この記事でわかること
- 遺産分割調停を申し立てる際にどの裁判所が管轄になるのかわかる
- 相手方が複数いる遺産分割調停を申し立てる際の管轄裁判所がわかる
- 遺産分割審判を申し立てる際の管轄裁判所の考え方がわかる
相続が発生した際に、遺言書がなければ遺産分割協議を行って遺産分割を行うこととなります。
ただ、遺産分割協議はすべての相続人の同意が必要となるため、当事者間の話し合いでは成立しない場合もあります。
このような場合には、裁判所に遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てて、遺産分割の方法を決定することとなります。
今回は、遺産分割調停や遺産分割審判の管轄裁判所の決め方について解説していきます。
目次
遺産分割調停の管轄裁判所
遺産分割協議が成立しない場合、まずは遺産分割調停を申し立てるのが原則となります。
遺産分割調停を申し立てる人は、その相続に関する他の相続人を相手方とすることとなります。
この場合、遺産分割調停を申し立てる裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
また、あらかじめ遺産分割調停に関する管轄裁判所を決定している場合は、その家庭裁判所に申し立てます。
いずれの場合も、申立てを行う人の住所地を管轄する家庭裁判所ではないため、間違えないようにしましょう。
なお、あらかじめ裁判所を定めておく場合には、当事者間の合意が必要です。
一方的に管轄裁判所を決めて、遺産分割調停を提起することはできないため、注意が必要です。
相手方が複数の場合の遺産分割調停の管轄裁判所
遺産分割調停を申し立てる際に、相手方となる相続人が複数人いる場合も考えられます。
このような場合は、誰の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行えばいいのか、迷ってしまうこともあるでしょう。
相手方が複数いる場合は、相手方の1人の住所地を管轄する家庭裁判所、またはあらかじめ定めた家庭裁判所のいずれかとなります。
この場合も、申立てを行う人の住所地を管轄する家庭裁判所はまったく関係ないこととなります。
実際にどのようなケースが考えられるのか、ご紹介します。
千葉市内に住むAさんは、遺産分割協議がなかなか成立せず、他の相続人との妥協点も見つけられずにいました。
そこで、遺産分割調停を申し立てることとし、その準備に入りました。
遺産分割調停の相手方となるのは、他のすべての相続人です。
他の相続人が住んでいる場所を調べると、横浜市に住むBさん、名古屋市に住むCさん、福岡市に住むDさんがいました。
また、事前に4人の相続人の合意のもと、遺産分割調停に関する裁判所を東京家庭裁判所とすることとしています。
このケースでは、以下のいずれかの裁判所に遺産分割調停の申立てをすることができます。
- Bさんの住む横浜市を管轄する横浜家庭裁判所
- Cさんの住む名古屋市を管轄する名古屋家庭裁判所
- Dさんの住む福岡市を管轄する福岡家庭裁判所
- 相続人全員で合意した東京家庭裁判所
Aさんは千葉市に住んでおり、千葉家庭裁判所の管轄内となります。
しかし、自身の管轄裁判所に申立てを行うことはできないため、千葉家庭裁判所は含まれていません。
もし、千葉家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたいのであれば、改めてすべての相続人に同意をもらう必要があります。
遺産分割審判の管轄裁判所
遺産分割調停を申し立てて調停を行っても、結局は相続人同士の話し合いとなります。
そのため、調停委員を交えて話し合いを行っても、必ず調停が成立するとは限りません。
調停も不調に終わった場合、遺産分割を行うために遺産分割審判が行われることとなります。
遺産分割調停の申立てを行う裁判所は、相続開始地を管轄する家庭裁判所となります。
また、当事者間で定めた裁判所がある場合にはその家庭裁判所となります。
なお、相続開始地とは、被相続人の最後の住所地のことです。
被相続人が亡くなった時に住民票がある場所から管轄裁判所を決定することとなります。
遺産分割調停の場合は、相手方が複数いる場合、管轄裁判所はいくつかの候補の中から選ぶことができました。
しかし、遺産分割審判の場合は、相手方が何人いようと申立てを行う裁判所に影響はありません。
また、遺産分割調停から遺産分割審判という流れの中で、管轄裁判所がかわることもあります。
たとえば、先ほど例であげた相続人のケースでは、相続人の管轄裁判所は以下のようになっていました。
- Aさん(千葉家庭裁判所)
- Bさん(横浜家庭裁判所)
- Cさん(名古屋家庭裁判所)
- Dさん(福岡家庭裁判所)
しかし、被相続人の最後の住所地が大阪市であった場合、遺産分割審判の申立てを行う裁判所は、大阪家庭裁判所となるのです。
遺産分割調停の管轄裁判所が遠いときの対処法
遺産分割調停を申し立てる裁判所は、相手方となる相続人のいずれかが住む場所を管轄する家庭裁判所となります。
相続人同士で合意できれば別の裁判所とすることもできますが、話し合いがこじれた状態で裁判所を変更するのは難しいでしょう。
そこで、遺産分割調停の管轄裁判所が遠方となる場合、どのような対処法が考えられるのか解説します。
電話会議システムを利用する
遺産分割調停の管轄裁判所が遠方にある場合も、原則としてその裁判所に出かけなければならないこととされています。
そのため、遺産分割調停を行う際に、相続人にとって大きな負担となることがあります。
しかし、遺産分割調停の手続き上、遠方に出かけなくてもいい方法が定められています。
この方法が、家事事件手続法に定める電話会議システムです。
電話会議システムは、申立人が相手方の管轄裁判所に行かなくても、電話で審理を進めることができる方法です。
申立人は自宅近くの家庭裁判所に出頭して、電話機を利用します。
また、相手方は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に出頭して、電話機を利用することとなります。
自宅の電話で電話会議システムを利用することはできず、家庭裁判所に行くのが原則となることに注意が必要です。
調停を申し立てる際に、電話会議システムを利用することの必要性を説明し、希望を出す必要があります。
ただ、希望を出したからといって、必ず許可されるわけではないことにも気を付けなければなりません。
さらに、電話会議システムを利用しても、初回は裁判所に出頭を求められることがあります。
絶対に一度も裁判所に行かなくてもいいというわけではないため、その準備は必要となります。
いきなり遺産分割審判を申し立てる
遺産分割審判を行う前に、遺産分割調停を行うことが必要とされているわけではありません。
調停と審判では管轄裁判所が異なるため、審判を行う方が都合のいい場合、いきなり遺産分割審判を行うことはできます。
ただ、多くのケースでは遺産分割審判をいきなり申し立てても、家庭裁判所からは遺産分割調停を行うことを求められます。
遺産分割調停を行うこととされてしまうと結局遠方になってしまうため、遺産分割審判を申し立てる意味はありません。
この場合、最終的には裁判所の判断によるため、どのような結論になるのかはわかりません。
まとめ
遺産分割協議が成立しない場合、遺産分割調停や遺産分割審判により、遺産分割の方法を決めることとなります。
遺産分割協議の段階で話し合いがこじれてしまった場合、遺産分割調停が成立せずに遺産分割審判にまで至ることもあります。
遺産分割調停や遺産分割審判の管轄裁判所は、それぞれ定められていることから、間違えないようにしなければなりません。
また、管轄裁判所が遠方にある場合は、いくつかの対処法がありますが、どの方法が最善かは弁護士に相談しながら対応するようにしましょう。