この記事でわかること
- 相続した株式を名義変更する流れや必要書類
- 株式の名義変更の期限の有無
- 株式の名義変更の手続きをしない場合のリスク
- 名義変更した株式に対する相続税の評価方法
「父親が株式投資をやっていたので株式を相続することになりました。しかし、私は株のことが全然わからないので、名義変更の手続きなどはどうすればよいのでしょうか」
「株はやったことがありますが、名義変更は初めてでよくわかりません。いつまでに名義変更する必要がありますか?」
このように、株式を相続したが、相続手続きがよくわからないという方は多いのではないでしょうか。
今回は、相続した株式を名義変更する方法について、名義変更手続きの期限や、手続きしない場合のリスクなどと合わせて解説します。
目次
相続により上場株式を名義変更する流れ・必要書類
被相続人の所有していた株式は、相続により相続人・受遺者が引き継ぐことになります。
相続した、あるいは遺贈を受けた株式については、名義変更が必要になります。
株式には、上場株式・非上場株式の2種類があります。
ここでは、相続により上場株式を名義変更する流れや、名義変更手続きに必要な書類をご説明します。
上場株式の名義変更の流れ
上場株式は証券取引所を通じて取引されているので、証券会社が介入しています。
したがって、上場株式の名義変更の手続きは、証券会社と当該株式を発行した会社の両方で行うことになります。
ただし、後者については通常、証券会社が代行してくれるため、相続人側が行う必要があるのは証券会社との手続きのみです。
証券会社との手続き
証券会社との手続きは、取引口座の名義変更手続きになります。
その際、以下のような書類が必要となります。
- 株式名義書換請求書
- 取引口座引継ぎの念書(証券会社所定の用紙)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(相続人が複数の場合)
これらの書類を証券会社に提出すれば、上場株式の名義変更で相続人側が行う手続きは完了します。
相続対象の株式を発行した株式会社との手続き
株式を発行した株式会社に対しては、株主名簿の名義変更手続きを行います。
この手続きは、取引のある証券会社が代行してくれるので、相続人が行う必要はありません。
代行を依頼する際に、相続人側で「相続人全員の同意書」を提出する必要があります。
同意書の書式は、名義書換を代行している証券会社所定の用紙を使用します。
相続により非上場株式を名義変更する流れ・必要書類
相続により非上場株式を変更する手続きは、当該株式を発行する会社によって異なります。
詳細については当該株式会社に問い合わせが必要ですが、一般的には以下の書類を提出することになります。
- 株式名義書換請求書兼株主票
- 株券(株券が発行されている場合)
- 被相続人の出生から死亡まで連続する戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書(発行後6カ月以内の原本)
- 相続人全員の記載のある共同相続人同意書または遺産分割協議書(相続人が複数の場合)
株式を名義変更するときによくある質問
ここで、相続による株式の名義変更についてよくある質問と、その回答をご紹介します。
株式の名義変更の必要性
【Q1】株式を名義変更しないとどうなりますか?
【A1】株式の所有者が死亡すると、何もしなくても相続人が株式を相続した形になります。
しかし、株式の名義変更を行わずに放置していると、以下のようなリスクがあります。
相続税法上の罰則が科される
相続税の申告期限は、相続開始または相続開始を知った時から10カ月です(相続税法第27条)。
したがって、相続が開始したら申告期限までに遺産分割協議を行い、相続人がそれぞれ株式を含む相続分の申告を行わなくてはなりません。
申告を行わないまま申告期限が過ぎてしまうと、延滞税・無申告加算税・過少申告加算税などが科される可能性があります。
追徴課税の種類 | 概要 | 税率 |
---|---|---|
延滞税 (国税通則法第60条・ 相続税法第51条) |
相続税の納付期限を過ぎた場合に課税される | 納期限の翌日~2カ月経過まで:年率2.4% 2カ月経過以降:年率8.7% |
無申告加算税 (国税通則法第66条) |
正当な理由なく期限までに相続税の申告・納税を行わなかった場合に 課税される |
税務調査の通知前に申告した場合(期限後申告):5% 税務調査の通知後:本来の税額の50万円までに対して5%・50万円を超える部分に対して20% |
過少申告加算税 (国税通則法第65条 1項) |
本来申告すべき税額よりも少ない税額で申告を行った場合 |
税務調査の通知前に申告した 場合:課税なし 税務調査の通知後:15% |
なお、死亡届を提出すると、税務署は税務調査を行うので、配当金の振り込みによって株式の存在を認知します。
そして相続開始から6カ月~8カ月後、「相続税の申告に関するお尋ね」が郵送されてきます。
通知が届いた時点ではまだ申告には間に合うので、必ず期限までに遺産分割協議を行い、名義変更手続きを行った上で申告を行いましょう。
改めて遺産分割協議を行わなければならなくなる
株式の名義変更手続きの際、提出書類として遺産分割協議書や相続人全員の同意書・印鑑証明書などが必要になります。
遺産分割協議書がなければ名義変更の手続きはできないため、改めて相続人全員で遺産分割協議を行わなければならなくなります。
配当金が受け取れなくなる
株式所有者の死亡後から相続手続きが完了するまでに発生した配当金(未受領配当金)については、相続人が受け取ることができます。
しかし通常、未受領配当金には3年~5年の受領期限が設定されています。
配当金は、名義人に振り込まれることになっています。このため、名義変更を行わないままこの期限を過ぎると、相続人は配当金を受け取れなくなります。
株式の名義変更の期限
【Q2】株式の名義変更に期限はありますか?
【A2】名義変更自体には、期限(消滅時効)はありません。
つまり、株式を相続する権利が時効により消滅することはありません。
しかし、実際には相続税の申告期限までに名義変更を行った上で申告を行わないと、延滞税などのペナルティを科される可能性はあります。
株式の名義変更の手数料
【Q3】株式の名義変更の手数料はどのくらいかかりますか?
【A3】株式の名義変更の手数料は証券会社によって異なりますが、1銘柄あたり2,200円(税込)程度が目安となります。
株式の名義変更と相続税
【Q4】株式の名義変更に対しても相続税がかかりますか?
【A4】相続財産の評価額の合計が、基礎控除(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合、相続税がかかります。
株式の評価の方法については、上場株式を相続した場合と非上場株式を相続した場合で異なります。
上場株式を相続した場合
上場株式の評価の方法は、以下の4つの中で最も安い価格となります。
- 被相続人の死亡日の最終価格
- 被相続人の死亡日の属する月の毎日の最終価格の月平均額
- 被相続人の死亡日の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
- 被相続人の死亡日の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
非上場株式を相続した場合
非上場株式の場合、評価対象の株式を発行した会社について【総資産額】【従業員数】及び【取引金額】によって大会社・中会社・小会社に区分した上で、それぞれについて以下のような方法で評価します。
なお、一定の要件を満たす「事業承継」の場合は、相続税などの納税が全額猶予される「特例事業承継税制」の特例の適用を受けられます。
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大会社
大会社の評価方法は「類似業種比準方式」によるのが原則です。
類似業種比準方式とは、類似業種の株価に基づいて、評価対象の会社の1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)によって比準して評価する方法です。
類似業種の業種目・業種目別株価について詳しくは、国税庁ホームページをご参照ください。
類似業種の業種目・業種目別株価:国税庁ホームページ -
小会社
小会社の評価方法は「純資産価額方式」によるのが原則です。
純資産価額方式とは、「仮にその会社が解散した場合に、その会社の株主に分配されるはずの正味の財産価値」で評価する方式です。 -
中会社
中会社については、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価します。
非上場株式の評価方法は、「株価」で評価できる上場株式と比べて複雑で難しいため、弁護士・税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。
株式の換価分割について
【Q4】遺産分割協議で、株式を分割して相続する代わりに全部売却して現金化し、相続人で分けることは可能ですか?
【A4】
相続財産を現金化して分割する方法は「換価分割」と呼ばれ、遺産分割の方法として認められています。
株式の換価分割についても、相続人の全員が同意すれば可能です。
換価分割する場合、遺産分割協議書に以下の事項を記載しましょう。
- 相続した株式を換価分割すること
- 売却代金の分配方法
換価分割する場合にも、最初に相続人の代表者の名義に変更した上で売却手続きを進める必要があります。
まとめ
株式の名義変更は、必ず相続人全員による遺産分割協議を行った上で手続きを行う必要があります。
上場株式を相続した場合は、証券会社を通して手続きできるため、遺産分割協議書を作成していればそれほど問題なく手続きを進められるでしょう。
これに対して、非上場株式は発行する会社によって手続き方法が異なるほか、株式の評価方法も難しく、相続人が単独で行うのは困難です。
名義変更を行ったら、必ず相続税の期限内に申告を行ってください。
株式の名義変更や相続税の申告についてご質問がありましたら、相続を専門とする弁護士や税理士に相談されることをおすすめします。