この記事でわかること
- 事業信託のスキームがわかる
- 事業信託のメリット・デメリットと活用法がわかる
- 自己信託のスキームと注意点がわかる
目次
事業信託とは?
事業信託とは、会社の運営を第三者に任せて事業再生を図るほか、債権回収・資金調達に使われるスキームです。
事業譲渡と似ていますが、事業をすべて譲り渡す事業譲渡とは異なり、経営権などは委託者にあります。
事業信託することで、委託者・受託者・受益者の三者それぞれのメリットが多くあるでしょう。
事業信託では、特定の事業そのものを独立した財産として扱うため、プラスの財産もマイナスの財産も1つの集合体として、受託者に管理を委ねます。
また、信託された事業は、受託者が従来運営していた事業とは区別した事業として扱われます。
従来の事業と信託事業は財産管理としても分けられ、会計・税金関係は別々で計上される特性があります。
事業信託3つのメリット
事業信託のメリットは3つあります。
こちらでは、事業信託のメリットについて説明します。
メリット1:合理的な利益の取得と事業再生が実現
事業信託は、合理的な利益の取得と事業再生を実現します。
信託は相続対策に使われるケースが多い制度ですが、事業再生にも適用可能で、事業を信託して事業再生を図ることができます。
たとえば、自社で伸び悩んでいた事業を運営のノウハウや高度な専門知識がある会社に運営を委託することで、利益が増加するでしょう。
事業譲渡とは違い、経営権や利益取得の権利も委託者にあり、事業運営する受託者には報酬を支払います。
そのため、事業譲渡せずに利益獲得が見込める事業運営を外部委託し、採算事業として存続させることができます。
メリット2:新規設立費用をかけずに新事業ができる
新規事業として新たな分野をはじめる場合、受託者として事業運営をすることもできます。
通常は新しく事業を立ち上げる場合、設立から運営の費用・時間などが必要です。
事業信託の場合は、受託された事業によって得た利益を受益者に渡しつつ自社利益も獲得できるので、大きな費用や労力をかけずに新たな事業をスタートできます。
一方、事業譲渡を利用すると低リスク・低コストで事業をはじめることは可能ですが、買収資金などが必要です。
メリット3:事業譲渡や破産手続きよりも多くの債権回収
事業信託を利用すると、債権者が受益権を持ち配当を受けるほか、事業そのものの売却によって代金を回収できます。
また、委託者兼受益者である会社が受益権を売買し、利益を配当する方法もあるでしょう。
破産手続きをした場合、換金・配当する債権は返済の順番に優劣が生じることがあるため、、債権者によっては、債権の金額と比較して少ない配当となる場合があります。
また、事業譲渡する場合は、買い手側の意思で買収価格が決まることが多く、債権者の思惑通りの価格で事業を売り渡せるケースは少ないでしょう。
事業信託なら、破産手続きや事業譲渡よりも多くの債権を回収することができます。
事業信託2つのデメリット
事業信託はメリットが多い制度ですが、デメリットが2つあります。
デメリット1:プラスだけでなくマイナスの財産も信託される
事業信託では、プラス財産とマイナス財産である債務も一緒に信託されます。
事業をまるごと信託するので、資産だけではなく人件費や借入金、仕入れの支払いなども含まれます。
通常の信託では、財産・不動産などプラスとなる財産だけが信託されますが、事業信託は債務の負担も生じるでしょう。
そのため、受託者には総合的な事業運営と専門的な技術・経営のノウハウが必要です。
デメリット2:契約内容によってトラブルが起こる可能性あり
契約内容によっては、トラブルが起こる可能性もあります。
事業信託は、10年〜20年の長期的な設計をすることが多いため、受託者の意思で柔軟に変更できる契約にしておく必要があります。
信託を設定した数年後に受託者が不適切だと判断した場合などに、受託者の意思で契約を解除できる条項が入っていないと、本来の希望とは異なる状況になりトラブルになってしまうことが考えられます。
契約の際には、受託者の意思を反映できる内容になるように、事前にしっかり検討しておきましょう。
事業信託の4つの活用法
事業信託を利用する動きは広がっていますが、どのようなケースで活用されているのでしょうか。
こちらでは、事業信託の実例について説明します。
不採算事業の事業再編に活かせる
受託者のノウハウや知識・販路を活用し、委託者の信託財産である事業再編が実行できます。
軌道に乗らず収益が取れない不採算事業は、いずれ清算する結果になるでしょう。
事業信託を利用することで、不採算事業から採算事業への転換が見込めます。
事例
たとえば、多数の事業を営むA社(委託者兼受益者)が、不採算な1つの事業をB社(受託者)に管理・運営を信託します。
B社(受託者)の持つ専門知識や経験が活用され、不採算事業は採算事業へと転換し、その結果A社(委託者兼受益者)には利益がもたらされ、B社(受託者)には報酬が支払われます。
信託で事業再生して受益権を売却し代金を配当
信託で事業再生し受益権を売却すると、債権者に代金を配当できます。
事業再生の障害となるのは、支払いができず債務超過に陥った局面です。
支払いが困難になると、選択肢として破産手続きや事業譲渡を考えることになるでしょう。
破産や事業譲渡は債務者・債権者にとって大きな弊害があるため、それらを避ける選択肢として受益権を売却して代金を配当する手段があります。
事例
たとえば、A社(委託者)は債務超過になり、B社(受託者)に事業の管理・運営を信託します。
A社(委託者)は受益権を得ますが、受益権を第三者に売り渡し売却した代金を債権者に配当します。
受益権の中身は、B社(受託者)が運営し発生する収益と、信託期間満了によりB社(受託者)が継続して事業を譲り受ける、もしくは別の会社が買い取る際に発生する代金です。
信託で事業再生し受益権を配当
信託で事業再生して、債権者に受益権を配当します。
前項と同様のケースで、支払いができず債務超過に陥った場合、破産および事業譲渡を避ける方法として信託を用いて受益権を配当します。
事例
たとえば、A社(委託者)は債務超過になり、B社(受託者)に事業の管理・運営を信託します。
A社(委託者)は、B社(受託者)の運営によってもたらされた受益権を債権者に配当。
受益権は、B社(受託者)が運営し収益が発生する間、債権者に配当されます。
受益権の中身は、B社(受託者)が運営し生み出す収益と、信託期間満了によりB社(受託者)が継続して事業を譲り受ける、もしくは別の会社が買い取る際に生じる資金が配当の対象となるでしょう。
1つの事業を資金化して新事業への資金調達
従来、営んでいる1つの収益事業を売却して資金化し、新しい事業のために資金調達ができます。
事業そのものを売却しながら、引き続き運営して利益を取得できるのです。
事例
たとえば、A社(委託者)が所有する1事業を売り渡して資金化を検討。
B社(受益者)は、A社(委託者)の1事業の運営には関与せず投資のみをします。
C社(信託会社)を受託者とし、A社(委託者)は得た受益権をB社(受益者)に売り渡して資金を調達。
そして、A社(委託者)は1事業の運営をC社(信託会社)から引き受けて履行し、運営報酬を取得します。
自己信託のスキームと注意点
自己信託とは、「自分で自分に信託」することであり、受益者のために適正な財産管理をするスキームです。
委託者と受託者が同じであることから、契約ではなく「自己信託」や「信託宣言」と呼ばれています。
委託者と受託者は同一人物ですが、自分で自分に信託することにどのような意味があるのでしょうか。
こちらでは、自己信託について簡単に説明します。
自己信託とは?
自己信託は、委託者=受託者であり、第三者である受益者のために自分の財産を活用します。
同じ人や会社が委託者兼受託者になることで、他者を挟まず合意となり効力が生じるでしょう。
具体的には、公証役場で公正証書を作り意思を表明します。
公正証書を作らない方法としては、受益者に確定した日付がある信託内容を通知します。
あえて、同じ人や会社が委託者兼受託者となるのは、どのようなメリットがあるのかと思われることでしょう。
自己信託では、信託契約により委託者の財産を既存財産と信託財産として分別するということと、自分の財産を管理処分し受益者のために信託する目的があります。
つまり、この財産を用いて得た収益を受益者に配当するというスキームなのです。
自己信託を行うメリット
自己信託するメリットは、委託者自身で事業運営し利益を生み出せることです。
事業運営にはノウハウや知識・技術などが必要であり、従来、経験値のある委託者が運営するので問題なく事業運営ができるでしょう。
もし、事業に長けていない運営者に受託した場合、利益が生み出せないリスクがあります。
自己信託により、委託者自身のノウハウで事業運営ができ低リスクの事業運営ができるでしょう。
また、許認可や資格が必要であるなど、事業をするにあたって制限があるケースがあります。
法の規制により制限のある薬事法などの業種では、事業信託はできませんが、自己信託でしたら問題なく信託を遂行できます。
自己信託の注意点
自己信託では、財産の所有者が受益者となり、自己信託したときから財産が移転したとみなされます。
つまり、財産が移転することからみなし贈与とされ、贈与税の対象となりますので、注意しておきましょう。
まとめ
事業信託のメリットや活用方法、自己信託についておわかりいただけたでしょうか。
相続や遺言などで信託を活用する動きは広まりつつありますが、事業そのものを信託するケースについては活用例が少ないのが実情です。
会社経営において、不採算事業の扱いに頭を悩ませる方も多いと思います。
会社の先行きが不透明になる前に司法書士などの専門家に相談し、信託などを活用した事業運営の改善策を見いだすことが大切です。
信託を活用したスキームを組むことにより、相続から会社経営に至るまで、さまざまな契約に汎用できると言えるでしょう。