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最終更新日:2022/12/15

特例事業承認税制とは?平成30年の改正内容や適用要件について

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 特例事業承継税制とはどのような制度か知ることができる
  • 特例事業承継税制の適用を受けるための要件がわかる
  • 特例事業承継税制を適用するための流れや必要書類がわかる

中小企業のオーナー社長は、後継者となる子どもにその会社の経営を任せることが多いでしょう。

この時、会社の経営を任せるだけでなく、その会社の株式を子どもに譲り渡す必要があります。

ただ、株式の評価額を求めた上で贈与税や相続税の計算を行う必要があるため、多額の税負担が発生することもあります。

このことが事業承継を妨げ、高齢化した中小企業の経営者の世代交代が進まない要因ともなっています。

そこで、事業承継を促すために新たな事業承継税制の制度が設けられています。

この制度がどのような制度なのか、そしてどのような場合に適用できるのか、確認しておきましょう。

特例事業承継税制とは

特例事業承継税制とは、平成30年に改正されて設けられた新たな事業承継税制を指します。

事業承継税制は、平成21年に初めて創設された税金の制度です。

中小企業の経営者がその子どもに会社の株式をスムーズに引き継いでもらえるよう、税負担を軽減するための制度となっています。

ただ、この制度は使いづらく、使っても納税が発生する制度であったため、利用者は限定的でした。

そこで、より多くの人に利用しやすい制度を目指して特例事業承継税制が設けられたのです。

平成30年の改正内容

平成30年の税制改正で、特例事業承継税制の制度が新たに設けられました。

この制度は、それまでの事業承継税制からどのような点が改正されたのでしょうか。

2つの制度の違いから、平成30年の改正の内容を確認していきます。

  特例事業承継税制 事業承継税制
対象となる株式数 すべての株式 発行済株式総数の3分の2
相続時の猶予対象となる評価額 100% 80%
雇用確保の要件 5年平均で8割以上
ただし、宥恕規定あり
5年平均で8割以上
贈与を行う人 複数の株主について認められる 当初は先代経営者のみ
後継者となる人 最大3名まで
(持株割合10%以上の要件あり)
後継経営者1名のみ
相続時精算課税の対象者 推定相続人でなくても適用できる 推定相続人等の後継者に限定される
特例経営承継期間後の減免要件の追加 譲渡・合併による消滅・解散の場合にも相続税の再計算を行い、差額が納税免税となる 民事再生などの法的措置が執られた際に、その時の株式評価額を使って相続税を再計算し、差額の納税が免除される
特例承継計画の提出 提出しなければならない 不要
特例承継計画の提出期間 平成30年4月1日から5年間
その後、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して1年延長
なし
先代経営者からの贈与が認められる期間 平成30年1月1日から令和9年12月31日 なし

上記の表で示すのが、特例事業承継税制と以前からある事業承継税制との違いです。

多くの項目で違いがありますが、特例事業承継税制への改正により要件が緩和され、あるいは納税猶予が大きくなっています。

特にポイントとなるのは、特例事業承継税制によりすべての株式が納税猶予の対象となることです。

また、猶予される割合も80%から100%に改正されています。

これにより、以前の事業承継税制では納税が一定額発生していましたが、特例事業承継税制では納税額が発生しないこともあるのです。

たとえば、先代経営者が100%(株式数3万株、評価額1億5,000万円)を保有しており、そのすべてを後継者が相続するとします。

以前の事業承継税制では発行済株式総数の3分の2までが対象となるため、上限は2万株(評価額1億円)となります。

その上で、納税猶予の対象となる評価額は80%であるため、1億円×80%=8,000万円が納税猶予の対象となる金額です。

そのため、株式全体の評価額1億5,000万円のうち8,000万円は課税対象となりませんが、残りの7,000万円は課税対象となります。

一方、特例事業承継税制を適用すれば、保有するすべての株式について100%納税猶予の対象となるため、一切の税負担をすることなく事業承継が可能となりました。

特例事業承継税制の要件

前述したように、特例事業承継税制を適用すれば、納税猶予により一切の税金が発生しないため、非常に大きなメリットがあります。

しかし、それだけ大きなメリットを受けるためには、数多くの要件をクリアしなければなりません。

どのような要件が設けられているのか、その中身を解説します。

贈与者・被相続人となる人

もともと会社の株式を大量に保有しており、事業承継によってその株式を後継者に譲る人について要件が定められています。

まずは、過去に会社の代表権を有していたことが求められます。

また贈与を行う場合は、贈与時に代表取締役でないことが必要です。

先代経営者とその親族で株式の過半数を所有し、かつその中で後継者を除いたら先代経営者が筆頭株主とならなければなりません。

後継者となる人

事業承継により株式を取得して事業承継税制の適用を受けるには、後継者にも要件があります。

贈与と相続では要件に違いがあるため、両者を区分して説明します。

贈与が行われた場合、後継者は贈与の時点で会社の代表取締役であることが求められます。

また、贈与日に成人であること、取締役に就任して3年以上経過していなければなりません。

贈与された後には、後継者と親族で過半数の株式を保有し、後継者が1人の場合はその中で最も多く保有している必要があります。

後継者が2人あるいは3人の場合は10%以上、かつ他の後継者を除いた親族の中で最も多くの株式を保有していなければなりません。

相続により株式を引き継いだ場合は、相続開始の日の翌日から5か月以内に代表取締役にならなければなりません

また被相続人が60歳未満で亡くなった場合を除き、相続開始前から取締役でなければなりません

その他の株式の保有に関する要件は、贈与の場合と同じです。

従業員の雇用確保

事業を承継した日から5年間を特例経営承継期間といいます。

特例事業承継税制の適用を受けたにも関わらず、その後に後継者が会社の経営をやめないよう、様々な要件が定められています。

中でも最も問題になる可能性があるのが、従業員の雇用確保の要件です。

改正前の事業承継税制では、事業を引き継いだ時点の従業員数の8割以上を確保しなければなりませんでした。

この要件に例外は認められず、たとえ業績が悪化しても従業員数を減らせない状態となっていました。

しかし、この要件が厳しいことが事業承継税制の利用は広まらない一因となっていました。

そこで、特例事業承継税制では要件が緩和されています。

従業員の8割の雇用が確保できない場合でも、やむを得ない理由がある場合には認められることとされました。

これが上記の表にあった「宥恕規定」です。

この場合は、認定経営革新等支援機関の意見が記載された報告書を都道府県に提出し確認を受けなければなりません。

ただ、きちんと手順を踏めば従業員数を減らすことも可能となったため、大きな変化といえます。

特例経営承継期間後の減免要件

5年間の特例経営承継期間が経過すると毎年の報告義務は終了し、後継者が辞任するなど特殊なことが発生しない限り納税猶予が継続します。

後継者が子どもなど次の後継者に事業承継を行えば、納税猶予から納税免除となり、納税義務は消滅します。

しかし、それ以外の理由で会社の経営から離れた場合には、それまで猶予されていた税額を納付する必要が生じるのです。

ただ、以前の事業承継税制では、民事再生法や会社更生法などを適用して消滅した場合、税額の一部が減免されました

改正により特殊事業承継税制となってからは、さらに免除されるケースが増えています。

株式を譲渡した場合や合併により会社が消滅した場合、あるいは解散した場合にも税額が減免される場合があります。

特例承継計画の提出

以前の事業承継税制にはありませんでしたが、特例事業承継税制では特例承継計画を作成しなければなりません

特例承継計画は、税務署ではなく都道府県に提出する書類です。

まず特例承継計画を提出し、株式の承継を行った後に申告をするという流れとなるのです。

特例承継計画の作成にあたっては、認定経営革新等支援機関となっている商工会議所や商工会、金融機関や税理士などに依頼して、記入してもらう必要があります。

また、特例承継計画の作成自体を支援してもらうこともできるため、事業承継を行う前に相談してみましょう。

特例事業承継税制を申請するときの流れ・必要書類

特例事業承継税制を適用する際には、どのような手続きが必要となるのでしょうか。

ここでは、その流れに沿って必要な手続きをご紹介していきます。

特例承継計画の作成

まずは事業承継にあたっての候補者や承継時までの経営見通しなどを記載した特例承継計画を作成します。

認定経営革新等支援機関に所見を記載してもらったら、その書類を都道府県に提出します。

なお、提出期限は令和5年3月31日までとなっていましたが、その後1年延長されて令和6年3月31日までとなっています。

相続や贈与の実行

相続は先代経営者が亡くなった時点で発生するため、いつ発生するかはわかりません。

一方、贈与は時期を決めて株式を移転することができます。

先代が元気なうちに株式を移転することで会社の経営者が交代し、後継者を新しい会社の顔とすることが可能になります。

認定申請を行う

贈与を行った場合は、株式を贈与した年の翌年1月15日までに、相続があった場合は相続開始から8か月以内に申請を行います。

この時、特例承継計画を添付して提出する必要があります。

申告書を税務署に提出する

認定申請を行った後に交付される認定書の写しを添付して贈与税・相続税の申告書を提出します。

納税猶予が適用されるため、税金が発生しない場合もありますが申告は必要です。

申告期限後5年間

都道府県には毎年1回、年次報告書を提出しなければなりません。

また、税務署には継続届出書を年に1回提出します。

これらの書類を提出することで、事業承継後5年間の特例経営承継期間の要件を満たしているか確認することができます。

申告期限から5年経過後

税務署に継続届出書を3年に1回提出します。

提出を忘れてしまうと納税猶予が取り消される可能性もあるため、忘れずに書類を作成し提出しなければなりません。

まとめ

中小企業の社長が交代する場合のような事業承継を行うと、後継者に多額の税金が発生することがあります。

しかし、後継者はようやく代表者になったばかりですし、多額の税金を支払うことはできません。

そこで特例事業承継税制を適用して、税負担を猶予してもらうことを検討することをおすすめします。

納税猶予を適用すれば税金のことに気を取られず、会社の経営に集中することができるはずです。

会社の経営に集中することができれば、後継者がさらに会社を発展させることが期待できます。

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