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最終更新日:2024/1/12

貸付事業用宅地等とは?小規模宅地などの特例の適用要件や注意点を紹介

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 貸付事業用宅地等について理解できる
  • 小規模宅地等の特例で貸付事業用宅地等を適用するときの注意が自分でできる
  • 小規模宅地等の特例の要件がわかる

貸付事業用宅地等とは、賃貸アパートやマンションが建っている土地や第三者に貸し出している土地のことです。

このような土地を相続した場合、特定の要件を満たすことで、小規模宅地等の特例を利用できます。

小規模宅地等の特例が適用されると、土地の200㎡まで相続税評価額が50%減額されます。

ただし、貸付事業用宅地等について複数の要件があるため、相続時にはこれらの要件を確認する必要があります。

この記事では、貸付事業用宅地等の要件や必要な書類、留意点などについて解説します。

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例は、相続や遺贈によって手に入れた財産についての規定です。

相続等で手に入れた財産の中で、相続が始まる直前に被相続人が事業または居住に使用していた宅地などについて、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、限度面積まで一定の割合を減額する仕組みです。

被相続人の宅地の用途によって、減額される割合や限度面積が異なります。

一例としては、不動産事業などによって貸し出していた場合は200㎡までが50%減額されるケースがあります。

貸付事業用宅地等とは

貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において、被相続人、または、生計を一にしていた被相続人の

不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業に使用されていた宅地のことです。

一方、特定事業用宅地等とは、被相続人、または、被相続人と生計を一にする親族が自らの事業に利用していた宅地のことを指します。

この二つはどちらに該当するか判断が難しいかもしれません。

以下の事業は貸付事業用宅地等(50%減額)の対象となり、特定事業用宅地等(80%減額)の対象にはなりませんので、注意が必要です。

  • 建物などの賃貸事業
  • 駐車場業
  • 自転車駐車場業

以下では特に判断が難しい例を2つ確認しておきましょう。

時間貸しの立体駐車場

時間貸しの立体駐車場に関する所得は、所得税法上、不動産所得ではなく、事業所得(小規模な場合は雑所得)とされます。ただし相続税法上は、特定事業用宅地等ではなく、貸付事業用宅地として扱われることになります。

ホテル業、旅館業

事業の一環として食事の提供などのサービスが行われるので、特定事業用宅地等として扱われます

貸付事業用宅地等の適用要件

貸付事業用宅地等に該当するための要件は以下の通りです。

被相続人の貸付事業用宅地等の場合

相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が、相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、その宅地等を保有し、かつその貸付事業を営んでいることが要件です。

被相続人と生計を一にしていた親族の貸付事業用宅地等の場合

相続又は遺贈により取得した親族が、被相続人と生計を共にし、相続開始前から申告期限までその宅地等を自らの貸付事業に供し、かつその宅地等を保有し続けていることが要件です。

上記のどちらのケースも共通して、相続税の申告期限までに相続した土地を保有し続け、かつその事業を継続していることが重要です。

従って、事業を続けないつもりで取得して直ぐに廃業したり、土地を売却したりすると、小規模宅地等の特例の対象から外れる可能性があるため、慎重な対応が必要です。

貸付事業用宅地等の減額割合・限度面積

貸付事業用宅地等の特例では、適用面積が200㎡で減額率が50%となります。

例えば、1,000㎡の土地を相続した場合、特例の要件を満たしているとしても、実際に減額されるのは適用面積の200㎡に対してのみです。

その部分については50%の減額が適用されます。

残りの800㎡には減額が行われません。

小規模宅地等の特例で貸付事業用宅地等を適用するときの注意点

この章では小規模宅地等の特例で貸付事業用宅地等を適用するときの注意点について説明します。

相続開始前3年以内に賃貸事業を始めた場合

平成30年度の税制改正により、相続開始前3年以内に不動産貸付業を始めた土地は貸付事業用宅地等の特例の対象外となったことに注意が必要です。

青空駐車場として利用している

青空駐車場は、屋根なしで地面に直接車を停めるタイプの駐車場です。

区画はロープで区切られているか、区画線が引かれていることが一般的です。

大きな構造物が不要なため、設備投資が少ないというメリットがあります。

小規模宅地の特例適用には、建物や構築物が必要であるため青空駐車場は特例の要件を満たしません。

しかし、アスファルト舗装などを施すことで適用できるようになるケースもあります。

さらに、現金をアスファルト舗装などの構築物に変換することで、相続税の評価額が低くなり、相続財産を効果的に軽減できます。

ただし、この手法にも3年の縛りがあるため、青空駐車場の所有者は早めに構築物を設置することがおすすめです。

必要な書類を用意する

小規模宅地の特例を適用する際に必要な書類は以下の通りです。

  • 相続税の申告書:相続の事実を税務署に通知する書類
  • 遺言書または遺産分割協議書の写し:遺言があればその内容や、遺産分割協議書があればそのコピー
  • 法定相続情報一覧:被相続人と相続人の関係を示す図や表
  • 被相続人の戸籍謄本:相続発生日以降に作成された、被相続人の戸籍に関する書類
  • 相続人全員の印鑑証明書:全ての相続人の印鑑に関する証明書

法定相続情報一覧表は法務局のホームページから取得できます。

印鑑証明書は遺産分割協議書に使用した印鑑と同一のものを提出します。

賃貸借契約書や確定申告書を添付して証明します。

遺産分割協議がまとまらない

遺産分割協議がまとまらない場合、通常は、小規模宅地等の特例を受けることはできません。

ただし、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、相続税の申告期限から3年以内に分割協議がまとまった場合には、小規模宅地等の特例を受けることができます。

なお遺産分割協議を上手くまとめるためには、生前に遺言書を作成し、自宅をどの相続人にするかを記載しておくことがおすすめです。

相続時精算課税制度の利用

相続時精算課税制度は贈与税の負担を軽減する制度です。

具体的には、60歳以上の親または祖父母から18歳以上の子または孫に2,500万円までの贈与が無税になります。

そして相続時に贈与額を相続財産に加算して計算されます。

この制度を利用して土地を贈与する場合、小規模宅地等の特例は適用されなくなります。

相続時精算課税制度を検討している場合は、慎重に吟味してから決断することが重要です。

貸付相手が相続人であった場合

不動産を相続人に貸し付けている場合、貸付事業用宅地の条件として、相続人が申告期限までに貸付事業を続ける必要があります。

では、相続人が相続した不動産を、相続前に相続人に貸し付けていた場合、要件を満たすのでしょうか。

答えは、残念ながら満たしません。

相続により貸主と借主が同一人になり、貸付事業が継続されていないことになるためです。

この場合、貸し先を相続人以外の人に事前に変更しておくことで、要件を満たします。

たとえば、父親が所有していた不動産を長女に世間相場で貸し付けしていた場合を考えます。

その不動産は長女が住んでおり、父が亡くなった場合には長女が相続する予定です。

しかし、このままでは要件を満たさないため、たとえば賃借人を長女から長女の夫(被相続人の義理の息子)に変更しておくと良いでしょう。

まとめ

小規模宅地等の特例は、宅地のタイプによって異なる限度面積や減額率が適用されます。

自宅の相続では通常80%の減額が可能ですが、貸付事業用宅地は50%の減額率となります。

減額率は自宅の相続ほど高くはないですが、評価額は低くなります。

ただし、土地の状態や賃貸業の実態によっては、貸付事業用宅地とみなされない場合があり、小規模宅地等の特例も適用されない可能性があるため、注意が必要です。

貸付事業用宅地や小規模宅地等の特例の要件が分からない場合は、早めに専門家に相談しておくと良いでしょう。

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