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最終更新日:2024/3/13

相続の限定承認とは?メリット・デメリットや手続きの流れ

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 相続の手続きで利用できる限定承認とはどのようなものかわかる
  • 限定承認を行うメリットとデメリットを知ることができる
  • 限定承認を行うための手続きの流れや必要な書類がわかる

相続が発生すると、亡くなった人が保有していた預金や不動産などの遺産を引き継ぐことができます。

ただ、中には財産だけでなく、亡くなった人が抱えていた借金を相続人が引き継がなければならない場合もあります。

そのような場合に、相続人は限定承認を行い、借金の相続による影響を最小限に抑えることが可能です。

限定承認とはどのような制度なのか、そしてどのように限定承認を行うのか、解説していきます。

相続の限定承認とは

限定承認とは、被相続人が残した借金を遺産の中から返済し、それでも残った遺産がある場合には相続人が引き継ぐ制度です。

借金の額の方が大きな場合には、相続人は遺産を相続することはできません。

その代わり、借金を引き継いで返済する必要もなくなります。

本来、遺産を引き継ぐ場合には、財産も債務もすべて引き継ぐこととされます。

しかし、限定承認した場合には、相続人は財産の金額に限定して債務に対する責任を負います。

被相続人が残した財産の額を超える債務については、相続人は一切の責任を負うことはありません

相続放棄との違い

被相続人が多額の借金を残した場合には、相続人は相続放棄をすることもできます。

相続放棄は、文字どおり一切の相続に関する権利を放棄する手続きです。

相続放棄した相続人は、はじめから相続人でなかったものとして取り扱われることとされます。

相続放棄は、被相続人が残した借金がない場合でも、相続人の判断ですることができます。

実際、田舎の土地を相続したくない、あるいは他の相続人の争いに巻き込まれたくないといった理由で相続放棄する人もいるのです。

これに対して、限定承認は被相続人の残した借金がなければ、手続きをすることはできません。

さらに、相続放棄は、相続人が自身の判断ですることができます。

これに対して、限定承認はすべての相続人がそろって手続きすべきものとされ、単独で行うことはできません。

単純承認との違い

単純承認は、被相続人の遺産を相続人がすべて引き継ぐことです。

債務だけ引き継がないということはできませんし、特定の財産だけ引き継ぐこともできません。

すべての財産と債務を、いずれかの相続人か相続することとなります。

単純承認が成立すると、その後に限定承認や相続放棄をすることはできないこととされます。

単純承認が成立するための特別な手続きはないため、知らないうちに単純承認が成立していることもあります。

限定承認できる時期

限定承認ができる時期は、相続が発生したことを知った日から3か月以内とされています。

通常は、被相続人が亡くなるとすぐに相続の発生を知るため、被相続人が亡くなった日から3か月以内となります。

限定承認の時期が定められているのは、遺産分割などがいつまでも確定しない事態を防ぐためです。

いつでも限定承認できることとなれば、遺産分割がいつまで経っても成立しない原因となってしまいます。

そこで、限定承認ができる期間が設けられ、この期間を過ぎた場合には単純承認が成立することとされています。

限定承認のメリット・デメリット

限定承認を行うと、相続放棄や単純承認とは異なる結論となることが想定されます。

そこで、限定承認にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

限定承認のメリット

限定承認を行うことには、以下のようなメリットがあります。

債務を相続することがない

限定承認を行うと、被相続人の残した債務より財産の方が多い場合、債務の額を超えた部分の財産だけ相続します。

また、債務の方が多い場合は財産を相続することはできませんが、債務を引き継いで返済することもありません。

いずれの結果になったとしても、相続人は被相続人の残した債務を引き継ぐことはありません

そのため、どれだけの債務があるかわからない場合でも、安心して相続を行うことができます。

自宅を相続することができる

被相続人の残した債務の方が財産より多い場合、債務を引き継がない代わりに財産も相続することはできません。

しかし、自宅などどうしても残したい財産がある場合には、その財産だけを残すことができます

限定承認を行った人は、必要な財産に対して先買権という権利を有しています。

この先買権とは、本来手放すこととなる財産を優先的に取得する権利です。

自宅など必要な財産がある場合、先買権を行使することで、その財産だけは残すことができます。

限定承認のデメリット

限定承認には上記のようなメリットがありますが、一方でデメリットもあります。

どのようなデメリットがあるのか、解説していきます。

相続人全員で手続きしなければならない

限定承認のデメリットとなるのが、相続人全員で手続きしなければならないことです。

デメリットというより、限定承認が利用しづらい理由といえるかもしれません。

相続人の中には、債務があってもすべての遺産を相続したいと考える人もいます。

また、遺産はいらないから相続放棄したいと考える人もいます。

このように、考え方が異なる人が一緒に限定承認を行うのは、非常に難しいことです。

3か月以内という期間が定められており、その期間が短いことも、より限定承認が難しい要因となっています。

所得税がかかることがある

限定承認により、被相続人が所有していた財産は相続人に売却したものとみなされます。

このことを「みなし譲渡」と呼びます。

みなし譲渡が成立した場合、被相続人による取得価額と相続時の時価から、譲渡益あるいは譲渡損が発生するのです。

相続時の時価の方が上がっている場合、みなし譲渡所得が発生し、所得税が課されることとなります。

なお、限定承認により譲渡所得が発生した場合、相続発生から4か月以内に、相続人が準確定申告を行わなければなりません。

そのため、金銭的な負担に加えて、申告や納税などの手間もかかることに注意が必要です。

相続時に限定承認を行った方がよいケース

多くの人は単純承認を行う一方、債務が膨大な場合は相続放棄を選択することとなります。

相続人が実際に限定承認を選択するのは、どのようなケースがあるのでしょうか。

まず考えられるのは、被相続人の残した債務の総額がわからない場合です。

また、債務だけでなく財産の額が全部でいくらになるのかわからない場合も、限定承認を行う方が安心できます。

限定承認をしていれば、債務の額が多かった場合でも、その債務を引き継いで返済する必要はありません。

また、財産の額が大きかった場合には、債務を差し引いた後の財産を相続することができます。

次に考えられるのは、先祖代々の土地などを相続したい場合です。

債務が大きな場合、相続放棄すれば債務を引き継ぐ必要はなくなりますが、同時にすべての相続財産も失うこととなります。

しかし、限定承認をすれば特定の財産だけ残すことができるため、相続放棄しない方がいいというケースは多くあります。

限定承認の手続きの流れ・必要書類

それでは、実際に限定承認するには、どのような流れで手続きを進めていくのでしょうか。

相続放棄などとは手続きが異なるため、その内容を確認しておきましょう。

家庭裁判所に申述を行う

限定承認を行うには、まず家庭裁判所に限定承認の申述を行います

この申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、亡くなってから3か月以内に行います。

限定承認の申述は、すべての相続人により行う必要があるため、1人でも反対する人がいれば、限定承認はできません。

なお、家庭裁判所に限定承認の申述を行う際は、以下のような書類を提出します。

必要な書類

  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  • 被相続人の財産目録

相続財産管理人を選任する

家庭裁判所に限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所は職権で、相続人の中から相続財産管理人を選任します

相続人が1人しかいない場合は、その相続人が自動的に相続財産管理人です。

相続財産管理人は、被相続人の残した財産の管理や清算を行います。

債権者に対して債務の返済を行うため、財産を売却するための手続きなどを行うこととなるのです。

なお、財産を売却する必要がある場合、その売却は原則として家庭裁判所を通した競売によって行われます。

官報で公告される

限定承認の申述が家庭裁判所に受理されると、その事実が官報に掲載され、公告されます

これにより、すべての債権者や受遺者に対して、限定承認が成立したことを知ってもらうこととなります。

限定承認にかかる費用内訳・相場

限定承認の手続きは、家庭裁判所で行われます。

そのため、手続きや必要な書類を省略することはできず、その分の費用もかかります。

限定承認を行うためにはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。

戸籍謄本

限定承認の申述を行ったすべての相続人は、戸籍謄本を提出しなければなりません。

また、被相続人については、出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。

戸籍謄本を取得する際には、1通あたり450円がかかります。

また、除籍謄本や原戸籍謄本を取得する際には、1通あたり750円ほどかかります。

印紙代・切手代

限定承認の申述を行う際には、1件あたり800円の収入印紙が必要とされます。

また、家庭裁判所からの書類の郵送にかかる切手代は、裁判所によって異なります。

事前に、各家庭裁判所での確認が必要です。

官報公告費用

限定承認の申述が受理された後、官報公告を行わなければなりません。

官報公告の費用は、掲載される文章1行単位で料金が定められており、必ずしも決まった金額になるわけではありません。

一般的に、限定承認を行った場合は4万円程度になることが多いとされます。

弁護士費用

限定承認の手続きは、当事者である相続人自身で行うことができます。

しかし、手続きが複雑でわかりにくく、初めての人には難しい点が多いです。

そこで、専門家である弁護士に限定承認の手続きを依頼することができます。

弁護士に限定承認を依頼した場合、弁護士費用が発生します。

弁護士費用の計算方法は、それぞれの弁護士により違いがあり、一律ではありません。

また、財産の金額によって、計算に用いられるパーセンテージにも違いがあります。

以前用いられていた報酬等基準によれば、経済的利益が300万円以下の場合は16%が報酬となります。

また、300万円超3,000万円以下の場合は10%+18万円が報酬の額です。

現在もこの基準を使って報酬を計算している弁護士がいるので、参考にしてください。

限定承認をする際の注意点

最後に、限定承認をしようと考えている方が注意すべき点をご紹介します。

必ず相続人全員で行う

限定承認は、必ず相続人が全員で行わなければなりません

相続人の中には、限定承認の必要性を理解できない人もいるかもしれないので、丁寧に説明する必要があります。

期限は厳格に守らなければならない

相続が発生したことを知ってから3か月以内でなければ、限定承認を行うことはできません。

3か月の期限が過ぎてしまうと自動的に単純承認が成立してしまい、限定承認はできなくなります。

そのため、常に期限を意識して準備を進めるようにしましょう。

単純承認が成立しないようにする

限定承認の手続きを終える前に、被相続人の財産を処分してしまうと、単純承認が成立してしまいます

また、被相続人の残した債務を返済しても、単純承認が成立することがあります。

1人でも単純承認が成立した相続人がいると、限定承認を行うことはできなくなります。

そのため、単純承認が成立するような行動をとらないようにしましょう。

まとめ

相続が発生した時に、限定承認という選択肢があることを理解している方は、それほど多くないかもしれません。

また、実際に限定承認すべきというケースはそれほど多くありません。

しかし、債務は引き継ぎたくないが特定の財産だけ残したいという場合、限定承認を行えばその希望を叶えることができます。

限定承認は相続放棄とはまったく異なる手続きとなるため、必要な書類や相続人全員の理解を得る準備を進めていきましょう。

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