この記事でわかること
- 自筆証書遺言のルールがなぜ変わったのかわかる
- 自筆証書遺言にパソコンを使うときのルールを理解できる
- 自筆証書遺言を法務局に預けられる新保管方法がわかる
自筆証書遺言については、2020年に従来のルールが変更されました。
自筆証書遺言はすべて自書でなければいけないというルールでしたが、そのルールが法律改正により緩和されたのです。
従来の自筆証書遺言の問題点を踏まえ、自筆証書遺言の一部についてはパソコンの使用が認められました。
自筆証書遺言のルールが変わった理由やパソコン利用のメリット、パソコン利用時の注意点など、自筆証書遺言のパソコン利用や法改正についてわかりやすく解説します。
目次
なぜ法改正された?従来の自筆遺言書の問題点
「自筆証書遺言」は遺言者が自筆で作成する遺言書のことです。
自筆証書遺言には内容の自書や年月日の自書、氏名の自書、押印などの要件があり、要件を満たしていない遺言書は無効になります。
自筆証書遺言は自分で作成でき、公証役場などを使わないことから費用負担を軽減できる等のメリットがあります。
しかし、遺言者が自書によって手軽に作成できることから、問題点やデメリットの多さも指摘されていました。
自筆証書遺言に特有の問題点やデメリットを改善するためにルール改正が行われたのです。
自筆証書遺言の問題点には重荷以下の6つがありました。
- ・相続人が遺言書を見つけない
- ・遺言書の破棄があった
- ・相続人が検認を忘れる
- ・要件不備で無効になる
- ・遺言書の偽造や変造があった
- ・作成が大変である
6つの問題点を解決するため、2020年の法改正では「パソコンの一部使用」と「自筆証書遺言の保管場所」のルールが盛り込まれました。
自筆証書遺言のルール変更への理解を深めるため、まずはそれぞれの問題点についてもう少し詳しくみていきましょう。
問題点(1)相続人が自筆証書遺言を見つけない
遺言者が自筆証書遺言を作成しても、相続人が遺言書を発見できないという問題点がありました。
自筆証書遺言は基本的に自宅などで保管されます。
遺言者が相続人に遺言書の存在を伝えていない場合、相続人が自筆証書遺言の存在を知らずにいるケースも少なくありませんでした。
問題点(2)自筆証書遺言の破棄するケースがあった
自筆証書遺言を作成しても、遺言者や相続人が誤って破棄することがあります。
自宅で保管していたら、チラシや新聞と一緒にゴミに出してしまったり、相続人が遺品整理をしているときに遺言書だと気づかず、他の遺品と一緒に処分してしまった、などといったように、自筆証書遺言を遺言者本人や相続人が破棄してしまうという問題点があったのです。
問題点(3)相続発生後に相続人が検認を忘れる
自筆証書遺言は相続発生後に「検認」が必要になります。
検認 は裁判所での遺言書確認手続きのことです。
検認を経ていないのに遺言書を開封することはできません 。
しかし、検認という手続きを知らないケースや、検認前に勝手に開封できないことを知らないケースがよくあるのです。
自筆証書遺言には、相続が起きた後の検認忘れや勝手な開封という問題点があります。
問題点(4)自筆証書遺言の要件不備で無効になる
自筆証書遺言は作成にあたり要件を守らなければいけません。
要件不備の自筆証書遺言は無効です。
自筆証書遺言の作成には公証役場が関与するというルールはありません。
要件さえ満たせば、遺言者本人だけで作成可能です。
弁護士などの法律家のチェックも必要ありません。
そのため、せっかく自筆証書遺言を作成しても要件不備で無効になるという問題点がありました。
問題点(5)自筆証書遺言の偽造や変造が容易
自筆証書遺言は遺言者が保管するため、相続人が相続前に見つけて偽造や変造を行うリスクがありました。
相続人が遺言書を自分有利に変えてしまうのです。
公正証書遺言は公証役場に原本が保管 されますが、自筆証書遺言にはそのような保管方法はありません。
保管場所の関係で偽造や変造を防ぎにくいことは、自筆証書遺言の問題点として指摘されていました。
問題点(6)自筆証書遺言の作成が大変である
自筆証書遺言はすべて自書です。
パソコンを使うことも、代筆も許されません。
すべて遺言者が自書しなければいけないのです。
この「すべてが自書」という点が遺言作成者の大きな負担になっていました。
たとえば、土地や金融機関の口座を多く持っていたとします。
遺産の目録についても自筆証書遺言は自筆が求められますので、不動産や金融機関の情報を遺言者がひとつひとつ手書きしなければいけません。
これには大変な労力がかかります。
このように、すべて自書が求められると、自筆証書遺言の作成は大変であるという問題点がありました。
目録管理も楽に!パソコン使用のメリット
2020年の自筆証書遺言のルール改正により、自筆証書遺言の一部にパソコンを使えるようになりました。
自筆証書遺言は財産目録に至るまですべて自書しなければいけませんでした。
2020年の法改正により、自筆証書遺言の財産目録については、パソコンや代筆、コピーの添付が許されるようになったのです。
財産目録にパソコンが使えるようになったことにより2つのメリットが生まれました。
それぞれについて詳しくみていきましょう。
メリット(1)自筆証書遺言の作成負担が軽減された
自筆証書遺言の財産目録にパソコンを使うことが許されたため、作成時の負担が軽減されました。
財産が多い人や細かい人がひとつひとつ手書きしなくてもよくなったので、作成者の負担軽減はかなりのものです。
パソコンが使えると、作成が楽になるはずです。
パソコン以外には、財産目録の代筆やコピー添付も可能です。
財産目録を遺言者以外に書いてもらうことや、預金通帳や登記簿謄本などの添付もできます。
メリット(2)自筆証書遺言をより短時間で作成できる
財産目録を手書きしなくてよくなったため、自筆証書遺言作成の時間を短縮できます。
パソコンの操作が早い人などに財産目録を作成してもらえば、自筆で財産目録を作成するより圧倒的に早く終わるはずです。
遺言書作成にパソコンを使用する時の注意点
自筆証書遺言にパソコンを使うときは、以下の3つの注意点があります。
- ・パソコンが使えるのが財産目録だけである
- ・遺言者の署名押印が必要である
- ・パソコンを使えるのはいつからか確認する
それぞれの注意点を詳しくみていきましょう。
注意点(1)パソコンが使えるのは財産目録のみ
自筆証書遺言が使えるのはあくまで財産目録のみです。
他の部分は自筆でなければいけません。
自筆証書遺言のすべてをパソコンで作成できるわけではないため、注意してください。
財産目録以外の部分をパソコンで作成してしまうと、それがたとえ自筆証書遺言の一部だけであっても無効になります。
注意点(2)遺言者の署名押印を忘れずに
作成した財産目録には遺言者本人の署名押印が必要になります。
コピーや登記簿謄本、代筆してもらった場合も遺言者本人の署名押印が必要です。
こちらも忘れないようにしましょう。
注意点(3)パソコンを使えるのはいつからか確認する
「自筆証書遺言にパソコンが使えるようになる」という話を聞いても、「具体的にいつから使えるのか」と思うのではないでしょうか。
改正前は基本的にすべて自書ですから、パソコンを使えるようになってから作成しないと、遺言書自体が無効になるのではないかと不安を覚えるはずです。
自筆証書遺言の財産目録にパソコンが使えるようになるのは、2019年1月13日の法改正施行後になります。
2020年時点では、すでに自筆証書遺言の財産目録にパソコンを使うことが可能です。
遺言書を法務局に預けられるのはいつからか
自筆証書遺言については、パソコンの他にもうひとつルール変更がありました。
自筆証書遺言の保管についてのルール変更です。
従来のルールでは、自筆証書遺言は遺言者が管理しなければいけませんでした。
管理方法としては自宅保管や金庫での保管などがありました。
遺言者が自筆証書遺言を保管しなければならないため、遺言書の廃棄や、相続人による偽造や変造などに繋がっていたのです。
相続人が遺言書自体に気づかないという問題点もありました。
これらの問題点を改善するため、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度ができたのです。
「遺言書保管制度」という制度になります。
遺言書保管制度で自筆証書遺言を預けると、法務局側で遺言書をチェックしてくれます。
要件不備で無効になる可能性が低くなるというメリットがあるのです。
さらに、法務局が預かることにより、誤って紛失することもなく、偽造や変造対策にもなります。
法務局を通すため、裁判所での検認も不要になるのです。
自筆証書遺言は2020年7月10日から法務局に預けられます 。
ワープロで作成された遺言書が出てきた場合、有効になるか
出てきた遺言書がワープロで作成されていた場合、遺言書のどの部分がワープロで作成されているか確認する必要があります。
自筆証書遺言のルールが変わっても、財産目録以外は自筆でなければいけません。
出てきた自筆証書遺言のすべてや財産目録以外の部分がワープロで作成されていれば無効です。
この他に、年月日や氏名など基本的な要件を満たしていない場合も無効になります。
遺言書が出てきたら、遺言書の種類や要件を満たしているか判断するために、弁護士などの専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
まとめ
法改正により自筆証書遺言のルールが変わりました。
自筆証書遺言にワープロ・パソコンは一切使えませんでしたが、自筆証書遺言の財産目録のみパソコンが使えるようになったのです。
従来のルールでは財産目録も手書きしなければいけませんでしたから、自筆証書遺言作成の負担が軽減されたかたちになります。
また、パソコンを使えることにより、作成時間も短くなると予想されます。
法務局での保管制度もスタートし、自筆証書遺言が使いやすくなりました。
ただ、自筆証書遺言のすべてをパソコンで作成できるわけではない点に注意が必要です。
パソコンを使えるのは、あくまで財産目録のみ。
他の部分については自書が求められます。
自筆証書遺言の作成やルールでわからないことがあれば、作成前に弁護士などの専門家に確認しておきましょう。