この記事でわかること
- 事業承継ガイドラインとはどのようなものか知ることができる
- 2022年3月に公表された事業承継ガイドラインの改訂版の変更点がわかる
- 事業承継ガイドラインに記載されている内容を解説している
目次
事業承継ガイドラインとは
事業承継ガイドラインとは、中小企業が事業承継を行う際の方法やトラブルを避けるための対策などをまとめた説明書のようなものです。
中小企業に関する政策を実施している中小企業庁がこのガイドラインをとりまとめ、公表しています。
事業承継の円滑化がねらい
事業承継ガイドラインを作成した中小企業庁は、日本国内の中小企業の発展を大きな目標に掲げています。
しかし、中小企業の中には後継者がいない、あるいは後継者の候補はいるのに事業承継が進まない会社もあります。
そこで、事業承継を行う上で円滑に進められるよう、具体的な方法を明らかにしたものです。
ガイドライン制定の背景
事業承継ガイドラインが制定された背景には、中小企業が置かれた状況があります。
日本国内のほとんどの会社は中小企業で、技術やノウハウを持って事業を行い、多くの従業員を雇用しています。
しかし、中小企業のオーナー社長が、その子どもに会社を引き継ぐのが当たり前という時代は終わっています。
子どもがいても、その子どもが会社にはいないというケースが少なくありません。
このままでは中小企業の多くが消滅してしまうという危機感があるため、国としても事業承継を積極的に進めようとしています。
そこで作成されたのが、事業承継ガイドラインです。
事業承継ガイドラインの改訂内容
事業承継ガイドラインは、2006年度に策定されました。
その後年数が経過し、中小企業を取り巻く環境も変化する中で、その内容が改訂されて現在に至っています。
2021年度中の改訂を目指して協議が行われていましたが、2022年3月に改訂されたガイドラインが公表されました。
改訂の主なポイントについて、その内容をご紹介します。
2021年度の改訂のねらい
2016年度に事業承継ガイドラインの改訂が行われましたが、そこから5年以上が経過しています。
この間にも中小企業の経営者は高齢化が進む一方で、必ずしも事業承継がスムーズに行われているわけではありません。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により多くの中小企業が影響を受けており、事業承継どころではない状況となっています。
このような状況の中で、少しでも事業承継を進めるため、事業承継ガイドラインが改訂されました。
中小企業の置かれた状況や、事業承継の実例に合わせた改訂となっています。
掲載されるデータをより充実したものに
2022年3月の改訂により、事業承継に関するデータがより充実したものとなりました。
また前回の改訂後、新たに設けられた制度に対応した説明が掲載されています。
たとえば、法人の特例事業承継税制や個人事業主の事業承継税制は、前回の改定後にその内容が見直され、あるいは制度が創設されました。
また、所在不明の株主の整理に係る特例などの制度も、事業承継を行う際には問題となることが多いものです。
そこで、これらの新しい制度について詳細な説明を追加され、利用者の疑問に対応したものとなっています。
従業員承継や第三者承継に関する説明が増加
以前は、社長の子どもや親族が中小企業の後継者となるのが一般的でした。
しかし、後継者が別の職業に就くことも多く、子どもなどが後継者にならないケースが増えています。
現在では子どもや親族以外の従業員を後継者にしたり、第三者に会社自体を譲渡したりすることも珍しくありません。
しかし、これまでの事業承継ガイドラインには、親族以外への事業譲渡の記載があまり多くありませんでした。
そこで、実際に事例が増えてきた従業員承継や第三者承継(M&A)についての記載が充実しています。
従業員承継については、後継者の選定方法や従業員を経営者として育成するプロセスなどが記載されています。
具体的には、後継者候補との対話の内容、後継者の教育方法、関係者に対する理解や協力を得るための方法が書かれています。
第三者承継については、2020年に公表された「中小M&Aガイドライン」の内容をもとに、M&Aに関する注意点などが記載されています。
特にM&Aの場合は仲介業者を通して取引を行う場合も多く、その業者に対する内容も含まれています。
後継者の立場からの説明を充実させる
これまでの事業承継についての解説は、現在の経営者が後継者に事業を譲る場合の注意点が中心でした。
しかし、事業承継で大きな役割を持つのは現在の経営者ではなく、これから経営者となる後継者です。
株式を贈与や相続により取得した場合、後継者には多額の税金が発生します。
また、事業承継により経営者が交代すれば、その後は後継者が会社の舵取りを行うこととなります。
そのため、後継者は事業承継を行う際に様々な手続きを行うと同時に、税金の計算もしなければなりません。
しかし、事業承継を行った時に、後継者が何をすべきかの情報があまりなかったため、不安を感じる人も多いことが危惧されてきました。
そこで事業承継ガイドラインでは、後継者目線での説明をより充実させて、様々な人の疑問に対応できるものとなっています。
事業承継ガイドラインに書かれている内容
事業承継ガイドラインにはどのような内容が記載されているのでしょうか。
全体で100ページを超えるような膨大な文書ですが、その概要をご紹介します。
第一章 事業承継の重要性
事業承継を行うことが求められる背景に、日本の会社の99%を中小企業が占めていることがあります。
また、全従業員の69%が中小企業に雇用されており、重要な役割を担っています。
ただ、中小企業の経営者が高齢化し、世代交代も進まない現在の状況が紹介されています。
第二章 事業承継に向けた準備の進め方
事業承継をスムーズに進めるためには、準備から計画的に進める必要があります。
そこで、事業承継全体を5段階に分類し、それぞれの段階で何をすべきかが書かれています。
また、事業承継の計画を策定する前の準備段階に、多くの時間をかける必要があると解説しています。
第三章 事業承継の類型ごとの課題と対応策
事業承継といっても、その方法には様々なものがあります。
親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つの類型に分けて、その留意点や課題が紹介されています。
また、資金調達の方法や債務・保証の承継など、より実践的な内容についても詳しく紹介されています。
第四章 事業承継の円滑化に資する手法
事業承継を円滑に進めるために、種類株式、信託、生命保険の3つを活用する方法が紹介されています。
資金調達して株式を購入する、あるいは株式を相続するよりメリットがありトラブルにならない承継の方法があることがわかります。
第五章 個人事業主の事業承継
事業承継が求められるのは、中小企業だけではありません。
個人事業主の方が、その事業を後継者に引き継ぐ際にも、事業承継を行わなければなりません。
個人事業主の場合、中小企業とは異なる課題や承継の方法があるため、その具体的な対処法が紹介されています。
第六章 中小企業の事業承継をサポートする仕組み
事業承継を行う際には、中小企業や個人事業主の力だけではスムーズに進めることはできません。
事業承継をサポートしてくれる、士業専門家や商工会議所・商工会などの支援が不可欠といえます。
そこで、どのようなサポート体制があるのかを紹介するとともに、具体的なサポート機関についての説明が書かれています。
まとめ
事業承継に興味・関心がある人でも、実際に何をすればいいのかわからない人がほとんどでしょう。
そこで参考にしてほしいのが、今回ご紹介した事業承継ガイドラインです。
事業承継を行うためにどのような準備が必要で、どのような心構えが求められるのかが詳細に書かれています。
また、実際にどのような方法で事業承継を行うことができるのか、説明されています。
多くの事業主の方に関わる問題ですから、すぐに事業承継の予定がなくても目を通しておくのもよいでしょう。