この記事でわかること
- マンション建設に連帯保証人が必要となる場合の対処法がわかる
- 民事信託における委託者、受託者、受益者の役割を知ることができる
- 民事信託を利用した場合の税務上の取扱いを知ることができる
民事信託を、相続対策や認知症になった場合の備えとして、利用する人が増えています。
相続対策としてマンションなどを建設する際に民事信託を利用することで、家族間での問題を防ぐことも可能となります。
ここでは、民事信託を利用したマンション建設の方法や、融資を受ける際の注意点について確認します。
また、税務上の取扱いについても解説しますので、あわせて確認しておきましょう。
目次
マンション建設で家族から連帯保証人を反対されてしまった
相続対策の一環として、銀行から融資を受けて、保有する土地にマンションを建設することがあります。
更地を保有している場合、大きな収益を上げることはできない一方で、その土地の相続税評価額は高くなります。
これに対して、マンションを建設すると借金の額を相続財産の額から控除することができます。
また、土地の相続税評価額が更地の場合に比べて低くなるため、相続税の額を圧縮することができるのです。
そのため、比較的高齢の方がマンションを建設しようと考えることがあります。
しかし、マンションを建てる際に障害となるものがあります。
それは、銀行から融資を受ける際に、連帯保証人が必要となることです。
高齢の方が融資を受ける場合には、引き続き融資の返済を行うことができる子供などが連帯保証人となることが求められます。
もし連帯保証人となる人がいなければ、融資を受けることはできず、マンションの建設も不可能となってしまうのです。
連帯保証人になるためには、その本人の同意は不可欠です。
ただし、本人は同意していても、その家族が反対する場合もあります。
息子を連帯保証人とする場合に、その奥さんや子供が強硬に反対すると、融資を受けることは難しくなるのです。
民事信託を利用したマンション建設の方法
家族に連帯保証人となってもらうのが難しい場合、民事信託を活用して銀行からの融資を受けることができる場合があります。
具体的な民事信託の利用法は、以下のとおりです。
土地の所有者が委託者兼受益者、信託会社が受託者となる民事信託を考えてみましょう。
この場合、土地の名義人は受託者である信託会社となります。
受託者である信託会社は、マンション建築のための資金調達を行います。
銀行との交渉もすべて信託会社が行い、連帯保証人も信託会社で対応することとなります。
このように、民事信託を活用すると、家族が連帯保証人にならなくてもマンションの建築が可能となるのです。
民事信託における「委託者、受託者、受益者」の役割とは
不動産の所有者は、その不動産の登記名義人であり、かつその不動産から発生する収益を得る人です。
つまり、不動産の所有権とは、不動産の管理権と不動産からの受益権の2つからなっているということができるのです。
そして、民事信託を利用するとこの2つの権利が分離して、別の人に帰属することとなります。
民事信託には、直接登場する当事者が3人おり、それぞれ委託者、受託者、受益者と呼ばれます。
2つの権利が与えられる人には、民事信託における役割が決められているため、その内容を確認しておきましょう。
委託者とは
委託者は、もともと財産の所有者であり、その財産の管理をお願いする立場の人です。
財産の管理をお願いする理由は、特に問われません。
ただ多くの場合、委託者自身が高齢であるか高齢になっても問題が起こらないように備えておくという狙いがあります。
たとえば、不動産の所有者が認知症となって自分では管理できなくなったとします。
民事信託を利用していない場合には、成年後見制度を利用することはできます。
しかし、成年後見人は裁判所で選任されるため、必ずしも希望どおりの人が選ばれるわけではありません。
また、成年後見人は財産の維持管理を行うこととされており、相続対策のための売却や購入はできません。
ましてや、相続対策のために借金をするということは不可能なのです。
しかし、民事信託を利用すれば、委託者自身が認知症となっても、相続対策を継続することができます。
そのため、遺産分割や相続に対する不安を解消することができるのです。
受託者とは
受託者は委託者から託された信託財産の管理を任される人です。
もともとの所有権のうち、名義や財産の管理に関する権利だけを分離して保有しているようなイメージとなります。
実際、信託財産の登記名義人は、それまでの所有者から受託者に変更されます。
受託者になりたい人が自動的に受託者になるわけではなく、委託者との契約で受託者が決められます。
民事信託の場合、ほとんどのケースで家族が受託者となるため、家族信託と呼ばれることもあります。
成年後見人のように、裁判所で選任されるわけではないため、当事者間での合意があれば誰が受託者となることもできます。
ただし、当事者間での合意がなければ、たとえ家族でも受託者となることはできません。
財産の管理を行うという点では、家族の誰からも信頼のおける人が受託者になるのが望ましいのです。
受益者とは
受益者は、信託財産から発生する収益を実際に得る人です。
所有権のうち、受益権を得る人ということができます。
民事信託の場合、委託者が受益者となることが多いのですが、委託者以外の人が受益者となることもできます。
このように、民事信託の当事者となる人はそれぞれに役割が定められており、与えられた権限と義務を果たす必要があります。
また、財産の管理権と受益権を分けて考えることで、当事者それぞれの役割をより細かく理解することができるはずです。
民事信託で銀行から断られた場合
民事信託を利用して融資を受けることとした場合、思わぬ形で融資を断られる可能性があります。
どうして融資を断られてしまうのか、そしてその対処法にはどのようなものが考えられるのか、考えてみましょう。
民事信託で融資が断られる理由
民事信託を利用している人に対する融資を断る理由には、大きく2つの理由が考えられます。
1つは、銀行の担当者が民事信託の制度をよく理解していないことです。
よくわからないとか、前例がないといった取引の場合、法律にもとづいているものであっても、断られることがあるのです。
もう1つは、民事信託の場合、銀行に対する債務者とマンションの所有者が一致しないことがあげられます。
マンションの建築に関する借入の返済資金は、そのマンションの月々の賃料を原資とします。
ところが民事信託の場合、マンションから発生する収益を得る人と、そのマンションの名義人が異なります。
そのため、返済が滞った場合に、マンションを売却して返済資金とすることができない可能性があるのです。
民事信託で融資を受けるためには
民事信託を利用して融資を断られないようにするためには、受託者や受益者などすべての当事者が連帯債務者になることが考えられます。
こうすれば、借入金の返済に行き詰っても、マンションや土地を売却して回収することが可能となるのです。
また、民事信託を利用することをむやみに主張しすぎないことが大切です。
民事信託の制度は多くの銀行ではなじみが薄く、説明しても理解が進まないことが想定されます。
民事信託という言葉を極力使わず、連帯保証人となることや財産からの収益は今までと変わらないことなどを丁寧に説明しましょう。
また、銀行に説明に行く時は、弁護士や司法書士などの専門家にも同席してもらい、説明してもらうようにしましょう。
民事信託で不動産を信託した際の税金の取り扱いについて
民事信託を利用して財産の管理を受託者に依頼した場合、その財産に関する税金の取扱いはどのようになるのでしょうか。
誰に税金がかかるのかを考えるうえでは、財産の管理権ではなく、財産の受益権が誰にあるのかで判定をします。
民事信託により信託財産となった不動産がある場合、その民事信託契約の受益者となった人が、信託財産からの収益を計上します。
そして、その収益にもとづいて所得税の計算を行うのです。
従前の所有者が委託者兼受益者となる場合、民事信託を利用しても財産に対する課税関係に変化はありません。
一方、民事信託により受益者を別に設定した場合、その受益者が税金計算上の所有者とみなされます。
そのため、民事信託契約を締結した時点で前の所有者から贈与をされたこととなります。
また、その後、毎年確定申告を行い、所得税を納税する必要もあるのです。
税務上の所有者は、受益権をもとに判定することに注意しましょう。
まとめ
マンションの建設を行う際に民事信託を利用するという人は、あまり多くないかもしれません。
しかし、連帯保証人の問題を解決するためには、非常に有効な手段ということができます。
もちろん、それ以外にも民事信託を利用することには多くのメリットがあります。
そのため、相続対策や遺産分割などの状況も踏まえながら、どのような選択肢が最適なのか、考えてみましょう。