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最終更新日:2024/6/17

教育資金贈与を使いきれないと課税対象になる?残金や非課税について

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 教育資金贈与の非課税措置という特例制度を知ることができる
  • 教育資金贈与で贈与された資金を使い切れなかった場合の課税関係がわかる
  • 教育資金贈与の非課税措置を利用する際の注意点がわかる

教育資金贈与の非課税措置という特例制度があり、最大1,500万円の資金を非課税で贈与することができます。
ただし、贈与された資金を使い切れなかった場合には、後から税金が発生するので注意が必要です。

具体的に、どのような場合にはどのような税金が発生するのか、その内容を解説していきます。
また、余分な税金を払わずに済むよう、注意点をあらかじめ押さえておきましょう。

教育資金贈与の非課税措置とは

教育資金贈与の非課税措置とは、父母や祖父母から子供や孫に対して、教育資金を贈与しても贈与税がかからない特例のことです。

現金などの贈与を行った場合、通常は贈与税の対象となります。
通常は暦年贈与として計算されるため、年間110万円を超える贈与を行うと贈与税が発生します。
ここで、教育資金の非課税措置の適用を受けると、最大1,500万円まで非課税で贈与することができます。
ただし、贈与された資金は教育費としてしか使うことができないなど、一定の制約を受けることとなるので注意しましょう。

教育資金贈与を使いきれないと残額に贈与税・相続税がかかる

教育資金贈与の非課税措置の適用を受けて贈与された資金は、税金を支払うことなく、受贈者である子や孫のものとなります。

しかし、贈与された後の資金は教育費にしか使えないので、多くの場合、大学を卒業すると教育費の発生がなくなってしまうでしょう。
そのため、贈与した資金を使い切れないまま、残額が発生することも珍しくありません。

この場合、教育費として使用する見込みのない資金が残ったからといって、その資金を自由に使えるというわけではありません。
もしそのようなことを認めると、教育資金として贈与した後、受贈者が好きにお金を使うということが起こってしまいます。
そこで、教育資金贈与の非課税措置により贈与された資金が残った場合には、残額に対して課税されることとなっています。

教育資金の残額に対しては、贈与税または相続税のいずれかが課されます。
残額は所得ではないことから、所得税が課されることはないので、この点は注意が必要です。

【ケース別】教育資金贈与を使いきれなかったときの取り扱い

教育資金贈与の非課税措置により贈与された資金が残った場合、その残額に対しては税金が課されます。
贈与者と受贈者の状況に応じて、発生する税金が変わってくるので、その課税関係をケースごとに解説します。

贈与者も受贈者も生存している場合

贈与者も受贈者も生存している状況にあって、教育資金の残額が発生することがあります。
受贈者である子や孫が30歳になり、学校等に在学していない場合には、その時点での残額が課税対象となります。
また、30歳になった時に学校等に在学中である場合は、その学校を卒業したら残額に対して課税されます。
さらに、学校等に在学中であっても、40歳を迎えた時点で残額がある場合は、その残額に対して課税されます。

この場合、残額に対しては贈与税が課されます
通常の贈与税の計算となるので、基礎控除額110万円を超える残額がある場合には、贈与税の申告義務が生じます。

一方、残額が110万円以下である場合は、贈与税の申告義務は生じません
ただし、他に贈与された金額がある場合は、その金額と合算する必要があるため、110万円以下でも申告義務が生じることがあります。
なお、贈与税を支払った後の残額については、教育費以外の支払いにも、受贈者が自由に使うことができます。

受贈者が30歳になる前に贈与者が亡くなった場合

受贈者が30歳になるまでは、教育資金贈与の非課税措置により贈与された資金は教育費にしか使えません。
その代わり、30歳になるまでは、使わずに残されている教育資金に対して課税されることはありません。
しかし、受贈者が30歳になる前に贈与者が亡くなってしまうと、その時点で相続が発生します。

贈与者が亡くなった時点で教育資金に残額がある場合、その残額は贈与者から受贈者に相続により移転したものとされます。
つまり、教育資金の残額は相続財産となり、相続税の課税対象になります
ただし、受贈者が23歳未満あるいは学校等に在学中であり、かつ相続税の課税価格が5億円未満である場合は相続税が課されません。

なお、受贈者が納付する相続税について、受贈者が贈与者の子供でない場合は、相続税の税額が2割加算される対象になります。
ただし、子が先に亡くなっており、その子である孫が代襲相続人となる場合は、2割加算の対象にはなりません。

受贈者が先に亡くなった場合

受贈者が非課税で贈与された教育資金を保有したまま、贈与者より先に亡くなってしまうことがあります。
この場合、受贈者の死亡により、教育資金管理契約は終了します。
使い切れずに残された教育資金は、受贈者の相続財産として取り扱われます
したがって、受贈者の相続に係る相続税の計算を行うこととなります。

贈与者がまだ年少者の場合、配偶者や子などの法定相続人がいないことも考えられます。
この場合、法定相続人となるのは受贈者の親です。
教育資金を孫に贈与していた場合は、贈与者の子を含めた受贈者の親が法定相続人になります。
また、教育資金を子に贈与していた場合は、贈与者も含めた受贈者の親が法定相続人になります。
いずれの場合も、教育資金の贈与がなければ発生することのなかった相続財産が生じることとなります。

教育資金贈与の非課税措置を利用するときの注意点

教育資金贈与の非課税措置の適用を受けた場合でも、残額がある場合には贈与税や相続税が発生することがわかりました。
そのため、教育資金贈与を行う場合でも、税金が発生しないように様々な点に注意を払う必要があります。
具体的にどのような注意点があるのか、確認していきます。

贈与者が亡くなった時の課税に注意する

教育資金の非課税措置の適用を受ける際に、最も注意すべきなのは、贈与者が亡くなった時に相続税が発生することです。
以前は教育資金に残額がある状態で贈与者が亡くなっても、相続税の課税は発生しませんでした。
しかし、これでは本来の目的である教育資金以外の資金も贈与される結果となり、改正が行われました。

そこで、まず、死亡前3年以内に贈与された教育資金の残額に対しては、相続税の対象とされることとなりました。
ただ、孫などに相続された場合の相続税の2割加算の計算は行われないこととされました。
そのため、孫やひ孫に対する教育資金贈与は、通常の相続税の計算よりメリットがあったといえます。

しかし、改正によって、2021年4月以降は、贈与から死亡までの年数に関わらず、相続が発生した時点の残額については、全額が相続税の対象にされました。
また、相続税の2割加算の計算も行われるようになったので、教育資金贈与による相続税の節税は事実上できなくなりました。

その後、さらに改正が行われ、2023年4月以降は、原則として、贈与から死亡までの年数に関わらず、相続が発生した時点の残額については、全額が相続税の対象となるものの、例外として、受贈者が23歳未満や学校に在学中などの要件を満たす場合には、相続財産の総額が5億円以下であれば、相続税の対象とならないこととされました。
ただし、相続財産が5億円を超える場合には、これまでどおり、教育資金の残額が相続税の対象となります。

このように、過去からの変遷を見てくると、教育資金贈与を利用して課税逃れを行われないようにする対策が行われています。
相続が発生した場合には、いつ取得した教育資金がいくらあったのかが問題になるので、分かるようにしておく必要があります。

教育資金の残額はできるだけ少なくする

教育資金贈与の非課税措置の対象となる金額は、最大で1,500万円までです。
そのため、教育資金の贈与を行う際に、いきなり1,500万円を贈与しようとする人がいます。
しかし、いきなり多額の贈与を行う方が絶対に有益というわけではないので、一度冷静にならなくてはならないでしょう。

教育資金贈与により移転した資金は、その後、教育費としてしか使えないこととされます。
また、教育費と認められる支出には、一定の制限があります。
基本的に、学校などの教育機関に対して支払う授業料や入学金、あるいは学用品や通学にかかる費用などが対象です。
この他、学校以外の学習塾や習い事の費用も教育費に含まれます。

ただ、大学を卒業すると仮定しても、1,500万円の教育費が絶対に必要というわけではありません。
生まれたばかりの子や孫であっても、1,500万円もの費用を要しないケースは十分に考えられます。
そのため、ある程度の金額を贈与し、しばらく様子を見るのも有効な方法です。

後から追加の贈与を行うこともできるので、はじめから上限まで贈与を行わない方が無難です。

そもそも教育費の支出は贈与ではない

子や孫のために教育費を支出するのは、子や孫の養育を行う者として当然のことです。
そのため、教育費については、扶養の範囲内、かつ、その都度必要な金額だけ贈与する場合は、贈与税の対象にはなりません。

しかし、祖父母がいつ亡くなるかわからないという理由で先に一括して教育資金を贈与すると、その教育資金には贈与税がかかります。
そのため、教育資金贈与の非課税措置が設けられていると言えるでしょう。

もし必要な時に祖父母が教育費を負担するのであれば、教育資金贈与の非課税措置を利用しなくても贈与税はかかりません
ただ、今後どのような状況になるかわからない不安を感じるのであれば、特例措置を利用してあらかじめ多く贈与してもらうことを検討しておくべきでしょう。

まとめ

教育資金贈与の非課税措置は、最大1,500万円もの資金を非課税で贈与でき、大きなメリットがあります。
しかし、贈与された資金は教育費にしか使えないこと、残額に対しては課税されることに注意が必要です。
教育資金の贈与を考えている人は、実際にどれくらいの教育費が必要になるのか、ざっくりと試算してみるといいでしょう。

その上で、当面必要となる資金の贈与を行い、余分な税金を負担することのないように注意していきましょう。

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