この記事でわかること
- 生前贈与がバレる理由
- 生前贈与に対して遺留分を請求できる条件
- 遺留分の請求で取り戻せる金額
- 遺留分を請求する方法
- 遺留分を請求するための注意事項
親の遺産が兄弟や姉妹に勝手に贈与されていた。
そんな衝撃的な事実に直面したら、どうすればよいのでしょうか。
遺産を取り戻すことは可能なのか、いくら請求できるのか、どのような手続きが必要なのか、不安に思う方も多いでしょう。
本記事では、「遺留分」という相続の公平性を保障した制度を詳しく解説し、遺留分を請求するための方法を紹介します。
相続人ごとの遺留分の割合や、実際にいくら請求できるのか、そして請求の進め方についてわかりやすく解説します。
生前贈与によって失われた財産を諦める前に、取り戻せる可能性を探りましょう。
目次
勝手に生前贈与されたときはどうする?
親が亡くなる前に、兄弟や姉妹に財産が勝手に贈与されてしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。
遺留分を請求することで、相続分の一部を取り戻せる可能性があります。
民法では、相続人が最低限受け取ることができる「遺留分」という権利を認めており、公平な相続を守る仕組みがあります。
そのため、生前贈与によって自分の取り分が減ってしまった場合でも、適切な方法によって取り戻せる可能性があります。
ここでは、遺留分とは何か、遺留分を請求するとはどういうことなのかについて詳しく説明します。
また、生前贈与がバレる理由や、どの程度の財産を取り戻せるのかについても解説します。
遺留分とは
遺留分とは、相続において一定の法定相続人に保障される最低限の遺産の取り分のことで、以下のように民法で明確に規定されています。
引用:
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
遺留分は配偶者、子、直系尊属(両親や祖父母など)に認められており、兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は1/3、その他の場合は1/2と規定されています。
また、被相続人は遺言で財産を自由に分けることができますが、遺留分は遺言より優先します。
そのため、遺言で他人や他の相続人に遺留分を侵害された場合も、遺留分を請求することができます。
遺留分侵害額請求権とは
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された相続人が、その侵害者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です。
この権利は、被相続人の遺言や生前贈与によって遺留分が侵害された場合に行使できます。
請求期限は、相続の開始と遺留分が侵害された事実を知った時から1年以内、または相続開始から10年以内です。
また、請求を行使してから5年以内に金銭を受け取らない場合、その権利は消滅します。
この制度により、被相続人の意思を尊重しながらも、相続人の最低限の権利を保護することが可能です。
遺留分侵害額請求権は2019年の民法改正で導入され、それ以前は遺留分減殺請求権として認められていました。
従来は不動産などの現物請求も可能でしたが、現在は金銭の請求に限定されています。
生前贈与がバレる理由
生前贈与は、相続時や税務調査で発覚することが多く、隠し通すのは難しいものです。
バレてしまう主な理由のひとつに、贈与税の申告漏れがあります。
年間110万円を超える贈与には贈与税がかかり、税務署は最大5年前まで遡って調査を行います。
不動産登記簿や預貯金の入出金記録は、資金の動きを明確に示すため、大きな金額の移動が見つかることも少なくありません。
また、相続時の財産目録や遺産分割、遺言書との不一致からの発覚、あるいは相続税申告時に判明することもあります。
受贈者の収入に見合わない生活により気づく場合もあります。
親の介護中に資産状況の変化、家族間の会話から情報が漏れることもあります。
このように、様々な要因から生前贈与が発覚する可能性があるため、秘密にするのは決して容易ではありません。
生前贈与に対して遺留分を請求できる条件
遺留分を請求するには、以下の条件が必要です。
- 1年以内の生前贈与であること
- 死亡前10年以内に相続人に対して行われた特別受益であること
- 贈与する人(贈与者)と贈与される人(受贈者)双方が、遺留分を侵害することを知っていたこと
これらの条件を満たしていれば、遺留分を請求することができます。
特別受益とは、「婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与」とされています。
以下のものが該当します。
- 高額な結婚持参金や支度金
- 不動産購入資金
- 多額の事業資金
- 多額の教育費
- 扶養の範囲を超える援助
しかし、特別受益にあたるかどうかの判断は容易ではありません。
贈与された金額や遺産全体とのバランス、被相続人の社会的地位や収入にも関係します。
また、扶養の範囲かどうかの判断、被相続人との関係、各相続人の生活状況(健康や経済状況など)など総合的に考慮する必要があります。
特別受益はケースによって判断が難しいため、適切な対応を取るには専門家に相談することをおすすめします。
遺留分で請求できる金額
遺留分の割合は民法で定められており、相続人の構成によって決まります。
ここでは、遺留分の割合と具体的な計算例を解説し、生前贈与された財産をどの程度取り戻せるのかを明らかにします。
遺留分が請求できる割合
遺留分を請求できる割合は、相続人の構成によって異なり、実際に請求できる金額も異なります。
以下では、相続人の構成による遺留分や、実際に請求できる遺留分を表にまとめました。
参考にしてください。
相続人の構成 | 法定相続分 | 総体的遺留分 (民法1024条) |
遺留分 (相続財産に対する遺留分) |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 1 | 1/2 | 1/2 |
子のみ | 1(人数割) | 1/2 | 1/2(人数割) |
親のみ | 1(人数割) | 1/3 | 1/3(人数割) |
兄弟姉妹のみ | 1(人数割) | なし | なし |
配偶者と子 | 配偶者:1/2 子:1/2(人数割) |
1/2 | 配偶者:1/4 子:1/4(人数割) |
配偶者と親 | 配偶者:2/3 親:1/3(人数割) |
1/2 | 配偶者:2/6 親:1/6(人数割) |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 |
1/2 | 配偶者:1/2 兄弟姉妹:なし |
親が亡くなり、兄弟や姉妹に勝手に生前贈与されたケースでは、上記の表の場合、赤字の部分が該当します。
請求できる金額の計算例
以下の事例で計算してみましょう。
- 母が死亡(父は既に他界)
- 相続人は、長男、二男、長女の3人
- 相続財産は2億円
- 長男が母の死亡前1年以内に1億円の生前贈与を受けていたことが判明
この場合、遺留分は以下のように計算されます。
まず、遺留分を算定する基礎財産は、相続財産2億円に生前贈与1億円を加え、合計3億円となります。
子のみが相続する場合、遺留分は法定相続分の1/2と定められているため、総遺留分は3億円の1/2で1億5000万円です。
これを3人で均等に分けると、それぞれの遺留分は5,000万円になります。
したがって、二男と長女はそれぞれ5,000万円を遺留分として、長男に請求できる権利があります。
遺留分を請求する流れ
遺留分の請求には、適切な準備と手順が必要です。
ここでは、遺留分を請求するための準備と具体的なプロセスを解説します。
遺留分を請求する準備
遺留分を請求するには、まず相続財産の全容を把握することが重要です。
被相続人の預金通帳、不動産登記簿、株式などの資産情報を集め、相続財産を把握しましょう。
次に、贈与契約書や銀行振込記録など、過去の生前贈与の記録も確認します。
各相続人の法定相続分と遺留分の計算も必要です。
法定相続分や遺留分の計算は、相続人の構成や人数によって変わるので、正確に把握しましょう。
また、遺言書がある場合はその内容も確認します。
これらの情報をもとに、自分の遺留分がどれくらい侵害されているかを計算します。
準備が整ったら、弁護士に相談するのもよいでしょう。
遺留分を請求するプロセス
遺留分を請求するには、まず遺留分を侵害している相手と話し合いで解決を試みます。
話し合いが難しい場合は、配達証明付きの内容証明郵便を送りましょう。
配達証明付きの内容証明郵便は、発送日を特定できるため、時効の前に請求したことを証明できます。
また、内容証明郵便は裁判でも認められる法的文書であるため、相手に事の重要性を伝える意味もあります。
内容証明郵便を送っても相手が動かない場合は、遺留分侵害額請求の調停を申し立てることができます。
調停でも合意できない場合は、遺留分侵害額請求の裁判を起こすことになります。
いずれの場合も法的専門知識が必要なため、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
遺留分に関する時効
遺留分には時効という概念があり、放置したまま一定の期間を経ると、遺留分を受け取る権利が時効によって消滅します。
以下では、遺留分の時効について詳しく説明します。
遺留分の請求に関する時効とは?
遺留分の請求に関する時効には、以下の3つがあります。
- 短期消滅時効:相続開始と遺留分侵害の両方を知った時から1年以内
- 除斥期間:相続開始から10年以内
- 金銭債権の消滅時効:遺留分侵害額請求権を行使してから5年以内
遺留分は、相続開始の事実と遺留分侵害の事実の両方を知ってから1年以内に請求する必要があります。
さらに、相続開始から10年経過すると、それらの事実を知らなくても請求できなくなります。
また、遺留分侵害額請求権を行使した場合も、5年以内に具体的な金銭の支払いを受ける必要があります。
これらの期限内に行動を起こさないと、遺留分請求の権利が失われる可能性があるため注意しましょう。
ただし、時効の更新や完成猶予によって、期限の更新や延長ができます。
具体的にはどのように行うのかを見ていきましょう。
時効を更新または完成猶予をする方法
時効の更新とは、一度進行していた時効のカウントをリセットし、新たにカウントし直すことを指します。
また、時効の完成猶予とは、時効期間が過ぎる前に時効の完成を一定の期間、先延ばしすることです。
一定の行為によって、遺留分を請求できる期限を延ばすことができます。
以下は、遺留分に関する時効の更新と完成猶予ができる主な行為です。
- 配達証明付き内容証明郵便での請求:6カ月間の完成猶予
- 債務の承認:相手方の事実認識、一部支払いで時効の更新
- 調停の申立て:調停が終わるまで時効の完成猶予
- 訴えの提起:裁判が終わるまで時効の完成猶予
- 確定判決、調停成立:時効の更新(金銭債権は新たに5年の時効開始)
これらの方法は、1年の短期消滅時効と金銭債権の5年の消滅時効に有効です。
ただし、相続開始から10年の除斥期間は更新できないため注意しましょう。
まとめ
兄弟や姉妹に勝手に生前贈与が行われていた場合、感情的になりがちですが、まずは遺留分の計算を行い、冷静に対処することが大切です。
最もシンプルな方法は、贈与を受けた兄弟姉妹と話し合い、遺留分を取り戻すことです。
しかし、話し合いが難しい場合や合意に至らない場合は、法的知識が必要となるため、専門家に相談するのが賢明です。
特に、特別受益に該当するかどうかの判断は複雑で、法律の知識だけでなく総合的な判断が求められます。
不安を感じた場合は、専門家のアドバイスを受けながら適切に対応し、自身の相続権を守りましょう。