この記事でわかること
- 婚外子の法律上の定義
- 認知の方法とその法的効果
- 婚外子による相続トラブルを防ぐ方法
終活は、ご自身の人生を整理し、大切な人たちに想いを伝える機会です。
終活をするにあたっては、まずは誰が自分の相続人となり、それぞれの相続分がどれだけになるのかなどを正しく理解しておきましょう。
婚外子がいる場合には、相続の問題は避けて通れません。
相続トラブルで身内が争うのを防ぐために、あらかじめ準備をしておくとよいでしょう。
今回は、「婚外子(こんがいし)」という言葉に焦点を当て、その定義、認知の方法、そして遺産相続における注意点について解説していきます。
目次
婚外子(こんがいし)とは?簡単に解説
「婚外子」という言葉を聞きなれない方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、まずは婚外子についてわかりやすく解説します。
婚外子とは
婚外子とは、「非嫡出子」とも呼ばれ、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを指します。
つまり、夫婦ではない男女の間に子どもが生まれた場合、その子どもは婚外子となります。
一方で、婚姻中の夫婦に生まれた子のことを「婚内子」、「嫡出子」といいます。
婚外子は、父親との法律上の親子関係はありませんが、母親とは出生の事実によって法的な親子関係が確定します。
父親が「認知」をすることによって、婚外子と父親の間に法律上の親子関係が生じることになります。
婚外子は母親の戸籍に入る
婚姻関係にない男女の間に生まれた子(婚外子)は、原則として母親の戸籍に入ります。
母親が親の戸籍に入っている場合には、母親はその戸籍から独立して、母親が戸籍筆頭者となる新しい戸籍が作られます。
認知されていない婚外子の場合は、戸籍の父の欄は空欄となります。
また、父親が認知をしない場合は父親の戸籍には婚外子について記載されないため、父親の戸籍からは婚外子の存在はわかりません。
そのため、相続人が婚外子の存在を知らず、トラブルになるケースも珍しくありません。
婚外子の認知とは
認知とは、父親が「この子は自分の子です」と法的に認めることです。
前述のとおり、父親と母親の間に法律上の婚姻関係がないため、婚外子は生まれただけでは父親との法的な親子関係が成立しません。
婚外子と父親の間に法的な親子関係を成立させるためには、認知が必要です。
認知の方法
それでは、どのような方法で婚外子の認知ができるのでしょうか。
認知の方法には、任意認知・強制認知・遺言認知の3つがあります。
任意認知
任意認知とは、父親が自らの意思で子を認知する方法です。
認知届を市区町村役場に提出することで認知が成立します。
提出先は、届出人(父親)の住所地または認知する子の本籍地の市区町村役場です。
婚外子が成人の場合は、本人の承諾書が必要になります。
また、子どもが生まれる前に胎児を認知することもできます。
胎児を認知する場合は、認知届の子の氏名に「胎児」とのみ記載して、母親の本籍地のある市区町村役場に提出します。
胎児認知の場合は、母親の承諾が必要になります。
強制認知
父親が認知を拒否する場合などには、婚外子またはその子(直系卑属)から父親に対して強制認知の手続きをとることができます。
強制認知には、認知調停と認知の訴えの2つがあります。
認知については調停前置主義がとられているため、認知の訴えを提起する前に、まずは父親の住所地を管轄とする家庭裁判所に調停を申し立てなければなりません。
調停で、当事者双方の間で父の子であると合意ができ、家庭裁判所が調査等を行ってその合意が正当であると認めれば、合意に従った審判がされます。
調停が不調(不成立)で終わった場合には、認知の訴えを起こすことができます。
ただし、父親が死亡した後の認知は、例外として調停を行わずに認知の訴えを提起することになります。
認知の訴えは、父親の生存中はいつでも提訴できますが、父親が死亡した場合は、死亡後3年以内に提訴する必要があります。
認知調停または認知の訴えが認められると、法律上の親子関係が生じることになります。
遺言認知
父親は、遺言で婚外子を認知することができます。
遺言で婚外子を認知する場合には、遺言書に以下の内容を記載する必要があります。
- 子を認知すること
- 母親の氏名・生年月日
- 子の住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者
遺言認知をする場合には、遺言書の中で認知届を提出する遺言執行者を定めておきましょう。
遺言執行者とは、遺言者の死後、遺言の内容を実現するために、遺言書に書かれた内容を実行する人のことです。
遺言書に遺言執行者の定めがない場合には、相続人は家庭裁判所で遺言執行者を選任する手続きをする必要があります。
なお、遺言書は自分で書くこともできますが、遺言書として有効になるには以下の要件をすべて満たす必要があるためご注意ください。
- 遺言者本人が全文を手書きで書くこと
- 日付が手書きで記載されていること
- 氏名が手書きで記載されていること
- 遺言者の印鑑が押されていること
これらの要件を満たしていれば、様式には指定はありません。
認知の効果
父親が認知すると、婚外子と父親との間には、出生のときに遡って法的な親子関係が成立します。
認知によって、婚外子の戸籍の父母欄に父親の名前が記載されますが、婚外子の氏や戸籍には変動はありません。
父親の戸籍には、認知した日付と認知事項が記載されます。
また、婚外子と父親の間に法的な親子関係が成立することによって、扶養義務や相続する権利が発生します。
婚外子による相続トラブルを防ぐ方法
認知された婚外子は相続人になるので、父親の相続について遺産分割協議を行う際には婚外子も含めて話し合いを行い、遺産分割協議書作成等の手続きに参加しなければなりません。
相続人に婚外子の存在を知らされていなかったケースなどでは、トラブルに発展することも少なくありません。
ここでは、婚外子による相続トラブルを未然に防ぐ方法について解説します。
認知された婚外子の相続割合は婚内子と同じ
平成25年に婚外子の相続割合に関する法律が改正され、亡くなった人(被相続人)と法律上の親子関係があれば、婚外子であっても他の兄弟姉妹と同じ相続割合になりました。
たとえば、父親が亡くなったときに、配偶者である妻と婚内子1人がいる場合には、法定相続分は妻が2分の1、婚内子と婚外子はそれぞれ4分の1ずつになります。
一方で、認知されていない婚外子には、父親の遺産を相続する権利はありません。
上記の例で婚外子が認知されていない場合には、相続人は妻と婚内子の2人になり、それぞれが2分の1ずつ相続することになります。
この場合、他の相続人が婚外子の存在を知らなかった場合などに、婚内子の相続分が期待していたよりも少なくなってしまうため、トラブルになる可能性があります。
遺言書で相続分を指定する
遺言書は、遺言者の最終的な意思表示として尊重されます。
婚外子の有無にかかわらず、遺言書で各相続人の相続分を明確に指定しておくことには大きなメリットがあります。
遺言書で相続分を指定しておくことで、相続人間の遺産分割協議が不要となり、トラブルを防ぐことができます。
特に、相続人が複数いる場合や、特定の相続人に多くの財産を相続させたい場合などには、遺言書を作成しておくことはトラブル防止に有効です。
また、遺言書では遺産分割方法を指定することもできます。
たとえば「長男には土地と建物を、次男には預貯金を相続させる」というような指定ができます。
遺言書には、上に述べたとおり、民法上定められた要件があり、その要件を満たさない遺言書は無効になってしまいます。
また、遺言書の内容によっては、逆に相続人間の争いを招いてしまう可能性もあります。
トラブルにならない遺言書を作成するためには、弁護士に相談してアドバイスを受けながら遺言書を作るとよいでしょう。
認知した婚外子の存在を家族に伝える
婚外子の存在は、認知するまでは父親の戸籍に記載がないため、家族であってもその存在を知らないというケースも珍しくありません。
以下の場合には、推定相続人(相続人となる予定の者)が期待していたより相続割合が減ってしまい、トラブルに発展する可能性があります。
- 相続人が認知された婚外子の存在を知らなかった場合
- 生前に認知せず遺言認知がされた場合 など
可能であれば、推定相続人にあらかじめ婚外子のことを伝えておくことが望ましいでしょう。
また、相続手続きの中には相続人「全員」が協力して手続きをしなければならないものもあります。
円滑に相続の手続きを進めるためにも、家族をあらかじめ婚外子に引き合わせておくことや、連絡が取れるようにしておくことなどができれば理想的でしょう。
まとめ
終活は、自分の想いを伝える大切な機会でもあります。
婚外子がいる場合にはトラブルになりかねないため、この機会に弁護士に相談しながら、円滑な相続のための準備を始めてはいかがでしょう。