この記事でわかること
- 事業承継とは何か
- 事業承継に関する中小企業の現状や問題点
- 事業承継の具体的な方法や手続きの流れ
目次
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営者が交代し、新たな経営者がその会社の運営を行う行為です。
中小企業の場合、その会社の株式を保有するオーナーが社長に就任するケースが多いでしょう。
会社の経営と会社の所有は表裏一体となっており、分けて考えるのが難しい状況が一因です。
つまり事業承継とは、会社の経営・運営と会社の株式を同時に引き継ぐ行為でもあるのです。
事業承継を行う際には、会社の経営を引き継ぐだけでも、株式を引き継ぐだけでもいけません。
経営も所有も問題なくできる人が、事業承継するのにふさわしい人といえます。
事業承継と事業継承の違い
承継とは、「地位・事業・精神などを引き継ぐ」を意味する言葉です。
一方、引き継ぐ意味の言葉では「継承」もあります。
継承とは、「身分・権利・義務・財産などを引き継ぐ」を意味します。
事業を引き継ぐ場合、「事業継承」ではなく「事業承継」と表現するのが一般的です。
事業承継は、経営者としての身分や権利義務、会社の財産を引き継ぐだけではありません。
経営理念や想い、文化などの引き継ぎも「事業承継」の言葉に込められているのです。
それらは企業が事業を行う上で培ってきた目に見えない財産であり、事業の継続に重要な役割を果たすからです。
中小企業における事業承継の現状
現在、日本では特に中小企業の後継者不足が深刻な問題となっています。
主に次のような理由があるといわれています。
経営者が高齢化・後継者が不足している
帝国データバンクの動向調査によると、2023年の後継者の不在率は53.9%でした。
直近3年間で見ると、2021年の不在率61.5%から改善傾向がみられます。
ただし、社長の平均年齢は2023年で60.8歳と年々高齢化し続けています。
60歳以上の経営者のうち60%超が将来的な廃業を予定、このうち後継者不在によるケースが約30%にのぼります。
後継者不足は、依然として深刻な状況にあるといえるでしょう。
(帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023年))
親族外承継が増加している
同じく帝国データバンクの動向調査によると、2023 年の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」が35.5%(前年比+2.2%)でした。
一方、これまで最も多かった身内の登用など「同族承継」は減少し、2023年は33.1%(前年比-4.5%)でした。
2023年に「内部昇格」が「同族承継」をはじめて上回っています。
このほか、買収など「M&A」が20.3%(前年比+1.7%)、社外から経営者を招く「外部招聘」が7.2%(前年比+0.1%)と増加しています。
前述の通り、直近では後継者の不在率は改善傾向にありますが、それは主に親族外承継の増加が要因といえるでしょう。
(帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023年))
事業承継に関する知識が不足している
事業承継が進まない要因の一つとして、事業承継に関する知識不足や誤解があげられています。
たとえば、M&Aによる承継は近年増加傾向です。
しかし、「従業員が解雇される」「取引先に迷惑をかける」などネガティブなイメージをもつ経営者は少なくないでしょう。
実際のところ、M&Aには様々な手法があり、必ずしも従業員の解雇や事業の撤退を伴う訳ではありません。
また、同じく増加している内部昇格も、親族株主間の調整や株をどう承継するかなど解決しなければならない問題が多くあります。
事業承継は会社の本業とはまた異なる専門領域であり、承継の必要はあるが「よくわからない」経営者も少なくないようです。
事業承継で引き継ぐべき資産とは?
事業承継の主な構成要素は、3つあります。
人(経営権など)、資産(株式や事業用の設備、資金など)、知的資産(理念や技術・ノウハウ、取引先との人脈など)です。
次の章から、それぞれについて解説します。
人の承継
人の承継とは、経営の後継者として適切な人材を選び、経営権を承継する行為です。
特に中小企業においては、事業の継続が経営者の資質に大きく左右される傾向にあります。
内部昇格により長年就業してきた従業員に経営権を渡す場合は、能力を十分に把握した上で経営権を移譲できるケースが多いです。
ただし、特にM&Aなど外部の人に経営権を移譲する場合、教育など十分な時間をかけるため早期に人材を選定するのが望ましいでしょう。
資産の承継
資産の承継とは、主に次があります。
- 株式(自社や関連企業)
- 製造機械など事業用の設備
- 本社の土地建物や工場などの不動産
- 現金や預貯金
運転資金として借入れをしているケースなどマイナスの資産の承継もあります。
長年、事業を続けている企業ほど権利関係も複雑化しやすいでしょう。
承継の前にプラスの資産とマイナスの資産を整理するのが重要です。
また、資産の承継は税金の支払いを伴うケースも多いため、事前に税理士など専門家と相談しておくのが望ましいでしょう。
知的資産の承継
知的資産の承継とは、主に次の承継をいいます。
- 従業員の保有する技術やノウハウ
- 顧客など取引先との信頼関係
- 特許、ブランドなど
固定資産のように目に見えませんが、事業上必要であり、自社の強みとなるケースが多くあります。
目に見える資産以外に、自社の競争力の源泉となっているものは何か、経営者が正しく認識し、後継者へ承継するのが重要です。
特にM&Aのプロセスでは他社への人材流出などが起きてしまうケースがあり、注意しなければなりません。
事業承継を行うメリット・デメリット
中小企業が会社を存続させるためには、新しい経営者を見つけてその経営と会社の株式を引き継いでもらう事業承継が必要です。
事業承継を行うには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
事業承継のメリット
事業承継のメリットは、会社が行ってきた事業内容をそのまま新しい経営者に引き継げる点です。
これまで会社として蓄積してきた多くのノウハウをそのまま新しい経営者に伝えられます。
そのため、これまでの取引先や消費者との関係もそのまま継続できるのが大きな利点です。
経営者が変わっても事業内容やその手法が変わらなければ、金融機関など第三者との関係も良好に継続できるはずです。
また、事業承継した後も会社はそのままの形で継続するため、従業員をそのまま雇用し続けられます。
従業員を解雇したり従業員が辞めてしまったりするのであれば、新たな従業員を探さなければなりません。
しかし、事業承継を行えばそのような負担はなく、会社は従来通りに継続できます。
事業承継のデメリット
事業承継には、デメリットもあります。
会社がこれまでと同じ形で継続するため、新たなスタートを切ろうとする際には逆に足かせとなる場合があるでしょう。
たとえば、会社が抱える負債は新しい経営者がそのまま引き継ぎます。
会社を消滅させるわけではないため、このような負債を消滅させられません。
また、従業員の中には事業承継により新しい経営者に変わる点に不平不満を持つ人もいる可能性があります。
しかし、事業承継を行った場合には、このような従業員も引き続き雇用し続けなければなりません。
会社を生まれ変わらせたい新経営者の計画を妨げてしまう可能性がある場合に注意して新しい事業計画を立てましょう。
事業承継の種類
事業承継にはどのような種類があるのでしょうか。
事業承継の3つの種類を紹介します。
親族内承継
親族内承継とは、親子など経営者の親族を後継者にする方法です。
日本では昔から家業の承継として多くの企業に採用されてきました。
メリットとして、一般的に社内外の関係者からの理解が心情的に得られやすく、スムーズな承継となるケースが多いです。
ただし、デメリットとして親族内に適任者がいるとは限らず、承継を望まない場合もあるでしょう。
親族内承継を希望する場合は、早期で社内教育を始め、十分な経験を積ませ適正を見極めるのが重要です。
なお、経営権の移譲に必要な株式は相続や生前贈与を利用すれば節税も可能です。
この場合、複雑な各種税制が適用される可能性があるため、税理士などの専門家と相談しながら進めるとよいでしょう。
親族外承継
中小企業の中には、親族に後継者の候補となる人がいないケースもあります。
この場合、会社の事業内容を把握している従業員の中から後継者を探します。
従業員であれば会社の実務を把握しているため、事業を継続に支障はありません。
これまでの経営方針を継続するだけでなく、問題点を踏まえたこれまでの経営見直しもできるはずです。
ただ、従業員の中に必ず後継者の候補者がいるとは限りません。
会社の業務はできても、会社の経営には別の能力が求められるためです。
社内の統制だけでなく、会社の顔として対外的な役割を果たせるか、見極める必要があります。
特に取引先や金融機関との関係で、スムーズな承継ができない可能性にも注意しましょう。
M&A
会社の事業承継を行う際に、社長や会社にまったく関係のない第三者が後継者となれます。
以前はこのような事例は少なかったのですが、近年は第三者が事業承継するM&Aが増えています。
第三者が事業承継する際には、後継者を探している会社と事業承継したい人がマッチングしなければなりません。
近年ではM&Aに特化したサービスを提供している会社が増えている他、金融機関も積極的にM&Aを勧めています。
そのため、このようなサービスを利用すれば、能力や人間性から判断して後継者となる人を探せます。
また、望むような人材が現れるまでら後継者を探すのも可能です。
しかし、
- 第三者の能力が思っていたほどではなかった
- 思っていたような会社ではなかった
このような理由で、会社と第三者がお互いに納得のいく事業承継とならない場合もあるため、慎重に進める必要があります。
事業承継の流れ
実際に事業承継はどのような流れで進められるのでしょうか。
ここでは、後継者を探している会社が何をしなければならないのか、その手順を紹介します。
1)会社の現状を把握する
後継者を探している会社は、まず会社がどのような状況にあるのかを把握する必要があります。
中でも、事業承継にあたって重要な項目は以下のとおりです。
- 会社の保有する資産、負債の金額とその明細
- 会社の株主と各株主が保有する株数
- 会社の株式の評価額
これらの金額や数値は、誰が後継者になるとしても必要な項目ばかりです。
また、後継者と交渉を行うにあたってはその金額が大きく影響します。
そのため、事前に把握しておくのが望ましいといえます。
2)後継者の候補を探す
将来、会社の経営者となる人を探します。
後継者となる人は、必ずしも親族に限られません。
従業員の中に適任者がいるかもしれませんし、社外の第三者から探せます。
第三者の後継者を求める場合は、専門の仲介業者を通してその候補者を提示してもらいます。
親族以外の人を後継者とする場合は、焦らずにじっくり適任者を探すようにしましょう。
3)事業計画書を作成する
事業計画書は、これから会社がどのように事業を展開していくのか、その将来像を示す書類です。
後継者を選び、経営者の交代に向けて動き出せば、会社にとっては大きな変化が生じます。
そこで、事業承継を行う際には、必ず事業計画書の作成をおすすめします。
事業計画書の作成は、前任の社長と後継社長が一緒に行うのが一般的です。
会社の状況や後継者について明記し、事業承継を行った上でどのように進んでいくのかを記載しましょう。
4)社内・社外の関係者に説明する
事業承継の詳細が固まり実行を待つだけとなったら、事業承継について関係者に公表するタイミングです。
従業員や取引先に事業承継を行うと説明し、後継者となる人を紹介します。
また、事業承継は会社が事業を継続するために行うと、特に説明しておきましょう。
事業承継の注意点
事業承継は、会社が事業を継続するために大変有効な手段です。
しかし、会社の後継者が見つかったとしても、その人がいきなり社長になれるわけではありません。
会社の実状や問題点を把握するのには時間がかかりますし、経営のノウハウがすぐに身につくわけではないためです。
事業承継を行う際は、後継者の選定・育成・業務の引き継ぎなどに時間がかかる点を頭に入れて早めに着手しましょう。
まとめ
事業承継は、会社の経営者が交代する行為だけを意味するのではありません。
会社がこの先どのように進み、どのように事業展開をしていくのかを決定する機会となっています。
次の経営者となる後継者と一緒に、新しい会社を作っていくスタートともいえるかもしれません。
事業承継に失敗して廃業したり倒産したりしないよう、専門家のアドバイスを受け、事前の準備を入念にして事業承継を実行しましょう。