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最終更新日:2025/7/1

親の介護は放棄できる?罪になる?できない場合の対処法

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 親の介護は放棄できない
  • 親の介護が難しい原因
  • 親の介護ができない場合の対処法

親の老いを感じながら、何をどう備えていいのかわからないままになっていませんか。
準備をしないまま実際に介護が始まると、対応しきれず介護放棄を考える原因にもなります。

また、介護問題は兄弟間の不公平感やトラブルの原因になることも少なくありません。
前もって準備をしておくことで、トラブルを回避することができるでしょう。

今回は「親の介護は放棄できるのか」という疑問に答えながら、今からできる対処法を解説します。

親の介護放棄の原因

親の介護を放棄する背景には、単なる感情論では片づけられない事情があります。
ここでは、親の介護放棄が起こる原因について解説します。

要介護度の悪化

親の状態が要支援から要介護へ進行し、日常生活のほぼすべてに介助が必要になると、家族の負担が急激に増します
特に認知症の症状が加わると、徘徊や暴言が見られるようになり、排泄介助などが必要になります。
このことから、介護者が心身共に疲弊するケースが多くなるでしょう。

介護のために離職している場合や、24時間の見守りが必要になると、限界と感じ介護放棄したくなる人は少なくありません。

親と折り合いが悪い

昔からの親子関係のこじれや確執が、介護を放棄したくなる気持ちにつながることがあります。
たとえば以下のようなケースです。

  • 親からの過干渉、暴言、暴力を受けた過去がある
  • 他の兄弟姉妹と差別されてきた
  • 親の性格が自己中心的で話ができない

親だから助けたいという気持ちと、距離を置きたい・関わるとつらいという思いと葛藤することも多くなるでしょう。
この結果、精神的に追い詰められ、介護を放棄せざるを得ない状況になることもあります。

経済的に厳しい

介護にかかる費用は、施設入所費や通院費、オムツ代など様々です。
月に数万円から十数万円にのぼることもあり、家計を圧迫します。
また、家族が介護のために働けなくなれば収入も減少し、経済的に厳しくなります。

以下のような経済的な問題から、継続的な介護ができなくなる家庭も少なくありません。

  • 親の年金だけでは足りない
  • 子どもの教育費や住宅ローンがある
  • 自分の生活もままならない

精神的な負担が重い

介護は身の回りの世話や介助などの身体的疲労だけでなく、精神的な疲労が非常に大きいです。
たとえば、以下のようなものが挙げられます。

  • 先が見えない不安
  • 感謝されない、認められないつらさ
  • 親からの心無い言葉や態度

何のために頑張っているのか、と心が折れてしまうことがあります。
特に介護うつや燃え尽き症候群は周囲にも気付かれにくく、自覚できないうちに限界を超えてしまう危険があります。

一人に負担が集中している

兄弟姉妹がいる場合でも、介護の負担が一人に集中しているケースは非常に多いです。
特に長女や独身の子どもに負担が偏ることが多く、自分だけがつらいという不満がたまりやすいでしょう。

他の兄弟姉妹から金銭的な支援もなく、親のことに無関心であればなおさら孤立し、負担がのしかかります。
孤立した介護環境が、介護放棄や共倒れにつながる原因になります。

親の介護は放棄できる?

結論から言うと、法律上、完全に放棄することはできません。
親子には扶養義務が課せられているためです。
生活を援助する義務があり、介護もこの扶養義務の一部とされることがあります。

しかし「親だから必ず介護しなければならない」という義務はありません。
親との関係性や生活状況、経済的事情などが考慮されます。

ここでは、扶養義務者の範囲や、介護費用の扱いについて解説します。

扶養義務者の範囲とは?

民法877条第1項では「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」と規定されています。
親と子どもは直系血族であり、扶養義務があるとされます。
子どもは実子だけでなく、養子も扶養義務者です。

しかし扶養とは必ずしも、一緒に暮らすことや自ら介護することではありません。
以下のような方法も認められています。

  • 仕送りや施設費の一部負担など経済的援助をする
  • 介護サービスや施設を利用し、第三者に介護を委託する
  • 地域包括支援センターや役所と連携し、公的支援制度を活用する

つまり実際に自分で介護をしなくても、法的扶養義務を果たすことができます。

扶養義務者の優先順位

兄弟姉妹など複数の扶養義務者がいる場合、誰がどのように介護の負担をするかが問題になります。
民法上、明確な優先順位は定められていませんが、実際は以下のような点が考慮され、判断されます。

  • 同居しているか
  • 物理的に介護が可能か
  • 経済力があるか
  • 家族構成や生活環境(子育て中、病気療養中など)

家庭裁判所で扶養調停が行われる場合も、原則、誰か一人に負担を強いることはありません。
合理的に分担することが検討されます。

兄弟姉妹で話し合いができるのであれば、納得する形で役割を分担できるといいでしょう。

介護費用の負担も必要

介護費用は介護者が負担すると思われることが多いですが、原則、親本人が支払いを行います。
介護保険も本人のための制度です。

介護費用には、介護サービスや施設の利用料、医療費などが含まれます。
基本的に親が支払う必要がありますが、本人の年金や貯金だけでは賄えない場合、子どもなどの扶養義務者に対して費用負担が求められることもあります。
費用を支払わなければ施設利用を断られることもあり、その結果、在宅で介護せざるを得なくなるというケースもあります。

ただし足りない分の全額を負担する必要はなく、あくまでも余力の範囲内で構いません。
裁判所の調停を経て、分担割合が決定される場合もあります。

親の介護を避けるために縁を切れる?放棄は罪になる?

介護に関する悩みが深刻化すると、親と縁を切りたい、介護から完全に逃れたいと思う人もいます。
しかし日本の法律では、親子関係を完全に解消することは、原則としてできません。
また、親の介護を放棄した場合、法的な責任を問われる可能性もあります。

ここでは親と縁を切ることができない理由とその対処法、介護を放棄することのデメリットについて解説します。

法的に縁を切ることはできない

法律上、親子の縁を切ることはできません。
離縁制度があるのは、養子縁組のみとされています。
養子縁組は家庭裁判所の許可を得て離縁することができますが、実子にはこの制度は適用されません。

どれだけ親と疎遠であっても、親子関係は生涯続くことになります。

戸籍の分籍で事実上、縁を切ることはできる

完全に法的な縁を切ることはできなくても事実上、関係を断つことは可能です。
以下のような方法があります。

  • 婚姻や分籍によって戸籍をわける
  • 住所を別にして住民票を移す
  • 住所や電話番号を変え、物理的に連絡手段を断つ

連絡がつかない状態にし、介護の事実を知ることができないようにすれば、事実上放棄することはできます。
ただし、あくまで実務的な断絶であって、法的に親子関係が消滅したわけではありません。

たとえば、親が生活保護を申請した場合などには、役所から扶養照会の連絡が来ることがあります。

放棄が罪になる可能性

親の介護を放棄しただけで、直ちに罪になるわけではありません。
しかし一定の条件が重なると、保護責任者遺棄など刑事責任を問われる可能性もあります。

以下のようなケースでは、保護責任者遺棄に該当する可能性があります。

  • 高齢で要介護の親を自宅に放置した
  • 親が病気や認知症で介助が必要と知りながら、食事を与えず放置した
  • 通院や介護サービスの申請もせず、自力で動けない親を放置した

さらにその結果、死に至らしめた場合は、保護責任者遺棄致死に問われる可能性もあります。
一方で、福祉制度や支援機関に相談をしていた場合は、責任を軽減できる場合もあるでしょう。

罪になるならない以前に、放棄は好ましいことではありません。
介護がつらい、限界だと感じたら、早めに専門家や公的機関に相談しましょう。

親の介護放棄に関するトラブル回避のための事前対策

親の介護放棄は、お互いに不平不満がたまった結果であることがほとんどです。
事前にトラブル回避のための対策をしておきましょう。

介護の方針を決めておく

親が元気なうちに、どのような介護を望むか話し合い、明確な方針を立てておくことが大切です。
たとえば、住み慣れた自宅で過ごしたいなど、本人の希望を聞いておくといいでしょう。

また、病気が悪化したときの延命治療についても、本人の意思を確認し、いざというときのために備えておく必要があります。
認知症などによって判断能力が低下してからでは、本人の希望を把握することが難しくなります。

親の財産を把握しておく

介護保険サービスは自己負担1~3割で利用できますが、様々なサービスを利用すると数万円程度は必要です。

親の介護費用は親の財産で賄うのが大前提であるため、親の収入や財産をある程度把握しておくといいでしょう。
財産の範囲内で介護できるように考えると、介護者の負担が少なくなります。

お金の話がしにくい場合は、「友達が親の介護をするようになってお金が大変らしい」など実例をあげながら話をすると、親も受け入れやすいでしょう。

扶養義務者で役割を分担する

兄弟姉妹間でのトラブルを避けるためには、兄弟間で話し合いを行うことが大切です。
現在の仕事や家庭の状況、役割分担、費用分担などを話し合い、誰か一人に負担が集中することのないようにすることがポイントです。

話し合いの際には、自分だけの都合を押し付けないように注意しましょう。

親の介護が難しい場合の対処法

介護者の状況によっては、どうしても直接介護をすることが難しいこともあるでしょう。
ここでは、介護が難しい場合にできる対処法を解説します。

扶養義務者で話し合う

介護が難しいと感じたら一人で悩まず、兄弟姉妹や家族全員で話し合うことが大切です。
それぞれできることとできないことを洗い出し、役割分担を明確にしましょう。

在宅介護または施設入所など、介護の方向性を練り直すことも有効です。
無理をしない、負担の少ない方法を探ることで、介護ができることもあります。

介護サービスを利用する

家族だけで介護することが難しい場合、介護保険制度を積極的に活用していきましょう。
介護保険では、以下のようなサービスを受けることができます。

訪問介護 ホームヘルパーが自宅を訪問し、日常生活を支援
通所介護(デイサービス) 施設に通い、食事や入浴、リハビリなどのサービスを受ける
短期入所(ショートステイ) 短期間施設に入所し、介護を受ける

上記のサービスを利用するには、要介護認定の申請が必要です。
担当のケアマネジャーに相談してみましょう。

公的機関などを頼る

公的機関には、市区町村ごとの役場の介護保険相談窓口や、地域包括支援センターなどがあります。
介護・医療・福祉など高齢者の生活を総合的に支援し、介護保険の申請や、介護サービスの相談にものってくれます。

まずは近隣の窓口に相談に行ってみましょう。

介護費用の軽減制度を利用する

介護にかかる費用を軽減するための制度が、いくつか設けられています。
主に以下のような制度です。

高額介護サービス費制度 介護サービスの自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される
施設の食費・居住費軽減制度 所得に応じて、施設利用時の食費や居住費が軽減される
利用者負担軽減措置 社会福祉法人が運営する施設では、低所得者向けに介護サービス費用の一部を軽減する制度あり

利用している施設や介護状況により異なるため、施設の担当者やケアマネジャーに相談してみましょう。

親の介護で不公平感を持ったときの対処法


親の介護を兄弟姉妹や家族で分担すると、不公平感から不満がたまりやすいものです。
ここでは、不公平感を感じたときの対処法を解説します。

寄与分を主張する

献身的な介護を行い、親の財産額維持に貢献した場合などは、相続時に寄与分として、他の相続人より多くの遺産を受け取ることができます。
ただし、他の相続人全員の同意が必要であり、同意が得られない場合は家庭裁判所に申立てを行うことになります。

寄与分に関しては介護に貢献してきた場合、たとえば息子の配偶者など、本来相続権のない人にも認められる判決が出ています。

生命保険を利用する

親が生前に生命保険契約を結び、介護を担った子どもを受取人に指定することで、保険金を受け取ることができます。
生命保険金は原則として相続財産に含まれないため、介護の労力に対する報酬として活用できます。

介護の負担が大きくつらいと感じた場合は、生命保険の利用を相談してみるといいでしょう。

生前贈与を利用する

親が生前に財産を贈与することで、介護の対価とすることもできます。

ただし、他の相続人が贈与を特別受益として主張した場合、遺産分割の時に持ち戻しの対象となる可能性があるため、慎重に判断しましょう。

遺言書を作成してもらう

親が遺言書の中で、介護をしてくれた子どもに多くの財産を遺贈する旨を明記することで、相続時の不公平感を軽減できます。

遺言書は公正証書遺言や自筆証書遺言などの形式がありますが、公正証書遺言は法的効力が高く、トラブルを避けるために非常に有効です。

扶養請求調停を申し立てる

介護の負担が一部の相続人に偏っている場合、家庭裁判所に扶養請求調停を申し立てると、他の相続人に対して扶養義務の履行を求めることができます。
介護の負担を公平に分担することで、不公平感の解消につながるでしょう。

まとめ

親の介護は、金銭的な負担や拘束される時間が長いなど、精神的ストレスが非常に大きい問題です。
誰か一人に負担が偏ることで不公平感が生まれやすく、介護放棄など深刻なトラブルへと発展することも少なくありません。

まずは介護について扶養義務者間で話し合いましょう。
公的機関を利用しながら、負担の少ない方法を探ることが大切です。
同時に、相続や介護に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

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