間続いていることが要件となります。
失踪宣告が認められると、失踪者は7年が経過した時点で死亡したとみなされ、相続手続きを進めることが可能になります。
ただし、失踪宣告は家庭裁判所での審理や公告期間があるため、すぐには認められません。
さらに、後に失踪者が発見された場合、失踪宣告は取り消され、相続などで生じた法的関係を整理する必要があります。
このような事態になると非常に煩雑になるため、慎重な判断が求められます。
そのため、失踪宣告は最終手段とし、検討する際は専門家に相談しましょう。
相続人の一人と連絡が取れず遺産分割を放置するリスク
相続人と連絡が取れないまま遺産分割を放置すると、様々なリスクが生じます。
手続きを進めないことで、他の相続人にも影響が及ぶ可能性があるため、できるだけ早期に適切な対応をしましょう。
特に注意すべきリスクとして、不動産に関する問題と相続税申告の期限超過があります。
ここでは、各々のリスクについて詳しく解説します。
不動産に関するリスク
相続財産に不動産が含まれる場合、相続人全員の合意がなければ売却や建て替えなどの活用ができません。
そのため、適切に管理されないまま放置されるケースも少なくありません。
管理が行き届かない状態が続くと、住宅用地の特例が適用されていた住宅が空き家となり、「特定空き家」に認定される可能性があります。
この場合、固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍に跳ね上がるため、大きな経済的負担となるでしょう。
また、固定資産税や維持費用は毎年発生します。
活用できない不動産を長期間所有することが、財産的な負担につながるでしょう。
さらに、相続登記の義務化により、相続を知ってから3年以内に登記を行わないと過料が課される可能性があります。
こうしたリスクを回避するためにも、連絡が取れない相続人に対する対応を急ぎ、遺産分割をできるだけ早期に完了させましょう。
相続税の申告が期限までにできないことのリスク
相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」と定められています。
この期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税が課されるため、注意が必要です。
また、申告が期限内に行われない場合、配偶者控除や小規模宅地等の特例などの税制優遇を受けられなくなります。
これにより、本来よりも多くの税負担が発生する可能性があるでしょう。
こうしたペナルティを避けるためには、遺産分割が完了していない場合でも「未分割申告」を行い、期限内に対応することが重要です。
相続人と連絡が取れない場合でも、未分割申告は必ず行いましょう。
相続人の一人と連絡が取れないときの相談先
相続人の一人と連絡が取れない場合、専門家に相談することで適切な対応策を見つけることができます。
主な相談先として司法書士と弁護士があり、それぞれ得意分野が異なります。
ここでは、司法書士と弁護士の業務内容や費用について解説します。
司法書士に相談する場合の内容と費用
司法書士は、主に不動産登記や相続手続きの実務面をサポートする専門家です。
相続人の調査や戸籍収集、相続登記の申請などを依頼でき、遺産分割協議書の作成支援や家庭裁判所への申立て手続きもサポートします。
初回相談は無料の事務所もありますが、一般的には30分5,000円からが相場です。
連絡が取れない相続人の住所調査は相続人調査の一環として行われ、費用は2万円程度からとされています。
ただ、相続人数や戸籍の収集範囲によって異なるでしょう。
その後の費用は、案件の複雑さや事務所によって様々で、一般的な相続登記の場合、10万円から30万円程度が目安とされます。
不在者財産管理人選任の申立など、より複雑な手続きになると、50万円以上かかることもあるでしょう。
費用は事務所によって幅があるため、複数の事務所に問い合わせて比較することをおすすめします。
弁護士に相談する場合の内容と費用
弁護士は法的な問題解決や訴訟対応の専門家で、相続人間の対立が深刻な場合や複雑な法的問題がある場合に特に有効です。
弁護士には、遺産分割調停、不在者財産管理人選任、失踪宣告の申立てなど、相続に関する様々な手続きを依頼できます。
また、通常自分で対応が難しい手続きについて、代理人として交渉や法的手続きを進めてもらうことも可能です。
費用については、初回相談料は無料の弁護士もいますが、一般的には30分あたり5,000円から1万円が相場です。
その後の費用は、案件の難易度や手続きの内容によって大きく異なり、数十万円から数百万円に達する場合があります。
ただし、弁護士ごとに料金体系や対応方針は異なるため、複数の弁護士の意見を聞き、費用や対応内容を比較検討するとよいでしょう。
まとめ
相続人の一人と連絡が取れない場合でも、相続手続きには期限があるため、放置することはできません。
対応が難しい場合は、状況に応じて司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家の助言を得ることで、最適な対処法を見つけられる可能性が高まります。
相続手続きの遅れによるリスクを回避するためにも、早めの相談と対応が大切です。
専門家のサポートを受けながら、スムーズに相続手続きを進めましょう。