この記事でわかること
- 子供がいない夫婦の相続人は誰になるのかわかる
- 子供がいない場合によくあるトラブルがわかる
- 遺産相続のトラブルを避けるためにできることがわかる
目次
子供がいない夫婦の相続人は誰になる?
子なし夫婦のいずれかが亡くなった時、残された人がすべての遺産を相続することができるのでしょうか。
子がいなければ、相続人となるのは配偶者だけと考える方もいると思いますが、実はそうではありません。
まずは、子なし夫婦の相続人が誰になるのか確認しましょう。
遺産分割の基本的なルール
相続が発生した場合、遺言書がなければ必ず遺産分割を行わなければなりません。
遺産分割協議に参加するのは法定相続人です。
被相続人の配偶者は、必ず法定相続人になります。
このほかの親族については、被相続人との関係によって、法定相続人となる人の順位が民法によって定められており、それ以外の人は法定相続人になることはできません。
法定相続人となる人の順番と、それぞれの法定相続分は以下のようになっています。
相続人になる人 | 相続人と法定相続分 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者が1/2、子が全員で1/2 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者が2/3、直系尊属が全員で1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が3/4、兄弟姉妹が全員で1/4 |
なお、法定相続人が配偶者のみである場合は、すべての遺産を配偶者が相続します。
また法定相続人が子のみ、直系尊属のみ、兄弟姉妹のみとなった場合は、全員で均等に分割することとなります。
そのため、子なし夫婦の相続人は、配偶者のほかに親や兄弟姉妹が相続人になるものとして、該当する人がいないか調査する必要があります。
配偶者と被相続人の親、被相続人の兄弟
「子供のいない夫婦の一方が死亡して相続が起こったら、遺産は全部残された配偶者のものになるのでは?」と思っている人も多いのではないでしょうか。
実際に配偶者は常に相続人となりますが、子供がいない場合は他の相続人と同順位になります。
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。
この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
つまり、親や兄弟姉妹よりも配偶者が優先されることはありません。
もし先に亡くなった配偶者が一人っ子で、なおかつ親もいない場合であれば、残された配偶者だけが相続人になるケースもあり得るでしょう。
しかし、子供のいない夫婦の片方が死亡して遺産相続が起こった場合、亡くなった方の兄弟姉妹と残された配偶者は同じ順位の相続人になります。
相続人になる人 | 相続人と法定相続分 |
---|---|
配偶者と直系尊属 | 配偶者が2/3、直系尊属があわせて1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が3/4、兄弟姉妹があわせて1/4 |
直系尊属や兄弟姉妹が複数人いる場合は、それぞれ均等に分割することとなります。
配偶者と被相続人の甥・姪
子なし夫婦で相続が発生した場合、被相続人の親や兄弟姉妹が相続人になりますが、必ず該当する人がいるとは限りません。
兄弟姉妹も高齢になっていると、本人はすでに亡くなっているケースがあるためです。
ただ、その兄弟姉妹に子供がいる場合、つまり被相続人の甥や姪がいる場合は、その甥や姪が代襲相続人となることに注意しましょう。
兄弟姉妹の代襲相続人となるのは甥・姪の一代限りとされ、兄弟姉妹の孫は代襲相続人にはなりません。
相続人になる人 | 相続人と法定相続分 |
---|---|
配偶者と兄弟姉妹、代襲相続人となる甥・姪 | 配偶者が3/4、兄弟姉妹と甥・姪があわせて1/4 |
兄弟姉妹の代襲相続人となった甥・姪で、法定相続分があわせて1/4となります。
なお、1人の兄弟姉妹に対して甥・姪が複数人いる場合は、もともとの兄弟姉妹の法定相続分を複数の甥・姪で均等に分割することとなります。
子供がいない夫婦の遺産相続トラブル
子なし夫婦について相続が発生すると、誰が相続人となるのかという点で、子がいる場合とは大きく異なります。
兄弟姉妹、あるいは甥や姪が相続人になると、場合によっては普段ほとんど交流のない人が相続人となる可能性もあり、トラブルになりやすいといえます。
実際にどのようなトラブルが発生することがあるのか、具体例を確認していきましょう。
遺産分割協議がまとまらない
子なし夫婦のいずれかが亡くなると、第2順位の相続人である親などの直系尊属、直系尊属がいなければ第3順位の相続人である兄弟姉妹が相続人となります。
ただ、お互いに連絡を普段取り合っていない、あるいは連絡先を知らないということも考えられるため、話し合いを始めることさえできない可能性もあります。
また、遺産分割協議を始めることができたとしても、お互いに歩み寄ることができず、いつまでも決着しないということも考えられます。
兄弟姉妹には遺留分はない
兄弟姉妹が相続人となる場合、他の相続人とは取扱いが異なる部分があることに注意が必要です。
兄弟姉妹が相続人になると、法定相続分はありますが遺留分はありません。
遺留分とは、最低限相続することのできる相続財産の割合のことです。
兄弟姉妹は遺留分がないため、相続する財産がないという形で決着することもあります。
兄弟姉妹の代襲相続人は一代限り
兄弟姉妹が相続人になる場合に、もう1つ気を付けたいのが、代襲相続となる場合です。
兄弟姉妹で先に亡くなった人がいても、その子である甥や姪がいる場合、その甥や姪が代襲相続を行います。
ところが、甥や姪も亡くなっている場合に、兄弟姉妹の孫は相続人になることはできません。
この点は、夫婦に子供がいる場合、第1順位の相続人である子が先に亡くなっていても、孫だけでなくひ孫も代襲相続できるのとは大きな違いとなります。
不動産の遺産の分け方が決まらない
遺産分割の際、特に分け方が難しいのが不動産です。
自宅が相続財産となる場合、配偶者はその自宅を相続したいと考えることが多いでしょう。
一方で、相続財産の内に自宅の占める割合が多いと、預貯金や有価証券などの財産はすべて直系尊属や兄弟姉妹のものとなる場合もあります。
また、法定相続分で分けることとした場合、配偶者が自宅をすべて相続できない可能性もあるため注意が必要です。
この場合、自宅に住み続けることができずに売却することも考えられるなど、遺産分割の方法がなかなか決まらないことがあります。
意思能力が低下した相続人がいる
被相続人の直系尊属や兄弟姉妹が法定相続人となる場合、被相続人と同世代やそれ以上の年齢であることから、意思能力が低下していることがあります。
そのままの状態では、遺産分割協議を適切に進めることはできないため、意思能力が低下した人に関しては成年後見人をたてる必要があります。
成年後見人を決定するには、裁判所に申し立てを行い審判を行う必要があります。
成年後見人には、意思能力が低下した人の親族のほか、弁護士や司法書士などの法律の専門家、あるいは福祉の専門家や福祉法人が選ばれる可能性があります。
トラブルを回避!子供がいない夫婦の相続対策
相続が発生した場合、相続人の間で遺産分割をめぐる争いになることは珍しくありません。
ただ、子なし夫婦のいずれかが亡くなって相続が発生すると、トラブルになる可能性はかなり高くなります。
子が相続人となる場合と違い、配偶者と他の相続人とで円満な話し合いを行うことは難しく、また兄弟姉妹については遺留分も認められないことから、遺産分割協議で少しでも財産を手にしたいと考えるためです。
ここからは、子供がいない夫婦の相続について、トラブルを避けるためにできることをご紹介します。
遺言を活用する
遺言は法定相続分よりも優先されるので、法定相続分通りの分割をしなくてもよくなります。
例えば、もし、兄弟姉妹に遺産を渡したくない場合に全部の遺産を妻に渡すと書いてあれば、その通りになります。
遺言書の内容を覆すためには、相続人全員で遺産分割協議をまとめなければなりません。
兄弟姉妹の言う通りにしようと思わない限り、妻は遺言書の通りに自分が全ての遺産を引き継ぎたいと思うでしょう。
そうなれば、遺言書の内容が実現し、妻に全ての遺産を渡すことができます。
配偶者に生前贈与をする
直系尊属や兄弟姉妹にも法定相続分があるため、相続財産についてはそのすべてを配偶者が相続できない可能性があります。
ただ、相続財産の多くは夫婦でともに築いてきたものであるため、他の相続人のものになることには、抵抗を感じる人も多いでしょう。
また、実際にその財産を使って相続後の生活を送るつもりだった場合、相続後の生活が思い通りに送れなくなってしまうことも考えられます。
そこで、生前に配偶者に財産を贈与しておき、相続財産の額を減らしておきます。
贈与した財産は法定相続分や遺留分の計算から外れるため、結果的に他の相続人が引き継ぐ財産の額を減らすことができます。
また、年間110万円の基礎控除を使って贈与すれば、贈与税がかからないため、税負担の軽減にもつながります。
生命保険の受取人を配偶者にする
子なし夫婦の場合、生命保険の受取人を配偶者にしているケースが多いでしょう。
生命保険の受取人を配偶者にすることで、結果的に相続対策ができていることとなります。
保険金の受取人は保険契約によって定められているため、亡くなった後に遺産分割協議によって変更することはできません。
そのため、配偶者が保険金の受取人になっていれば、確実に配偶者は財産を受け取ることができます。
また、受取人が受け取った保険金は相続税の対象となりますが、法定相続人1人当たり500万円の控除額が計算されます。
そのため、保険金を受け取っても相続税の計算には影響しないことも多く、相続後の生活資金や不動産・預貯金から発生した相続税の納税資金にあてることができます。
子どもがいない夫婦の相続でよくある質問
子供がいない夫婦でも、いずれかが亡くなれば相続は発生します。
この時、子供がいないことで様々な疑問が生じることがあるので、確認しておきましょう。
遺言書はどのように作成したらいい?
子供がいない夫婦の場合、直系尊属や兄弟姉妹が法定相続人となる可能性があります。
その場合、これまで夫婦で築き上げてきた財産をまったく関係のない人に渡さなければならないこともあるため、これを防ぐために遺言書を作成することがあります。
遺言書には3つの形式がありますが、一般的に利用されるのは自筆証書遺言か公正証書遺言です。
自分ですべてを作成する自筆証書遺言は、手軽に作成できますが、形式の不備などで無効となる可能性があること、相続人が裁判所で検認を行う必要があることに注意が必要です。
公証役場で作成し保管してもらう公正証書遺言は、作成に費用がかかりますが、遺言書が無効になる心配がなく、紛失や偽造の心配もありません。
相続税の配偶者控除制度とは?
相続税の申告を行う場合、配偶者控除制度を利用することができます。
相続税の配偶者控除制度とは、配偶者が相続した遺産のうち、法定相続分あるいは1億6000万円のいずれか高い方の金額までは配偶者の相続分に相続税がかからない制度です。
配偶者控除制度の適用を受けると、配偶者の相続分についてはかなり大きな相続税の節税になります。
なお、配偶者控除制度を利用することで相続税の納税額がゼロとなることもありますが、相続税の申告は必要なため注意しましょう。
事実婚の配偶者は相続人になれるのか?
夫婦関係が事実婚である場合、その配偶者は法定相続人になることはできません。
法定相続人となる配偶者は、法律上の配偶者に限定されています。
もし事実婚の関係にある配偶者に遺産を相続してもらいたい場合は、生前に遺言書を作成しておく必要があります。
ただ、遺言書により遺産を受け取った内縁の妻や夫に対しては相続税がかかる一方、配偶者控除などの特例の適用を受けることはできません。
また、内縁の妻や夫が相続した場合に発生する相続税の額は、通常の相続税額から2割加算された税額となってしまいます。
税負担を考えると、贈与により、生前に財産を内縁関係にある配偶者に渡すことも考えておくといいでしょう。
まとめ
子なし夫婦の場合、配偶者が被相続人の遺産をすべて相続できるというわけではありません。
相続人は配偶者だけでなく、親・兄弟さらに甥・姪が加わることがあるので注意が必要です。
もし残された配偶者と他の相続人が不仲だった場合は、遺産分割協議がうまくまとまらず、トラブルに発展する可能性もあります。
このような相続トラブルを避けるためには、生前に相続対策をしておくことが大切です。
遺言書を残す・生前贈するなどして、渡したい相手に渡したい遺産がきちんと渡るように配慮しましょう。
どのような相続対策をすればいいか分からない場合は、専門家である弁護士に一度相談してみることをおすすめします。