この記事でわかること
- 自筆証書遺言の改正された法律がわかる
- 正しい自筆証書遺言の書き方を理解できる
- 自筆証書遺言の管理や無効になるケースがわかる
「自筆証書遺言」とは遺言者が自筆で作成する遺言書のことです。
遺言の種類のうちのひとつで、作成し際しては「自筆であること」「日付や氏名の自書」「押印」などが作成時の要件として定められています。
要件を守っていない自筆証書遺言は無効です。
2020年の法律改正により、自筆証書遺言のルールが変わりました。
正しい自筆証書遺言を作成するために知っておきたい自筆証書遺言の法律改正や遺言書の書き方サンプル、管理方法などをわかりやすくまとめました。
目次
自筆の遺言書に関する法律が改訂に
自筆証書遺言には法律で定められた要件があります。
遺言書は被相続人が亡くなったとき(相続のとき)に力を発揮します。
そのため、遺言書の内容に不明な点があっても、遺言者自身に確認することは不可能です。
「遺言者の意思に沿って作成されたのか」「不明点が死後に出てきたら大変である」などの理由から、遺言書の要件は厳格に定められています。
また、遺言書の要件は遺言の種類ごとに定められているため、自筆証書遺言は自筆証書遺言の要件を守って作成する必要があるのです。
2020年の法律改正で、自筆証書遺言のルールに変更がありました。
改正による自筆証書遺言のルールを知っておかないと、自分では間違いなく遺言書を作成したつもりだったのに、正しい遺言書の書き方から外れていたという結果になりかねません。
要件を守っていない自筆証書遺言は無効です。
改正点などを知らず自筆証書遺言書を作成すると、いざ相続という段になって「遺言書が無効だった」などのトラブルも考えられます。
正しい遺言書の書き方を理解するためにも、従来の自筆証書遺言の要件と改正後のルールを覚えておきましょう。
改正前の自筆証書遺言の要件
まずは法律が変わる前の自筆証書遺言の要件についてみてみましょう。
基本的な自筆証書遺言の要件には以下が定められています。
- ・遺言者本人が自筆で書いている
- ・遺言書の作成日付を自筆している
- ・遺言者の氏名が自筆されている
- ・押印がある
要件を守っているかどうかは非常に厳格に判断されるのです。
自筆証書遺言は「自筆」ですから、遺言者本人が自分で書かなければいけません。
ワープロなどを用いてはいけません。
自分自身の手で書くからこそ自筆証書遺言です。
遺産の目録なども自筆になります。
日付や自分の名前も、もちろん自筆です。
日付については、年月がない場合や「吉日」などを用いた場合は無効になります。
正確な年月日の把握ができないからです。
自書する氏名については、個人・本人を特定できれば問題ないとされています。
戸籍上の名前である必要はなく、雅号や芸名を自書しても問題ありません。
押印については、認印でも構いません。
ただし、後の遺産相続トラブルを避けるためにも、実印を用いた方が安心です。
自筆証書遺言については、変更や加除についても厳格な要件が定められています。
変更や加除を行うときは、民法968条で定められたルールに従わなければいけません。
自筆での正しい遺言書の書き方
2020年の法律改正でも、自筆証書遺言の基本的な要件は変わりません。
自筆で遺言書を書き、氏名と年月日も自筆で書き、押印もします。
この基本的な要件は変わっていません。
自筆証書遺言のルールで変わったのは以下の2つのポイントです。
- ・財産目録
- ・自筆証書遺言の保管について
自筆証書遺言は財産目録に至るまですべて自書でなければいけませんでした。
自筆証書遺言のルール改定後は、財産目録については自書の必要がなくなりました。
遺言書そのものは自書しなければいけませんが、財産目録についてはパソコンなどで作成してもよいことになったのです。
パソコンなどで作成した財産目録には、各項に署名押印する必要があります。
パソコンの他には、代筆やコピーの添付なども可能です。
従来のルールでは、財産目録の作成が大変だと指摘されていました。
不動産の多い人や、預金口座の多い人などは、ひとつひとつ財産について手書きしなければいけません。
遺言者にとって大きな負担になります。
ルール改定により自筆証書遺言の財産目録については手書きが不要になったため、遺言作成時の負担が大幅に改善されたかたちになるのです。
この他に、自筆証書遺言の管理についても改定がありました。
自筆証書遺言は原則的に遺言者が保管する必要があったのですが、法務局での保管が可能になったのです。
自筆証書遺言の管理方法については後述します。
正しい遺言書の書き方サンプル・フォーマット
改定された自筆証書遺言書のルールと従来からの要件を踏まえて、正しい遺言書の書き方サンプル・フォーマットを公開します。
まず、遺言書は以下のような始まりと結びを記載しましょう。
遺言書
遺言者 〇〇〇〇(氏名)は次の通り遺言する。
(相続人への遺産分割の指示や遺産についての要望など)
令和2年7月21日
東京都世田谷区三軒茶屋〇丁目〇番〇号
氏名、押印
自筆証書遺言の記載内容や用紙
自筆証書遺言を書く用紙は具体的に決まっていません。
便箋などを使うことが一般的ですが、レポート用紙などを用いることもあります。
せっかく書いた遺言内容が消えては意味がありませんので、消えやすい鉛筆や消しやすいボールペンなどは避けた方が無難です。
自筆証書遺言には次のような内容を記載します。
それぞれを記載すべき理由矢ポイントも併せておさえておきましょう。
- ・表題…遺言書だとわかるようにするため
- ・相続人の名前(戸籍通りの名前)…相続トラブルを避けるため
- ・相続させる事柄…曖昧な言い回しはトラブルのもとになるため、はっきり記載
- ・遺産(不動産)の登記簿通りの記載…あらかじめ登記簿を取り寄せておくこと
- ・遺産(金融機関口座)の口座番号や金融機関名を記載…遺産に預金がある場合は、相続人がわかるようにすること
- ・付言事項…相続人に伝えたいことを明確に記載
- ・年月日や遺言者の氏名
注意したいポイントは「付言事項」です。
付言事項には、相続人に伝えたいことを記します。
ただ、付言事項の部分には法的な効果はありません。
家族への感謝や遺産分割の理由(特定の相続人に遺産を多く相続させる場合は、その理由など)を書いておくとよいでしょう。
自筆遺言書が法的に無効になってしまう場合
自筆証書遺言を作成しても、内容次第では無効になってしまいます。
正しい遺言書の書き方の理解を深めるためにも、自筆証書遺言が無効になるケースを知っておきましょう。
自筆証書遺言が無効になるケースは以下の4つがあります。
- ・要件不備
- ・代筆がある
- ・内容が不明瞭
- ・共同で書かれている
自筆証書遺言が無効になるケースでありがちなのが、要件の不備です。
自書で書かなければいけないのにパソコンを使っていたり、年月日や署名押印がないなど、要件の不備があると自筆証書遺言が無効になってしまいます。
自筆証書遺言は、代筆してもらうことはできません。
ルールが変わって財産目録はパソコンでも作成できるようになりましたが、他の部分は自筆でなければいけません。
体調が優れないからと代筆してもらうことができないのです。
一部でも代筆部分があると無効になります。
内容が不明瞭な遺言書や、共同で書かれた遺言書も無効です。
仲の良い夫婦でも、遺言書は別々に作成しましょう。
遺言書の管理はどうするべきか
自筆証書遺言は遺言者が管理する必要がありました。
管理場所としては、自宅などがあります。
自分で自筆証書遺言を管理する、管理の主な場所が遺言者の自宅である、というような理由から、せっかく自筆証書遺言を作成しても、相続人に見つけてもらえなかったなどの問題がよくありました。
この他に、相続人や親族が遺言書に気づかず、遺品整理のときに廃棄するなどのトラブルもあったのです。
中には自筆証書遺言を何度も作成し、どれが最新の遺言書か相続人がわからなかったり、自分で書くからこそ要件不備であったりするケースも頻出しました。
裁判所で検認を受けなければならないのに、相続人が検認を受けずにいるケースなどもあったのです。
2020年の自筆証書遺言のルール改定で、自筆証書遺言の保管場所についても動きがありました。
自筆証書遺言を法務局で管理してもらえるようになったのです。
自筆証書遺言保管制度が2020年からスタート
2020年7月から、法務局で「自筆証書遺言保管制度」がスタートしました。
自筆証書遺言保管制度とは、法務局で自筆証書遺言を預かってもらえる制度です。
法務局で預かってもらうことにより、遺言書を誤って破棄したり、見つけられなかったりするなどの遺産相続トラブルを回避することが可能です。
法務局で預かってもらえるため、遺言書の偽造や変造防止も期待できます。
自筆証書遺言保管制度には、検認が不要になるというメリットもあります。
自筆証書遺言は相続が発生したときに裁判所の検認手続きが必要です。
法務局の自筆証書遺言保管制度を利用すれば、裁判所での検認が不要になります。
相続が発生したらスムーズに相続手続きができるのです。
自筆証書遺言保管制度の場合は遺言書の証明書の交付請求や閲覧請求などもできます。
相続人、被相続人どちらにとっても利便性の高い制度です。
自筆証書遺言の保管については、法務局の制度利用を検討してみましょう。
まとめ
自筆証書遺言は「自筆で作成する遺言書」です。
自筆証書遺言には法律で要件が定められており、要件を守っていない遺言書は無効になります。
正しい遺言書の書き方をするためにも、要件やルールは重要です。
2020年に自筆証書遺言のルールが変わりました。
従来は自筆証書遺言の財産目録も手書きでした。
この財産目録のルールが緩和されたかたちです。
財産目録については、パソコンなどでの作成が許されることになったのです。
自筆証書遺言の管理についても、自筆証書遺言保管制度という新しい制度が生まれました。
従来は自宅などで保管する必要があった自筆証書遺言を法務局が預かってくれるようになったのです。
自筆証書遺言保管制度を利用することで裁判所の検認が不要になる他、偽造や変造への対策もできます。
しかしながら、遺言書の中身について自筆や自書などが求められる点は変わりません。
自筆証書遺言の正しい遺言書の書き方をするためにも、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。