この記事でわかること
- 農地の死因贈与に必要な農地法の許可の概要
- 農地法の許可を受けるための要件
- 農地法の許可の申請方法
- 農地の死因贈与に必要な事前準備
大切な農地を、未来に残すための選択肢として「死因贈与」を考えていませんか?
死因贈与は、自分が亡くなった後に財産を特定の人へ譲り渡す契約です。
しかし、農地を死因贈与する場合は、農地法の許可が必要です。
万が一、農地法が不許可になってしまうと、死因贈与が無効になってしまいます。
この記事では、死因贈与と遺贈の違い、農地法の要件と手続きの内容、失敗しないための事前準備まで詳しく解説します。
将来のトラブルを防ぎ、確実に農地を引き継ぐための知識を今すぐ手に入れましょう。
目次
死因贈与とは
「不動産を自分の死後に誰かにあげたい」という場合に遺言書による遺贈が有名ですが、死因贈与という方法もあります。
ここでは、死因贈与の概要、遺贈との違いについて解説します。
死因贈与の成立要件
贈与には、タイミングによって生前贈与と死因贈与の2種類の贈与があります。
それぞれの要件、概要は次のとおりです。
生前贈与
生前贈与は、一般的な贈与といえるでしょう。
親から子へ、夫から妻へなど、両者が生きている間に相手に財産を無償で譲渡する行為が生前贈与です。
贈与の条件として介護をするなどの負担付贈与もありますが、ここでは対価のない贈与について解説します。
贈与契約は口頭でも成立し、財産を実際に贈与するまでは贈与者から取り消しもできます。
死因贈与
死因贈与は、両者が生きている間に贈与契約を交わしますが、贈与者の死亡を条件として贈与を行うという契約です。
財産を譲渡する際には贈与者が死亡している点で生前贈与と大きく違います。
死因贈与契約も口頭で成立しますが、贈与者が亡くなった後死因贈与契約の証明が難しいため、通常は死因贈与契約書を作成します。
万全を期すのであれば、公正証書で作成するとよいでしょう。
遺贈の成立要件
遺贈は、自分の死後、遺言者の財産を指定した受遺者に渡す手続きです。
遺贈は遺言者の死後に財産を渡す点では死因贈与と同じですが、単独で行う法律行為のため、財産を受け取る人の同意や契約書は不要です。
また、遺言内容は遺言執行者が実行します。
農地の贈与には農地法の許可が必要
農地を贈与する場合には、取得後の目的によって農地法第3条もしくは第5条の許可が必要です。
許可の内容は次のとおりです。
農地を農地以外に転用するための贈与(農地法第5条)
農地を宅地や駐車場(雑種地)などの農地以外に転用するための贈与は、農地法第5条の許可が必要です。
農地法第5条の許可を受けるためには、農地を転用するやむを得えない事情と、慎重な事前打合せが必要です。
営農するための贈与(農地法第3条)
死因贈与を受けて引き続き営農(農地として耕作、肥培管理)する場合は、農地法第3条の許可が必要です。
農地法第3条の許可を受ける場合には、土地取得後に営農できるだけの準備が整っている必要があります。
以前は最低耕作面積の制限があり、5,000平方メートル以上(北海道は2万平方メートル以上)を耕作していないと許可が受けられませんでした。
しかし、2023年の農地法改正により、最低面積が撤廃され、営農できる人であれば許可を受けられるようになりました。
農地法の許可が不要な例外
農地の所有権移転の一部は、事前の届け出などで許可が不要となります。
相続人が農地を相続する場合は許可不要
親から子どもが農地を相続するなど、相続人が農地を相続する場合は農地法の許可が不要です。
ただし、農地を相続した旨を各市区町村の農業委員会へ提出する必要があります。
相続人が相続した土地を農地以外に転用する場合には、農地法第4条(自己転用)の許可が別途必要です。
市街化区域の農地転用(農地法第5条)は事前届出のみ
市街化区域は都市計画法により、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域と定義されています。
そのため、市街化区域での農地転用は禁止されておらず、事前に各市町村の農業委員会へ届出を行えばよいとされています。
死因贈与についても贈与者が亡くなっていれば、農地法の「届出」を行えばよく、農地法第5条の「許可」手続きは不要です。
農地の死因贈与に必要な許可手続きの詳細
実際に農地の死因贈与を行う場合の手続・費用は次のとおりです。
死因贈与の所有権移転登記にかかる司法書士報酬は6万円~8万円程度で、登録免許税が固定資産税評価額の2%です。
行政書士へ依頼する場合の費用は、手続き内容によってそれぞれの相場を紹介しています。
日本行政書士会連合会の令和2年度報酬額統計調査の結果を参考にしています。
参考:令和2年度報酬額統計調査の結果
農地法第3条の許可(耕作目的)
受贈者が耕作する場合には、営農計画、農機具などの設備、現在の耕作状況をまとめて、市町村の農業委員会へ事前相談を行います。
事前相談で問題がなければ許可申請を行い、1カ月程度で許可証が発行されます。
発行された許可証をもって、生前贈与の登記を行います。
受贈者が耕作すべき土地をすべて良好に耕作していない場合などは不許可になるため、注意が必要です。
農地法第3条許可申請の報酬額は、5万円程度が平均値です。
農地法第5条第1項第6号の届出(市街化区域の転用)
市街化区域の場合は、市町村の農業委員会に農地転用の届出を行います。
許可とは違い、届出は内容に問題がなければ受理され、10日~2週間程度で受理通知書が発行されます。
この受理通知書をもって、死因贈与の登記を行います。
行政書士費用は概ね5万円程度です。
農地法第5条の許可(転用目的)
市街化区域以外で転用目的の死因贈与であれば、転用計画について農業委員会へ事前相談を行います。
転用計画等に問題がなければ、農地法の許可申請を行います。
転用許可は都道府県知事が行うため、申請から許可まで2カ月程度かかります。
行政書士費用は10万円程度が相場ですが、農地を管理している土地改良区の意見書の取得などで高額になる場合があります。
確実に死因贈与を行うための準備
死因贈与は贈与者が亡くなった後に手続きを行うため、確実に贈与できるように事前準備が大切です。
贈与契約書を公正証書で作成する以外にも、下記の事前準備をしておくと不動産をもらう側としても安心です。
始期付所有権移転仮登記
始期付所有権移転仮登記とは、贈与者の生前に死因贈与の内容を登記する手続きです。
この仮登記をしておけば、贈与者の死後、仮登記を本登記にするだけで名義変更ができます。
贈与執行者の指定
農地法の手続も、所有権移転登記も贈与者と受贈者が共同で行う手続きのため、贈与者の代わりに手続きを行う人が必要です。
通常は、贈与者の代わりに贈与者の相続人全員が手続きを行います。
しかし、受贈者以外の相続人にとっては、自分たちが相続できない不動産の名義変更のため、協力が得られないかもしれません。
受贈者と相続人とのトラブルを防ぐためには、公正証書で贈与契約書を作成する際、贈与執行者を指定しておくとよいでしょう。
贈与執行者を指定しておけば、贈与執行者が亡くなった贈与者に代わってすべての手続を執行してくれます。
農業委員会への事前相談
農地を死因贈与で受け取る場合は、営農目的・転用目的に関わらず、許可が下りない恐れがあります。
受け取る農地が農業振興地域内農用地、甲種農地など優良農地の場合はそもそも転用できない可能性が非常に高いです。
また、農地法第3条許可を受ける予定の場合も、受贈者の営農状況によっては不許可になるかもしれません。
農地の死因贈与は契約書や登記手続きだけでなく、農業委員会への事前相談を行い、許可が下りるかどうかを確認しておきましょう。
まとめ
農地の死因贈与を行う場合は、贈与契約書の内容も大切ですが、農地法の許可等についても準備が必要です。
贈与後の目的が営農か農地以外への転用か、農地が優良農地かどうか、市街化区域かそれ以外かで手続きや許可条件が大きく変わります。
贈与者の死後に農地法の要件が取れずに死因贈与が行えない、といった事態が起こらないように、事前の調査・準備が重要です。
手続が不安な場合には、死因贈与・農地法に長けた専門家への相談をお勧めします。