この記事でわかること
- 婿養子と婿入りの違い
- 婿養子になるメリット
- 婿養子になるデメリット
- 婿養子になるための養子縁組の手続き
- 婿養子の手続き前に確認しておきたいポイント
「婿(むこ)」と「婿養子」は同じ意味に思えますが、実は法律上の立場が違います。
妻の親と暮らす夫を「お婿さん」と呼ぶケースもありますが、法律上は「婿」と「婿養子」のどちらなのか、少々わかりにくくなっています。
娘さんの婚約者に家業を引き継ぎたいときや、先祖代々の土地を守ってほしいときは、婿と養子縁組する必要があるでしょう。
なお、婿養子にはメリット・デメリットがあるため、相続への影響や家庭内の立場なども考えておかなければなりません。
今回は、婿養子と婿入りの違いや、養子縁組の手続きなどをわかりやすく解説します。
婿養子とは
婿養子とは、妻の親と養子縁組した夫です。
妻の親は養子を迎えるため、子どもが1人増えることになり、夫は妻側の戸籍に入って妻の姓を名乗ります。
婿養子を迎える状況は以下のようなケースが多く、一般的には妻側の家の事情です。
- 妻が1人っ子のため、家を継ぐ男性の子どもが必要な場合
- 妻しか子どもがおらず、先祖代々の土地やお墓を守ってくれる人が必要な場合
- 妻の親が営む家業を男性に引き継いでもらいたい場合
- 希少な苗字を婿養子に継いでもらいたい場合
女系の家が苗字や財産などの後継ぎ問題を抱えると、婿養子を迎えて解消する場合があります。
婿養子と婿入りの違い
婿養子と婿入りはどちらも妻の苗字を名乗りますが、妻の親と養子縁組するのは婿養子のみです。
婿や婿入りと呼ばれる場合は、婚姻届の提出時に夫が妻の苗字を選んでおり、妻の親と養子縁組はしていません。
夫を婿養子に迎える際、婚姻届と養子縁組届を同時提出できますが、婿入りした夫が妻の親と話し合い、婚姻後に養子縁組するケースもあります。
婿養子になるメリット
夫が婿養子になる場合、本人と妻側の家には以下のメリットがあります。
婿入りとは家庭内の立場が異なるため、円満な家族関係の構築や、相続税の節税効果など期待できます。
妻側の家族と良好な関係を築ける
婿養子は後継ぎ問題などを解消できるため、妻側の家族と良好な関係を築けます。
たとえば、1人っ子の妻が嫁入りすると家系が途絶え、家業の承継が難しくなるでしょう。
妻側の家が後継ぎの悩みを抱えている場合、養子縁組が解決手段になるため、婿養子は妻の家族から歓迎されます。
夫婦に子どもが生まれると、直系の子孫に苗字や先祖代々の土地などを引き継げるため、婿養子は好待遇で迎えられるケースがあります。
嫁姑の争いがない
婿養子になると、嫁と姑の争いに巻き込まれないメリットがあります。
妻と妻の母親は実の親子であり、他家に嫁いだ嫁と姑の関係ではないため、トラブルは起きにくいでしょう。
争いのない家庭は子どもにとって良好な養育環境となり、大人も家事や仕事に専念できます。
実親と養親の相続人になれる
婿養子は実親と養親の相続人になれるため、どちらの財産も相続できるメリットがあります。
養子縁組は実親との血縁が続いており、実親が死亡すると、子どもが第1順位の法定相続人になります。
婿養子と妻の親に血縁はありませんが、養子縁組によって「法定血族」になるため、婿養子は養親の財産も相続できます。
なお、婿入りの場合は実親の財産しか相続できません。
相続分が実子と変わらない
婿養子の相続分は実子と変わらないため、妻の親(養親)が亡くなると、妻と同じ割合で相続できます。
相続できる割合を法定相続分といい、遺産分割の際には以下の割合を目安に財産を取得します。
- 配偶者と子どもが相続する場合:配偶者1/2、子ども1/2
- 配偶者と被相続人の父母が相続する場合:配偶者2/3、父母1/3
- 配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続する場合:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
相続人全員の合意があれば、相続割合を自由に変更できますが、法定相続分に従うとトラブルが起きにくくなります。
では、婿と婿養子でどのように法定相続分が変わるか、具体例をみていきましょう。
養親の財産を相続するケース
夫が婿と婿養子のどちらになるかで、相続発生時の相続分に違いが出ます。
たとえば、家族構成が婿と妻、妻の兄、妻の父母だった場合、父親が亡くなった際の相続分は以下のようになります。
- 妻の母親:1/2
- 妻と妻の兄:それぞれ1/4ずつ(1/2×1/2)
- 婿:相続分はなし
配偶者と子どもが相続人になるケースでは、それぞれ1/2ずつを相続しますが、子どもが複数いるときは人数で割ります。
婿は義父の相続人ではないため、相続権や相続分はありませんが、婿養子になると、各自の相続分が以下のように変わります。
- 妻の母親:1/2
- 妻と妻の兄および婿養子:それぞれ1/6ずつ(1/2×1/3)
母親の相続分1/2は変わりませんが、婿養子が相続人に加わったため、被相続人の子ども3人となり、それぞれ1/6ずつを相続します。
実親の財産を相続するケース
夫の実親が亡くなった場合、夫が婿養子かどうかに関係なく実親の財産を相続できます。
たとえば、実の父親が亡くなり、相続人が実の母親と長女、婿または婿養子になった長男であれば、各自の相続分は以下のようになります。
- 実の母親:1/2
- 長女と長男:それぞれ1/4ずつ(1/2×1/2)
長男が他家の婿や婿養子になっても、実親の財産を相続する権利や相続分は変わらないため、長女の相続分が増えるわけではありません。
相続税の基礎控除が上がる
婿養子を迎えると、相続税の基礎控除が上がります。
相続税の基礎控除は以下の計算式になっており、婿養子も法定相続人にカウントします。
- 相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
妻しか相続人がいない状況であれば、基礎控除は「3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円」ですが、婿養子を迎えると4,200万円に上がります。
相続税は基礎控除を超えた部分にかかるため、養子縁組で控除額が上がると、節税につながります。
遺留分や代襲相続が認められる
婿養子は養親の法定相続人になるため、遺留分や代襲相続が認められます。
遺留分は必ず取得できる相続財産の割合になっており、養親が亡くなった場合、婿養子の遺留分は法定相続分の1/2です。
代襲相続とは、亡くなった子どもの相続権を孫が引き継ぐしくみです。
たとえば、妻の祖父母が死亡したとき、すでに妻の親も亡くなっていると、被相続人の孫にあたる妻と婿養子が親の相続権を引き継ぎます。
婿入りした夫の場合、妻側の家族が亡くなっても相続に関われないため、遺留分や代襲相続の当事者にはなれません。
妻側の家業を承継できる
婿養子になると、サラリーマンから経営者に転身できる可能性があります。
妻の親が家業を営んでおり、後継者として婿養子になった場合、人生の大きな転機になるでしょう。
一般的な起業は軌道に乗るまで手探り状態ですが、婿養子は妻の親から経営ノウハウを直接学べます。
婿養子になるデメリット
婿養子になるときは、以下のデメリットも理解しておきましょう。
必ず発生するデメリットではありませんが、場合によっては妻側の家族とトラブルになるかもしれません。
実子と相続トラブルになる可能性がある
婿養子を迎えると、相続の際に実子とトラブルになる可能性があります。
実子と婿養子は同じ割合で相続できるため、妻の兄弟姉妹が「婿養子がいるために相続財産の取り分が減ってしまう」と考えるかもしれません。
相続できると思っていた財産を遺言書で婿養子が取得すると、実子が遺言書の無効を主張する恐れもあります。
遺産分割協議をするケースでも、「婿養子に財産を渡したくない」と考える実子がいた場合、話し合いが紛糾してまとまらない可能性もあるでしょう。
親族間の争いは長期化しやすいため、当事者同士で解決できないときは、弁護士への相談をおすすめします。
離婚しても養子縁組は解消されない
婿養子と妻が離婚しても、養親との養子縁組は解消されません。
離婚後も養子縁組が続いていると、元妻の親が死亡したときには元夫も相続人になります。
元夫には遺留分があり、一定割合の財産を必ず相続できるため、養親の財産が他家に流出する結果になるでしょう。
離婚時に養子縁組も解消したいときは、養子と養親で話し合い、「協議離縁届」を役場に提出する必要があります。
実親と養親の扶養義務がある
婿養子には実親と養親の扶養義務があるため、場合によっては双方の親を援助しなければなりません。
実親と養親が高齢化し、双方に生活費の支援や介助などが必要になると、金銭的な負担ばかりではなく、精神的にも大きな負担がかかるでしょう。
実親と養親の年齢が近ければ、同時期に医療費の負担が大きくなる可能性もあります。
負債を相続する可能性がある
負債はマイナスの相続財産になるため、養親の借金を婿養子が相続する可能性もあります。
養親が商売をしている場合は、事業用の資金を銀行から借りているケースが考えられるでしょう。
また、養親が賃貸物件のオーナーであれば、建物の建築資金を融資で調達している場合もあります。
相続放棄すると借金の返済義務を免れますが、相続人ではなくなるため、預貯金や不動産なども相続できなくなります。
養親に負債がありそうなときは、残りの返済額がいくらあり、いつまでに完済する予定なのか、早めに聞いた方がよいでしょう。
婿養子の立場にストレスを感じる
妻側の家族に歓迎された婿養子であっても、生まれ育った家庭とは環境や人間関係、慣習などが異なります。
些細なことでも気を遣ってしまい、ストレスを感じる場合もあるでしょう。
婿養子になるための養子縁組の手続き
婿養子になる場合、まず妻や妻の親とよく話し合います。
家業の承継など、婿養子になる条件を提示される場合があるため、納得できたら役場に以下の書類を提出してください。
- 養子縁組届
- 届出人の本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
提出先は養親や養子の本籍地、または届出人の住所地を所管する市区町村役場です。
養子縁組届には証人2名の署名が必要になっており、18歳以上の成年であれば構わないため、実親や親戚に頼んでおくとよいでしょう。
養子縁組届の様式は全国共通ですが、自治体によっては「市長殿」などが印字されているため、届出先の役場や自治体ホームページでの入手をおすすめします。
記入内容に不備がなければ、1週間~10日程度で養子縁組が完了します。
婿養子の手続き前に確認しておきたいポイント
婿養子を迎えるときは、役場で手続きする前に以下のポイントを確認してください。
婿養子になる方は、養子縁組の解消方法も知っておくとよいでしょう。
養子縁組は解消できる
養親と養子の合意があれば、「離縁」の手続きによって養子縁組を解消できます。
何らかの事情で養子縁組の必要性がなくなったときは、養親と養子の話し合いで離縁を決定し、役場に養子離縁届を提出してください。
どちらか一方の同意を得られないときは、家庭裁判所に離縁調停を申し立て、調停委員を交えた話し合いで解決を目指します。
双方が納得したら調停成立となり、調停調書が作成されるため、調停成立日から10日以内に調停調書の謄本と養子離縁届を役場に提出しましょう。
養親・養子のどちらかが亡くなった後に養子縁組を解消したいときは、生きている人が「死後離縁」の手続きを行います。
死後離縁は家庭裁判所に審判を申し立て、裁判官の審判によって死後離縁が認められたら、審判書謄本や確定証明書などを役場に提出し、戸籍を変更してもらいます。
結納や結納金を確認する
結納とは、結納金や結納品などを受け渡す両家の儀式です。
一般的な「嫁入り」の結婚であれば、男性側が女性側に結納金などを贈りますが、婿養子の場合は逆になり、女性側が男性側に結納金などを贈ります。
特に必要な儀式ではないため、結納を省略し、顔合わせの食事会のみにするケースも増えていますが、婿養子の妻になる人は親の意向を確認した方がよいでしょう。
婿養子を迎える場合は、親が結納儀式や結納金が必要だと考えているかもしれません。
結納金は50万~100万円程度が相場といわれていますが、婿養子を迎えるときは相場の2~3倍を準備するケースもあります。
相続税の基礎控除は養子のカウントが2人まで
相続税の基礎控除は養子も含めて計算しますが、以下のようにカウントできる人数が最大2人までとなっています。
- 実子がいる場合:1人まで
- 実子がいない場合:2人まで
民法上は養子の人数に制限がないため、相続税対策だけを目的に何人も養子を迎えた場合、養子縁組の趣旨から逸脱します。
そこで、税法では相続税逃れを目的とした養子縁組を防止するため、基礎控除の計算に含める養子を最大2人までに限定しています。
妻の親に婿養子以外の養子がいるときは、基礎控除の計算を間違えないように注意してください。
まとめ
妻側の家庭が苗字や財産承継などの問題を抱えていると、婿養子が最善の解決策になる場合があります。
婿養子は歓迎されやすく、妻の親の財産も相続できるため、どちらにも大きなメリットがあるでしょう。
なお、婿養子と妻側の家族が円満な関係であっても、妻の親が亡くなると、相続トラブルになるケースも珍しくはありません。
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