この記事でわかること
- 家族信託について理解できる
- 家族信託のメリット・デメリットがわかる
- 家族信託をする際の注意点がわかる
新聞やテレビなどで紹介された家族信託ですが、内容をよく知っているという方は少ないかもしれません。
家族信託と成年後見制度との違いもわかりにくいでしょう。
この記事では家族信託の基本的な内容を確認したうえで、家族信託のメリット・デメリットを紹介します。
家族信託を始める際の注意点も解説しますので、家族信託の利用を検討している方は、参考にしてください。
目次
家族信託とは?
まず、家族信託という制度について、基本的な内容を確認していきましょう。
家族信託で出てくる法律用語
家族信託では聞きなれない法律用語がたくさん出てきますが、法律用語の意味がわからなければ、家族信託の制度がわかりません。
家族信託制度で出てくる代表的な用語の意味を見ていきましょう。
「信託」とは?
「信託」は、ふだん聞きなれない言葉ですが、一定の目的達成のために、財産の管理や処分その他の必要な行為をすべきことを言います。
信託銀行や信託会社を思い浮かべるとイメージが湧くのではないでしょうか。
以前は、信託は信託銀行等が国の許可を受けておこなう場合のみ認められていましたが、現在、家族間での信託も認められています。
家族信託の登場人物
家族信託では、次の登場人物を理解する必要があります。
- ・委託者
- ・受託者
- ・受益者
委託者とは財産を信託する人のことで、簡単に言えば財産を託す人です。
これに対して、財産を管理する人は受託者と呼ばれます。
そして、財産の管理・処分により利益を受ける人を受益者と言います。
委託者と受益者は同一人物でもよいですし、別の人物でもかまいません。
信託財産とは?
家族信託の利用を検討する際は、信託財産という法律用語を理解しておきましょう。
信託財産とは、委託者が受託者に管理や処分を託し、権利を移転する財産のことです。
家族信託の効果が発生すると、信託財産の所有者は受託者になるので、注意しましょう。
なお、信託財産に含まれない財産は、受託者が管理したり処分したりできません。
信託期間
「信託期間」とは信託を続ける期間と考えればわかりやすいでしょう。
原則として、家族信託では信託期間に制限はありませんが、信託期間を定めることは可能です。
信託期間の定め方としては、「受益者が死亡するまで」などです。
家族信託のメリット3つ
次に、家族信託のメリットを見ていきます。
ここでは次の3つに分けて考えてみましょう。
- ・家族信託メリット1 柔軟な認知症対策
- ・家族信託のメリット2 財産管理者と報酬
- ・家族信託のメリット3 自分亡きあとに夫(妻)、子のために財産管理してもらえる
メリット1 柔軟な認知症対策
認知症の方の財産管理方法に成年後見制度がありますが、家族信託との違いを確認します。
早期の認知症対策
「将来認知症になるときに備える」という理由で、成年後見開始の審判を申し立てることはできません。
成年後見制度を適用できる認知症の度合いが決まっているためです。
財産を有する人の認知症が進んではじめて、家族は、成年後見開始の申し立てをおこなうことになります。
言い換えれば、家庭裁判所の手続きが終わる前は、たとえ家族でも認知症が進んだ方の財産管理や処分をおこなうことはできません。
しかし、財産を有している人が、自身の認知症が進む前に家族信託しておけば、早期の認知症対策になります。
信託財産の所有権は受託者に移転しますから、委託者が認知症になっても財産管理・処分の問題は生じません。
柔軟な財産管理方法を選べる
成年後見制度においては、本人が有する不動産や金融資産を積極的に運用することはできません。
老朽化した収益用マンションの大修繕や建て替えなど、成年後見人は自由に行えないのです。
しかし、家族信託なら委託者は柔軟に、信託財産を運用できます。
この点も家族信託が認知症対策としてメリットがあるといえるでしょう。
メリット2 財産管理者と報酬
次に、財産を管理する人や報酬について、成年後見制度との違いを考えます。
家族信託では、家族を受託者に指定すれば、委託者が信頼しない人が財産を管理する心配はありません。
しかし、成年後見制度を利用すると、必ずしも認知症の方が信頼する家族が財産管理をするとはかぎりません。
成年後見人は、家庭裁判所が選任するためです。
また、成年後見人だけでなく、家庭裁判所により成年後見監督人も選任されます。
本人の家族ではなく、専門家が成年後見人と成年後見監督人に選任されると、毎月報酬を支払わなければなりません。
本人が亡くなるまで長期間にわたり、報酬を支払い続けるのは負担となるケースもあるでしょう。
報酬も家族間で柔軟に定めればよい点が、家族信託利用のメリットです。
メリット3 自分亡きあとに夫(妻)、子のために財産管理してもらえる
家族信託をおこなっておけば、委託者が亡くなったあとも、委託者の配偶者や子のために財産管理をしてもらうことができます。
たとえば、家族信託の委託者をA、受託者をB、第1受益者をAとします。
そして、A死亡後の第2受益者をAの妻Cとする信託契約を締結したとしましょう。
この信託契約では、A死亡後は、Bは、Aの妻Cのために信託財産を管理します。
Cも高齢で認知症が進んでいて、Aを相続しても自分では財産管理ができない可能性が高い場合などに利用できるのが家族信託です。
なお、成年後見は、本人が死亡すれば終了します。
家族信託では受益者を柔軟に定めることができる点で、自分亡きあとの家族が心配な方にメリットがあるでしょう。
家族信託のデメリット3つ
今度は、家族信託のデメリットを3つ解説します。
デメリットは次の3つです。
- ・家族信託のデメリット1 受託者に身上監護権はない
- ・家族信託のデメリット2 相続対策すべてができるわけではない
- ・家族信託のデメリット3 実務に精通した専門家が少ない
デメリット1 身上監護権はない
先述したとおり、成年後見制度と比べ、家族信託は早期に認知症に備えることができます。
また、家族信託の受託者は柔軟な財産管理・処分権を有するため、財産が多い方の財産管理方法として有効です。
しかし、家族信託の受託者には、成年後見人に認められている身上監護権はありません。
身上監護権とは、認知症の方の介護契約や介護施設への入所契約などの権限です。
家族であれば、親や夫(妻)の入院手続きは可能な場合もありますが、他の親族との兼ね合いなど心配なケースも考えられます。
身上監護を要する場合、家族信託と成年後見制度の併用も検討しましょう。
デメリット2 相続対策すべてができるわけではない
委託者が第2受益者を定めることで、自分の希望に沿う人に財産を承継させることができるのが家族信託です。
しかし、必ずしも委託者の全財産を信託財産とするとはかぎりません。
信託財産に含まれない委託者の財産の承継人を定める場合、委託者が遺言により相続人や相続割合を指定しておく必要があります。
家族信託と遺言の併用も検討しましょう。
デメリット3 実務に精通した専門家が少ない
家族信託を利用する場合、民法や信託法だけでなく、相続税、贈与税、所得税など税金の知識が必要です。
また、法律や税金の知識のほかにも、不動産や金融資産運用に長けていることも大切です。
家族信託の専門家には、法律的な知識はあっても税金や運用は専門外の人もいます。
家族信託で発生する法務・税務、資産運用全般の総合的な知識を有する専門家が少ないのが現状です。
家族信託を行う際の注意点
家族信託は使い勝手が良い反面、非常に専門的な内容が多く、注意すべき点がいくつもあります。
代表的な注意点を解説します。
残余財産の帰属先など
家族信託が終了したあと、残余財産をどうするのか、委託者の家族がもめないように決めておきましょう。
家族信託で相続や認知症対策をおこなった結果、相続争いに発展しないように注意が必要です。
登記、専門家の費用など
家族信託には、登記費用をはじめ様々な費用が発生します。
費用と家族信託のメリットを比較して、家族信託を始めましょう。
信託登記費用
不動産が信託財産の場合、信託の登記と所有権移転登記をおこなわなければなりません。
信託登記には登録免許税がかかります。
また、信託登記は専門的な登記であるため、司法書士に登記を依頼すると、報酬も支払わなければなりません。
コンサルティング料など
家族信託を始めるには、信託プランや、信託契約書を作成する必要があります。
相続、信託法など法律を広く知らないと難しい面も多く、専門家の力を借りることもあるでしょう。
専門家に家族信託を依頼するとかかる費用の例は以下です。
- ・信託プランのコンサルティング料
- ・信託契約書作成を弁護士など専門家に依頼する場合の費用
- ・公正証書で信託契約書を作成する場合の公証人に支払う費用
家族信託の税金
家族信託では、主に次の税金がかかります。
- ・贈与税、相続税
- ・所得税
- ・固定資産税
贈与税は、受託者が委託者以外の場合にかかります。
相続税は、受益者死亡後の第2受託者が定められているケースなどに発生します。
家族信託は、相続税対策としてのメリットは大きくないので注意してください。
また、受益者が得た利益には所得税、信託財産が不動産の場合は固定資産税が受託者にかかります。
まとめ
家族信託の内容、メリット・デメリットや注意点を見てきました。
人生100年時代、高齢の方の財産管理はどんなご家庭でも身近な問題です。
また、障害のあるお子さんをお持ちのご家庭では、親亡きあとのお子さんの財産を誰が管理するか心配でしょう。
家族信託は、認知症対策や親亡きあと問題解決策として、非常に有効な方法です。
ただし、安易に家族信託を利用するのではなく、成年後見制度の利用、遺言書の作成など、他の制度と比較検討する必要があります。
財産管理の方法や税金面など、家族にとって最善の方法をとるためにも、一度、信頼できる専門家に相談することをおすすめします。