この記事でわかること
- 遺族年金を受給する際の受給額について知ることができる
- 遺族基礎年金や遺族厚生年金の受給要件を知ることができる
- 自分の年金がある場合や離婚・別居中の配偶者がいる場合の取扱いがわかる
遺族年金という制度があることは、多くの方が知っていることでしょう。
漠然と、「家族が亡くなった場合にもらえるのだろう」ということは知っているかもしれません。
しかし、実際に遺族年金を受給するにはどのような要件があるのか知らない方も多いのが現実です
今回は、遺族年金の受給要件を解説し、また自分の年金と遺族年金がある場合、あるいは別居中の配偶者の遺族年金を受給できる場合などの事例もご紹介します。
目次
遺族年金とは
遺族年金と一口にいっても、その中身は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類に分けることができます。
それぞれどのような制度なのか、まずはその内容を簡単にご紹介します。
遺族基礎年金
遺族基礎年金とは、国民年金に加入していた方が亡くなった場合に、その遺族に対して支給される年金です。
国民年金に加入していた方が対象なので、主に自営業者や個人事業主の家族が対象となります。
遺族厚生年金
遺族厚生年金とは、厚生年金や共済年金に加入していた方が亡くなった場合に、その遺族に対して支給される年金です。
厚生年金に加入していた方は、厚生年金に加入する会社を経営していた方や、会社に勤務していた方です。
一方、共済年金に加入していた方は、主に公務員です。
これらの形態で勤務していた方の家族は、遺族厚生年金を受給できる可能性が高くなります。
また、厚生年金に加入していた方は基礎年金にも加入しており、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が受給できる場合があります。
遺族年金の受給額
遺族年金を受給する場合、その金額はどのように計算されるのでしょうか。
遺族基礎年金と遺族厚生年金とではその計算方法に違いがあるので、それぞれの受給額を確認しておきましょう。
遺族基礎年金の受給額
遺族基礎年金の受給額は、「基本額」+「加算額」として計算されます。
なお、子供が受給者となる場合、上記受給額を子供の数で割った額が、1人あたりの額となります。
基本額とは、遺族基礎年金を受給する方の被相続人から見た続柄と年齢などにより、以下のようになっています。
遺族基礎年金の受給者 | 遺族基礎年金の基本額 |
---|---|
子供のいる配偶者(67歳以下) | 795,000円 |
子供のいる配偶者(68歳以上) | 792,600円 |
子供 | 795,000円 |
また、加算額は子供の人数によって以下のように変動することとされています。
遺族基礎年金の受給者 | 遺族基礎年金の加算額 |
---|---|
子供のいる配偶者(67歳以下) |
2人目まで子供1人あたり228,700円 3人目以降は76,200円 |
子供のいる配偶者(68歳以上) |
2人目まで子供1人あたり228,700円 3人目以降は76,200円 |
子供 |
子供が1人の場合は0円 子供が2人の場合は228,700円 3人目以降は76,200円 |
遺族厚生年金の受給額
遺族厚生年金の受給額の計算は、遺族基礎年金と比べると非常に複雑になります。
計算に用いるのは、「平均標準報酬月額」あるいは「平均標準報酬額」と呼ばれる金額です。
平均標準報酬月額は、2003年3月以前の加入期間について、計算の基礎となる毎月の給料の額から求められた標準報酬月額の総額を、厚生年金の加入月数で割った平均の金額です。
2003年4月以降は賞与の額もこの計算に含めるため、2003年4月以降に厚生年金に加入していた人が計算に用いるのは平均標準報酬額となります。
それぞれの金額を求めたら、以下の算式に当てはめて遺族厚生年金の金額を求めます。
①平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
②平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入期間の月数
最後に(①+②)×3/4の計算を行うと、遺族厚生年金の金額となります。
遺族基礎年金の受給要件
受給要件を満たさなければ、遺族基礎年金を受給することはできません。
どのような受給要件が定められているのか、その要件を解説していきます。
亡くなった人の要件
国民年金に加入していた人が亡くなった場合、遺族基礎年金を受給できる可能性があります。
具体的には、以下の①~④のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- ①国民年金の被保険者である間に死亡したとき
- ②国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
- ③老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
- ④老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
①②の場合は、亡くなる前日の時点で保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の2/3以上でなければなりません。
ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。
③④の場合は、保険料納付済期間などの合計が25年以上あることが要件とされています。
遺族の要件
遺族基礎年金を受給することができるのは、亡くなった人により生計が維持されていた子供のいる配偶者や子供です。
具体的には、以下の両方を満たしていなければなりません。
- 亡くなった人と生計が同一であった
- 前年の収入が850万円未満、または前年の所得金額が655万5000円未満であった
さらに、ここでいう子供とは、以下のいずれかに該当する人をいいます。
- 18歳になった年度の3月31日までにある方
- 障害等級1級または2級に該当する20歳未満の子供である
遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金の受給要件は、遺族基礎年金の受給要件とはまったく異なります。
具体的にどのような要件が定められているのか、確認しておきましょう。
亡くなった人の要件
遺族厚生年金を受給できるのは、厚生年金に加入していた人が亡くなった場合です。
ただし、亡くなった人についても要件が定められており、すべての人が遺族厚生年金の対象になるわけではありません。
具体的には、以下の①~⑤のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- ①厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- ②厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- ③1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- ④老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- ⑤老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
①②の場合は、亡くなる前日の時点で、保険料納付済期間(保険料免除期間含む)が国民年金加入期間の2/3以上でなければなりません。
ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。④⑤の場合は、保険料納付済期間などの合計が25年以上あることが求められます。
遺族の要件
遺族厚生年金を受給することができるのは、亡くなった人に生計を維持されていた遺族です。
遺族基礎年金のように、配偶者や子供に限定されません。
以下の表の順に該当する人がいないかを確認し、該当する人がいるグループに属する遺族が遺族厚生年金を受給できます。
順位 | 遺族厚生年金の受給対象者 |
---|---|
第一順位 | 子のある配偶者、子(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)※1 |
第二順位 | 子のない配偶者※2 |
第三順位 | 父母※3 |
第四順位 | 孫(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。) |
第五順位 | 祖父母※3 |
※1 子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されません。
※2 子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給できます。また、子のない夫は、55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります(ただし、遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できます)。
※3 父母または祖父母は、55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。
遺族基礎年金と同じく、「前年の収入が850万円未満、または前年の所得金額が655万5000円未満」の要件があります。
この要件に該当しない人は、受給対象者であっても実際に遺族厚生年金を受給することはできません。
また、受給資格があっても受給できる期間に制約があるため、注意が必要です。
遺族厚生年金の受給者 | 受給制限 |
---|---|
妻 | 夫が亡くなったときに子がいる場合、もしくは30歳以上の場合は「亡くなった翌月から一生涯」受給できます。一方、夫が亡くなったときに子がいない場合並びに30歳未満の場合は「亡くなった翌月から5年間」となっています。 |
夫 | 被保険者が亡くなった時点で55歳以上の場合に限り、60歳から一生涯受給できます。ただし、遺族基礎年金を受給中の子がいる夫の場合は60歳未満でも受給できます。 |
父母・祖父母 | 被保険者が亡くなった時点で55歳以上の場合に限り、60歳から一生涯受給できます。ただし、遺族基礎年金を受給中の子がいる夫の場合は60歳未満でも受給できます。 |
【注意】自分の年金と遺族年金は片方しか受け取れない
遺族年金をすでに受給している方が、自分の年金が受給できる年齢になると、どうなるのか不安に思う方もいるでしょう。
基本的に、受給できる公的年金の種類は1種類に定められているため、自身の年金(老齢年金)と遺族年金は同時に受給できません。
ただ、遺族年金の内容によっては、遺族年金に老齢年金をあわせてもらえるケースもあるので、その考え方を整理していきます。
遺族基礎年金のみの受給者は両方もらえない
遺族基礎年金を受給している方は、自身の老齢年金と両方を同時にもらうことはできないこととされています。
そのため、遺族基礎年金と自身の老齢年金のいずれかを選択する必要があります。
なお、自身の老齢年金は「老齢基礎年金」と「老齢基礎年金+老齢厚生年金」のパターンがあるため、事前に確認しておきましょう。
自身の年金が老齢基礎年金だけの場合
自身の年金が老齢基礎年金だけの場合、「遺族基礎年金」と「老齢基礎年金」のいずれかを選択することとなります。
通常、遺族基礎年金を選択した方が、受給額が大きくなります。
自身の年金が老齢基礎年金+老齢厚生年金の場合
自身の年金が老齢厚生年金も含む場合、「遺族基礎年金」と「老齢基礎年金+老齢厚生年金」のいずれかを選択します。
この場合は、老齢基礎年金+老齢厚生年金を選択する方が、受給額が大きくなるのが一般的です。
遺族厚生年金を受給していたら両方もらえる可能性がある
遺族厚生年金を受給している方は、老齢年金を一緒にもらえるパターンもあるため、より慎重に考える必要があります。
まずは、自身の年金の種類を確認し、老齢厚生年金がある場合はその金額も確認しておきましょう。
自身の年金が老齢基礎年金だけの場合
自身の年金が老齢基礎年金だけの場合は、遺族厚生年金と老齢基礎年金を同時に受給することができます。
自身の年金が老齢厚生年金の場合
遺族厚生年金は、基本的に遺族の方が亡くなるまで生涯受給することができます。
また、老齢厚生年金の受給資格を満たすと、老齢厚生年金の他に老齢基礎年金の受給資格も得ることができます。
この場合、基本的には老齢厚生年金を受給することとなりますが、老齢厚生年金の金額が遺族厚生年金より少ない場合があります。
このようなケースでは、自身の老齢厚生年金+不足分の金額を受給することができます。
離婚・別居中の配偶者の遺族年金を受け取れるケース
結婚した夫婦が離婚することは、珍しいことではありません。
ただ、離婚した場合に遺族年金の支給対象から除外されることとなれば、離婚を躊躇せざるを得ないこともあるでしょう。
離婚した人や別居中の人が遺族年金の支給を受けられるのか、確認しておきましょう。
遺族基礎年金
遺族基礎年金の受給資格は、「子供のいる配偶者」または「子供」に発生します。
離婚した人は、すでに配偶者ではなくなっており、原則として遺族基礎年金を受給することはできません。
別居中の場合は配偶者であるため、受給資格を得られることがあります。
ただ、亡くなった人に生計を維持されていたことが要件であるため、実際には受給できないケースもあります。
遺族厚生年金
遺族厚生年金の受給資格は、亡くなった人に生計を維持されていた遺族とされています。
離婚した元配偶者であっても、慰謝料を受け取るなど生計を維持されていたといえるような特別の事情がある場合には、遺族厚生年金を受け取れることもあります。
なお、実際に遺族年金の受給資格を得られるかどうかは、個別の状況により判断されます。
その確率をより高くしたい場合は、専門家に相談してから遺族年金の受給手続きを始めるようにしましょう。
遺族年金に税金はかからない
老齢年金を受け取った場合、その年金には税金がかかります。
ただし、老齢年金を受け取った場合は、税金の額が大きくなりすぎないよう、年金の支給額から最大130万円が控除されます。
控除後の金額に対して所得税や住民税の計算が行われるため、老齢年金の一部の金額については課税対象から除かれています。
ただし給与所得や事業所得など、他にも所得がある場合は税率が上がるため、税金の負担も大きくなります。
一方、遺族年金はすべて非課税とされています。
所得税や住民税などの税金は、一切かかりません。
他に所得がある人でも、遺族年金自体が非課税とされているため、確定申告を行う際に申告に含める必要はありません。
まとめ
遺族年金は、亡くなった人の遺族に対して支給される年金です。
遺族の方の生活を保障するために支給されるものであり、その性格上、税金は非課税になるものとされています。
ただ、遺族年金の受給資格は亡くなった人についても、遺族についても細かく規定されています。
これらの要件を満たさなければ受給することはできないため、その受給額とともに確認しておきましょう。