この記事でわかること
- 公正証書遺言作成のための必要書類がわかる
- 公正証書遺言作成にかかる費用がわかる
- 効果的な公正証書遺言作成のためのポイントがわかる
近年、相続対策として遺言を作ることが一般的になりました。
遺言書の種類としては、自分で作成する自筆証書遺言と公証人役場で作成する公正証書遺言の2種類がよく利用されます。
自筆証書遺言は、自分でいつでも作成できるというものの、遺言の作成方法に関するミスで遺言自体が無効になったり、一部が無効になったりしてしまう可能性もあります。
その点、公正証書遺言だと、書式上の間違いがなく、有効な遺言を作成することができます。
ただ、公正証書遺言は公証人役場へ行く手間や、数万円程度の作成費用もかかるため、時間や費用の問題が発生することは、考慮しておく必要があります。
目次
公正証書遺言とは?
公正証書遺言について簡潔に書くと、「公証人役場というところで、公証人に作成してもらう、証拠能力が極めて高い遺言」といえます。
公正証書遺言は、自分で書くのではなく、遺言を作成する人が、証人2人がいる前で、遺言にする内容を口頭で話し、それを公証人が整理するという形式です。
公証人は裁判官・検察官のOBなどが多く、遺言書を形式・法律などの面で問題のない形で作成してくれます。
遺言でよく使われる「自筆証書遺言」は、とっつきやすく、様々な雑誌やムックでも、「自筆証書遺言を作ってみよう」という特集が組まれたり、遺言書キットというのも発売されたりしています。
確かに自筆証書遺言は、敷居が低いというメリットがありますが、様々な面で、ミス・間違いというのが生じやすいという課題もあります。
また、内容が部分的に無効になるものであればいいのですが、
- ・作成者自身の押印がない
- ・押印が認印ではなくゴム印
- ・作成日が記載されていない
- ・自著がフルネームで書いていない
- ・シャープペンシル・鉛筆など消せるもので書いている
- ・遺言書を消えるボールペンで書いている
- ・相続財産の書き方が具体的でない
- ・修正に関して、二重線に訂正印ではなく、修正液・修正テープを使っている
など、慣れた人から見ると考えられない間違いをしているケースもあると聞きます。
2020年に法務局での保管制度ができるなど、自筆証書遺言に関するセキュリティや確認の面では進歩しましたが、内容自体のチェックを法務局で行ってくれるわけではありません。
「お客様、この遺言書、消えるボールペンで書かれていますが、通常のボールペンで書き直していただけますか」とは法務局で指摘してはくれません。
法務局で厳格な確認がされるわけではないため、いざ相続が発生して、遺族が遺言書を確認すると、内容が全体として遺言書としての効力を満たさないものであった、もしくは一部効力を満たさないものであったということも想定できます。
法務局での自筆証書遺言保管制度ができた一方、もし遺言の書き方にミスがあっても、法務局で何かしてくれるわけではありません。
法務局の仕事は、自筆証書遺言を預かる、それだけなのです。
自筆証書遺言保管制度は、あくまで保管制度であり、遺言の正確性の責任は、遺言の作成者自身が持たないといけません。
確実な遺言書作成を考えるならば、やはり公正証書遺言がおすすめ
やはり、確実で失敗のない遺言書を作成するには、公正証書遺言がおすすめといえます。
公正証書遺言は、公証人役場で「公証人」という裁判官・検事などを歴任した人が就任する専門家が作成します。
公証人も、日々遺言作成を行っているため、遺言作成に熟達しており、少しでもおかしい表現があればすぐ修正してくれます。
自分で作成することと比べると、圧倒的に間違いのない公正証書遺言を作成することができます。
公正証書遺言の意外なハードルは、必要な資料集め
公正証書役場で遺言を作成する際には、印鑑証明、産まれてから現在までの戸籍謄本一式、預金通帳や登記簿謄本、土地家屋課税台帳の写し、第三者に遺贈を行う場合は第三者の住民票など、様々な資料を集めることが必要になります。
(詳しくは、後ほどリストで紹介しています)
これを一般の個人が市区町村役場・法務局などに行って集めることは大変な負担になるでしょう。
このような資料の収集や、遺言内容の原案作成・各種調査・証人等手配を行ってくれる、弁護士・司法書士・行政書士などのサービスもありますので、後ほど紹介します。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、本人が公証人役場に行き、証人(相続に関し利害関係のない人。
公証人役場で適任者を紹介してくれるケースもある)2名が立ち会い、遺言作成者の口述を公証人が筆記、遺言公正証書にまとめてくれる、公証人役場で原本を保管してくれる遺言作成制度です。
本人が作成する自筆証書遺言と異なり、
- ・ミスの可能性が極めて少ない
- ・遺言書作成に慣れている公証人が関与するため、より正確な遺言書が作成できる
- ・作成した遺言書は公証人役場に保管できるため、必要に応じ写しを請求したり、内容を加筆修正したりすることもできる
- ・2通の正本・副本がもらえるが、2通とも消失してしまった場合でも、本人か相続人が公証人役場へ行けば、再発行可能
- ・裁判所で、遺言に問題が無いかを確認してもらう検認の手続きが不要
など、費用と資料集めの手間、平日に公証人役場へ赴く手間はかかりますが、遺言の内容を適切に実現するという面ではプラスの点が圧倒的に多いです
費用の面でさえ問題なければ、遺言の作成方法として一番おすすめできる手段といえます。
作成した公正証書遺言は、どこに保管されるのか
作成した公正証書遺言は、遺言作成を行った公証人役場に原本が保管されます。
公証人役場で作成された遺言の作成年月日・証書番号・遺言者の氏名は全国で検索できます。
ただし、記載された内容の確認に関しては、作成した公証人役場の所在地へ直接赴く必要があります。
この点が、全国で遺言書の内容まで確認できる遺言保管制度とは異なりますので、注意が必要です。
公正証書遺言を作成する手順
ここからは公正証書遺言を作成する具体的な手順を紹介します。
- ・遺言の具体的な内容を決める
- ・必要書類を集める
- ・証人を2人依頼する
- ・公証人と打ち合わせする
- ・公正役場で遺言書を作成する
遺言の具体的な内容を決める
まずは遺言の内容を決めます。
具体的には、相続財産を誰に渡すのか?を細かく決めます。
相続財産は、現金・不動産・株式・生命保険などが含まれます。
財産のチェック漏れがないように、入念に確認してください。
相続財産を把握できたら、次は誰にいくら渡すのか?を決めます。
相続では遺留分といって、最低限の相続財産を渡さないといけません。
例えば子供が3人いる場合に、ひとりの子供にすべて相続させたくても、他の2人の子供が遺留分の受け取りを主張してきます。
そのため遺留分も考慮して、財産の分配を考えておきましょう。
さらに相続時には相続税も発生するため、不安な人は相続に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
必要書類を集める
公正証書遺言を作成するためには、下記のような書類が必要です。
- ・遺言者の印鑑証明書
- ・遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本・住民票
- ・不動産の登記事項証明書・固定資産評価証書
- ・遺言書の具体的な内容 など
これは一部ですが、遺言を他の人に依頼する場合は「遺言執行者の個人情報」も追加で必要になります。
公正証書遺言を作成するための書類は数が多く、自力で集めるのはかなり大変になります。
時間に余裕があれば問題ないかもしれませんが、弁護士に依頼して書類を集めてもらうのがいいでしょう。
証人を2人依頼する
公正証書遺言を作成するときには、証人が2人必要になります。
証人とは、遺言の内容が間違っていないか第三者の視点で確認する役割を持っています。
証人は基本的に誰でもいいのですが、下記のような人は証人にできません。
- ・未成年
- ・相続人
- ・相続遺産を受け継ぐ人
- ・相続人/遺産を受け継ぐ人の親戚
- ・公証人の血縁
まず遺産を相続する予定の人は、証人になれません。
なぜなら遺産を相続する人が遺言書作成に関わると、直接利害があるため、公平な立場にならないからです。
また相続人でなかったとしても、遺産をもらう予定の人・その親戚なども同じ理由から公証人にはなれません。
最後に公証人の血縁者も「公平であるはずの公証人に利害が発生する」ため、公証人として認めれていません。
公証人が見つからない場合は、公正役場から紹介してもらえます。
ひとり6,000〜7,000円程度ですが、自分で探す手間が省けるため、面倒な人は公正役場にお願いしましょう。
公証人と打ち合わせする
遺言書・必要書類を準備したら、事前に公証人と打ち合わせします。
法的な間違った箇所はないか、必要書類はすベて集まっているか、などチェックが入ります。
だいたい1~2回チェックが入れば、遺言書の作成に進みます。
公正役場で遺言書を作成する
公証人の事前チェックでOKをもらえれば、公正役場に出向いて遺言書を作成します。
遺言書を作成するときには、2人の証人が必要なので、忘れずに同席してもらいましょう。
公正証書遺言作成に必要な書類
公正証書作成に関して必要な書類は、主に下記の通りです。
遺言者と相続人の戸籍上の関係がわかる戸籍謄本一式 | 多くの場合、本籍地のある市区町村役場で、生まれてから現在までの戸籍一式を取得することで、相続人がわかります。 なお、本籍地が移動している場合は、その都度該当の本籍地である市区町村役場に、郵送で戸籍を請求する必要があります |
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法定相続人以外に遺贈する場合は、遺贈される人の住民票 | 遺贈の場合は戸籍にもないため、別途当該人物の住民票が必要です |
固定資産評価証明書 | 土地家屋の詳細を遺言書に記載する上で、市区町村役場の発行する固定資産評価証明書が必要です |
不動産の登記簿謄本(土地・建物) | 不動産の登記簿謄本(土地・家屋・農地など全て)を法務局で取得します。 相続する土地等の名義人が、不動産の登記簿謄本には記載されているからです |
遺言作成者の印鑑証明書(発行日より3ヶ月以内のもの) | 市区町村役場か、マイナンバーカードを用いてコンビニで発行 |
通帳のコピー(各1通) | 通帳のコピー(口座番号・名義がわかる表表紙・裏表紙や、通帳の後ろにある通帳内定期も忘れないこと) ネットバンクの場合は銀行名・支店名・口座番号・最終残高がわかるコピーを用意 |
有価証券等のコピー(各1通) | 株式・国債などの有価証券のコピーをそれぞれ用意する |
生命保険証書のコピー(各1通) | 遺言で生命保険の受取人の変更が可能 |
免許証・マイナンバーカードなど本人確認資料の写し | 遺言作成時に、本人であることを確認できるようにするため |
他にも必要書類はないか、公証人役場に事前に確認した上、電話で最初の打ち合わせを行い、来訪する日時を予約してから公証人役場を訪問するようにしましょう。
また、訪問の際には、事前に文案を専門家に相談したり、原案作成を依頼したりすることも一つの方法です。
加えて、自分で原案を作る場合は、内容を事前に考えておくようにしましょう。
必要書類にかかる費用
公正証書遺言の費用に関しては、非常に複雑です。
まず、相続財産全体の価額を目的価額とし、手数料を計算します。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円 | 7,000円 |
200万円超~500万円 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円 | 17,000円 |
1,000万円超~3,000万円 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 43,000円 |
1億円超~3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円超~10億円以下 | 9万5千円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円超 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
その上で、それぞれの相続人ごとに、相続させる財産の価額により目的価額を算出し、手数料を計算します。
個別の額を合計することで、手数料が出てきます。
また、遺言作成者が病気で公証人役場へ行けない場合は、公証人が出張してくれますが、目的価額の手数料が1.5倍になります。
また、旅費(実費)・日当(1日2万円、半日1万円)なども必要となるため、よほどの場合以外は公証人役場へ遺言作成者が行った方が良いでしょう。
たとえば、下記のようなケースを想定します。
- ・遺言作成者が入院しており、公証人が半日病院へ出張
- ・1,000万円の不動産をAさんに、500万円の預金をBさんに相続させる
- ・Aさんを祭祀承継者(葬儀等を行う人)に指定
このような場合を計算してみましょう。
Aさん分費用 | 17,000円 |
---|---|
Bさん分費用 | 11,000円 |
祭祀承継者の指定費用 | 11,000円 |
出張加算 | 19,500円 |
日当 | 10,000円 |
遺言加算 | 11,000円 |
合計 | 79,500円(その他交通費・謄本作成手数料) |
と、個人が公正証書遺言作成を行う費用としては、かなりの値段となります。
自筆証書遺言を法務局に保管すると、費用は3,900円ですので、相当の差はあります。
しかし、なぜ遺言書を作成するのか、という根本的なところを考えると、「相続人の、家族に対する想いを確実に実現したいから」という点は大きいと思います。
また、自分で作成し、公正証書遺言の費用を節約しても、実際に裁判所で遺言書の検認を行ったり、他の専門家が確認した際に、自筆証書遺言に間違いがあっては、遺言書の意味がなくなります。
確かに公正証書遺言の費用は高額です。
後述の弁護士・司法書士・行政書士など専門家に依頼する費用も加えて考えると、大きな出費とはなります。
しかし、確実に自分の遺志を実現するという観点から行くと、専門家を通して公証人役場で公正証書遺言を作成することが一番確実といえましょう。
必要書類収集・原案作成を専門家に依頼したときの費用
公正証書遺言を作成する上で大変なのが、各種の資料集めと遺言書の原案作成です。
前の部分で表にしておりますが、必要な資料だけでも、市区町村役場・法務局・戸籍が市区町村間で移動している場合は、戸籍がある市区町村への郵送請求など、非常に手間がかかります。
戸籍の収集は、一般の人に取って大きな難関
特に、戸籍にかかる郵送の往復というのは、慣れない人にとってはストレスです。
戸籍を自分で読み、戸籍が存在する市区町村に連絡、平日にゆうちょ銀行で定額小為替を購入し、各種書類と返信用封筒を入れて送付する手続きを繰り返す。
このように、自分の戸籍が出生から現在まで繋がるように戸籍を辿るというのは、慣れていない人にとっては大きなストレス・負担になります。
このような書類収集に関して、印鑑証明以外の書類の多くは、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家が代行して集めてくれます。
(なお、印鑑証明だけは本人しか取れませんが、マイナンバーカードを作成している場合は、コンビニで24時間取得できます)
その他の書類については自分で集める必要がありますが、どこも平日に行く必要があるため、働いている場合は休みを取る必要があります。
(なお、公正証書遺言の作成に関してだけは、平日に本人が行かないといけません)
公証人役場の手続きの中には、テレビ電話に対応した手続きもあるが……
電子定款認証など、一部手続きについてはテレビ電話での対応も行うようになりましたが、遺言書の作成など、個人の財産にかかる重要な内容については、直接本人が訪問する必要があるということは変わりがないようです。
最終的には一度公証人役場を直接訪問する必要があることに変わりはありません。
しかし、各専門家に必要資料の収集や原案作成のコンサルティングなどを一括してお願いしてしまった方が、無駄なエネルギー・時間を使わずに済みます。
専門家も、資料の収集作業には慣れているので、自分だけで資料を集めようとするより、圧倒的に早くできる可能性が高いです。
専門家への依頼費用に関しては、事務所により大きく異なります。
書類収集や遺言内容の原案作成・各種調査・証人等手配などの費用としては、おおむね8万程度から20万程度と幅があり、それ以上の費用がかかることもあります。
相談内容や委任できることを踏まえ、価格の妥当性を検討すると良いでしょう。
まとめ
このように、公正証書遺言を作成する上で、比較的大きな費用と手間がかかることがおわかりいただけるかと思います。
しかし、自筆証書遺言に比べると、遺言の正確性は明らかに公正証書遺言の方が優れています。
また、自筆証書遺言を遺言保管制度で預けていても、ミスがあった場合は遺言として適用できなくなってしまいます。
いくら安価に遺言を作成したとしても、内容に問題があったり、あるいは些細なミスにより全体が無効となってしまったりしては、遺言の意味がありません。
確かに公正証書遺言作成にかかる費用は、けして安価なものとはいえません。
しかし、遺言の確実な実現を図るためには、専門家への依頼を行い、資料収集や原案作成を行った上で公正証書遺言を作成する、このような手法が一番確実性が高く、おすすめできるといえましょう。