この記事でわかること
- 相続の連絡がこない場合のリスク
- 相続が開始しているかどうかを確認する方法
- 誰も相続手続きをしない場合のリスク
相続手続きは法律上、相続人全員が揃わないと進められません。
しかし、相続手続きをせずに放置してしまうと、思わぬトラブルが生じることがあります。
本記事では、相続の連絡がこない場合の対処法や、相続が開始しているかどうかを確認する方法をわかりやすく解説します。
さらに、誰も相続手続きをしない場合に起こり得るリスクについても触れています。
相続に関する不安を解消し、適切な対応を取るための参考として、ぜひお役立てください。
目次
相続人からの連絡がない場合でも基本的には心配ない
相続の連絡がないと不安になりますが、必要な知識を身につけることで落ち着いて適切な対応ができます。
ここでは、相続の連絡がこない場合に知っておくべき重要なポイントを解説します。
遺産分割協議は相続人全員の同意が必要
相続手続きの第一歩は、被相続人の戸籍を取り寄せ、法定相続人を確定することです。
この段階ですべての相続人を特定し、全員に連絡を取った上で遺産分割協議を進めなくてはなりません。
遺産分割協議とは、相続人全員で話し合い、遺産の分配割合を決める手続きです。
この協議には相続人全員の同意が必須であり、一人でも欠けると協議は無効になります。
また、相続が開始すると被相続人の預貯金は凍結され、遺産分割協議が完了するまで解約や引き出しができません。
不動産についても同様に、協議が終了するまで名義変更を行うことができなくなります。
このように、相続人同士が連絡を取らない場合は、遺産分割協議が進まず、結果として相続手続きがストップしたままになるでしょう。
遺言執行者は相続人に通知する義務がある
遺言書が存在し、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は相続人全員に連絡する義務があります。
遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実行する役割を担います。
たとえば「長男にすべての財産を相続させる」といった内容の場合、他の相続人の遺留分を侵害している可能性があるでしょう。
遺留分とは、特定の相続人に最低限保障された相続分のことで、請求できる期限が法律で定められています。
具体的には、「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年」または「相続開始から10年」のいずれか早い方が期限となります。
そのため、遺言執行者は速やかに相続人全員へ遺言の内容を通知し、権利を行使する機会を確保しなければなりません。
一方で、遺言書に遺言執行者の指定がない場合、通常は相続人が遺言の内容に基づいて手続きを進めます。
相続開始を知らなかったとしても、遺留分の権利は相続開始から10年で消滅するため、この期限は知っておきましょう。
相続手続きの期限:「相続開始を知ってから」と「相続開始から」
相続に関する多くの手続きには期限がありますが、そのほとんどは相続開始を「知った時点」から起算されます。
以下は、主な相続手続きの期限です。
- 相続放棄:相続開始を知った日から3カ月以内
- 遺留分請求:相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内、または相続開始から10年以内
- 相続税申告:相続開始を知った日の翌日から10カ月以内
- 相続登記:相続開始を知った日から3年以内
- 死亡保険金の受取:相続開始から3年以内
- 特別受益や寄与分の主張:相続開始から10年以内
相続の連絡がなくても、相続開始を知った時点から期限のカウントが始まる場合が多く、ほぼ影響がないでしょう。
たとえば、被相続人の借金が多い場合、債権者が相続人に連絡してくる可能性があります。
その際には、その連絡から3カ月以内に相続放棄の手続きをし、被相続人の債務を放棄することができます。
また、死亡保険金の受取人になっていた場合は、保険会社から連絡が来ることがあります。
その時点で相続開始を知ることになるため、その日から期限の起算が始まります。
相続希望なら「連絡なし」には注意
相続の連絡がなく放置した場合、様々なリスクが生じる可能性があります。
リスクを認識し、早い段階で相続人に連絡するなど適切な対応をとることが重要です。
ここでは、具体的なリスクとその影響について詳しく解説します。
遺産の使い込みや隠匿のリスク
相続が開始すると、被相続人の財産は遺産分割協議が終わるまで相続人全員の共有財産となります。
しかし、相続の連絡がない間に、他の相続人や関係者が遺産の不当な使用や隠匿するリスクがあります。
具体的には、被相続人の預金口座から無断で引き出す、貴重品や高価な遺品を持ち去る、遺産の存在自体を隠してしまうケースが考えられるでしょう。
これらの行為は違法であり、後に発覚すれば法的な問題になりますが、実際に取り戻すには証拠を示す必要があります。
証明には時間や労力、費用がかかる上、発見が遅れるほど状況の把握が難しくなり、取り返すことが困難になるでしょう。
そのため、相続が発生したと思われる場合は、できるだけ早く他の相続人と連絡を取り、遺産分割協議に参加することが重要です。
自分で連絡を取りたくない事情や協議に直接参加したくない場合は、専門家に依頼することも可能です。
不動産の名義変更をされるリスク
相続財産に不動産が含まれる場合、不当に名義変更されてしまうリスクがあります。
相続の連絡がない間に、他の相続人が単独で名義変更を進めてしまうケースも考えられるでしょう。
さらに、名義が変更された不動産が第三者に売却されると、他人と共有関係になり、権利関係がより複雑化します。
また、相続人の一人が亡くなると、その相続人の家族が新たに権利を持つことになり、共有関係がさらに複雑になるでしょう。
このような状況が続くと、不動産の適切な利用ができなくなり、管理が行き届かず資産価値が低下してしまう恐れもあります。
こうしたリスクを避けるためには、相続が発生したと思われる段階で、できるだけ早く他の相続人と連絡を取り合うことが重要です。
不動産の所在が判明している場合は、法務局で登記簿謄本を取得し、権利関係を確認しましょう。
対処が難しいと思った場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
相続が発生しているかを確認する方法
相続が発生しているかを確認する方法はいくつかありますが、最も確実なのは被相続人の最新の戸籍を取得することです。
戸籍を確認すると、被相続人が既に亡くなっている場合は「除籍」と記され、死亡年月日が明記されています。
存命であれば「除籍」の表示はありません。
戸籍取得に必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 配偶者または直系親族であることの証明書:自身の戸籍謄本
- 本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカード(郵送の場合はコピー)
- 手数料:現在戸籍は450円、除籍謄本は750円(郵送の場合は定額小為替)
- 切手を貼った返信用封筒(郵送の場合)
市区町村によっては、追加の書類が必要になることもあるため、事前に役所のホームページや窓口で確認しておくと安心です。
誰も相続手続きをしていない場合のリスク
相続手続きを放置すると、様々な問題が発生する可能性があります。
相続登記や相続税の申告には期限があり、これを過ぎると罰則が科される場合があります。
また、遺産を放置することで発生するトラブルは、状況によってはより深刻な問題へと発展することも考えられるでしょう。
ここでは、相続手続きを放置した場合に起きるリスクについて詳しく解説します。
相続登記や相続税などの罰則と固定資産税のリスク
2024年4月1日から施行された法律により、相続登記が義務化されました。
相続登記は、相続開始を知った日から3年以内に登記しなければなりません。
期限を過ぎた場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
一方、相続税申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内、とされています。
期限を過ぎると、延滞税や加算税などのペナルティが課される可能性があります。
また、期限までに相続税申告をせずに放置すると、様々な税制上の優遇措置や特例が利用できなくなります。
さらには、被相続人所有の不動産には固定資産税がかかり続け、相続人全員が連帯して支払う義務が生じるでしょう。
この連帯責任は、相続開始の事実を知っているか知らないかには無関係に生じるため、注意が必要です。
財産の凍結や不動産価値の低下・権利関係の複雑化
前述したように、銀行口座は被相続人の死亡が確認されると凍結され、遺産分割協議が終わるまで引き出しや解約ができなくなります。
株取引などの証券口座も同様です。
また、不動産を放置すると、適切な管理が行われず資産価値が低下する可能性があります。
遺産分割協議が完了するまでは賃貸や売却ができないため、結果的に損失が発生することも考えられるでしょう。
さらに、相続手続きを長期間放置し、相続人が認知症になると手続きがより困難になります。
特に、相続人の中に亡くなる人が出た場合、その人の相続人が新たに関与することになり、共有関係がさらに複雑になるでしょう。
このような事態を避けるためにも、速やかに相続手続きを進めることが重要です。
不法行為責任の可能性
相続手続きを放置すると、思わぬ形で不法行為責任を負う可能性があります。
たとえば、被相続人名義の土地や建物で事故が発生した場合、その管理責任を問われ、損害賠償を請求される可能性があります。
また、被相続人が経営していた会社の債務や、被相続人名義の車両による事故の責任を負わされる可能性もあります。
これらの責任は、相続人が相続放棄をしていない限り、相続人全員に及ぶ可能性があります。
このような予期せぬ責任を避けるためにも、速やかに相続手続きを進めることが大切です。
必要に応じて、専門家に相談し、相続放棄を考慮に入れるとよいでしょう。
まとめ
相続の連絡が来ない場合、そのまま放置すると予期せぬトラブルやリスクに直面する可能性があります。
自分の権利を守るためにも、積極的に行動を起こすことが大切です。
たとえ相続が発生しているか不明な場合でも、調査を依頼することが可能です。
また、直接連絡を取るのに抵抗がある場合は、専門家に依頼するとよいでしょう。
遺産分割協議に直接参加しなくても、専門家を通じて関与することで、自身の権利を適切に主張できます。
確実に権利を保護し、適切に対応するためには、法的なアドバイスが必要です。
早い段階で専門家のアドバイスを受け、適切に対応することで、トラブルを未然に防ぎましょう。