この記事でわかること
- 親が亡くなった場合、残った借金を相続人が受け継がずに済む方法
- 相続放棄と限定承認のメリット・デメリット
- 相続放棄と限定承認の具体的な手続きの流れ
- 相続放棄と限定承認の注意点
親が死んでから思いもよらない借金が発覚した、というケースは少なくありません。
また、現在親が借金を抱えていて「親が死んだら、相続人である自分がその借金を負担しなければならないの?」「相続放棄って聞いたことがあるけどよくわからない」など、不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、親が亡くなった後の借金を相続しない方法を2つ紹介します。
それぞれのメリットやデメリット、具体的な手続きについても詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
親の借金は死んだら相続人が受け継ぐ
親が死んだ後の借金は、相続人に引き継がれます。
相続が発生すると、親の金銭や不動産などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産も相続することになるためです。
法律上、亡くなった人に配偶者と子どもがいると、法定相続人はその配偶者と子どもとなります。
たとえば、借金を残して父親が亡くなった場合は、相続によって母親と子どもがその借金の支払い義務を負うことになります。
親の借金を相続しないですむ方法
借金を抱えた親が亡くなった場合、相続人の選択肢として、単純承認・相続放棄・限定承認があります。
単純承認は、亡くなった人のプラス財産もマイナス財産もすべて受け継ぐことを言い、相続が開始してから、3カ月間何も手続きしないでいると単純承認を選択したとみなされます。
親の借金を相続しないためには、相続放棄または限定承認を選択する必要があります。
ここからは、相続放棄と限定承認について詳しく解説します。
相続放棄をする
相続放棄とは、「相続人としての地位を放棄する」ことであり、プラス財産もマイナス財産も一切相続しないこととなります。
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことで、初めから相続人ではなかったこととなるので、借金を一切受け継がずに済みます。
限定承認をする
限定承認とは、亡くなった人のプラス財産の範囲内でマイナス財産を相続することです。
たとえば、死んだ親に300万円の借金と200万円の預貯金があり、相続人が子ども1人であったとします。
限定承認の手続きを行うことで、子どもはプラス財産200万円を限度にマイナス財産を相続することになります。
相続した200万円で引きついた借金を返済し、差額の100万円は負担する必要がなくなります。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄には、親の借金を背負わなくてよいメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。
ここからは、相続放棄のメリットとデメリットを詳しく説明します。
相続放棄のメリット
相続放棄のメリットとしては、借金を相続しなくて済むことと相続トラブルに巻き込まれないことの2点が挙げられます。
借金を相続しなくて済む
相続放棄の最大のメリットは、親の借金を相続せずに済むことです。
相続対象になる借金として、ローンやカードの借入金、滞納家賃、滞納税、損害賠償債務などが挙げられます。
これらをすべて受け継ぐとなると、相続人の負担は非常に大きく、場合によっては自己破産に追い込まれることもあるでしょう。
相続放棄の最大のメリットは、親のどんなマイナス財産も引き継がずに済むということです。
相続トラブルに巻き込まれない
相続が発生すると、遺言書がない場合は相続人間で遺産分割協議を行い、遺産分割の方法や割合について話し合います。
その際に、意見がまとまらず相続人間で揉めてしまい、トラブルに発展することがあります。
相続放棄をすることで、初めから相続人ではなかったことになるので、このような揉めごとに巻き込まれずに済むでしょう。
また、相続放棄は、他の相続人と共同して行う必要はなく、相続人単独で放棄する手続きを行うことができます。
相続放棄のデメリット
相続放棄のデメリットとしては、財産を相続できないこと、相続放棄を撤回できないことの2つが挙げられます。
財産を相続できない
相続放棄すると、資産を相続できなくなります。
たとえば、亡くなった人に借金があっても、それを超える不動産を所有していたというケースがあります。
単純承認をすればプラス財産を取得できますが、相続放棄するとプラス財産の不動産も手放すことになります。
相続放棄を撤回できない
相続放棄をすると、その後撤回ができません。
相続放棄した後に高額な財産が見つかった、という場合であっても取り消すことができないため、高額な財産も相続できないことになります。
相続放棄をする際は、事前によく財産を調査した上で検討しましょう。
相続放棄の流れ・必要書類
ここからは、親が死んだ後に相続放棄する場合、手続きの進め方を解説します。
1.相続財産を調査する
まずは、亡くなった人の財産を調査し、本当に相続放棄すべきかを慎重に検討します。
2.必要書類を準備する
相続放棄に必要となる主な書類は、以下のものが挙げられます。
- 相続放棄申述書
- 亡くなった人の戸籍謄本
- 亡くなった人の住民票または戸籍に附票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
相続放棄申述書には、放棄する理由や相続財産の概略など必要事項を記入します。
3.家庭裁判所に必要書類を提出する
亡くなった人が生前最後に住んでいた居住地の家庭裁判所に、準備した必要書類を提出します。
4.照会書に回答する
家庭裁判所に書類を提出してから、数週間から1カ月後に照会書が届きます。
死亡を知った経緯や相続放棄が自分の意思なのか等を確認する内容に回答する必要があるため、記入して返送します。
5.相続放棄申述受理通知書が届く
相続放棄申述書が受理されると、数週間から1カ月後に裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。
限定承認のメリット・デメリット
亡くなった親の借金を相続しない方法として、限定承認もあります。
ここからは、限定承認とメリットとデメリットがそれぞれについて解説します。
限定承認のメリット
限定承認のメリットとして、プラス財産を超えてマイナス財産が相続されないこと、先買権が利用できることの2つが挙げられます。
プラス財産を超えてマイナス財産が相続されない
先述したとおり、限定承認は、プラス財産の範囲内でマイナス財産が相続されるため、プラス財産を超える借金を負担しなくてよいというメリットがあります。
たとえば相続した資産より借金の方が多く、全体的にマイナスであっても、相続人はプラス財産以上の借金を負う必要がありません。
また、相続した借金より資産の方が多い場合は、プラス財産分を相続人が取得することが可能です。
先買権が利用できる
2つ目のメリットは先買権が利用できることです。
先買権とは、相続財産が全体的にマイナスであっても、相続人がどうしても受け継ぎたい財産がある場合、相当金額を支払うことでその財産を取得できる権利を指します。
「どうしても家だけは相続したい」などの思いがある場合は、限定承認を検討するとよいでしょう。
限定承認のデメリット
限定承認のデメリットとして、相続人全員で限定承認を行う必要があること、手間と時間がかかること、みなし譲渡所得税がかかる可能性があることの3つが挙げられます。
ここからは、それぞれのデメリットを詳しく解説します。
相続人全員で限定承認を行う必要がある
限定承認は、相続人全員が共同で行う必要があります。
そのため、相続人全員に限定承認したい旨を説明し、同意を得なければなりません。
1人でも限定承認に反対する相続人がいれば、なかなかスムーズに手続きが進まないでしょう。
また、仮に相続人の1人でも、死んだ親の預貯金口座を解約するなど遺産の処分行為を行うと、単純承認したとみなされて限定承認をすることができなくなるため、注意が必要です。
手間と時間がかかる
限定承認の手続きには、手間と時間がかかります。
家庭裁判所に申述する際の提出書類が多いため準備に時間がかかり、また裁判所に申述が受理された後の清算手続きも非常に複雑です。
さらに、先買権を利用する場合は鑑定人を選任するなど、やることが多く時間がかかる可能性があります。
プラス財産が残らなければ手間と時間だけがかかったと感じてしまう可能性があるので、初めの相続財産の調査は慎重に行う必要があるでしょう。
限定承認の流れ・必要書類
ここからは、親が亡くなった後に限定承認をする場合の手続きの進め方を解説します。
1.相続財産と法定相続人の調査
まずは、相続放棄と同じく亡くなった人の財産を調査し、本当に相続放棄すべきかを検討します。
また、限定承認は相続人全員で行う必要があるので、法定相続人が誰なのかを調査し確定する必要があります。
2.相続人全員に相談し検討する
次に、相続人全員に限定承認したい旨を説明し、同意してもらう必要があります。
先述したとおり、相続人の1人でも単純承認とみなされる行為をすると限定承認の手続きをとれなくなるので、できるだけ速やかに説明した方がよいでしょう。
3.必要書類を準備する
限定承認に必要な書類は、以下のものが挙げられます。
- 限定承認の申述書
- 財産目録
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍
- 亡くなった親の住民票または戸籍の附票
- 法定相続人全員の戸籍など
また、申述費用とし800円の収入印紙に加えて予納郵券(各家庭裁判所にご確認ください。)を用意します。
状況によっては、必要書類が異なるケースがあるので、事前によく確認しておくことをおすすめします。
4.家庭裁判所に申述する
書類が揃ったら、亡くなった人が生前最後に住んでいた居住地の家庭裁判所に書類を提出し、相続人全員で限定承認の申述を行います。
5.照会書に回答する
家庭裁判所に申述してから、数週間から1カ月後に照会書が届き、回答して返送します。
このとき、追加書類の提出などを求められることがあるため対応します。
限定承認の申述が受理されると、裁判所から受理通知書が届きます。
6.相続財産管理人の選任
限定承認の申述が受理されたら、次に相続財産の清算手続きが行われます。
相続人が複数人いる場合は相続財産管理人を選任する必要があり、相続人が1人の場合はその人が相続財産管理人となります。
7.官報公告
限定承認の申述が受理されたら、被相続人の債権者への周知が必要となるため、限定承認した旨の官報公告(政府が発行する機関紙)を出します。
また、同時に事前に債務があることが分かっている債権者に対しては、官報公告だけでなく、限定承認したことと、期間内(原則2カ月以上)に請求の申請をしなければいけないことを個別に通知する必要があります。
8.債権者へ弁済する
官報公告と個別の催告が終わったら、相続財産である預貯金は解約され、不動産や有価証券などの財産もすべて換価されます。
基本的にすべてのプラス財産は現金化され、債権者に弁済されることになります。
相続財産の中にどうしても手放したくないものがある場合は、先ほど説明した先買権を利用します。
先買権を行使することで、裁判所が選任した鑑定人による評価額で優先的に買い取ることが認められます。
9.残余財産を取得する
債権者に返済してもなお財産が余った場合は、相続人が残余財産を取得できます。
基本的に法定相続の割合で分配されますが、相続人間で遺産分割協議を行うことも可能です。
残余財産の分配が終わったら、限定承認のすべての手続きが終了となります。
相続放棄・限定承認を行うときの注意点
相続放棄や限定承認を行う際に注意点は、以下の2つです。
- 期限内に手続きを行うこと
- 相続財産の処分行為を行わないこと
それぞれの注意点について詳しく解説します。
期限内に手続きを行うこと
相続放棄と限定承認を行うときの注意点は、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に手続きしなければならないことです。
特に限定承認の場合は、相続人全員の戸籍を集める手間があるため、3カ月内に申述できないケースも起こり得ます。
そのため、相続が開始したらできるだけ早く着手することをおすすめします。
どうしても期限を過ぎてしまいそうな場合は、裁判所に期限伸長の申立てを行うことで、3カ月を過ぎても限定承認ができる場合があります。
3カ月を過ぎて何も手続きしていないと、単純承認したとみなされてしまうので十分に注意しましょう。
相続財産の処分行為を行わないこと
相続財産の「処分」を行うと、相続の意思があるとみなされて相続放棄や限定承認などの手続きができなくなります。
たとえば、亡くなった親の預貯金の引き出しや口座の解約、実家の売却などの行為が処分行為として挙げられます。
特に限定承認では、相続人の1人でも処分行為を行うと手続きがとれなくなってしまうので、十分に注意しましょう。
まとめ
相続放棄と限定承認にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どの方法が最適かをよく検討する必要があります。
手続きが複雑であり、専門的な知識を要しすることもあるので、不安な場合は弁護士や司法書士、行政書士などに依頼することをおすすめします。
専門家に依頼することで、スムーズに手続きが進められるでしょう。