この記事でわかること
- 遺産分割協議書に捨印を捺すメリットとデメリットがわかる
- 遺産分割協議書を書き間違えた場合の修正方法がわかる
- 遺産分割協議書に捨印を捺す際の注意点を知ることができる
目次
遺産分割協議書に捨印を捺すメリット・デメリット
遺産分割協議書を作成する時に、あらかじめ捨印を捺しておくことがあります。
これは、捨印があるとその後に遺産分割協議書を訂正することが可能となるためです。
捨印があれば、相続登記しようとした際、遺産分割協議書に誤りがあり、1文字訂正するといったことが簡単にできます。
捨印を捺すメリット
捨印を捺すメリットは、相続に関する手続きをスムーズに進められることです。
遺産分割協議書の記載を修正する必要があるケースとして考えられるのが、相続登記など、遺産の名義変更をする時です。
相続人の氏名や住所、あるいは登記しようとする土地や建物が正確に記載されていない場合、修正する必要があります。
ただし、相続人が遠方に住んでいるため、遺産分割協議書の修正が簡単ではないことも考えられます。
そこで、遺産分割協議書を作成する時に、捨印も一緒に捺してもらいます。
こうすれば、後から修正の必要が出てきた場合でも、わざわざ訂正印をもらわずに修正することができるます。
捨印を捺すデメリット
捨印を捺すデメリットは、勝手に遺産分割協議書の中身を書き換えられる可能性があることです。
本来、捨印が捺されていても、遺産分割の内容を大幅に変更するような訂正は認められません。
あくまでも軽微な記載ミスを訂正する時だけ、捨印の効力が発揮されるものです。
しかし、軽微な記載ミスの訂正としてどこまで認められるのか、その判断は必ずしも一定とはいえません。
中には、捨印があることを利用して、相続人の氏名や遺産分割の内容を勝手に変えてしまうことも考えられます。
そのため、遺産分割協議書の改ざんが行われる可能性も否定できません。
しかし捨印がなければ、このように後から遺産分割協議書を修正することは絶対にできなくなります。
遺産分割協議書の修正方法
遺産分割協議書を作成している中で、記載ミスは決して珍しいことではありません。
この場合、正しい修正方法で記載内容を訂正する必要があります。
具体的にどのような修正方法を用いるのか、その内容を確認しておきます。
原則的な修正方法
遺産分割協議書の記載ミスを修正するには、誤記部分を二重線で消し、その近くに正しい記載を行います。
そして、その訂正箇所に相続人が実印を使って訂正印を捺します。
訂正印が捺されていなければ、正しく訂正したことにはならないため、正しい記載が有効にはなりません。
ここで注意しなければならないのは、訂正印を誰が捺すのかということです。
相続人の氏名や住所などを訂正する場合には、その相続人が訂正印を捺せばいいこととされています。
しかし、被相続人や相続財産に関する訂正は、相続人全員の訂正印が必要となります。
遠方に住む相続人がいる場合でも、全員の訂正印が捺されていなければ、訂正が有効にはなりません。
遺産分割の手続きにおいては、この原則的な修正方法は非常に効率が悪いということが想像に難くないでしょう。
捨印による修正方法
遺産分割協議書を作成した時に、あらかじめ相続人全員が欄外に実印を使って押印しておきます。
この捨印が捺されていれば、軽微な修正を行う際に、相続人全員の承諾を得る必要はありません。
実際に修正事項があった時には、二重線で修正箇所を消去し、付近に正しい記載を行います。
その上で、捨印が捺された近くに、消した文字数と修正のために記載した文字数を記入します。
具体的には、「7文字削除、8文字追加」といった記載方法となります。
遺産分割協議書への捨印の捺し方
遺産分割協議書に捨印を捺す際、具体的に書面のどの部分に捺すといいのでしょうか。
実は、遺産分割協議書に捨印を捺す際、どこに捺さなければならないという場所は決められていません。
基本的には、書面のどこにでも、好きな場所に捺せばいいこととされています。
ただし実務上、遺産分割協議書の本文中に捺すのではなく、書面の上部や下部に捺すようにします。
こうすれば、捺された捨印が目立つため、第三者から見ても捨印が捺されていることを確認しやすくなります。
また、訂正した文字数を書き込む際にスペースが必要ですが、書面の上部や下部であれば、そのスペースが確保しやすくなります。
相続人が全員捨印を捺す場合には、一か所にまとめて捺すようにしましょう。
こうすれば、全員が捨印を捺していることが一目で確認できます。
遺産分割協議書に捨印を捺すときの注意点
遺産分割協議書を作成する際には、多くの場合、何の疑問もなく捨印を捺すように求められます。
しかし、捨印を捺すことで問題が発生する可能性もあることから、そのリスクについて理解しておく必要があります。
遺産分割協議書を改ざんされるリスクがある
遺産分割協議書に捨印を捺すことで、いざとなればその内容を誰かが書き換えることができる状態になります。
つまり、捨印が捺された遺産分割協議書を悪用できるということです。
実際に遺産の名義を変更する、あるいは解約して相続人が遺産を受け取る場合には、遺産分割協議書が必要です。
また、不動産の相続登記を行う際にも、遺産分割協議書が必要になります。
相続手続きを行う前に、遺産分割協議書の内容を書き換える相続人がいると、遺産分割の方法が変わってしまう可能性があります。
ただし、捨印で認められる訂正は、軽微な記載ミスの訂正にとどまります。
当初決定した遺産分割の内容を、大幅に変更してしまうような訂正は認められません。
そのため、誰がどの遺産を受け取るのかといった重要な内容の変更は、捨印では認められないと考えられます。
しかし、万が一この訂正が認められてしまうと、当初とは違った形の相続手続きが進められてしまうこととなります。
捨印を捺すことには、そのようなリスクがあることは覚えておかなければなりません。
大幅な修正はできない
後から遺産分割協議書の軽微な記載ミスが発覚した場合でも、訂正印があれば簡単に訂正することができます。
しかし、この時に認められる訂正は軽微な記載ミスに限定され、大幅な訂正は認められません。
問題は、この軽微な記載ミスがどこまで認められるのか、判断がつきにくいことです。
明らかな誤字・脱字であれば、捨印があることで訂正できると考えられます。
また、被相続人・相続人の住所や氏名を、戸籍謄本や印鑑証明書の記載に合わせるための訂正も認められます。
しかし、これ以外の訂正については、ケースバイケースとなることが考えられます。
金融機関や法務局などが慎重な取り扱いをする場合には、捨印での訂正が認められないこともあります。
そのため、捨印さえあれば必ず手続きがスムーズに進められるというわけでもないといえます。
まとめ
遺産分割協議書を作成する際に、捨印を捺しておくのは当たり前と思っている方もいるでしょう。
しかし、実際は捨印を捺さなくても、書類としては有効に成立します。
捨印には様々なリスクが付き物であることから、必ず捺さなければならないわけではありません。
遺産分割協議書の訂正が必要な場合には、訂正印を捺す、あるいははじめから書類を作り直す方法もあります。
捨印を捺すかどうかについては、慎重に考えるようにしましょう。