この記事でわかること
- 父の遺産を母に全て相続させるための遺産分割協議書の書き方がわかる
- 母に父の遺産を全て相続させる際の注意点がわかる
- 配偶者が相続した際に利用できる相続税の控除や特例がわかる
父親が亡くなった時に保有していた財産を、配偶者である母親が全て相続することがあります。
他の相続人が納得していれば、母が全て相続することは難しいことではありません。
ただし、1人の相続人が全て相続することはトラブルになりやすいため、注意点をよく守って遺産分割を行いましょう。
本記事では、父の遺産を母に全て相続させるときの遺産分割協議書の書き方を紹介します。
また、配偶者が相続した場合に相続税の負担が軽減される控除や特例の制度があるため、これらの制度についても確認しておきます。
目次
父の遺産を母に全て相続させる遺産分割協議書の書き方
亡くなった人の遺産を、どの相続人が相続するかを決定するために、遺産分割協議という話し合いが行われます。
この話し合いにより、誰がどの遺産を相続するのか決定しなければなりません。
その後、遺産分割協議書を作成して相続人全員が署名・押印し、遺産分割協議内容が間違いないことを明らかにします。
母親に父親の遺産を全て相続させる場合、どのように遺産分割協議書を作成するのでしょうか。
ここでは、遺産の内容が全てわかっている場合とわかっていない場合に分けて、その作成方法を紹介します。
遺産の内容がわかっている場合
保有していた財産の内容は、基本的には本人でなければ把握していないでしょう。
ただ、生前に財産リストを作成している場合や、相続について配偶者や子どもに話をしていることもあるかもしれません。
このような場合には、父が亡くなったあとでも、簡単に遺産を個別に把握できます。
父の遺産の内容が全てわかっている場合、下記のような文章で母が遺産の全てを相続することとします。
遺産の内容がわかっているのであれば、その内容を記載した上で、母がその全てを相続すると記載します。
遺産を誰でも特定できるように、登記事項証明書や通帳などに記載されている情報を正しく記載しましょう。
また、預金に関して記載する情報は金額ではなく、金融機関名や支店名・口座番号であることに注意してください。
金額を記載しても、利息計算などで金額が変動してしまうと、かえって複雑な手続きが必要になる可能性があるからです。
金額の記載がなくても相続の手続きはできるため、金額を記載しない方が問題とならずおすすめです。
また、あとから遺産が見つかることや、被相続人の財産とされる場合があります。
この場合、あとから誰が相続するのかを決めるために、もう一度話し合いを行う必要があります。
そのような手間を防ぐためにも、遺産が見つかった場合に誰が相続するのかをあらかじめ決めておくことができるのです。
遺産の内容がわからない場合
たとえ家族であっても、亡くなった人の財産を全て把握できているとは限りません。
まして、亡くなってから10か月以内に相続税の申告をしなければならないなど、やるべきことは沢山あります。
そこで、母が全ての遺産を相続する場合には、次のような遺産分割協議書を作成することもできます。
全ての遺産の内容がわからないため、財産の明細を記載することはできません。
ただ、母が相続することに他の相続人も反対していないのであれば、母が「一切の財産」を相続する旨だけ明記しておくと事足ります。
母に全ての遺産を相続させるときの注意点
母が全ての遺産を相続する場合に作成する遺産分割協議書には、2つの作成方法があることがわかりました。
このいずれかの形式で遺産分割協議書を作成すれば、その後の遺産分割もスムーズに進められるはずです。
ただ、子どもなど他の相続人がいる場合、母だけが相続することによる注意点がいくつかあります。
遺産分割協議には判断能力が必要
一つ目の注意点は、遺産分割協議をするには判断能力が必要ということです。
遺産分割協議は、残された遺産をどうやって分け合うかを話し合う重要な法律行為になるため、当事者である相続人本人が判断する必要があります。
相続人のうち一人でも重度の認知症になっていたり、知的障害を持っており、本人の判断が難しい場合は、相続人全員で話し合うことはできません。
成年後見制度などを利用して成年後見人などに参加してもらって遺産分割協議をする必要があります。
遺産分割協議に未成年が参加する場合は特別代理人が必要
二つ目は、遺産分割協議に18歳未満の未成年者が参加する場合です。
未成年の子が契約をする場合、一般的には法定代理人である親権者が子を代理して契約をします。
しかし、母と子で遺産分割協議をする場合は、母と子で利害関係が衝突する(利益相反)関係となるため、母が子を代理して遺産分割協議をすることはできません。
その場合は、子の代理人となる人(特別代理人)を選出してもらうために家庭裁判所に申し出をする必要があります。
この手続きを取らずに母が子を代理して遺産分割協議をしても、その協議は無効となります。
遺産分割協議書には全ての相続人が署名押印する
母だけが遺産を相続する場合でも、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
この時に作成する遺産分割協議書には、母が遺産を取得するという内容の記載が行われるだけです。
他の相続人に関する記載は一切ありません。
ただし、遺産分割協議書の最後に、全ての相続人が署名押印する欄があります。
ここに署名押印がないと、その人は遺産分割協議の内容に同意していないとみなされ、遺産分割は成立しません。
何も相続していない人でも、遺産分割協議書に署名押印だけはしなければならないことを覚えておきましょう。
遺産分割協議には全ての相続人が参加する
遺産分割協議書に相続人全員が署名押印するためには、全ての相続人が遺産分割協議に参加しなければなりません。
遺産を相続しないからといって、遺産分割協議に参加しないことは認められず、無効になってしまう可能性もあります。
遺産分割協議書に快く署名押印するためにも、全員が遺産分割協議に参加しましょう。
子どもだけが相続放棄してもダメ
相続放棄すればその人の相続分はなくなり、他の相続人の相続分が増える場合があります。
そこで、母が全ての遺産を相続するために、子どもが全員相続放棄することがあります。
ただ、実際は子ども全員が相続放棄してしまうと、被相続人の親が次の法定相続人となります。
また、親が亡くなっているような場合には、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となります。
母が全て相続できるようにと考えて相続放棄しても、思っているようにならないこともあるため注意しましょう。
相続税の控除や特例を利用する
被相続人の配偶者が相続すると、相続税の特例が適用されるケースが多くなります。
それらの特例を適用することで相続税の負担を大幅に軽減し、配偶者の税負担が大きくならないように配慮されています。
適用できる控除や特例については、必ず適用を受けましょう。
配偶者が利用できる相続税の控除・特例
配偶者が相続した場合、相続税の負担が大きくならないよう、控除や特例の適用が受けられます。
どのような場合にどれくらいの税額が控除されるのか、その内容を確認しておきましょう。
配偶者の税額軽減
相続税の「配偶者の税額軽減」は、配偶者が相続した場合にだけ適用できる税額控除の制度です。
配偶者が相続した遺産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか大きい方の金額までは、相続税が発生しません。
そのため、被相続人の遺産が全部で1億6,000万円以下であれば、配偶者が全額相続しても相続税は発生しないことになります。
なお、税額が発生しない場合でも、税務署に相続税の申告書を提出する必要はあるため、注意してください。
小規模宅地等の特例
自宅を相続した場合、自宅の敷地の330㎡までの部分について、相続税評価額の8割が減額される制度です。
必ず相続税が発生しなくなるわけではありませんが、大幅な減額になる他、この特例によって相続税が発生しないこともあります。
子どもが被相続人の自宅を相続した場合、小規模宅地等の特例の適用を受けるには、さまざまな要件をクリアしなければなりません。
相続した自宅の敷地を相続後にどのように利用しても、配偶者については小規模宅地等の特例が利用できます。
ただし、税務署に相続税の申告書の提出が必要となることには注意が必要です。
まとめ
父親が亡くなった時に、それまで一緒に生活してきた母親がその遺産の大半あるいは全部を相続することがあるでしょう。
子どもとしても、残された母親が相続後も安心して暮らせるよう、多くの遺産を相続してもらうことに賛成することが多いのではないでしょうか。
ただし、この場合にはスムーズに遺産分割ができるよう、遺産分割協議書の作成方法に注意が必要です。
また、母親が相続した場合には相続税の控除や特例が適用できると考えられます。
適用を受け忘れないようにすること、そして適用を受けるための相続税の申告を忘れないようにしましょう。