この記事でわかること
- 遺産分割を行う際の協議分割のメリットとデメリットがわかる
- 遺産分割を行う際の指定分割のメリットとデメリットがわかる
- 協議分割と指定分割の違いや遺産分割協議を行う際の注意点がわかる
被相続人の残した財産は、相続人がすべて相続することとなります。
この時、遺産を分ける方法として、協議分割と指定分割という2つの方法があります。
ここでは、この2つの分割方法の特徴やその違いについて解説していきます。
また、遺産分割協議がまとまらない場合にどのような対処法があるのか、その方法をご紹介します。
目次
協議分割のメリット・デメリット
協議分割とは、相続人の協議、つまり相続人の話し合いによって遺産分割の方法を決定することをいいます。
被相続人が残した遺言書がない場合は、必ず遺産分割協議を行い、協議分割による相続となります。
また、遺言書ですべての遺産の分割方法が指定されていない場合も、相続人が協議分割を行うこととなります。
協議分割を行う際は、すべての相続人が同意すればどのような分割方法にしても問題ありません。
ただ、法定相続割合をベースにして遺産分割を行う場合もあるなど、全員が合意できる内容にならなければなりません。
協議分割のメリット
協議分割により遺産分割を行う一番のメリットは、すべての相続人が納得のいく分割方法によることができることです。
すべての相続人の同意がなければ協議分割は成立しないため、全員が納得するまで何度でも話し合いをすることができます。
いつまでに協議をまとめなければならないということもないため、時間をかけて話し合いを行うことができます。
協議分割のデメリット
協議分割のデメリットは、メリットの裏返しで相続人全員が納得しなければ、協議が成立しないことです。
仮に1人でも分割案に反対する人がいれば、協議分割は成立しません。
中には、協議が成立するのを待つ間に、相続税の申告期限を迎えてしまう場合もあります。
指定分割のメリット・デメリット
指定分割とは、被相続人が遺言書により遺産分割の方法を指定することです。
協議分割の場合は、相続人の話し合いにより遺産分割の方法を決めますが、指定分割は被相続人がその方法を決めます。
具体的な遺産の名称をあげ、その遺産を誰が相続するのか、被相続人の意思にもとづいて決めることとなります。
法定相続人はそれぞれ法定相続分を有しており、その割合にもとづいて遺産分割を行うものと思っている方もいることでしょう。
しかし、実際は法定相続分どおりに分割する必要はないばかりか、法定相続人以外の人に遺産を渡すこともできるのです。
指定分割のメリット
指定分割のメリットは、被相続人の意思にもとづいた遺産分割ができることです。
特に、特定の相続人に多くの遺産を渡したいという場合や、法定相続人以外の人に遺産を渡すことができるのは、指定分割ならではです。
また、協議分割に比べて遺産分割が早く終結するのも、指定分割のメリットといえるでしょう。
指定分割のデメリット
指定分割のデメリットは、相続人の中に不満を持つ人がでる場合があることです。
特に、相続人ごとの相続分が大きく異なる場合、少しの遺産しか相続できなかった人は不満に感じることとなります。
また、遺言書の形式不備などにより、遺言書の有効・無効が争われる場合、かえってトラブルになることもあるのです。
協議分割と指定分割の違い
協議分割と指定分割の遺産分割に対する考え方には、大きな違いがあることがわかりました。
そこで、実際に遺産分割を行う時、協議分割か指定分割かで迷うケースでは、どのような対応となるのか確認しておきます。
協議分割と指定分割では指定分割が優先される
遺言書があることを認識しているにも関わらず、遺産分割協議をすることがあるかもしれません。
たとえば、遺言書の内容を相続人が把握しており、その内容に不満を持つ人が何人かで遺産分割協議を進めたような場合です。
このような場合は、協議分割より指定分割が優先されます。
その遺産分割協議にすべての相続人が同意しなければ、協議分割は成立しません。
一方で、遺言書があっても、すべての相続人が遺産分割協議を行うことに同意しているのであれば、協議分割が認められます。
この場合、すべての相続人が署名押印した遺産分割協議書を作成する必要があります。
すべての相続人が指定分割の内容を破棄して、協議分割を行うことに同意していれば協議分割が成立するのです。
遺言書があっても指定分割にならない場合もある
遺言書が見つかった場合、必ず指定分割になるとは限りません。
その遺言書が有効に成立しない場合があるからです。
特に遺言書の有効性が問題になるのは、遺言者が自身で作成した遺言書が見つかった場合です。
自身で作成した遺言書のことを自筆証書遺言といい、有効に成立するための要件がいくつもあります。
特に、遺言書を自筆しているか、代筆によるものではないか、あるいは偽造されたものではないか、といったことが問題になります。
パソコンなどで作成された遺言書は無効となりますし、代筆されたものも有効ではありません。
そのため、遺言書が見つかった場合は、その遺言書が有効に成立するかどうかが問題となるのです。
協議分割後に遺言書が発見された場合
遺産分割を行った後に、遺言書が見つかるということもあります。
この場合、遺言書の効力は有効であり、協議分割より指定分割が優先されるという原則どおり、指定分割が行われることとなります。
しかし、すべての相続人が納得して決めた協議分割の内容を破棄して、改めて指定分割を行うことが最善の方法とは限りません。
むしろ協議分割で決めた内容にしたがって、遺産分割を行う方がスムーズに手続きが進められるということもあるでしょう。
そこで、遺言書を執行せずに、協議分割を行うということも選択することができます。
いずれの方法によるのかは、最終的には相続人の意思により決定されるものであるため、全員の意思を確認する必要があります。
協議分割・遺産分割の注意点
協議分割を行う場合、相続人で遺産の分割方法を決定することとなります。
この場合、どのような点に注意して遺産分割を行う必要があるのでしょうか。
すべての相続人の同意が必要
協議分割により遺産分割を行う場合は、すべての相続人が同意していなければなりません。
たとえ遺産の金額が少額であっても、その遺産を受け取る人を決定するためには、遺産分割協議を行う必要があるのです。
また、遺言書がある場合でも、すべての相続人が同意すれば協議分割によって相続手続きを行うことができます。
ただ、1人でも協議分割を行うことに反対する相続人がいると、協議分割によって行うことはできません。
遺産分割協議書を作成する
協議分割により遺産分割を行う際は、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産分割協議書がないと金融機関での名義変更や、法務局での相続登記ができないのです。
遺産分割協議書には、基本的にすべての遺産を記載し、その遺産を誰が相続するのかを記載していきます。
預金口座については、金融機関名や預金の種類、口座番号などを明記します。
また、土地や建物などの不動産については、登記されているとおり一字一句正確に記載します。
有価証券についても、その預け先となっている証券会社を明記した上で、個別の銘柄を記載します。
形式的に不備があると、その書面では協議分割が成立しないこととなってしまいます。
特に、相続人全員の署名・押印が、全員が同意していることの証明となるため、漏れのないようにしなければなりません。
遺産分割協議がまとまらないときの対処法
これまで述べてきたように、亡くなった方の遺言書が発見されなかった場合は、指定分割ではなく協議分割を行う必要があります。
そのため、すべての相続人が集まって遺産分割協議を行うこととなるのです。
しかし、相続人の意見が対立してしまい、遺産分割協議がまとまらないケースもあります。
このような場合、どのような解決方法があるのでしょうか。
まずは弁護士に相談する
相続人同士の対立により協議分割が成立しない場合、まずは相続に詳しい弁護士に相談してみましょう。
数多くの相続に携わってきた弁護士であれば、何らかの解決方法を見出すことができる可能性があります。
どのような理由で対立しているのか、あるいは現在の分割案に反対している人の反対理由は何かを分析してもらいます。
そして、法律的にはどのような考え方があるのか、そのための解決策には何があるのかを提案してもらいましょう。
それぞれの相続人の主張を聞いたうえで、どのような妥協点があるのか、専門家の立場からアドバイスしてもらうのです。
遺産分割調停・遺産分割審判を行う
協議分割が成立しない場合、最終的には弁護士に相談しても解決しないことがあります。
その場合は裁判所に遺産分割調停を申し立てて、調停を行うこととなります。
調停分割になると、家事裁判官と調停委員の立ち会いのもと、相続人が遺産の分割方法について話し合いを行います。
ただ、遺産分割調停も相続人同士の話し合いとなるため、分割方法が決定できない場合はあります。
この場合、遺産分割審判を申し立てることとなります。
遺産分割審判は話し合いではなく、それぞれの相続人の主張をもとに裁判官が遺産分割方法を決定するものです。
話し合いを重ねても決定しない場合は、最終的に裁判官が強制的に決定することとなるのです。
まとめ
亡くなった方が遺言書を作成していた場合、その人の遺産は指定分割という形で、故人の意思にもとづいて分割されます。
一方、遺言書がない場合は、相続人が話し合いにより協議分割を行う必要があります。
この2つの分割方法は、誰の意思を尊重しているかという点で、まったく考え方の異なるものといえます。
なお、指定分割による相続を行うためには、生前に遺言書を作成している必要があります。
亡くなってから指定分割にすることはできないため、遺産の分割方法を指定したい場合は早めに遺言書を作成するようにしましょう。