この記事でわかること
- 除籍謄本と戸籍謄本との違い
- 除籍謄本が必要になる場面と理由
- 除籍謄本の見方や取得方法
- 取得にあたっての注意点
人が亡くなると、残された家族は悲しみながらも、故人の遺産の相続手続きを進めなければなりません。
相続は人生の中でそうそう機会があることでもない上に、専門用語が次々と目に飛び込んでくるので、とても困難な手続きです。
ここでは、「戸籍謄本」に似ているが日常に馴染みのない「除籍謄本」について、わかりやすく解説します。
除籍謄本とは?戸籍謄本との違いは?
「除籍謄本」という言葉は、あまり一般的とは言えないでしょう。
似ている言葉に「戸籍謄本」がありますが、これらはどのように違うのでしょうか?
まずはそこから詳しく見ていきます。
一つの戸籍には一組の夫婦と未婚の子どもが入る
そもそも戸籍とは、人が生まれてから死ぬまでの履歴を記録した台帳のことで、戸籍法という法律に則って市町村が管理しています。
一つの戸籍には一組の夫婦とその未婚の子どもが入り、構成人数は子どもの誕生や養子縁組などにより増え、夫婦の離婚や子どもの婚姻などによって減ります。
市町村は、出生届や婚姻届など、市町村に提出された戸籍の届出に基づいて戸籍の情報を更新していきます。
誰もいなくなった戸籍も「除籍」として残る
離婚届や婚姻届、死亡届などが提出されると、戸籍にはその情報が蓄積され、届出事由によっては戸籍の異動が行われます。
そして、すべての人が亡くなるか戸籍から除かれるかすることによって、その戸籍の中に存命の方がいなくなれば、その戸籍は「除籍」として閉鎖されます。
閉鎖された除籍謄本は、除籍された年度の翌年から150年間保管されます。
「除籍謄本」は除籍の全部の情報の写し
ここで、「謄本」と「抄本」という言葉の意味の違いについて確認しておきましょう。
謄本も抄本も原本の写しのことですが、「謄本」は原本の内容すべてが記載されるのに対し、「抄本」はその内容の一部の写しを指します。
つまり、除籍謄本は閉鎖された戸籍のすべての情報が載ったものです。
除籍謄本が必要なケース
除籍謄本は、何のために使われるのでしょうか。
除籍謄本は主に相続の場面で、戸籍謄本とセットで非常に重要な役割を果たします。
ここでは、除籍謄本の役割について詳しく解説していきます。
相続人を確定するために必要
遺言書がない場合、故人の財産は一度相続人全員で共有するものとされ、その分配については相続人同士の話し合いで決めることになります。
この話し合い(遺産分割協議)は相続人全員で行わなければならず、後から協議に参加していない相続人の存在が判明すれば、遺産分割協議は無効となります。
そのため、遺産分割協議を行う準備として、相続人となりうる人の戸籍謄本や除籍謄本を入念に調べ、相続人を確認する必要があります。
相続手続の添付書類として求められる
金融機関や証券会社など、第三者に預けられている故人の財産を処分するときには、遺産分割協議書の提出が求められます。
また、個人が所有する自動車の登録名義や不動産の相続登記をするときにも、手続きに遺産分割協議書が必要になります。
このとき、遺産分割協議の参加者の他に相続人がいないことを証明するために、戸籍謄本や除籍謄本を添付しなければなりません。
戸籍謄本や除籍謄本の添付が必要となるのは、一例として以下のような場面が挙げられます。
戸籍謄本や除籍謄本が必要となる場面 | 備考 |
---|---|
1.故人の銀行預金を引き出す場合 | 仮払い制度を利用すれば、一定額までは相続人が単独で引き出すことが可能 |
2.故人の有価証券(株式など)の名義変更をする場合 | |
3.故人の自動車の名義変更や廃車をする場合 | 軽自動車は不要 |
4.故人の土地や建物の相続登記をする場合 |
【見本付】除籍謄本の見方
自治体や年代によってデザインは異なりますが、除籍謄本は、おおむね次の図のような書式になっています。
ここからは、相続手続きを進めるにあたっての、除籍謄本の見方について詳しく解説していきます。
除籍謄本は戸籍の中の全員が除籍されている
除籍謄本の末尾には「これは戸籍に記録されている事項のすべてを証明する書面です」などの文言で、市区町村長名で宣言が記されています。
除籍謄本と戸籍謄本との違いは、その戸籍に記されているすべての人が「除籍」されているか否かです。
戸籍に記録されている全員の除籍原因を確認する
戸籍には、筆頭者と配偶者、およびその未婚の子どもに関する情報が記録されています。
除籍謄本では戸籍の中のすべての人が除籍されていますが、除籍の原因には死亡の他にも、子どもの婚姻や配偶者の離婚などの事由があります。
死亡以外が除籍原因のときは転籍先を調べる
ここで、見本にあげた除籍謄本の家族において、死亡したAについてDが相続する場合を考えてみます。
Aを筆頭者とするこの除籍謄本からは、婚姻により除籍したCとその配偶者との間に子ども(Aにとっては孫)がいたかどうかは確認できません。
もし、Cに子どもEがいてAの死亡時にEが存命であれば、EはCに代わってDと共に相続人になります(これを代襲相続と言います)。
このように、死亡以外の原因により除籍されている人については転籍先に戸籍情報の続きがあるため、転籍先の戸籍謄本を取得して確認を行う必要があります。
改製や転籍があるときは出生まで戸籍を遡る
上記の場合とは逆に、最終の戸籍事項に「改製」や「転籍」と表記があるなどした場合は、出生時に作成された初版の戸籍まで遡って確認を行います。
親が戸籍を移す際、婚姻や養子縁組などの理由で除籍された子どもは新しい戸籍に記載が引き継がれないため、相続人の見落としにつながる可能性があるためです。
除籍謄本の取得方法・取り寄せ方
ここからは、2024年に施行された重要な制度改正を踏まえて、実際に除籍謄本を取得する方法を解説します。
市区町村の窓口で直接請求する
除籍謄本を取得するには、戸籍謄本と同様に、市区町村の戸籍担当課へ交付を請求します。
交付手数料は、多くの自治体で戸籍謄本に比べてやや高めの設定になっています。
また、自治体のホームページでダウンロードできる申請書を使って、本籍地を管轄する市区町村から郵送で除籍謄本を取り寄せることもできます。
郵送による取り寄せの場合は、交付手数料分の定額小為替の他、返信用封筒や身分証明書を交付申請書に同封します。
広域交付制度により除籍謄本の取得が容易に
2024年3月1日から実施された広域交付制度により、本籍地を管轄する市区町村以外の窓口でも交付請求ができるようになりました。
ただし、広域交付制度で除籍謄本を取得できるのは、本人とその配偶者、本人の直系尊属(父母や祖父母)および直系卑属(子どもや孫)に限定されています。
本人の兄弟、おじおばなどの関係にある人、代理人は公益交付制度を利用できないため、従来通り本籍地の市区町村へ除籍謄本の交付を請求することになります。
職権で取得できる専門家に依頼する
相続で使用する戸籍謄本や除籍謄本は、記載内容の理解に高度な専門知識を要するため、一度の交付手続きで過不足なく書類を揃えることは至難の業です。
除籍謄本の取得に時間や労力を割くことができない人は、弁護士や司法書士、行政書士など、職権で除籍謄本を取得できる専門家に依頼することを検討しましょう。
報酬を支払う必要がありますが、相続手続きに必要な戸籍謄本や除籍謄本を短期間で揃えてもらうことができます。
除籍謄本を取得する際の注意点
除籍謄本の読み解き方以外で、取得に際しての注意点がいくつかありますので、見ていきましょう。
死亡届は戸籍に反映されるまで時間がかかる
死亡届が受理されてから個人が戸籍から除籍されるまでには、死亡届を提出する市区町村によって異なりますが、数日から10日ほど時間がかかります。
死亡届の提出先が個人の本籍地を管轄する市区町村と異なる場合は、同一である場合よりも日数を要することになるでしょう。
死亡届を提出したら直ちに除籍謄本が取得できる、という訳ではないのでご注意ください。
日付が連続していることを確認する
戸籍謄本や除籍謄本に改製や転籍、または死亡以外の理由で除籍があった場合には、時系列の前後する戸籍謄本や除籍謄本を取得する必要があります。
このとき、それぞれの書類の日付が連続していることが大変重要です。
出生から死亡まで完全に連続した戸籍謄本や除籍謄本に拠らなければ、その抜けている期間に相続人となり得る人が現れていないことを証明できないためです。
除籍謄本には保存期間がある
除籍謄本には保存期間が法定されており、その期間は戸籍に含まれる全員が除籍になった年度の翌年から150年間です。
現在取得することのできる戸籍は1886年に整備されたものですが、2010年の戸籍法改善前は保管期間が80年間でした。
このため、直系尊属のみが相続人となるケースなどでは古い除籍謄本が入手できない場合もあることに注意しましょう。
まとめ
除籍謄本が、戸籍謄本と並ぶ相続手続き上の重要な書類であることを説明しました。
広域交付制度が始まり、除籍謄本や戸籍謄本を収集する手間は軽減されましたが、様式が古いものほど読み解き方が難解であることに変わりはありません。
「時間と手間をかけずに相続手続きを済ませたい」とお考えの方は、除籍謄本や戸籍謄本の収集は弁護士などの専門家に依頼するのがよいでしょう。