この記事でわかること
- 相続税と所得税の違いがわかる
- 相続後に所得税の確定申告が必要になるケースがわかる
- 相続税申告の流れがわかる
相続が始まると様々な手続きが発生するため、遺族にとっては大きな負担になってしまいます。
ゆっくりと故人を偲びたいところですが、相続手続きのほとんどは期限付きなので、平穏な日常を取り戻すまでには少し時間がかかるでしょう。
取得財産の種類によっては相続人にも所得税が課税されるので、相続税と所得税それぞれの違いを理解しておく必要があります。
今回は、相続発生後の確定申告について解説しますので、遺産相続された方はぜひ参考にしてください。
【相続税・所得税の違い】遺産相続をしたときに確定申告は原則不要
相続税は故人からの相続財産、または遺贈された財産に課税されますが、確定申告・年末調整の所得税は「収入-経費」で利益が出た場合に課税されます。
亡くなった方に収入があれば所得税の課税対象になりますが、相続税とは性質が異なる税金なので相続した財産に所得税がかかることはありません。
そのため、遺産を相続したときには、原則として確定申告は不要です。
ただし、所得税がかかる相続財産も一部あるため、相続財産なのか、収入から発生する所得税なのか両者の違いを十分に理解しておく必要があります。
遺産相続で相続人の確定申告が必要になるケース
以下のようなケースでは、相続人の確定申告が必要になるので、忘れないよう十分に注意してください。
- 死亡保険金を受け取った場合
- 賃貸事業用の不動産を相続した場合
- 相続財産を売却した場合
- 相続財産を寄附した場合
- 相続財産を換価分割した場合
では具体的な内容や確定申告の方法などを解説していきましょう。
死亡保険金を受け取った場合
生命保険の契約形態によっては、死亡保険金を受け取った際に所得税が発生するため、確定申告が必要になります。
具体的には、生命保険の被保険者が母親で、契約者と保険料負担者が子ども(相続人)だった場合、母親の死亡によって受け取る保険金には所得税がかかります。
また、死亡保険金を一時金として受け取ると一時所得になり、課税される部分の金額は以下のように計算します。
年金形式で死亡保険金を受け取る場合は雑所得になり、受取額から払込済みの保険料や掛金を控除して計算しますが、受取時の所得税は源泉徴収になります。
賃貸事業用の不動産を相続した場合
アパートやマンション、駐車場などの土地や建物を相続すると、賃料収入の確定申告が必要です。
仮にマンション経営をしていた親が6月30日に亡くなった場合、1月1日から6月30日の家賃収入は本人の代わりに相続人が準確定申告します。
7月1日から12月31日までの家賃収入は相続人の所得になるため、確定申告が必要になります。
遺産分割協議で賃貸物件の相続人を決める場合、承継者が決定するまで賃料は法定相続分に応じて各相続人が取得するため、相続人全員の確定申告が必要です。
青色申告を引き継いだ場合は税務署の承認が必要
被相続人が不動産所得や事業所得を青色申告しており、相続人も引き続き青色申告する場合は「青色申告承認申請書」を税務署へ提出します。
青色申告承認申請書には提出期限があり、被相続人の死亡日に応じて次のようになっています。
死亡日が1月1日~8月31日 | 死亡日から4ヶ月以内 |
---|---|
死亡日が9月1日~10月31日 | 12月31日まで |
死亡日が11月1日~12月31日 | 翌年2月15日まで |
相続財産を売却した場合
相続によって取得した財産を売却(譲渡)し、利益が出ていれば確定申告が必要です。
利益の有無は以下の計算式で求めますが、結果がプラスであれば利益が出ている状態です。
不動産の場合は購入費が取得費になり、不動産会社の仲介手数料などが諸経費になります。
特別控除にはいくつかの種類があり、条件によっては譲渡所得から3,000万円を控除できる制度もあります。
なお、相続した不動産や株式を売却した場合、相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」が使えます。
相続開始を知った日の翌日から3年10ヶ月以内に売却(譲渡)する場合に使えるので、詳しい計算方法などは税理士に尋ねてみるとよいでしょう。
相続財産を寄附した場合
相続した財産を第三者に寄附することがあります。
この場合、確定申告する義務はないので、確定申告しないまま放置しておいても問題ありません。
ただし、寄附した相手先によっては、確定申告すると所得税などの税額が軽減されることがあります。
これは、寄附金控除という所得控除の制度、あるいは税額控除の制度の適用が受けられるためです。
対象となる相手先は限定されているので、その中身について寄附をする前に確認しておく必要があります。
相続財産を換価分割した場合
換価分割とは、相続した財産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分割する遺産相続の方法です。
遺産相続の一環として行われるものですが、財産を売却した際に売却益が発生すれば確定申告が必要になります。
換価分割により財産を売却した場合、それぞれの相続人は売却後の代金の配分割合により、その財産を譲渡したこととされます。
そのため、相続人代表が1人だけ確定申告すればいいというわけではなく、換価分割にかかわるすべての相続人が確定申告を行う必要があります。
居住用財産の特別控除や空き家の特別控除の適用を受けられる相続人もいるので、忘れずに適用を受けるようにしましょう。
被相人続の確定申告が必要になるケース
被相続人に確定申告義務があるものの、申告する前に亡くなってしまった場合には、相続人が確定申告義務を引き継いで申告しなければなりません。
この申告のことを準確定申告といいます。
準確定申告が必要になるのは、年の途中で亡くなった場合、あるいは確定申告を行わないまま1月1日〜3月15日の間に亡くなった場合です。
準確定申告とは
準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の途中までに発生した所得金額を求め、それに対する所得税額を計算し申告することです。
通常、所得税の税額を計算し申告するのは、所得が発生した本人です。
1月1日〜12月31日までに発生した所得金額を計算し、それに対する所得税額を求めた確定申告書は、翌年2月16日〜3月15日の間に申告します。
ただし、相続が発生した場合は、亡くなった本人が申告し納税することはできないため、代わりにその相続人が申告と納税を行うこととされています。
なお準確定申告は、被相続人の最後の住所地を所轄する税務署に対して、申告・納付を行います。
準確定申告をしなければならないケース
相続人が準確定申告をしなければならないケースには、以下のようなものがあります。
- 不動産所得や事業所得が発生していた場合
- 2か所以上の事業所から同時に給与の支給を受けていた場合
- 給与収入が年間2,000万円超となっていた場合
- 不動産や株式の売却を行った場合
- 公的年金等の収入が400万円超となっていた場合
給与収入2,000万円以下の給与所得者、公的年金の収入額400万円以下の年金受給者は、準確定申告は不要です。
また、申告義務はありませんが、準確定申告の内容によっては、給与所得者や年金受給者であっても、準確定申告すると税金が還付されることがあります。
準確定申告の申告期限は4ヶ月以内
確定申告に期限が設けられているように、準確定申告にも申告・納付の期限があります。
準確定申告の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内とされています。
また、1月1日~3月15日までの間に被相続人が亡くなって、前年の申告と納付が完了していない場合も、同じく被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告しなければなりません。
なお、準確定申告で還付を受ける際は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から5年間まで認められます。
納税義務が発生しないため、申告期限はありませんが、還付申告できる期間にも限度があるということになります。
準確定申告の所得控除
準確定申告を行う際には、基本的に通常の確定申告と同様の所得控除が適用されます。
特に適用されることの多い項目について、ご紹介します。
医療費控除
被相続人が亡くなる日の属する年に支払った医療費の合計額となります。
生命保険金などを受け取った場合は、その金額を差し引いた残りの金額となります。
また、亡くなった後に相続人が被相続人について発生した医療費を支払うことがありますが、この金額は対象外となります。
社会保険料控除等
被相続人が支払った社会保険料、生命保険料、地震保険料が対象になります。
亡くなるまでに実際に支払った金額のみが、準確定申告における控除額の計算の基礎となり、亡くなった後に発生した金額は含まれません。
配偶者控除、扶養控除
配偶者控除や扶養控除の対象になる人は、所得金額などの要件を満たす必要があります。
その判定は、1月1日〜12月31日の金額を見積り計算して行います。
また、生計を一にしているかどうかの判定は、亡くなった日における状況から判断されます。
相続税申告の流れ
相続が発生すると、相続税の申告を行わなければならない場合があります。
申告までにはいくつもの作業が発生するので、その流れに沿って確認していきましょう。
相続人・相続財産を確定する
相続税の申告書を作成するにあたって、まずは相続人と相続財産を確定させる必要があります。
相続人となるのは、法定相続人です。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、その内容から配偶者や子供がどのような状況にあるかを確認します。
子供がいなければ直系尊属、直系尊属がすでに全員亡くなっているのであれば兄弟姉妹の順に、誰が法定相続人になるのかを決定します。
相続財産については、被相続人が保有していたすべての財産を調べる必要があります。
不動産であれば登記簿謄本を確認し、預貯金や有価証券は金融機関などから残高証明書を取得します。
その他に財産がないか、被相続人の自宅や貸金庫などを調査し、財産目録を作成して相続財産を確定させましょう。
相続方法を選定する
相続の方法とは、以下の3つの方法を指します。
- 1:単純承認(遺産を相続すること)
- 2:相続放棄(遺産を相続しないこと)
- 3:限定承認(財産の金額の範囲内で債務を相続すること)
単純承認する場合は、特別な手続きは必要ありません。
一方、相続放棄や限定承認する場合は、相続開始を知った日の翌日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
なお、相続放棄を行う場合は、相続人ごとに家庭裁判所に申し立てを行うことができます。
そのため、相続放棄する相続人がいる一方で、相続放棄しない相続人もいるという状態になります。
一方、限定承認は相続人全員で申し立てを行わなければなりません。
そのため、限定承認を行いたくても、他の相続人の反対によりできないケースがあります。
遺産分割協議を行う
遺産分割協議とは、相続人全員による話し合いにより、誰がどの遺産を相続するかを決定することです。
被相続人が遺言書を作成していない場合、遺産をどのように引き継ぐかは相続人が決定します。
相続人全員が納得するまで、何度も話し合いは続けられることとなり、時には遺産分割協議が成立するまで何年もかかることもあります。
なお、遺産分割協議が成立したら、その内容を記載した遺産分割協議書を作成し、相続人がそれぞれ保管しておきます。
確定申告を行う
実際に確定申告を行う際には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
税務署に行かなくても申告できる方法もあるので、その内容を解説します。
確定申告に必要な書類
確定申告を行う際は、税務署に申告書をはじめとする書類を提出します。
確定申告に必要になる書類は、以下のとおりです。
- 確定申告書
- 身分証明書類(マイナンバーカード、個人番号の通知カード+運転免許証など)
- 控除証明書(生命保険料、地震保険料、社会保険料など)
- 源泉徴収票(給与所得、公的年金など)
このほか、所得区分によっては青色申告決算書や収支内訳書、計算明細書などの書類を提出します。
確定申告の方法
確定申告を行う際に、税務署に確定申告書を提出する方法は、以下のとおりです。
- 作成した確定申告書を直接所轄の税務署に持参し提出する
- 税務署に必要な書類を郵送する
- 電子申告を行う
確定申告に詳しくない人が申告をする場合は、窓口に直接持参するのが最も間違いの起きにくい方法といえます。
申告に必要な書類など、形式的にチェックしてもらうことができるので、添付漏れの書類がある場合はその場で教えてもらえます。
ただ、それも不安な方は、専門家である税理士に確定申告を依頼するのが一番間違いのない方法といえます。
まとめ
被相続人の準確定申告はあまり知られていないので、気付いたときには申告期限ぎりぎりというケースもあります。
申告期限を過ぎると罰金などのペナルティもありますが、相続手続きは他にもたくさんあるため、相続開始から4ヶ月は決して十分な期間とは言えません。
個人事業主など、確定申告に慣れている方であれば問題ありませんが、不慣れな方や経験のない方には大きなストレスになるでしょう。
亡くなられた家族に一定所得があった場合、準確定申告が必要かどうか、まず相続専門の税理士へ相談してください。