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最終更新日:2024/9/25

換価分割とは?メリット・デメリットや手続きの流れについて

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 換価分割の特徴とメリット&デメリット
  • 換価分割の手続き方法
  • 換価分割をする場合の遺産分割協議書の記載例

遺産に不動産がある、相続人の人数が多く疎遠になっている方もいるなど、様々な問題があり、遺産をどのように分割したらよいか不安を抱えている方もいるでしょう。

遺産を分割する方法は、大きくわけて次の3つがあります。

  • 現物分割:遺産をそのまま分配する
  • 代償分割:特定の方が遺産を相続し、代償金を他の相続人に支払う
  • 換価分割:遺産を売却し、現金にして分配する

現物分割では相続する金額に偏りが生じてしまう場合、相続する金額が多い人から代償金を支払って調整する方法があります。
これを代償分割といいます。

しかし、相続する遺産を巡り感情的になってしまうケースも多く、財産の評価額について異議を唱える相続人が出るかもしれません。

そのような場合に有効なのが、換価分割という方法です。

ここでは、3つの遺産分割方法のメリット・デメリットや、換価分割の手続き方法などを解説します。

目次

換価分割とは

換価分割とは、遺産を売却して現金化した後、それぞれの相続分で公平に分配する方法です。

夫が亡くなり、妻と子ども2人が相続する場合を例に分割方法の違いを確認してみましょう。

  • 相続人:妻、子ども2人
  • 遺産:自宅の土地建物3,000万円、預貯金600万円、車400万円
  • 法定相続分:遺産総額4,000万円=妻2,000万円、子どもA 1,000万円、子どもB 1,000万円

現物分割の場合

現物分割は遺産をそのままの形で相続するため、次のような分配になります。

  • 妻 自宅3,000万円、子どもA 預貯金600万円、子どもB 車400万円

自宅の金額が3,000万円と大きく、妻が法定相続分2,000万円より多く相続しますが、相続人全員の合意があればこのような分配でも問題ありません

代償分割の場合

代償分割は、遺産を多く相続する人から他の相続人へ代償金を支払って相続額を調整する方法です。

先ほどと同じ分配で考えてみましょう。

  • 妻 自宅3,000万円、子どもA 預貯金600万円、子どもB 車400万円

この場合、妻は法定相続分2,000万円との差額1,000万円を代償金として子どもAとBに支払います。

  • 妻 自宅3,000万円-代償金の支払1,000万円=2,000万円
    子どもA 預貯金600万円+代償金400万円=1,000万円
    子どもB 車400万円+代償金600万円=1,000万円

代償金をあわせて、法定相続分と同じ割合となるよう公平に調整します。

換価分割の場合

換価分割の場合、まず金銭以外の遺産を売却します。
この事例では、自宅3,000万円と車400万円が該当します。

  • 自宅3,000万円-売却の諸費用350万円=2,650万円
    車400万円-売却の諸費用50万円=350万円

手元に残った計3,000万円と預貯金600万円とあわせて、現金3,600万円を分配します。

  • 現金 妻 1,800万円、子どもA 900万円、子どもB 900万円

諸費用の計400万円が遺産総額から減少しますが、各相続人の相続額が不公平に偏らず、代償金も必要ありません

換価分割のメリット・デメリット

ここからは、換価分割のメリット・デメリットをそれぞれ確認していきましょう。

換価分割のメリット

換価分割は、次のようなメリットがあります。

相続人間で遺産の評価額を巡る争いが起きにくい

遺産分割の話し合いでは、分配する財産やその評価額を巡って争いが起きる可能性があります。

先ほどの事例でいうと、評価額400万円の車を相続した子どもBが「車の価値が分配されるべき相続分に足りていない」と主張するような場合です。

換価分割は、遺産を金銭で公平に分配できるため、争いが起きにくいというメリットがあります。

代償金を用意する必要がない

先ほどの事例の自宅のように、相続財産の中に高額なものがある場合、取得した相続人が他の相続人から代償金の支払いを求められる可能性があります。

特に不動産は代償金が高額になるケースも多く、相続人する方にとって支払いが難しい場合、代償金が不要な換価分割はメリットが大きいといえるでしょう。

相続税の支払いにあてることができる

遺産に不動産が多く含まれている場合などは、相続税が高額となる可能性があります。

相続税は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」が申告期限であり、それまでに納税現金を用意しておかなければならなりません。

納税資金のために換価分割を利用するのもよいでしょう。

換価分割のデメリット

一方、換価分割は次のようなデメリットに注意しなければなりません。

売却の手間や諸経費などが発生する

不動産や家財などを売却する際には、仲介業者を利用する、あるいは自身で買手を見つけるといった手間がかかります。

仲介業者を利用する場合、手数料などの諸経費は分配される遺産総額から差し引かれます

また、売却価格は市場の売手と買手の需給によって変動するため、事前に調べた評価額より安値での売却となる可能性もあるでしょう。

動産や不動産の形そのままで相続ができなくなる

相続財産に含まれる不動産に住み続けたい方や手放したくない遺産がある方がいる場合、売却について合意を得ることが難しいでしょう。
自宅は相続人が住む以外に、賃貸に出す、資産価値が上がるまで待って売却するといった利用方法もありますが、売却するとそういった利用もできなくなります。

譲渡所得税がかかる可能性がある

譲渡所得税とは、資産を売却したときに得る利益に対して課税される税金です。

換価分割では、各相続人が分配された代金の割合でその資産を取得し、売却したことになります。
そのため、譲渡所得の申告も各相続人がそれぞれ行わなくてはなりません

なお、居住用財産を取得した場合の特別控除など特例措置を利用できる場合もあります。

換価分割が適しているケース

換価分割が適しているのは、特に次のような場合です。

相続人間の話し合いが難しい場合

亡くなった方の生前あらかじめ相続人同士で話し合いができているケースでは、いざ相続が開始した後も問題が起きる可能性は低いでしょう。

しかし、相続人同士が疎遠となっている場合や、普段から仲が悪い場合など、分割方法でお互いに協力や譲歩や、建設的な話し合いを行うのが難しいケースもあります。

様々な事情で相続人間の話し合いが難しい場合、公平に現金で分割できる換価分割が適しているといえます。

相続する不動産に使用予定がない場合

亡くなった方が一人で住んでいた自宅などは、相続人全員にとって居住や賃貸などの使用予定がない場合、空き家になってしまい、維持管理をしなければ資産価値が下がる可能性があります。
不動産を取得した相続人は、固定資産税も継続的に負担しなければなりません。

相続する不動産に使用予定がない場合、換価分割で現金化した方がよいケースもあるでしょう。

代償金や相続税の支払いが高額になる場合

相続はいつ開始するか予測できない場合も多く、タイミングによっては相続人の手元にまとまった現金がないこともあるでしょう。

現金がないにも関わらず、高額な代償金や相続税の負担が必要になる場合、換価分割が適しているといえます。

換価分割をするときの流れ

換価分割は、次の流れで行います。

1.相続人全員の合意を得る

遺産分割を換価分割の方法で行うことについて、相続人全員の合意で決定します。

2.遺産分割協議書を作成する

相続人全員が合意したことを書面に残すため、遺産分割協議書を作成します。

3.不動産所有者の名義を相続人へ変更する

遺産に不動産がある場合、亡くなった方の名義のままでは売却できないため、不動産登記を相続人の名義へ変更します。

4.売買取引を行い現金化する

仲介業者などに依頼して売買を行い、財産を現金化します。

5.現金を相続人間で分配する

遺産分割協議書で定めた内容の通り、相続人間で現金を分配します。

換価分割をするときの遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書は、役所や法務局で書式をもらえるものではなく、相続人が作成します。
不動産登記で名義を変更するときに添付する必要があり、不備があると手続きができない可能性があるため、弁護士などの専門家に作成を依頼するとよいでしょう。

換価分割をするときの遺産分割協議書は、主に次の2種類にわかれます。

  • 換価分割する財産を共同所有にした場合
  • 換価分割する財産を一人の代表者名義にした場合

それぞれの注意点と記載例を確認していきましょう。

換価分割する財産を共同所有にした場合

相続人全員の共有名義にする場合、相続人間で一人の代表者を選ぶ必要がありません。

ただし、相続人全員が売買取引の当事者として売買契約書などに署名押印する必要があります

遺産分割協議書の具体的な記載例は、次の通りです。

換価分割する財産を一人の代表者名義にした場合

一人の代表者名義にした場合、他の相続人からの贈与とみなされてしまう可能性があるため、次の内容を明記する必要があります。

  • 換価分割を選択したこと
  • 一人の名義にしたこと
  • 売買代金は相続人間で分配すること

具体的な記載例は次の通りです。

換価分割をするときにかかる税金

換価分割をするときに課税される税金・課税されない税金は次の通りです。

換価分割をするときに課税される税金

資産を売却して得た利益には、譲渡所得税がかかります
金額は次の計算で算出できます。

  • 譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)

譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有年数により、次のように変わります。

  • 所有年数5年以内:所得税30%+住民税9%+復興特別所得税
  • 所有年数5年超:所得税15%、住民税5%+復興特別所得税

売却価格に相続税は課税されない

相続税は、相続が開始したときの相続財産の「評価額」に対してかかります。
換価分割をした場合、財産を売却したとき価格には相続税は課税されません

換価分割するときの注意点

換価分割をする場合、次のような点に注意しましょう。

贈与税が発生しないように注意する

換価分割する財産を一人の代表者名義にした後、売却されない場合は他の相続人からの贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があります。
遺産分割協議書に「換価分割のために名義変更する」旨が明記されていれば、基本的に贈与税は課税されません。

ただし長期間売却をしないままだと、実質的に贈与とみなされるケースもあるため注意しましょう。

各種特例を利用する

換価分割では、次の特例を利用すると譲渡所得税を軽減できます。

適用の可否については事例によって異なるため、、専門家に相談するとよいでしょう。

取得費加算の特例

相続財産を申告期限から3年以内に売却した場合、相続税の一部を取得費に加算できる特例です。

取得費が増額すると譲渡所得が減少するため、譲渡所得税が軽減されます。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

亡くなった方が一人で住んでいた自宅など、空き家となった不動産を相続後3年以内に売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。

なお、上記の「取得費加算の特例」と併用することはできません。

マイホーム売却特例

居住用の不動産(マイホーム)を売却して利益を得た場合、売却利益から3,000万円までを控除できる特例です。

亡くなった方の自宅に相続人が同居しており、自宅の相続後、相続人から売却する際などに利用できます。

まとめ

換価分割は、不動産が相続財産の中心となる場合や、相続人間で不公平感なく分配したい場合に有効な遺産分割方法です。
ただし、手続きを間違えると贈与税が発生するケースもあるため、専門家である弁護士に相談しながら進めるのが望ましいでしょう。

相続によっては不動産以外にも高額な遺産が多く、遺産分割協議書に記載する内容が複雑になる場合もあります。

相続はいつ開始するか予測できないのが一般的であるため、備えておくことは難しいかもしれません。
ただ、遺産分割の方法に不安がある場合は、相続開始後できるだけ早い時期に弁護士に相談しておくとよいでしょう

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