この記事でわかること
- みなし贈与とはどのような制度か
- みなし贈与に該当するケース
- みなし贈与と判断されないようにする方法
- みなし贈与対策に使える控除・特例
親族の間では、「貸したお金の返済を一部または全額免除する」「宝飾品を安く売ってあげる」など、贈与以外の方法で一方が他方に利益を与えることがよくあります。
しかし、贈与の意図や合意がなくても、その受益のあり方や程度によっては「みなし贈与」として贈与税を課税される可能性があります(相続税法第5条~第9条)。
みなし贈与と判断されると、受益者側に贈与税が課税されます。
また、目的物が不動産の場合は、譲渡した側にも譲渡所得税を課されることになります。
ここでは、みなし贈与にあたるのはどのような行為か、みなし贈与と判断されないようにする方法、みなし贈与とみなされないための対策を解説します。
目次
みなし贈与とは
みなし贈与とは、当事者に贈与の意図や合意がなくても、実質的に贈与を受けた場合と同じ経済的利益があった場合に、贈与を行ったとみなされる行為をいいます。
ここでは、みなし贈与と通常の贈与との違いや、みなし贈与の判定基準などを解説します。
みなし贈与と通常の贈与との違い
みなし贈与と通常の贈与の違いは、主に「当事者間の贈与の意思の有無」です。
通常の贈与(民法第549条)は、一方が他方に無償で財産を譲渡する旨の契約です。
贈与契約は、贈与者が財産を無償で譲渡する意思表示と、受贈者がそれを受諾する意思表示(財産の無償譲渡にかかわる意思伝達)によって成立します。
通常の贈与では、受贈者側に「贈与を受けた」という認識があるので、贈与税がかかる可能性があることに気づきやすくなります。
これに対して、みなし贈与とされる行為では、財産の無償譲渡にかかわる意思伝達は行われていません。
そのため、利益を受ける側は贈与税を課される可能性について気づかないことが多くみられます。
みなし贈与の判定基準
相続税法上、生命保険契約・その他の定期金の受取人設定、不動産の無償譲渡、債務の全額免除などについてはみなし贈与に該当することが明らかです。
これに対して、財産の譲渡や債務免除・債務引受などについての「著しく低い価額」の具体的な基準については明文の定めがありません。
そのため、過去の裁判例などに基づいて税務署が個別に判断しています。
裁判例によれば、「著しく低い価額」とは、土地の場合は「時価の80%未満の価額」が目安とされます(東京地方裁判所2007年8月23日付判決)。
ただし、近年不動産の実勢価格が高騰しており、時価との乖離がある事を踏まえると、当該基準が妥当するかどうかについてより詳細な検討が必要であるため、注意が必要です。
みなし贈与に気づかなかった場合のリスク
当事者は、自身が受けた財産上の利益がみなし贈与にあたることに気づかないことが多いのですが、みなし贈与は税務署に知られてしまう可能性が高いものです。
税務署がみなし贈与と判定した場合、贈与税だけでなく、無申告/過少申告加算税・延滞税などのペナルティが課せられます。
このうち、加算税については、修正申告や期限後申告をすることで税率を抑えることができます。
自分が受けた物や不動産の譲渡がみなし贈与であることに気づいた場合は、すぐに修正申告や期限後申告をしましょう。
みなし贈与に該当するケース
みなし贈与は、当事者が気づかずに行っていることが多いため、どのようなケースがみなし贈与にあたるか知っておくことが大切です。
ここでは、相続税法のみなし贈与規定に該当するケースをご紹介します。
不動産や株式などの低額譲渡
不動産や株式などの財産を低額で譲渡した場合、その価額によってはみなし贈与と判定される可能性があります(相続税法第7条)。
不動産譲渡がみなし贈与と判定されると、購入した子どもには贈与税が課税されます。
また、売却した親にも「みなし譲渡所得税」が課税されます。
非上場株式の無償譲渡
上場株式のように証券取引所を介して株式を譲渡する場合は、適正な価格での譲渡となるため、みなし贈与とはなりません。
一方、非上場株式を継承者に譲渡する場合は、譲渡者側が売却価額を決めることができます。
譲渡者が経営している会社の非上場株式を、継承者たる子どもに名義変更する際に無償で譲渡すると、みなし贈与と判定されます(相続税法第9条)。
生命保険の契約者を名義変更した場合
生命保険の名義変更をした場合も、名義変更する前の期間の支払い額に相当する額が、みなし贈与と判定されます(相続税法第5条)。
たとえば、年間の保険料が30万円で20年満期(受取額600万円)の生命保険契約において、最初の契約者は父親であったところ、15年後に子どもに名義変更したとします。
この場合、満期に子どもが受け取る保険金は600万円ですが、父親が保険料を支払った15年間に相当する450万円については、子どもへのみなし贈与と判定されます。
親の生命保険の受取人が契約者以外の場合
生命保険の満期保険などの受取人が契約者以外の人に設定されていた場合も、みなし贈与となります(相続税法第5条)。
契約の満期で保険金が支払われるときに、受取人が保険金という利益を得るためです。
債務免除等
借金を代わりに支払うことや、貸した側が借金をなかったことにした場合は「債務免除等」(相続税法第8条)にあたり、みなし贈与と判定されます。
ただし、当該債務免除等が以下の2要件を満たすときは、みなし贈与に該当しません(相続税法第8条但書)。
この場合は、贈与税が免除されます。
- 受益者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である
- 当該債務の弁済に充てるために受益者の扶養義務者からなされたものである
たとえば、病気などにより資力を喪失した子どもの借金を、扶養義務者である親が返済した場合などがこれに該当します。
離婚の際の多額の財産分与
離婚の際の財産分与のタイミングや金額によっては、みなし贈与と判定される可能性があります(相続税法第9条)。
本来、離婚による財産分与は非課税なので、贈与税が課税されることはありません。
しかし、財産分与を受けた額が過大な場合や、離婚自体が相続税や贈与税を免れるために行ったと認められる場合は、みなし贈与と判定される可能性があります。
みなし贈与と判断されないようにする方法
前述したように、家族間で多額の金銭や財産、利益を移転させる行為はみなし贈与と判断されやすいため、注意する必要があります。
そこで、みなし贈与と判断されないようにする方法を知っておきましょう。
生活費・教育費などは支出目的の証拠を残しておく
民法第877条1項で定められる扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹)から、必要に応じて受け取る生活費や教育費は非課税となります(相続税法第21条の3第1項2号)。
留学費用のように、100万円単位であっても教育費と認められる限り、贈与税はかかりません。
基本的に、随時現金で供与される生活費や教育費について贈与税はかかりません。
しかし、あくまでも生活費や教育費のために供与を受けたことを証明できるよう、可能な限り領収書や振込明細などの証拠を残しておくことをおすすめします。
基礎控除枠を活用する
生活費や教育費ではない贈与でも、年間110万円以下であれば贈与税はかかりません(相続税法第21条の5・租税特別措置法第70条の2の4)。
一般的な贈与を対象とする「暦年課税制度」では、年間の贈与合計額から基礎控除額110万円を差し引いた額に税率を乗じて計算します。
したがって、1年間に1人あたりが受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税は非課税となります。
みなし贈与に使える控除・特例
また、みなし贈与回避に使える控除・特例制度として、以下のものがあります。
- 相続時精算課税制度
- 贈与税の配偶者控除制度
- 住宅取得等資金贈与の非課税特例
- 教育資金の一括贈与の非課税特例
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例
これらの控除・特例制度は、主に親子間や夫婦間で行われる贈与に適用されます。
制度を利用して贈与税申告を行うことで、みなし贈与による課税を回避できます。
では、順に解説します。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度(相続税法第21条の9)とは、原則として「60歳以上の父母(または祖父母)から、「18歳以上の子ども(または孫)」が贈与を受けた際に選択できる課税方式です。
相続時精算課税制度を選択した場合、累計2,500万円まで贈与税が非課税となります。
その代わり、贈与者の相続時に贈与財産を相続財産に持ち戻す形で、一律20%の相続税が課税されます。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
夫婦間の贈与で、みなし贈与を回避できる制度もあります。
贈与税の配偶者控除制度(相続税法第21条の6:通称「おしどり贈与」)は、以下の条件を満たす場合に適用されます
- 贈与者と受贈者の法律上の婚姻期間が20年以上あること
- 居住用不動産の贈与契約または居住用不動産を取得するための金銭の贈与契約を行うこと
- 当該不動産の評価額または贈与額が2,000万円以下であること
住宅取得等資金贈与の非課税特例
住宅取得等資金贈与の非課税特例とは、18歳以上の子ども(または孫)が、父母(または祖父母)から「住宅を取得するための資金」を贈与された場合に適用される特例です(租税特別措置法第70条の2)。
当該特例は、2026年12月31日まで有効となっています。
当該特例で定められた要件を満たせば、最大1,000万円まで贈与税が非課税となります。
また、贈与税の基礎控除と併用できるため、最大1,110万円まで贈与税がかかりません。
教育資金の一括贈与の非課税特例
子どもの学費や習い事の費用などの教育資金の贈与に対しては、2024年現在では「教育資金の一括贈与の非課税特例」の適用を受けられます。
教育資金の一括贈与の非課税特例(租税特別措置法第70条の2の2)は、以下の要件を満たせば適用されます。
- 受贈者が30歳未満で、合計所得金額1,000万円以下であること
- 受贈者の直系尊属(父母または祖父母)から、取扱い金融機関との教育資金管理契約に基づいて教育資金の一括贈与を受けること
- 贈与額が受贈者1人あたり1,500万円以下であること(習い事は500万円以下)
当該特例は、有効期間が2026年3月31日までとなっているのでご注意ください。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例とは、合計所得金額1,000万円以下の18歳以上50歳未満の子ども(または孫)が、父母(または祖父母)から「結婚・子育て資金」を一括贈与された場合に適用できる特例です(租税特別措置法第70条の2の3)。
当該特例が適用されれば、受贈者1人あたり最大1,000万円(結婚資金は300万円)まで、贈与税が非課税となります。
当該特例は、有効期間が2025年3月31日までとなっているため、利用をお考えの方はできるだけ早く銀行や、税理士などの専門家にご相談ください。
まとめ
みなし贈与に該当するケースは、当事者が気づかず、税務署から連絡が来て初めて気づくことが多いです。
税務署にみなし贈与と判定されてしまうと、贈与税だけでなく、加算税や延滞税などの追徴税も課されることになります。
一方、税制上、親族間の贈与に対する減税措置も多く設けられています。
みなし贈与に該当する財産移転を行う代わりに、これらの制度を利用できる可能性もあります。
まとまった財産を動かす計画がある場合は、事前に税理士に相談されることをおすすめします。