この記事でわかること
- 遺言書を勝手に開封してよいかどうかわかる
- もしも遺言書を勝手に開封してしまった場合の対処法がわかる
- 遺言書の書き方がわかる
- 遺言書の検認手続きがわかる
目次
遺言書を見つけても勝手に開封してはいけません!
家族が亡くなったあと、遺品を整理していたらタンスの奥から「遺言書」と書かれた封筒が出てきたら戸惑うのではないでしょうか。
驚きと不安から、後先考えずに遺言書の入った封筒を開封してしまうかもしれませんが、実は、遺言書は勝手に開封してはいけないという決まりがあります。
民法では、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができないと定めています。
つまり、封のある遺言書は、家庭裁判所で開封しなければなりません。
もしも遺言書を勝手に開封してしまったら!?
では、もし遺言書を勝手に開封してしまったらどうなるのでしょうか。
封のある遺言書を勝手に開封しても、遺言書の効力に関係はありませんが、ペナルティが科せられたり相続人間のトラブルになったりする可能性があります。
ペナルティが待っている!
もし、家庭裁判所ではない場所で、封のされた遺言書を開封すると、5万円以下の過料に処せられることがあります。
過料は罰金よりも軽いペナルティではありますが、あまりうれしいものではないので、過料に処せられないよう勝手に遺言書を開封しないようにしましょう。
相続人間の無用のトラブル
封のある遺言書を勝手に開封しても、遺言書が無効になるわけではありませんが、他の相続人とのトラブルに発展すると、その後の相続手続きに支障をきたす可能性があります。
- 遺言書を改ざんしたのではないか?
- 遺言書を隠そうとしたのでないか?
このような疑念を他の相続人に抱かれてしまっては困ります。
日頃の関係性が良くても、財産がからむと家族関係が変わることもありますので、細心の注意を払うようにしましょう。
遺言書の検認とは?
遺言書を見つけた場合は、家庭裁判所に提出し「検認」をする必要があります。
検認とは、家庭裁判所において相続人の立会いのもとで遺言書を開封し、内容を確認する手続きのことです。
法律では、相続人全員の立会いのもとで行われると定められていますが、参加するかどうかは個人の判断に委ねられています。
家庭裁判所で検認の手続きをとることにより、遺言書について偽造や破棄などのトラブルを防ぐことができます。
遺言書の種類によって検認の要否が変わる
遺言には普通方式と特別方式があります。
船舶危急時遺言など特殊な状況にある方が残す遺言が特別方式ですが、通常は普通方式によります。
普通方式には3種類あり、検認が必要なものと不要なものがあります。
<普通方式遺言の種類と検認の要否>
自筆証書遺言 | 検認要 |
---|---|
公正証書遺言 | 検認不要 |
秘密証書遺言 | 検認要 |
それぞれの遺言書の書き方や特徴を確認しましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が、その内容、日付および氏名を自書し、これに印を押します。
パソコンで作成できる?
「自筆」とは、文字通り自分で書くことを言いますので、パソコンやワープロで自筆証書遺言を作成することはできません。
ただし、民法が改正され、自筆証書に添付する目録は、パソコンやワープロで作成できることになりました。
財産が多い方が全て自書しなければならないのは大変なので、以前よりも自筆証書遺言を作成しやすくなったといえます。
財産目録の注意点
自筆証書遺言で、財産目録をパソコンやワープロで作成するときの注意点は、遺言者は財産目録の各頁に署名押印しなければならないことです。
不動産の登記事項証明書や通帳の写しを財産目録とすることもできますが、これも各頁に署名押印しなければなりません。
また、財産目録の内容は正確に記載しなければなりません。
たとえば、不動産は住所で示さず、地番や家屋番号で示さなければなりませんので、書き方には注意が必要です。
この財産目録は遺言者以外の人、たとえば弁護士など専門家が作成することもできますので、内容は自分で書きたいけれども、財産目録に不安がある方は弁護士に相談するといいでしょう。
公正証書遺言
公証人に遺言の内容を書いてもらう遺言書のことを、公正証書遺言といいます。
公証人とは、国の公務である公証事務を担う人で、公証役場に所属しています。
公正証書遺言の利点は、自筆証書遺言でありがちな日付の入れ忘れなど、形式面での心配がないことです。
ただし、公正証書遺言をするには証人2人が必要であること、公証人の費用がかかることがデメリットといえるでしょう。
証人には欠格事由があり、推定相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族は証人になれません。
もし証人がみつからない場合は、日頃より法務相談をしている弁護士などに頼むといいでしょう。
公正証書遺言の作成を依頼する場合に必要な書類は、以下の通りです。
これ以外にも必要となるケースがありますので、公正証書で遺言作成を検討する際は、最寄りの公証役場に確認しましょう。
<公正証書遺言作成の前に用意しておくと良い書類>
遺言者の本人確認資料 | 印鑑登録証明書または運転免許証、マイナンバーカード等 |
---|---|
戸籍謄本 | 遺言者と相続人との続柄がわかるもの |
財産の中に不動産がある場合 | 登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産評価証明書など |
遺言者の方で証人を用意する場合 | 証人予定者の名前、住所、生年月日および職業をメモしたもの |
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言が存在することを明確にしつつ、遺言の内容を秘密にできるというメリットがあります。
秘密証書によって遺言を作成する場合は、次の方式によらなければなりません。
- ・遺言者が、遺言書に署名し押印
- ・遺言者が、遺言書を封じ、証書に用いた印で封印
ここまでは、自筆証書遺言と大きな違いはありませんが、公証役場で次の手続きをしなければ、秘密証書遺言とはなりません。
公証役場で必要な手続き
- ・遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と書いた人の氏名と住所を申述
- ・公証人が、遺言書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載したあと、遺言者および証人とともにこれに署名し押印
秘密証書遺言の作成は簡単なようですが、公証役場に行かなければならない点が面倒かもしれません。
なお、秘密証書遺言は、パソコンやワープロで作成できる点が、自筆証書遺言と大きく異なります。
こんな場合はどうすればいい?ケース別で解説
封のある遺言書を開封してしまった場合は、どうすればよいでしょうか。
開封済の遺言書など
先述の通り、遺言書を開封してもその効力は失われませんが、後々のトラブルにならないよう、早めに他の相続人に知らせるといいでしょう。
また、自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認が必要なので、すぐに家庭裁判所で検認手続きをしましょう。
なお、封がない遺言書でも、自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認を受けなければなりません。
複数の遺言書が見つかった場合
遺言書が複数見つかった場合、それぞれの遺言書に書かれている内容は、抵触する部分を除いてどれも有効です。
また、抵触する部分については、一番新しい遺言書の内容が有効となります。
たとえば、平成30年に書かれた遺言書に「甲土地はAに遺贈する」と書かれており、令和元年に書かれた遺言書に「甲土地はBに遺贈する」と書かれている場合は、Bが甲土地を取得します。
遺言書を書いた人の最終意思が尊重されるので、一番新しいものが有効とされるのです。
自分で検認の手続きを行う手順
自分で家庭裁判所へ検認手続きをする場合の、細かな手続きについて確認しましょう。
検認の趣旨・効力
検認の趣旨について勘違いしてしまいがちですが、検認は、遺言の有効性を判断するために行われるわけではなく、遺言書の偽造・変造防止などを目的としています。
<検認の趣旨>
広く知らせる | 相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせる |
---|---|
遺言書の偽造・変造を防止 | 遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを明確にする |
検認の諸手続き
検認の申立人など、細かい点を見ておきましょう。
<検認の手続き申立て>
申立人 | 遺言書の保管者 遺言書を発見した相続人 |
---|---|
申立先 | 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所 |
申立てに必要な費用 | 遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分 連絡用の郵便切手 |
申立てに必要な書類 | 申立書 標準的な添付書類(ただし、追加で提出する場合もあり) |
検認に必要な戸籍謄本等
検認申立てに必要な書類の中で、意外と大変なのが戸籍謄本の取り寄せです。
検認申立てに必要な書類の例
- ・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・遺言者の子(およびその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
戸籍謄本等の取り寄せは、相続人が配偶者と子だけなら手間はかからないと思いがちですが、そうともかぎりません。
被相続人が何度も転籍(本籍地の変更)しているケースでは、除籍謄本の取り寄せが必要になるからです。
本籍地や転籍前の本籍地所在の市区町村が遠い場合、郵送で戸籍謄本や除籍謄本を取り寄せなければならないため、戸籍謄本や除籍謄本の取得に何日もかかることがあります。
また、被相続人(亡くなった方)に子がいない場合は、親や兄弟姉妹が相続人となりますが、この場合、取り寄せなければならない戸籍謄本等が非常に多くなる可能性があります。
遺言執行手続きを急ぐ場合や、自分で全て取り寄せるのが難しい場合は、弁護士など専門家に依頼することをおすすめします。
検認手続きの進行
次に、検認手続きの進行について確認しましょう。
検認手続きの通知と出席義務
相続人への連絡は、家庭裁判所が行います。
家庭裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知がなされますが、申立人以外は、検認期日への出席は義務ではなく、相続人全員が出席していなくても、検認手続きは可能です。
申立人が持参するもの
申立人は、検認期日に、次のものを家庭裁判所に持参しなければなりません。
検認期日に持参する書類
- ・遺言書
- ・申立人の印鑑
- ・その他、担当者から指示されたもの
検認手続き当日
申立人が遺言書を提出し、出席した相続人などの立会のもと封筒を開封して検認します。
検認手続きの終了後
自筆証書遺言や秘密証書遺言の執行を希望する場合、遺言書に家庭裁判所の検認済証明書をもらう必要があります。
また、検認が終わったからといって、自動的に遺言が執行されるわけではありません。
遺言書に遺言執行者の指定がなければ、遺言執行者を選定しなければならないケースもあります。
自分が遺言書を書く場合は開封されないための対策を
ここでは、自分で遺言書を書く場合に注意しておきたいポイントを解説します。
勝手に開封されないようにする工夫する!
まず、遺言書を勝手に開封されないための工夫をしましょう。
自分で手軽な工夫
たとえば、遺言書を入れる封筒を二重にする、大切な書類であることを示すために封緘する、封筒に「開封厳禁」などメモを書くなどの工夫をしておきましょう。
いずれも法律的な拘束力はありませんが、遺言書を発見した人に心理的な圧迫を与えることができます。
2020年7月からの法務局保管制度を活用する!
遺言書は一般的に自宅で保管されることが多く、紛失、勝手な開封、遺言書の廃棄、改ざんなどの恐れがあります。
遺言書保管にまつわる不都合を防止するため、2020年7月から法務局における自筆証書遺言にかかる遺言書の保管制度が開始されました。
この制度により保管すると、自筆証書遺言であっても検認の必要がありません。
また、遺言者が亡くなったあとも、相続人間で遺言書の閲覧に関する不公平がありません。
たとえば、相続人の1人が法務局に保管されている遺言書を閲覧した場合、他の相続人に遺言書が保管されていることが通知されます。
また、相続人の1人に遺言書の証明書を交付した場合も、他の相続人にその旨通知されます。
法務局の遺言書保管制度は、相続手続きの円滑化に役立つ制度ですので、自筆証書遺言を作成したい方はこの制度の活用を検討しましょう。
争族にならないように
自筆証書遺言を勝手に開封されないようにする工夫をしたうえで、「争族」の種になる遺言をできるかぎり避けることを考えましょう。
もし、遺言書を相続人の1人が勝手に開封して、自分に不利な遺言だったら「争族」になる可能性があるからです。
長男と次男が相続人の場合、長男にすべての財産を相続させる旨の遺言をしたら、自分の死後、次男が遺留分侵害額の請求をするかもしれません。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く相続人に認められた権利です。
遺留分を害する遺言も有効ですが、遺留分を有する相続人に遺留分放棄を強制することはできません。
また、終の棲家を妻に残す旨の遺言をしたら、自宅の評価額が高く、子どもたちが相続額で不満を抱くかもしれません。
遺言の内容によっては、相続税が高くなるケースもあります。
遺言を書く際には、自分の亡きあとに「争族」や相続税対策の失敗にならないよう、注意して書くことが大切です。
内容について、弁護士など専門家にアドバイスを求めるのも良いでしょう。
改正で認められた権利の活用
この春に始まった新しい制度を活用すれば、「争族」の種を残さず、自分の意思を遺言書でつらぬくことができます。
配偶者居住権の活用
たとえば、妻と長年住み慣れた家に、自分が亡きあとも妻が住み続けられるようにするためにはどうしたらよいでしょうか。
妻に家を相続させると、相続分の関係で、妻の生活費が足りなくなることも考えられます。
そのようなケースでは、配偶者居住権という新しい制度を活用することも選択肢の1つです。
配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合に、配偶者が賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利のことをいいます。
被相続人が遺言により、配偶者居住権を遺贈(遺言で贈与)することができ、のこされる妻(夫)が老後を安心して暮らすための制度です。
婚姻期間が20年以上の夫婦間の特例の活用
被相続人が配偶者に自宅を遺贈すると、配偶者は相続財産の一部をすでにもらったものとみなされてしまいます。
そして、遺産分割のとき、他の相続財産を譲り受けられない可能性があるのです。
しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦の間でされた居住用の不動産の遺贈については、原則として、その財産は相続財産には含まれていないものとして遺産分割を行うことができます。
婚姻期間が20年以上の夫婦間の特例の趣旨の1つは、のこされる高齢の配偶者の生活保障ですので、この制度の対象は居住用財産に限られます。
まとめ
自筆証書遺言の開封の手続きや、自筆証書遺言を書くときの注意点について解説いたしました。
悪気無く遺言を開封してしまった場合は、できるだけ早く家庭裁判所で検認の手続きをしましょう。
また、遺言を書く時は、自分が亡きあとに相続人同士が争いにならないように注意して書くことが大切です。
相続や遺言のルールは細かなものも多いので、自分たちだけではわからないことや不安なことがあれば弁護士に相談するのがおすすめです。