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最終更新日:2023/10/26

土地は生前贈与と相続のどちらが得?メリット・デメリットを比較解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

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土地は生前贈与と相続のどちらが得?メリット・デメリットを比較解説

この記事でわかること

  • 土地を生前贈与する場合と相続する場合のどちらが得かわかる
  • 土地を生前贈与することのメリットやデメリットを知ることができる
  • 土地を生前贈与した方がいいケース・相続した方がいいケースを知ることができる

土地を所有している方は、その土地をどのようにして子どもに引き継いでもらうか、大きな問題となる可能性があります。

土地を次の世代に移転する際には、贈与・相続のいずれであったとしても税金が発生するためです。

そこで、より金銭的な負担が発生しない形で土地を子どもに引き継いでもらう方法を考えることとなります。

本記事では、土地の生前贈与と相続ではどちらが得になるのか、どのようなケースで贈与・相続すればよいのかを比較していきます。

土地の生前贈与と相続はどちらが得?

先祖代々の土地などを所有していると、将来的にその土地を誰が引き継ぐのか問題となります。

また、土地を引き継ぐ方法には選択肢があり、その時に発生する税金も変わります。

土地を生前贈与する場合と、相続する場合とではどのような違いがあるのでしょうか。

税率だけみると相続のほうがお得

土地を生前贈与した場合も、相続した場合も、税金がかかります

生前贈与した場合は贈与税がかかり、相続した場合は相続税がかかります。

贈与税と相続税は、ともに引き継いだ財産に対して課される税金ですが、税率には違いがあります。

贈与税(成人の子に贈与した場合)では、税率が30%となるのは贈与された財産の額が600万円を超えた場合です。

これに対して、相続税では法定相続分に応じた取得金額が5,000万円を超えて初めて、税率が30%となります。

また、所有権の移転登記を行う際、贈与の方が相続より登録免許税の税率が高くなります。

さらに、贈与の場合は不動産取得税が発生しますが、相続の場合は不動産取得税がかかりません

このように、税率を考えると、生前贈与より相続の方がお得になります。

資産状況や相続人によってどちらがお得か変わる

税率を考えれば、生前贈与より相続の方がお得になるといえますが、その考え方が誰にも一律あてはまるというわけではありません。

例えば、相続で土地を子供に引き継ぐ場合、所有するすべての財産に対して、同じタイミングで税額を計算します。

しかし、生前贈与する場合は、贈与する時期を自分で決めて、財産を小分けに贈与することができるので、適用される税率を下げることができます。

また、所有する土地が将来値上がりする見込みがある場合には、相続より贈与したほうが税負担が少ないというケースも考えられます。

相続税の計算は、所有するすべての財産が計算対象になります。

また、相続人の人数や構成によって、発生する税額に違いがあります。

そのため、単純に1筆の土地だけを見て、贈与と相続のどちらがお得ということはできません

土地の生前贈与と相続でかかる税金

土地を生前贈与した場合も、あるいは相続した場合も、様々な税金がかかります。

中には、同一の税金であっても税率が異なるなど、複雑な違いがあります。

生前贈与した場合、あるいは相続した場合で、それぞれどのような税金が発生するのか確認していきます。

【共通】登録免許税

贈与や相続によって土地の所有権が移転した場合、法務局で登記しなければなりません。

所有権が移転した原因として「贈与」または「相続」と記載され、その原因ごとに登録免許税の額が変わります。

贈与により土地の所有権が移転した場合にかかる登録免許税は、固定資産税評価額の2%「不動産の価額×20/1000」で計算されます。

不動産の価額とは固定資産税評価額のことをいい、固定資産税の課税明細書などで確認できます。

これに対して、相続により土地の所有権が移転した場合にかかる登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%「不動産の価額×4/1000」で計算されます。

税率を比較すればわかるように、贈与による場合は相続による場合の5倍の登録免許税が発生します

【生前贈与】贈与税

贈与税とは、個人から別の個人に対して無償で財産が引き渡された場合に、その財産を受け取った人に対して課される税金です。

財産を渡した人に対して、贈与税が課されるわけではないことに注意が必要です。

贈与税を計算する際は、贈与を受けた人が1年間に贈与されたすべての財産の金額を求めます

その合計額から基礎控除額110万円を差し引き、その残額に対して税率を乗じて税額を計算します。

誰から財産を贈与されたかにより、贈与税の計算で適用される税率には2種類あります。

親や祖父母など、直系尊属から成人の子供や孫に贈与される場合は「特例贈与財産」として、贈与税の計算を行います。

特例贈与財産の計算は、以下の表を使って行います。

贈与された財産の額(基礎控除後) 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

一方、特例贈与財産に該当しない贈与は、すべて一般贈与財産となります。

一般贈与財産の計算は、以下の表を使って行います。

贈与された財産の額(基礎控除後) 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

一般贈与財産より特例贈与財産の方が、発生する贈与税の額が低くなります。

【生前贈与】不動産取得税

不動産の名義が変更されると、新しく不動産を取得した人に不動産取得税が課されます。

不動産取得税の税率は原則4%となっていますが、住宅や土地については3%の軽減税率が適用されます。

また、不動産取得税の大きな特徴として、相続の際には非課税になる点があげられます。

贈与の場合は課税対象となるが、相続の場合は課税されないため、金銭的な負担は大きく変わることになります。

【相続】相続税

相続税とは、財産を所有する人が亡くなった時に、その財産を引き継いだ人に対して課される税金です。

法定相続人に対して相続税が課されるほか、遺言により財産を取得した人も相続税を納めることとなります。

相続税の計算においては、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除が適用されます。

相続した財産の合計額から基礎控除額を差し引き、その残額に対して相続税が発生します。

もし基礎控除額の方が大きくなれば、相続した財産があっても相続税は発生しないこととなります。

すべての人が負担する相続税の合計額は、以下の表を使って計算します。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

なお、相続税額は実際には、それぞれの相続人ごとに納税義務が生じます。

各相続人が相続した財産の割合で、相続税の合計額を按分し、それぞれの納付額を計算します。

土地の生前贈与と相続でかかる税金を抑えられる制度

土地を生前贈与するか、相続するかを考える際、特例などを利用せずに贈与税や相続税がどれだけ発生するかを考えておく必要があります。

また、特例を利用した場合にはどれだけ税金が抑えられるのかを知っておくことも大切です。

ここでは、税金を抑えられる制度についてご紹介します。

【生前贈与】相続時精算課税制度で2500万円まで控除

相続時精算課税制度とは、生前贈与した際に最大2,500万円まで贈与税がかからない制度です。

また、2,500万円を超えて贈与が行われた場合には、超えた部分の金額に対して一律20%の贈与税が発生します。

相続時精算課税制度を利用すると、贈与税が最大2,500万円まで発生しない代わりに、贈与した人が亡くなった時には、相続時精算課税制度を利用して贈与された財産が相続財産に含められ、相続税の計算対象となります。

この時、すでに納付した贈与税がある場合には、相続税の額から控除され、差額を納付することとになります。

相続時精算課税制度は、通常の贈与税の計算(暦年贈与)と併用することはできません。

また、いったん選択したら、翌年から暦年贈与を行うこともできなくなることも注意が必要です。

【生前贈与】配偶者控除で2000万円まで控除

土地を生前贈与する場合に、配偶者控除の適用を受けられる場合があります。

贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用の不動産を贈与した場合、基礎控除の110万円とは別に、最大2,000万円の控除ができる制度です。

贈与税の配偶者控除のポイントは、暦年贈与が行われた場合に適用されることです。

相続時精算課税制度を利用した場合には、配偶者控除の適用を受けることはできません。

その代わり、配偶者控除の控除額と暦年贈与の基礎控除をともに利用することができるため、最大で2,110万円までの贈与を非課税で行うことができます。

【相続】相続税の控除・特例で納税額が軽減

相続税の計算を行う際には、相続税額が大きくなりすぎないように、様々な控除や特例の制度が設けられています。
相続税の控除には、以下のようなものがあります。

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 贈与税額控除
  • 外国税額控除

また、相続税の特例には、以下のようなものがあります。

  • 小規模宅地等の特例

なお小規模宅地等の特例は、自宅の土地を相続した場合のほか、事業用の土地を相続した場合、あるいは賃貸用の土地を相続した場合にも適用されます。

これらの控除や特例を利用することで、相続税額がゼロになることもあります。
ただし、これらの控除や特例を使って税額がゼロになった場合、基本的には相続税の申告はしなければなりません。

土地を生前贈与するメリット・デメリット

土地を生前贈与することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

また、生前贈与のデメリットにはどのような点があげられるのでしょうか。

生前贈与のメリット

土地を生前贈与するメリットは、土地を引き継ぐ人を生きている間に決められることです。

土地が相続財産に含まれると、遺言がない限り、誰が相続するのか決めておくことはできません。

子どもが法定相続人になる場合であっても、子どものうち誰が相続するかで揉めることが多くあります。

しかし、生前贈与すれば、その土地を引き継ぐ人を決めることができ、遺産分割時のトラブルを避けられます

また、土地を引き継いでほしいと思っている人に、確実に土地を引き継いでもらうことができます。

生前贈与のデメリット

生前贈与のデメリットは、登記費用や贈与税、不動産取得税などの金銭的負担が大きくなることです。

贈与税は、年間110万円以内の贈与であれば発生しません。

しかし、土地の価額が110万円以下ということは通常ないため、贈与税の大きな負担が発生すると考えられます。

贈与税が大きく発生しないように、土地を持ち分に分けて、少しずつ贈与することもできます。

この場合は、その都度登記しなければならない手間と、登記を司法書士に依頼している場合の手数料の負担が増えてしまいます。

土地を相続するメリット・デメリット

土地を相続する場合には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

贈与と比較した場合の、相続の特徴とあわせて確認しておきましょう。

相続のメリット

土地を相続により引き継ぐ最大のメリットは、金銭的な負担が少なくなることです。

相続税は、法定相続人の人数に応じて計算される基礎控除の額が大きいため、相続税がかからない人が大半です。

そのため、土地を生前贈与するのではなく、相続の際に相続人が相続する方が税負担は大幅に減る可能性が高くなります。

ただ、相続税の計算は他の相続財産とあわせて行われるため、他に多くの財産があると、相続税が発生する可能性があります。

それでも相続税の税率は贈与税より低く、税額が少なくなる特例もあるため、贈与税より相続税の額は少なくなるでしょう。

また、登記の際に発生する登録免許税、その後に発生する不動産取得税も、贈与より相続の方が少なくなります。

金銭的な負担が軽減されるため、相続した人も安心してその土地を保有し続けることが期待できます。

相続のデメリット

土地を相続により引き継ぐデメリットは、誰が土地を相続するのかを決定する際に、慌ただしくなることです。

相続が発生すると、相続人は3か月以内に相続放棄するかどうかを決めなければなりません。

さらに、相続税が発生する場合には10か月以内に申告書を提出し、相続税を納付しなければなりません。

このようなスケジュールの中で、相続人同士が話し合いによって土地の新たな所有者を決めるのは、非常に大変です。

また、土地の所有者が亡くなった時にはじめて相続が発生するため、所有者の意思を相続に反映させることは不可能となってしまいます。

誰に土地を相続してほしいか決まっている場合は、生前に遺言書を作成しておきましょう。

土地の生前贈与が向いているケース

土地を子供などに渡す場合、生前贈与するか、相続まで待つのとどちらがお得なのかは、所有する財産や相続人の人数、土地の現在の価値と将来的な価値など、様々な要因により判断は分かれます。

ただ、それとは別に、生前贈与した方がいいケースがあります。

どのような場合に生前贈与するといいのか、ご紹介します。

遺産トラブルを回避したい場合

土地を子供に相続させる場合、実際にその土地を誰が引き継ぐのかを決定するのは、相続人全員による遺産分割協議です。

しかし、遺産分割協議の結果、必ずしも想定していたような遺産分割が行われるとは限りません

遺産分割協議はすべての相続人が合意しなければ成立しないため、思いもよらない結果になることもあり得ます。

そもそも、遺産分割協議では相続人が自身の主張を行うため、トラブルになることがよくあります。

そのようなトラブルを避けるため、土地を生前贈与しておくことは有効といえます。

被相続人の判断能力が下がる恐れがある場合

土地を所有する人の判断能力が低下すると、自分でその土地を売却したり、貸し付けるための契約ができなくなります。

また、その土地を子供などに贈与することもできなくなる可能性があります。

判断能力が低下した場合、法定後見人を選任すれば法律行為を行うことはできますが、売却など財産を手放すような行為は認められない可能性が高くなります。

そこで、判断能力が低下する前に土地を贈与しておき、将来的に発生するかもしれない不測の事態に備えておきます。

土地の価値が上がりそうな場合

土地の価格が上がりそうな場合には、価格が上昇する前に贈与しておくことで、結果的に節税になることがあります。

土地の価格が上昇するかどうかは、誰にも分かることではありません。

しかし、周囲の環境変化や規制の緩和など、それまで住宅を建てることができなかった場所に住宅が建てられるようになれば、土地の価格は大幅に上昇することが考えられます。

土地の利用に制約があるなど、この先価格の上昇が見込まれる場合には、生前贈与することで節税になることもあります。

土地を相続する人や贈与のタイミングを指定したい場合

相続は亡くなった時に発生します。

したがって、いつ相続が発生するか分からないという不安があります。

また、相続が発生すると、それまで土地を所有していた人はすでに亡くなった後となってしまうため、土地を誰に相続してほしいのか意思表示することができず、またその意思を反映させることもできません

土地を相続する人や土地を渡すタイミングを指定したい場合には、相続を待つのではなく生前贈与を行うべきです。

土地の相続が向いているケース

土地を生前贈与するのではなく、相続によって引き継ぐのに向いているのはどのようなケースでしょうか。

相続財産がそれほど大きくない場合

相続財産の総額がそれほど大きくないため、相続財産が相続税の基礎控除内に収まれば、相続税は発生しません

相続税が発生しないのであれば、贈与税を払って生前贈与するより、相続する方が有利です。

また、基礎控除内に収まらなかった場合でも、相続税の額は少額に抑えられます。

そのため、贈与により発生する税額よりはるかに少ない負担で済みます。

土地以外の現預金が相続財産に多く含まれる場合

土地を誰が相続するかで揉める原因の1つは、土地以外の財産が少ないことにあります。

土地を相続する人とそれ以外の財産を相続する人で、金銭的な格差があるため、不公平に感じることとなるでしょう。

しかし、土地以外の財産が多くある人の場合、土地を相続しなかった人も他に相続できる財産があります

そのため、相続をめぐる争いになる可能性は大幅に減少します。

相続対策も兼ねて、土地以外の財産、特に預貯金がどれくらいあるのか確認しておきましょう。

土地に特例が適用できる場合

相続税にはいくつかの特例があり、その特例を適用することができれば相続税額は大幅に減らせます

土地の相続にあたっては、真っ先に「小規模宅地等の特例」が適用できるかどうかを検討しなければなりません。

小規模宅地等の特例を適用すると、その土地の評価額を最大8割減額できるため、大幅に相続税の負担を軽減できます。

ただ、小規模宅地等の特例の適用を受けるには、要件をクリアしなければなりません。

小規模宅地等の特例が適用できることを確認したら、相続まで待つのもいいでしょう。

まとめ

土地を所有する人は、いずれその土地が相続税の計算対象になることを意識しておく必要があります。

贈与であっても相続であっても、多額の税金が発生する可能性があるため、あらかじめその対策をしておくのが望ましいといえます。

贈与がいいのか相続がいいのかは、その人の所有する財産・相続人の人数などの状況により異なります。

いずれにしても、現状を正しく把握し、そのための対策を早めに始めることが有効です。

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