この記事でわかること
- 民事信託の受託者とはどのような人であるか知ることができる
- 信託契約において受託者がしなければならないことがわかる
- 受託者になる人となることができない人についてわかる
相続や遺産分割への対応策として、民事信託や家族信託を利用する人が増えつつあります。
信託契約には当事者がたくさんいるため、どの人がどのような立場になるのか、理解するのは難しいと思います。
ここでは、受託者がどのような人で、どのような役割を果たさなければならないかを解説します。
また、受託者になれる人となれない人についても説明していきます。
これから信託を利用しようという方は、ぜひ参考にしてください。
目次
民事信託の受託者とは
信託契約をする際に、財産の管理や運用を行う人となるのが受託者です。
民事信託を利用する場合には、基本的に委託者(信託財産を保有している人)の家族や親族がなります。
ただ、必ずしも家族や親族でなければならないわけではありません。
受託者とはどのような役割をする人で、どのような人がふさわしいのでしょう。
民事信託の受託者の定義
民事信託における受託者とは、委託者から信託財産の移転を受け、受益者のために信託財産の管理・処分などを行う人のことです。
委託者との間で設定した信託行為によりその権限が定められ、大きな権限を与えることもできますし、権限を制限することもできます。
信託契約を締結する際に、委託者は受託者の能力に応じた権限を定めておく必要があるのです。
受託者の必要性と受託者になるデメリット
信託契約において、受託者は委託者の代わりに財産の管理や処分を行います。
信託契約を締結する時点では、委託者は正常な判断能力を有していなければなりません。
ただ、その後認知症になっても財産の管理を受託者に任せることができるのです。
しかも、受託者は財産の管理を委託者が行うのと同じようにでき、必要以上に制限を受けないようにすることもできます。
委託者の意思を受けて財産の管理を行うために、受託者の存在は欠かせないのです。
ただ、受託者となることによるデメリットもあります。
受託者は委託者の代わりに財産の管理を行っていますが、その財産から生ずる利益はあくまで受益者のものです。
そのため、毎年財産の収支報告書を作成し、受益者に提出しなければなりません。
また、財産の管理の過程で発生する書類などを保管しておく必要もあります。
信託契約は委託者が亡くなるまで継続することとなりますから、長期間にわたってその契約に拘束されるのです。
途中でやめたいとか、ほかの人に交代してほしいと思っても、それができない状態になってしまうこともあります。
受託者の義務とは?
信託契約を締結すると、信託財産の名義人は受託者に変更されます。
そのうえで、財産の管理や処分を行うため、受託者には大きな権限が与えられます。
一方で、委託者との信頼関係がなければ成立しないことから、様々な義務が課されています。
その中でも特に重要な義務が以下の3つです。
(1) 善管注意義務
受託者は、善良なる管理者の注意を持ち、信託事務を行う義務があります。
簡単に言えば、業務を任された人が通常期待される注意義務を負うといった内容です。
(2) 忠実義務
受託者は、受益者のために忠実に信託事務の処理をする義務があります。
(3) 分別管理義務
受託者は、信託財産と受託者自身の固有財産を分別して管理する義務があります。
このほか、以下のような義務についても信託法に規定されています。
(1)信託事務の処理の委託における第三者の選任・監督義務
受託者は、信託事務の処理を第三者に委託する場合には、適切な者に委託しなければなりません。
また、委託した第三者に対して監督する義務があります。
(2)公平義務
受託者は、受益者が複数いる信託においては、すべての受益者のために公平に職務を行う義務があります。
(3)帳簿等の作成等、報告・保存の義務等
受託者は、信託財産にかかる帳簿その他の書類を作成する義務があります。
また、毎年1回、貸借対照表や損益計算書などの書類を作成し、受益者に報告しなければなりません。
さらに、信託に関する書類を保存し、受益者に請求に応じて閲覧させる義務があります。
(4)損失てん補責任等
受託者がその任務を怠ったために損失が生じた場合には、受益者の請求により損失のてん補をしなければなりません。
受託者になれる条件・資格
民事信託の受託者は多くの義務を負い、また受益者のために数多くの活動をしなければなりません。
そのため、誰でも受託者になれるというわけではないのです。
受託者になることができる人、あるいは受託者に向いている人にはどのような人がいるのか確認していきましょう。
受託者は基本的に家族・親族から選ぶ
民事信託の受託者は、基本的に委託者の家族や親族から選任することとなります。
これは、委託者が保有する財産の管理や運用、処分を任せられるのは身近な人だからです。
ただ、家族であれば誰でもいいというわけでもありません。
特に信頼のおける人や、委託者との関係が良好な人でなければ、信託契約を遂行するのは難しいでしょう。
また、委託者が認知症になった場合に備えて、あるいは相続対策として民事信託を利用する人が多いと思います。
そのため、受託者は委託者より若い世代の人でなければ意味がないということが考えられます。
受託者の理想的な人物像とは
受託者は信頼のおける家族や親族が望ましいということは、先ほども説明しました。
また、財産の管理や報告書の作成が重責となる可能性もあるため、財産管理ができる人やお金の管理に詳しい人がいいでしょう。
さらに不動産が信託財産になる場合、不動産に関する知識や経験がある人が、スムーズに受託者の業務を行うことができるはずです。
ただ、実務的な知識がなくても、委託者の思いを受け止めて行動してくれる人がいるのであれば、その人が優先されます。
信託監督人を選任することもできる
財産の管理に対する知識や経験がある人が、身近にいるとは限りません。
そのような場合には、受託者を監督する役割を持つ信託監督人を選任することもできます。
受託者1人にすべてを任せるのが不安な場合には、信託監督人を家族や親族から選任しておくと、不安は解消されるかもしれません。
専門家の力を借りる
どうしても、家族や親族に受託者としての業務を任せるのが不安な方もいることでしょう。
そのような場合、弁護士や司法書士などの専門家の力を借りることもできます。
ただ、このような専門家が受託者になることは信託業法に違反することとなります。
そこで、法律の専門家に信託監督人に就任してもらうのです。
こうすることで、専門知識がない受託者に対して適切なアドバイスをもらうことが可能となります。
受託者になれない条件
受託者は、委託者に変わって財産の管理や処分などの法律行為を行うこととなります。
そのため、判断能力や意思決定ができない人では支障があるのです。
具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人は受託者になることができません。
まとめ
民事信託は家族信託とも呼ばれるほど、家族の中で行われることの多い法律行為です。
信託契約を締結すると、受託者は大きな権限を与えられますが、同時に大きな責任も負うこととなります。
また、委託者に対する義務を課されることとなるため、誰でもできるという職務ではありません。
民事信託を利用する場合には、誰を受託者にするか慎重に判断しなければならないのです。