この記事でわかること
- 自分で遺産分割協議書を作成する方法
- 遺産分割協議書のひな形
- 専門家に遺産分割協議書の作成を依頼すべきケース
相続で遺言書がない場合、相続人全員の協議により遺産分割の方法を指定できます。
たとえば、相続人の一人にすべての遺産を相続させるような分割方法も可能です。
分割方法が決まったら、内容をまとめた遺産分割協議書を用意しなければなりません。
相続財産が少ない場合や、簡易な分割方法を望む場合などは、ご自身で遺産分割協議書を作成するのも一つの方法でしょう。
遺産分割協議書をご自身で作成する場合、各種相続手続きを滞りなく進めるため、ここで必要となる記載事項を確認しておきましょう。
目次
遺産分割協議書は自分で作成できる
遺産分割協議書とは、遺産分割の方法について話し合って、まとまった結果を記載した書類です。
遺産分割協議が成立するには、すべての相続人の同意が必要です。
遺産をめぐる話し合いが完了したときに、相続人が遺産分割協議書を作成します。
ほとんどの場合、相続人は法律の専門家ではありません。
ただし、相続の内容によっては専門家でない人でも遺産分割協議書を自分で作成するのは十分可能です。
遺産分割協議書を自分で作成する前準備
遺産分割協議書を自分で作成する場合は、以下の手順で進めましょう。
それぞれの作成手順について詳しく解説します。
相続人と法定相続分を確認
遺産分割を行うためには、誰が法定相続人となるのか、法定相続分の割合はどれくらいなのかを確認する必要があります。
法定相続人とは、民法で定められている遺産を受け継ぐ相続人を指します。
法定相続分は、法律で定められた相続する割合です。
法定相続人を正確に把握する
相続人全員の合意がなければ、遺産分割協議は無効です。
遺産分割協議のやり直しを防ぐために、法定相続人は正確に把握しましょう。
法定相続人を調べるには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどる必要があります。
法定相続人は、次の①または②に該当する人です。
法定相続人 | 相続順位 |
---|---|
①配偶者 | 存命の場合、常に相続人となる |
②血族相続人 |
次の中で最も優先順位の高い人が相続人となる ・第1順位:子 ・第2順位:父母 ・第3順位:兄弟姉妹 |
下図の通り、血族相続人の死亡時は孫や祖父母など次世代へ相続権が移ります。
これを代襲相続といい、孫や祖父母もいないときはさらに次世代へ移りますが、兄弟姉妹からの代襲は甥姪までです。
法定相続分・遺留分を計算する
法定相続人が確定したら、法定相続分を確認しておきましょう。
法定相続分の割合は、法定相続人となる人の組み合わせと人数によって計算されます。
遺産分割は必ずしも法定相続分どおりに行う必要はありませんが、その割合を参考にするケースが大半です。
さらに、遺留分の計算をしておくと、その割合を意識した遺産分割ができるため、揉めた場合にトラブルを回避できる可能性があります。
遺留分とは、法定相続人の最低限の取り分です。
具体的な計算については、以下のリンク先のページで確認しておきましょう。
被相続人の財産やその評価額を確認
法定相続人が確定したら、次に遺産分割の対象となる財産を確定させます。
ただ、被相続人が保有していた財産をすべて洗い出すのは決して簡単ではありません。
預貯金だけを考えても、どの金融機関に口座を保有していたのか、家族が正確に把握しているケースはまれなためです。
そのため、被相続人が亡くなった後に以下のような確認をしましょう。
- 被相続人の自宅に預貯金の通帳がないか
- 金融機関からのハガキが届いていないか
- 法務局で被相続人の名前で登記されている不動産がないか
遺産分割協議
相続人と遺産の中身が確定したら、遺産分割協議を行います。
すべての相続人で話し合いを行い、どの相続人がどの遺産を引き継ぐのかを決定します。
相続人全員が納得するまで話し合いは繰り返され、多数決では決められません。
なお、遺産分割の期限はなく、話し合いがまとまらなければ、何年にもわたって遺産分割協議が続けられるケースも珍しくありません。
ただこの場合、義務化された相続登記や相続税の申告期限を超えてしまいます。
相続登記は、期限を過ぎた場合の過料を免れるために次の2つの方法があります。
- 一旦は法定相続人で登記する
- 申請期限である3年以内に「名義人の死亡」と「自身が相続人である旨」を登記官に対して申し出る
相続税の申告期限は「相続を知った日の翌日から10カ月以内」ですが、難しい場合は次の方法で対応しましょう。
- 一旦は法定相続分で納付しておき、確定後に修正申告する
- 期限後申告で納付する
【ひな形つき】遺産分割協議書を自分で作成する方法
被相続人の情報を明らかにする
被相続人の情報として、本籍地、生年月日、相続開始日、氏名を記載します。
相続開始日は、被相続人の死亡日を記載します。
本籍地と相続開始日の項目は、被相続人の戸籍謄本や住民票の除票を確認して記載しましょう。
遺産分割協議を行った事実を記載する
具体的な遺産分割方法の前文にあたる部分で、相続人全員による遺産分割協議が合意に至った事実を記載します。
遺産分割協議に参加した相続人の氏名や続柄を記載しますが、ひな形のように「上記の者の相続人全員」と記載しても問題ありません。
相続財産の種類と分け方を書く
相続財産は、種類によって次のように詳細を記載します。
種類 | 記載する項目 |
---|---|
不動産 |
(一戸建て) ・土地:所在、地番、地目、地積 ・建物:所在、家屋番号、種類、構造、床面積 (マンション、アパート) ・一棟の建物:所在、構造、床面積 ・専有部分の建物:家屋番号、種類、構造、床面積 ・敷地権:所在、地目、地積、敷地権の種類、敷地権の割合 ※不動産登記簿謄本の内容から記載 |
預貯金口座 | 金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、口座名義など |
有価証券 | 証券会社名、支店名、口座番号、口座名義、保有証券の内容など |
協議書作成後に判明した遺産の取り扱いを書く
トラブル防止のため、遺産分割協議の後で新たに相続財産が見つかった場合の分割方法を記載します。
ひな形のように再度相続人全員で協議をして決める方法の他、特定の相続人を指定して承継する内容でも問題ありません。
相続全員で署名・捺印をする
相続人全員の自筆で住所と氏名を記載し、実印を押印します。
一人でも抜け漏れている相続人がいると、遺産分割協議書は無効となってしまいます。
遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書を添付しますが、その印影と同じ実印で押印しましょう。
遺産分割協議書の提出先
遺産分割協議書を使って、手続きをする提出先は以下のとおりです。
- 金融機関
- 不動産
- 税務署
- 運輸支局
それぞれの相続手続きの内容について解説します。
金融機関
銀行など金融機関の口座は、口座名義人が亡くなると凍結されて入出金ができなくなります。
相続人が預貯金の払い戻しなどをする場合、金融機関ごとに所定の手続きが必要です。
遺産分割協議に基づいて手続きをする場合、次の資料を提出します。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
金融機関の窓口では、遺産分割協議書の原本を提出しましょう。
通常、手続き後に遺産分割協議書の原本は返却されます。
手続きの方法は金融機関によって異なる可能性があるため、金融機関の窓口で確認しましょう。
不動産
不動産の所有権の名義人を変更する手続きが必要です。
不動産の所在地を管轄する法務局で、次の書類を提出します。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の除附票
- 不動産を取得する相続人の住民票の写しまたは戸籍の附票
- 固定資産評価証明書(登記申請時の年度の書類)
- 登記申請書
- 相続関係説明図
遺産分割協議書は原本を提出しますが、原本還付請求をすれば返却されます。
登記申請書は、法務局のホームページからダウンロードして作成しましょう。
税務署
遺産分割協議を行い、相続税の申告が必要な場合、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ次の書類を提出します。
- 相続税の申告書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続人全員のマイナンバー確認書類
- 相続人全員の印鑑登録証明書の原本
このほかに不動産、預貯金、有価証券などの遺産がある場合や、各種控除を受ける場合、内容に応じた書類の提出が必要です。
詳細は以下の国税庁ホームページを確認するか、専門家である税理士へ相談しましょう。
運輸支局
相続財産に自動車があり、被相続人の名義になっている場合、通常は相続人の一人が引き継いで利用するケースが多いでしょう。
この場合、名義を相続人にするための手続きが必要です。
普通自動車の場合、各都道府県の運輸支局で次の書類を提出します。
普通自動車の手続き書類
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 名義人となる相続人の印鑑証明書
- 車検証
- 車庫証明書
軽自動車の場合は提出先が軽自動車検査協会となり、必要書類も簡易になります。
軽自動車の手続き書類
- 自動車検査証記入申請書
- 車検証
- 使用者の住所を証する書面(住民票や印鑑証明書など)
- 認印
- 軽自動車税申告書
遺産分割協議書を専門家に依頼した方がよいケース
遺産分割協議書は、次のケースでは専門家への依頼も検討しましょう。
相続人間で争いが起きそうなとき
相続人同士の仲が悪い場合や、意見の対立がある場合などです。
相続人同士では感情的になる場合でも、第三者として専門家が入るとスムーズにまとまるケースがあります。
遺産分割協議に詳しい人がいないとき
詳しい人がいないと、話し合いがうまく進まず、手続き方法も間違えてしまうかもしれません。
手続きに誤りがあると遺産分割協議をやり直しになる場合があるため、専門家に依頼した方がよいでしょう。
相続手続きの手間や時間を削減したいとき
相続手続きは非常に煩雑で、手間や時間もかかります。
専門家に依頼すると、ご自身で行う場合の手間や時間を大幅に削減できるのは大きなメリットです。
遺産分割協議書に関するよくある質問
ここからは、以下の遺産分割協議書に関するよくある質問を解説します。
- 遺産分割協議書はどこで手に入る?
- 遺産分割協議書なしで相続登記はできる?
- 遺産分割協議書の作成費用は?
それぞれの質問について回答していきます。
遺産分割協議書はどこで手に入る?
遺産分割協議書は相続人自身が作成する書類であるため、定められたフォーマットなどはありません。
市区町村役場や法務局などでも配布などはしていないため注意しましょう。
前述のひな形をもとに、ご自身で作成した遺産分割協議書で各種手続きができます。
ただし、もし記載する内容について不備があると手続きできない可能性もあるため、不安がある場合は専門家に相談しましょう。
遺産分割協議書の作成は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士に依頼できます。
遺産分割協議書なしで相続登記はできる?
不動産の相続登記は、遺産分割協議書がなくても遺言書があればその内容に従って手続きができます。
遺産分割協議書と遺言書の両方がない場合、民法で定められた法定相続分で分割します。
法定相続分と異なる分割割合を望む場合、遺産分割協議書または遺言書を作成しなければなりません。
遺産分割の話し合いが長期化した場合、前述の通り一旦は法定相続人で登記する方法と、相続発生を登記官へ申し出る方法があります。
分割方法の確定後、あらためて相続登記を行いましょう。
遺産分割協議書の作成費用は?
専門家によって作成費用は異なります。
弁護士
相続人間で争いが起きそうな場合に依頼しましょう。
費用の相場は、経済的利益の20~25%ほどです。
司法書士
遺産に不動産が含まれる場合、相続登記を依頼できます。
費用の相場は6~8万円ほどです。
行政書士
戸籍の収集や遺言書も含めた書面の作成を依頼できます。
費用の相場は3~5万円ほどです。
税理士
相続税の納付が必要な場合に依頼しましょう。
費用の相場は相続財産の0.5~1.0%ほどです。
まとめ
借金を相続する場合や、多額の相続税がかかる場合など、相続にかかる費用を少しでも節約したいケースもあるかもしれません。
前述のひな形を参考に遺産分割協議書を作成すれば、各種相続手続きを問題なく進められます。
ただし、相続人間で争いがおきそうな場合や相続関係が複雑な場合など、非常に手間や時間がかかるケースもあるでしょう。
そのような場合、費用以上のメリットがある場合がほとんどのため、専門家への依頼がおすすめです。
初回無料相談を実施している場合もあるため、遺産分割に不安がある場合はできるだけ早く専門家に相談しておくとよいでしょう。