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最終更新日:2024/8/21

換価分割と代償分割の違いとは?それぞれが適しているケースを紹介

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 換価分割と代償分割の違い
  • 換価分割が適しているケース
  • 代償分割が適しているケース

「子ども2人が親の不動産を相続したが、どちらも遠方に住んでいてその不動産を必要としていないので、売却して代金を分けることで意思が一致している。税金などの負担が少なく済む方法を知りたい」

このような場合、換価分割による方法と、代償分割による方法があります。

どちらをとるかで、譲渡所得税や社会保険料などの負担に違いがあります。
特に譲渡所得税については控除制度を利用できるかどうかによって差が大きくなるため、慎重な検討が必要です。

今回は、換価分割と代償分割の違いについて、それぞれが適しているケースとあわせて解説します。

換価分割とは

換価分割とは、不動産を売却して売却代金を相続人に分配する方法です。

不動産を売却してから、経費を差し引いて残った金額を法定相続割合に応じて分割します。

代償分割とは

代償分割とは、不動産や非上場会社の株式など、分割できない財産を一人の相続人が取得して、その代わりに他の相続人に対して法定相続割合に応じた代償金を支払って解決する方法です。

たとえば、評価額4,000万円の不動産を兄(長男)・妹(長女)2人の子どもが相続して代償分割を行う場合、長男が不動産を取得した上で長女に対して代償金2,000万円を支払う方法になります。

換価分割と代償分割の違い

換価分割と代償分割の違いとして、以下のものが挙げられます。
特に、代償分割によって不動産を取得した相続人が不動産を売却した場合に、譲渡所得税の負担についての違いが大きくなります。

譲渡所得税の負担の違い

不動産を売却すると、売却益の約20%が譲渡所得税及び住民税として課税されます。

たとえば、売却益が4,000万円であれば、税金は約800万円となります。
仮に相続人が子ども(長男長女)2人の場合、換価分割と代償分割で税負担がどのようになるか見てみましょう。

換価分割の場合の税負担

換価分割を行った場合、各自の売却益は2,000万円ずつとなります。
譲渡所得税・住民税として400万円ずつ支払うことになるので、手元に残るのは1,600万円ずつです。
ただし、仮に長男が相続不動産に居住していた場合は、「居住用財産の譲渡に係る特例(通称マイホーム特例)」が適用され、売却益に対して最高3,000万円の控除が認められます(租税特別措置法第35条1項)。ます。

評価額4,000万円の不動産に対して換価分割を行う場合、長男と長女共同して不動産を売却したことになります。
この場合は、長男と長女に譲渡所得税・住民税が課されます。

当該不動産に居住していた長男については、売却益2,000万円に対してマイホーム特例を利用できるので、譲渡所得税はかからないことになります。

しかし、別居していた長女に対してはマイホーム特例が適用されないため、売却益2,000万円に対して譲渡所得税がかかり、手元に残るのは1,600万円となります。

代償分割の場合の税負担

これに対して、代償分割を選択して長男が不動産を相続した場合、原則としては長男のみが譲渡所得税・住民税を800万円負担することになります。

仮に、長女に対して支払う代償金を売却益の半分の2,000万円としていると不公平になるので、あらかじめ売却益から譲渡所得税・住民税分を差し引いておく必要があります。

ただし、長男が当該不動産に居住していた場合は、売却益4,000万円に対してマイホーム特例の適用を受けられるので、課税対象となるのは4,000万円-3,000万円=1,000万円分となります。

長男の税負担は20%の200万円となるので、これを売却益から差し引いた額を2等分した1,900万円を代償金として長女に支払うことになります。

換価分割を行った場合と比較すると、特に長男が相続以前から不動産に居住していた場合に、長女の税負担に300万円の差が生じることになります。

以上について、それぞれの譲渡所得税等の負担額を表にまとめると以下のようになります。

換価分割した場合の譲渡所得税
等の負担額
代償分割した場合の譲渡所得税等の負担額(売却益から税負担分を差し引いて等分した額を
代償金とした場合)
長男が不動産に居住・次男別居 長男 なし
長女 400万円
長男 100万円
長女 100万円
長男長女とも不動産に居住していない 長男 400万円
長女 400万円
長男 400万円
長女 400万円

社会保険料の負担の違い

相続した土地の売却益(不動産所得)が課税所得に参入されるため、社会保険料の負担が増える可能性があります。

換価分割を行った場合と代償分割を行った場合で、社会保険料の負担が増えるか否かにも違いが出ます。
社会保険には、自営業者が加入する国民健康保険と、会社員が加入する各種社会保険、公務員の共済などがあります。

では、国民健康保険の場合と社会保険・共済の場合に分けて説明します。

国民健康保険料に加入している場合

国民健康保険では、不動産の売却益が加入者の課税所得に加算されるため、翌年度の保険料が増える可能性があります。

前出の例で、長男が自営業者で国民健康保険に加入していた場合、換価分割では売却益分の不動産所得が2,000万円、代償分割では4,000万円となります(社会保険料との関係では、控除の特例の適用はありません)。

社会保険・共済に加入している場合

各種社会保険・共済の場合、不動産の売却益が加入者の保険料に影響することはありません。
このため、換価分割・代償分割いずれの場合も、長男の保険料は増えないことになります。

ただし、扶養されている家族の収入が売却益によって増えると、扶養から外れて社会保険料を負担することになります。

換価分割の場合、長女も不動産所得を2,000万円得たことになります。
長女が社会保険や共済に入っている場合は保険料への影響がないのですが、夫の扶養に入っていた場合は、扶養から外れて社会保険料を負担することになります。

代償分割の場合は、代償金は不動産所得にならないので収入は増えず、相続による社会保険料負担の問題は生じません。

換価分割が適しているケース

換価分割が適しているケースとしては、以下のような場合が挙げられます。

相続人が活用できない財産がある場合

相続人が活用できない財産がある場合は、換価分割が適しています。

たとえば、以下のような場合です。

  • 被相続人が亡くなり、実家が空き家になってしまった
  • 被相続人が株を所有していたが相続人に株取引の知識がない

このような場合は、財産を取得しても利用できず維持費の負担が増えるだけであることや、損失が発生するなど、デメリットばかり大きくなってしまいます。

そのような状況に陥らないために、財産を換金して相続できる換価分割を選択するのが適切といえます。

代償分割に必要な現金を用意できない場合

代償分割を行うための現金を用意できない場合は、事前に資金を準備する必要のない換価分割を行うことがおすすめできます。

代償分割を行う場合、不動産を相続した相続人は、他の相続人に支払う代償金として多額の現金を用意しておかなければなりません。
家にそのまま住み続けたいなどの事情がある場合は、相続財産を担保として、必要な現金を金融機関から借り入れるなどの対応を行うことになります。

しかし、他にローンなどの借金がある場合、借入れができない可能性もあれば、借入れができたとしても、利息付で返済する義務を負うことになり得ます。

これらのリスクを避けるためには、換価分割によることが適切といえるでしょう。

所得税・相続税の支払資金が必要な場合

対象財産が不動産の場合、相続税の支払いは現金で行わなければなりません。

さらに、譲渡所得税が課税される場合もあります。
相続財産を担保に銀行などから納税資金を借り入れるという方法もありますが、借金をしたくない、あるいは信用状況に問題があるため借入れが難しいという場合もあるでしょう。

税金支払いのために借金したくない、または借入れが困難という場合は、換価分割による相続が最適の方法といえます。

代償分割が適しているケース

一方、代償分割を行うことが適切なのは、以下のような事情がある場合です。

被相続人と同居していた相続人が家に住み続けたい場合

この場合、換価分割を行うと家を売却しなければならなくなるので、適切な方法ではありません。

代償分割を行うと、被相続人と同居していた相続人が不動産を単独で相続でき、かつ自分の意思で管理や処分ができます。

また、他の相続人も代償金を受け取ることができるメリットがあります。

被相続人が経営していた会社を特定の相続人が引き継ぎたい場合

この場合、事業を承継する相続人が事業用不動産や他の事業用資産、非公開株式などを取得する必要があるので、換価分割を行うには適していません。

代償分割を行うと、分割が難しい事業用の財産を承継者の相続人が取得して、他の共同相続人に代償金を支払う方法が合理的といえます。

居住していた不動産を売却したい場合

前述したように、相続人の1人が相続以前から居住していた不動産を売却して、代金を他の相続人と分けることを希望する場合には、マイホーム特例により譲渡所得税等の負担が少なくなる代償分割が適しています。

ただし、代償分割の方法をとる場合は、代償金の金額を売却手数料や譲渡所得税、相続税などの負担分を差し引いた上で按分するよう、他の相続人の同意を得ておく必要があるでしょう。

まとめ

換価分割と代償分割には、それぞれメリットとデメリットがあります。

相続人間で「財産を売却する」旨の合意がある場合でも、どちらによるのが適切かは個別の事情によって異なります。
財産を売却する場合は、一般的には換価分割による方がリスクは少なく安全といえます。

しかし、換価分割では通常相続人が共同で売却する方法をとるため、手続きのすべてに相続人全員の承認と押印が必要となります。

共同相続人の各自が、売却手続きに手間がかかることについて理解していなければ、煩雑さへの不満からトラブルになる可能性もゼロではありません。

一部の相続人に過度の負担が生じること、不公平な財産分配による相続人間のトラブルを予防するためには、事前に弁護士などの相続問題の専門家に相談することをおすすめします。

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