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最終更新日:2022/12/13

事業承継税制のデメリットとリスク|対処法や適用が向いているケースとは?

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

事業承継税制のデメリットとリスク|対処法や適用が向いているケースとは?

この記事でわかること

  • 事業承継税制とはどのような税制なのか知ることができる
  • 事業承継税制を適用することのデメリットやリスクがわかる
  • 事業承継税制の適用が向いている事例を知ることができる

中小企業の社長が交代して後継者を新たな社長とする場合、その会社の株式も後継者が引き継ぐこととなります。

しかし、財産を他人に移転する際には多額の税金が発生してしまいます。

このような多額の税金を払えないため、事業承継の足かせとなっているケースも多くあります。

そこで、事業承継を行って株式が移転しても、多額の税金が発生しないような制度が設けられています。

どのような場合に利用できるのか、そしてどのような注意点があるのか、確認していきましょう。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、現在の経営者から経営を引き継いだ後継者が負担すべき税額の納税を猶予する制度です。

経営を引き継いで、会社の株式を贈与される、あるいは相続すれば、贈与税や相続税が発生します。

この負担を恐れて、事業承継が進まないケースや廃業を選択するケースもあるほどです。

しかし、それでは多くの中小企業が消滅してしまうことになりかねません。

そこで、後継者の税負担を軽減するために設けられたのが事業承継税制です。

事業承継税制を適用すれば、すぐに税金を支払わなくて済むだけでなく、最終的に税金が免除される可能性もあります。

事業承継税制のデメリットとリスク

事業承継税制を適用できると、後継者は税負担が軽くなるため、大きなメリットがあります。

ただ一方で、事業承継税制を適用することによるデメリットはないのでしょうか。

ここでは、事業承継税制のデメリットや適用上のリスクとその対処法を解説していきます。

適用要件が厳しい

事業承継税制のデメリットというよりは制度を利用する難しさといえますが、要件が多く適用が受けられないケースがあります

会社の株式を贈与して事業承継税制の適用を受けるには、以下のような要件があります。

先代経営者の要件

  • 会社の代表取締役であったことがある
  • 贈与の直前に筆頭株主である
  • 贈与後に代表取締役でなくなる

後継者の要件

  • 贈与前に継続して 3年以上会社の取締役である
  • 贈与を受けることで筆頭株主になる

会社の要件

  • 中小企業者に該当する

中小企業者に該当するには、資本金の額あるいは従業員の数のいずれかが基準以下であることが必要です。

適用後5年間守るべき要件

  • 後継者が会社の代表者であり続ける
  • 後継者が会社の株式を保有し続ける
  • 従業員を8割以上雇用し続ける(ただし、経営状況の悪化や正当な理由がある場合には8割を切っても認められます)

これはほんの一部なのですが、このように多くの要件があり、これらをすべてクリアしなければ事業承継税制の適用は受けられません。

ただし、先代経営者や後継者の要件は決して難しいものではないため、1つ1つ対処していくことで要件をクリアできます。

手続きが大変

事業承継税制は、最終的に贈与税や相続税の全額が免除されることもある制度です。

そのため、大きなメリットがある代わりに、前述したように多くの要件が定められています。

そしてもう1つ、複雑な手続きが必要とされるため、納税者には大きな負担となります

事業承継税制を適用する際には、都道府県や税務署に多くの書類を提出しなければなりません。

また、適用を受けてから5年間は、毎年「継続届出書」と呼ばれる書類を都道府県と税務署に提出しなければなりません。

さらに、5年経過後も 3年ごとに届出書を提出しなければなりません

これらの書類の提出を忘れてしまうと、猶予されていた税金の納税が発生することとなるのです。

書類の作成については税理士などの専門家に依頼し、提出時期の失念がないかをしっかり確認するようにしましょう。

また、税務署などから書類の提出を知らせる書類も届くので、忘れずにチェックしましょう。

要件を満たさなくなると課税される

事業承継税制はあくまで課税の猶予であり、要件を満たさなくなった時には納税猶予が取り消されます

たとえば、事業承継後5年以内に後継者が代表者から降りた場合や、5年経過後に株式を売却した場合などが該当します。

このような場合には、多額の税金が発生するだけでなく、利息に相当する金額も徴収されます。

そのため、事業承継税制を適用しなかった場合より金銭的な負担が増えてしまう可能性があります。

要件を満たさなくなる可能性がある場合には、最初から事業承継税制を利用しないのがいいでしょう。

一方で、株式を売却した場合は納税資金を確保できることから、それほど神経質になる必要はないかもしれません。

専門家に依頼する費用がかかる

事業承継税制の適用を受ける際に、書類の作成や申告書の提出などの作業をすべて自分でするのは難しいでしょう。

そのため、税理士などの専門家に依頼してその作業を代わりにしてもらうこととなります。

専門家に依頼すれば費用がかかりますが、法人税や所得税の申告とは違い対応できない専門家も多くいます。

その結果、事業承継税制に対応可能な専門家を探すと高額の費用がかかるため、経済的な負担は少なくないのです。

事業承継税制の適用を受けなかった場合、その税額はかなり大きなものとなります。

しかし、専門家に依頼して申告した結果、納税猶予を受けることができたのです。

専門家に対する費用は必要経費と思い、より確実に事業承継税制の適用を受けることを考えましょう。

事業承継税制の適用が向いているケース

事業承継税制の適用が向いているケース

前述したように事業承継税制の適用を受けるには、多くの要件を満たさなければなりません。

そのため、どのような会社であっても適用を受けられるわけではありませんし、先ほど紹介したように、事業承継税制にはデメリットもあるため、誰でも利用すればいいというわけではない制度です。

しかし、制度の内容から事業承継税制の適用に向いている会社があります。

事業承継税制の適用を受けるのに向いている会社とはどのようなものか、確認しておきましょう。

株式の評価額が高い

株式の評価額が高い会社の場合、先代経営者が亡くなってその子どもが相続する際に多額の相続税が発生します。

また贈与を行った場合には、相続税以上に高い贈与税が発生することとなります。

株式の評価額が高いほど高い税金が発生するため、納税が猶予されればそのメリットも大きいのです。

安定して業績がいい

業績がいい会社は、その株式の評価額が高くなる傾向にあります。

それだけでも事業承継税制のメリットは大きいのですが、それ以上に事業承継税制を利用すべき理由があります

事業承継税制により納税猶予を受けるためには、5年間は従業員の雇用を8割以上維持しなければなりません。

業績に波がある会社はこの要件を満たせなくなる可能性もありますが、安定して業績のいい会社は難しくないといえます。

また、最終的に納税が免除されるためには、事業承継税制を利用した後継者が次の後継者に事業承継しなければなりません。

安定して業績のいい会社であれば次の後継者を見つけやすく、納税が発生しない可能性が高くなります。

事業承継税制以外の事業承継方法

会社の事業承継を行う際に、事業承継税制が適用できないような方法もあります。

事業承継税制が適用できなければ、税金が発生することがありますが、それでもメリットがあるケースも少なくありません。

具体的に、事業承継税制が適用されない事業承継の方法として利用されているのがM&Aです

M&Aとは、会社の株式を第三者が取得して、その会社の資産・負債と事業を引き継ぐことです。

会社同士で合併する場合もあれば、株式を取得するのにとどめて持ち株会社の傘下に入る場合もあります。

こうなると事業承継税制は適用されないため、株式の売却益が発生すればその額に応じた税金を納めなければなりません。

しかし、株式の売却収入があるため、納税資金に困ることはないはずです。

売却先を選ぶことができるため、より高い金額で売却することができます。

従業員の雇用、M&A後のそれまでの経営者の処遇などの条件を重視して売却先を選定することもあります。

まとめ

事業承継税制を利用すれば納税猶予、さらには納税免税となるため、非常に大きなメリットがあります。

ただ、要件が多く、将来にわたってクリアしなければならないため、必ずしも広く利用されているわけではありません。

また、専門家も適用に積極的とはいえず、その制度自体があまり知られていないのが現状です。

ただ、会社によっては、事業承継税制を適用することで大きなメリットを受けられることもあります。

まずは適用要件や、利用するとどれくらいメリットがあるのか確認するといいでしょう。

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