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最終更新日:2024/8/21

教育資金贈与とは?メリット・デメリットや非課税の対象になる教育費

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 教育資金贈与とはどのような制度なのか知ることができる
  • 教育資金贈与の対象になる教育資金の範囲を知ることができる
  • 教育資金贈与を利用する際の手続きの流れがわかる

親などが子供や孫に教育資金を実際に支払う前にまとめて贈与すると、多額の贈与税が発生します。

そこで、教育資金贈与という制度が設けられており、一定額まで贈与税が非課税になるものとされています。

今回は、教育資金贈与の対象となる教育費の内容や手続きの流れ、そして教育資金贈与のメリットとデメリットについて解説していきます。

教育資金贈与とは

教育資金贈与とは、教育費として支払う予定の資金を使う前にまとめて贈与しても、一定額までは贈与税が非課税になる制度です。

そもそも、祖父母や父母が孫や子のために教育費を支払うことは、贈与税の対象にはなりません。
しかし、贈与税がかからないのは「必要な都度」教育費を支払った場合であり、前もって資金を贈与した場合は贈与税がかかります。

しかし、祖父母は孫の成長にあわせて自身も年齢を重ねるため、孫の教育費を支払う前に亡くなってしまうこともあります。
すると、教育資金とする予定だったお金は遺産相続の対象となり、孫の教育費として使える保証はありません。
また、子や孫が無事に相続したとしても、相続税を支払うと資金が目減りしてしまうこともあります。

そこで、生前に教育資金とする予定の金額をまとめて子や孫に贈与しても、贈与税がかからない制度が設けられています。
この制度が教育資金贈与です。

教育資金贈与の適用を受けると、最大1,500万円までの贈与が非課税となります。
教育資金贈与は、当初2023年3月31日までの期間に限定して適用されるものとされていました。
その後、この期間が3年間延長され、2026年3月31日まで適用される制度となっています。

教育資金贈与の適用要件

教育資金贈与の適用を受けると、非常に大きな贈与税の減税となります。
ただし、大きな減税になる一方で、厳格な要件がいくつも定められています。

要件ごとに、その内容を解説していきます。

贈与の期限

教育資金贈与の制度は、時限立法として成立した制度です。
すでにご紹介したとおり、教育資金贈与は2023年3月31日までに贈与した場合に適用されることとされていました。
しかし、令和5年度の税制改正により、その期限が3年間延長され、2026年3月31日までの贈与が有効とされました。

贈与する人(贈与者)

財産を贈与する人のことを贈与者といいます。
教育資金贈与の適用を受ける贈a与の贈与者は、贈与を受ける人の父母や祖父母、曾祖父母といった直系尊属だけです。

一方、叔父や叔母から甥・姪に対する贈与は対象になりません。
兄弟間や配偶者の親からの贈与なども教育資金贈与の対象ではありません。

贈与を受ける人(受贈者)

贈与者が直系尊属でなければならないことから、受贈者は贈与者の直系卑属でなければなりません。
具体的には、贈与者の子供や孫、ひ孫などが該当します。

また、これとは別に受贈者となる人にはいくつかの要件があります。
まず、受贈者はその契約を締結する際に満30歳未満でなければなりません。
これから学校に進学する予定である、あるいは現在学校に通っている人でも、年齢制限により適用を受けられない場合があります。

さらに、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円以下でなければなりません。
他の要件をすべて満たしていても、所得金額が1,000万円を超えると、教育資金贈与の受贈者になることはできません。

教育資金の管理者(受託者)

教育資金贈与の制度の大きな特徴は、贈与者が受贈者に直接現金を渡しても適用されないことです。

贈与者はまず、信託銀行などの金融機関の窓口に行き、金銭を信託します
信託を受けた金融機関は、その金銭を管理しながら、必要に応じて金銭の払い出しを行います。
金銭の払い出しの際には、教育資金を支払ったことを証明する領収書などが必要です。
このようなシステムにすることで、教育費以外の支出に信託された金銭を使うことはできなくなります。

なお、どのような金融機関でも教育資金贈与の取扱いをしているわけではありません。
教育資金贈与を利用できる金融機関については、あらかじめ調べておいた上で利用するようにしましょう。

教育資金贈与の対象になる教育費

教育資金贈与の適用を受けるには、どのような支出であれば教育費として認められるかを知ることが重要です。
中には、一般的に教育費として認識されていないようなものも含まれています。

ここでは、教育費の内容について確認していきます。

学校などに直接支払うもの

高校や大学、専門学校などを運営する学校法人やその他の公的機関に支払う教育費です。
名目で判断するのではなく、何のための費用かという中身で判断します。
なお、学校などに支払う教育費については、1,500万円まで贈与税は非課税となります。

①授業料や保育料、施設設備費など

授業料や保育料など、1月あたりあるいは1年あたりの金額が決められていて、在籍期間中に支払う費用は、教育費に該当します。
支払い方法に関する制約はないため、毎月支払うものも、年に1回、あるいは年に2回支払うものも対象となります。

②入学金や入園料など

入学金あるいは入園料として、その教育機関に入るために一度だけ支払う費用は、教育費に該当します。

③入学検定料など

教育機関に入学あるいは入園するために実施される検定を受ける費用は、教育費に該当します。
なお、検定を受けた結果不合格になることもありますが、そのようなケースでも入学検定料は教育費に含まれます。

④給食費や寮費、スクールバス代など

学校で給食が提供されることとなっている場合には、その給食費は教育費に該当します。
また、学校に入学するために寮に入る必要がある場合には、その寮費も教育費に含まれます。
さらに、通学のためにスクールバスを利用している場合、スクールバス代を学校に支払っていれば学校に対する教育費に含まれます。

⑤遠足費、修学旅行費、部活動費など

学校で実施される遠足や修学旅行の費用を負担する場合には、その費用は教育費に該当します。
また、部活動のための費用が学校で集金される場合には、その費用も学校に対する教育費に含まれます。

⑥学用品など

学校で使用する教科書や問題集などの学用品の購入費用は、教育費に該当します。

学校等以外に支払うもの

教育費として認められるものの中には、学校以外の者に対して支払うものもあります。
教育を受けるために必要な支出については、幅広く教育費として認められます。
ただし、学校以外に対する教育費はその上限が500万円とされており、学校等に対するものより金額は低くなっています。

⑦教育に関する役務提供の対価や施設の利用料など

学校等以外で教育に関する役務提供を行っている者の代表例は、学習塾です。
学習塾は、学校教育法に定められた教育機関ではありませんが、教育に関する役務の提供を行っています。
そこで、学習塾に対して支払う授業料や教材費などの費用は、学校等以外に者に対する教育費となります。

この他、そろばん塾や公文なども、教育に関する役務提供を行っている者といえます

⑧スポーツまたは文化芸術、その他教養の向上に関する指導の対価など

法律の規定に基づく表現は非常にわかりにくいのですが、いわゆる「習い事」の月謝のことです。

スポーツの代表例は、スイミング教室や野球・サッカーなどのクラブチームなどがあげられます。
文化芸術に関する活動としては、ピアノ教室や絵画教室などがあります。
この他にも多くの例があり、すべてをあげることはできません。

なお、受贈者が23歳に達した日の翌日以降に支払う習い事の費用については、一定の制約が設けられています
教育資金贈与の対象となるのは、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講する費用だけとなります。
そのため、趣味に関する習い事の費用はその多くが対象外となることに注意しましょう。

⑨習い事で使用する物品の購入費など

⑦や⑧の習い事をする際には、授業料などの他にその教室で使用する教材や道具などの支払いが発生します。
これらの教材費などの支払いも、教育費に該当します。

⑩学校教育に必要な学用品の購入費用

学校に入学する際に必要な学用品の中には、学校に直接支払うわけではなく、各自が準備しなければならないものがあります。

たとえばランドセルや制服、ジャージ、上履きなど、学校の指示に従ってそれぞれが購入しておくものが数多くあります。
これらは、学校等に直接支払っているわけではないため、学校等以外に対する教育費に含まれます。

⑪通学定期代

学校に通うために購入する通学定期の費用は、教育費に該当します。
ただ、スクールバス代とは違い、学校に直接払っているわけではないので、学校等以外の者に対する教育費に含まれます。

⑫留学渡航費等

留学するために飛行機を手配した費用や、現地での滞在費については、内容に応じて教育費に含まれるものがあります。
その費用の内容を確認し、対象になるかどうかの判断を前もって行うようにしましょう。

⑬学童保育の費用

学校が終わってから子供が1人にならないよう、学童保育を利用する人が多くいます。
学童保育の利用料も、学校等以外の者に対する教育費に含まれます。

教育資金贈与を利用するメリット・デメリット

教育資金贈与を利用することには、大きなメリットがあるように思われますが、デメリットはないのでしょうか。

ここでは、教育資金贈与のメリットとデメリットを確認していきます。

教育資金贈与のメリット

教育資金贈与のメリットは、何といっても多額の資金を一度に贈与しても贈与税がかからないことです。
通常、1,500万円もの資金を贈与すると、366万円の贈与税が発生します。
そのため、1,500万円の教育資金を準備していても、実際に使うことのできる金額は1,100万円程度に減ってしまいます。

また、相続により教育資金を譲り受ける予定の方もいるかもしれません。
相続税の方が少ない納税で済むケースが多く、その分教育費として使える金額が増えるためです。
しかし、相続が発生する時期を決めることはできないため、予定どおりに教育資金を譲り受けることができるとは限りません。
その上、遺産分割協議の結果によっては、教育資金として必要な金額を相続できないことも考えられます。

その点、教育資金贈与を利用すれば、必要な時期までに確実に教育資金を確保することができます
贈与者が元気なうちは、大きなメリットを感じることはないかもしれません。
しかし、贈与者が認知症になってしまうと、自由に財産を使うことができなくなり、教育費を払ってもらうことができなくなります。
そのため、元気なうちにまとめて贈与してもらうことが大きなメリットとなります。
また、金融機関で資金が管理されるので、教育資金以外の用途には使えないという点もメリットといえます。

教育資金贈与のデメリット

教育資金贈与を利用すると、教育費の支払いの手間が増えるのがデメリットです。

贈与された資金は金融機関で管理され、そのお金を出金するには領収書などの書類が必要になります。
そのため、すぐに資金を引き出すことができず、一度は別の形で支払いが発生することもあります。
実際に利用し始めると、その手間の大きさにメリット以上のデメリットを感じる方もいるかもしれません。

また、一度贈与された資金を払い戻すことはできない点も注意が必要です。
受贈者が教育費を支払うことができるのは満30歳になるまでとされており、そこで残額があると贈与税の対象になります。

その上、一度教育資金の口座に入れた金額は、余ったからといって贈与者に返還することもできません。
贈与契約は途中で解約できず、資金を使い切るか受贈者が30歳になることで終了となります。

最大1,500万円まで非課税になるからといって、はじめから満額贈与すると、残額が課税対象になることもあるので注意しましょう。

教育資金贈与の手続きの流れ・必要書類

教育資金贈与を利用しようと考えた場合、基本的には銀行などの金融機関に行くこととなります。
その手続きの流れや必要な書類について解説していきます。

金融機関で教育資金の専用口座を開設する

教育資金贈与を利用するためには、金融機関で教育資金の専用口座を開設しなければなりません
すべての銀行で取扱いがあるわけではないので、あらかじめ確認してから銀行に行くようにしましょう。
銀行に出かける際には、その対象になる子供や孫も一緒に行く必要があります。
子供が小さい場合は、親権者の署名が必要になることもあるので、関係者が一緒に行くようにしましょう。

なお、口座の開設にあたっては、以下のような書類が必要になります。
銀行によっては、さらに必要な書類が定められている場合もあるので、あらかじめ確認しておきましょう。

  • 戸籍謄本
  • 本人確認書類
  • 印鑑
  • 贈与契約書

教育資金を拠出する

教育資金用の口座を開設したら、その口座に入金します
贈与契約により贈与者とされた人のみが入金できるので、間違えないようにしましょう。

教育費の払い出しを行う

教育資金の専用口座に入金された資金は、通常、引き出すことはできません。
教育費に該当する支出を行った場合のみ、その資金を払い出すことが認められます。

通常は、教育機関に対する支払いを行った後、その領収書などを銀行に提出し、教育費に該当するか確認を受けます

そして、確かに教育費に該当するものであると確認されれば、その金額を専用口座から払い出してもらいます。
つまり、一度は自身で支払いを行い、その後に払い出されたお金で穴埋めをするという流れになります。
この時、直接窓口に行かなければならない場合と、郵送でも対応してもらえる場合とが考えられます。

事前に手続きを行えば、請求書などを金融機関に持ち込んで専用口座から払い出してもらう方法もありますが、銀行によって対応していないことや金額によって対応が分かれることもあります。

そのため、一度は自分で教育費を支払う必要があるものと考えておく方がいいでしょう。

教育資金贈与を利用するときの注意点

最後に、教育資金贈与を実際に利用する際に注意すべき点をまとめて紹介します。

贈与された資金が残ると贈与税がかかる

教育資金贈与を利用して、非課税で贈与を行ったとしても、使い切れない資金があるとその金額には贈与税がかかります
残額が発生するとされるのは、以下のような場合です。

  • ①受贈者が30歳になり、学校等に在学中あるいは教育訓練受講中でない場合
  • ②受贈者が30歳を超えて学校等への在学あるいは教育訓練の受講が終了した場合
  • ③受贈者が在学中に40歳になった場合

残額が大きいと、その分贈与税の額も大きくなるので注意しましょう。

23歳以上になると教育費の範囲は狭まる

受贈者が23歳以上になると、教育費の範囲は一気に狭まります
具体的には、以下のもののみが対象になります。

  • 学校等への支払い
  • 留学渡航費等
  • 教育訓練給付金の支給対象となる受講費用

これ以外の習い事などの費用は教育費から外れるので、そのことも頭に入れて、贈与を行いましょう。

まとめ

教育費の支出は、もともと贈与税の対象になるものではありません。
しかし、所定の手続きをせずに前もって贈与しておく場合は、相続発生時に残額があれば、たとえ教育資金用の資金であっても贈与税の対象となってしまいます。

贈与税の課税を防ぐためには、教育資金贈与の適用を受け、必要な手続きを行うようにしましょう
なお、教育資金贈与の適用を受けるには要件が定められているので、適用を受けられるかどうかをまずは確認するようにしましょう。
税理士や銀行に相談し、アドバイスを仰ぐのも重要なこととなります。

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