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最終更新日:2020/12/7

遺留分減殺請求とは?請求できる対象者や方法・費用・必要書類・期限

この記事でわかること

  • 遺留分減殺請求とは何かがわかる
  • 遺留分減殺請求を自分でできるようになる
  • 遺留分減殺請求ができる期限や注意点を知ることができる

被相続人が遺言書に、すべての遺産を特定の人に譲り渡したり、特定の相続人に遺産を一切与えないという内容を記載していることがあります。

このような場合、相続人なのに遺産を全くもらえない人が発生するように思えますが、そんなことはありません。

一定の相続人には「遺留分」というものがあり、最低限の遺産はもらえることになっています。

遺留分を請求する方法や、請求できる相続人の範囲、請求できる期限などについては、民法で定められています。

この記事では、遺留分減殺請求について詳しく解説し、請求するためにかかる費用や必要書類についてもご説明します。

遺留分減殺請求とは

遺留分減殺請求」とは、被相続人の遺言などによって一定の相続人の遺留分が侵害された場合に、その相続人に保障された最低限の遺産の取り分を取り戻すことを請求できる権利のことです。

そもそも遺留分とは

はじめにも少し触れましたが、「遺留分」とは、被相続人の意思によっても奪うことのできない、一定の相続人に保障された相続財産の取り分のことです。

被相続人の遺言の内容によっては相続人の生活が脅かされるおそれがあります。

そのような事態を避けるために、被相続人が自由に財産を処分する権利を一定限度で制約し、相続人に最低限の遺産の取り分を保障するのが遺留分という制度です。

現在は遺留分侵害額請求という制度に変わっている

実は、遺留分減殺請求は、以前の民法で認められていた制度です。

遺留分減殺請求は、遺留分を侵害された相続人が、その遺留分を保全するために必要な限度で遺贈や生前贈与などの効力を失効させることができる制度でした。

しかし、2019年7月1日から施行された改正民法により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」という制度に変わりました。

遺留分侵害額請求では、一定の相続人の遺留分を侵害する遺贈や贈与などの効力を失効させることはありません。

遺贈や贈与などを受けた人に対して、遺留分が侵害された金額の支払いを求めることができる制度です。

金銭で解決できる制度に変わったため、遺贈や贈与された遺産が分割しにくいものであっても、遺留分を取り戻しやすくなりました。

なお、「遺留分減殺請求」という言葉に今もなじみのある方も少なくないため、この記事では遺留分減殺請求という言葉も「遺留分侵害額請求」と併せて使っていきます。

遺留分減殺請求ができる人の範囲

一定の相続人には、最低限の遺産の取り分の保障として遺留分が認められています。

しかし、すべての相続人に遺留分が認められているわけではありません。

遺留分侵害額請求ができるのは、遺留分が認められている法定相続人だけです。

ここでは、遺留分が認められている法定相続人の範囲をご説明し、併せて、遺留分としてどの程度の遺産の取り分が保障されているのかについてもご紹介します。

遺留分が認められている相続人の範囲

遺留分が認められている相続人は、ひとことで言うと、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人です(民法第1042条)。

具体的には、被相続人の配偶者、子ども(およびその代襲者)、直系尊属(父母や祖父母など)に遺留分が認められています。

兄弟姉妹に遺留分が認められていない理由は、遺留分が相続人の生活を保障するための制度だからです。

被相続人の配偶者や子ども、直系尊属は被相続人の財産に生活をある程度頼っている蓋然性がある程度高いですが、兄弟姉妹についてはそうとはいえません。

兄弟姉妹についてまで、被相続人の財産によって生活を保障する必要ないと考えられているのです。

保障される遺留分の範囲

次に、遺留分が認められている相続人にはどの程度の遺産の取り分が保障されているのかをご説明します。

簡単に言うと、保障されている遺留分の範囲は次のとおりです。

  • ・直系尊属のみが相続人である場合…相続財産の1/3
  • ・その他の場合…相続財産の1/2

なお、遺留分が認められている相続人が複数いる場合は、全体の遺留分をその相続人たちの法定相続分で割ります。

「その他の場合」にはさまざまなパターンがあるので、よくあるパターンを以下の表にまとめてみました。

相続のパターン 遺留分(全体) 相続人ごとの遺留分
配偶者のみ 1/2 1/2
子どものみ 1/2
配偶者と子ども 配偶者1/4、子ども1/4
配偶者と直系尊属 配偶者2/6、直系尊属1/6
配偶者と兄弟姉妹 配偶者1/2、兄弟姉妹0
直系尊属のみ 1/3 1/3
兄弟姉妹のみ 0 0

※子どもや直系尊属が複数いる場合は、上記の遺留分を均等に割ります。

遺留分の計算例

遺留分についてさらにイメージしやすいように、簡単な例で計算してみましょう。

相続財産が3,000万円あったとして、相続人として妻と子ども3人(長男、長女、二男)がいたとします。

この場合、遺留分は全体として1/2の1,500万円です。

この1,500万円を、まず法定相続分で割ると次のようになります。

・妻の遺留分 1,500万円×1/2=750万円
・子ども3人の遺留分 1,500万円×1/2=750万円

子ども3人については、750万円を均等に割ります。

750万円÷3=250万円

したがって、それぞれの相続人の遺留分は、以下のとおりとなります。

・妻 750万円
・長男 250万円
・長女 250万円
・二男 250万円

遺留分減殺請求を行使する方法

遺留分を侵害された相続人は、必ずしも遺留分侵害額請求権を行使しなければならないわけではありません

遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは、その相続人が自由に判断してかまいません。

しかし、侵害された遺留分を取り戻すためには、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使する必要があります。

遺留分を侵害する行為も当然に無効となるわけではなく、遺留分侵害額請求権を行使しないまま時効を迎えると遺留分を取り戻すことはできなくなります。

ここでは、遺留分侵害額請求権を行使する方法についてご説明します。

権利の行使方法に決まりはない

遺留分侵害額請求権の行使方法には、特に決まりはありません

必ずしも裁判手続きを行う必要はなく、単に相手方に対して、遺留分侵害額請求をする旨を伝えるだけで権利を行使したことになります。

書面で伝える必要もなく、口頭で伝えてもかまいません。

遺留分の侵害額を請求するという意思が相手方に到達すれば、それで法律上は遺留分侵害額請求の効果が発生します。

とはいえ、口頭で意思を伝えるだけで相手方が素直に遺留分侵害額を支払ってくれるとは限りません。

そのため、実務上は以下のような手続きを行うのが一般的です。

内容証明郵便を送付する

まずは、相手方に対して遺留分侵害額請求をする旨の書面を作成し、それを内容証明郵便として送付します。

こうすることによって、遺留分の侵害額を請求する意思をより明確に相手方に伝えることができます。

また、内容証明郵便を送付することで、後に裁判をするときの証拠になりますし、時効の進行を止めるという効果もあります

相手方と交渉する

内容証明郵便が相手方に到達したら、多くの場合は相手方と交渉することが必要になります。

具体的に遺留分としていくらをいつまでに支払ってもらえるのかについて、話し合いを行います。

話し合いがまとまったら、後のトラブルを避けるためにも合意書を作成しておきましょう

調停や訴訟を起こす

相手方が話し合いに応じなかったり、話し合いがまとまらない場合は、裁判を起こすこともできます。

一般的には、「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てて、家庭裁判所で改めて話し合いをします。

それでも話し合いがまとまらない場合は、訴訟を提起するしかありません。

訴訟で勝訴すれば、強制的に遺留分侵害額を取り戻すことが可能になります。

また、訴訟の中で話し合いによる和解で解決することもよくあります。

遺留分減殺請求をする際の費用と必要書類

ここでは、遺留分侵害額請求をする際の費用と必要書類についてご説明します。

請求にかかる費用

口頭による話し合いのみで解決する場合は、特に費用はかかりません。

しかし、さまざまな手続きを行う場合は、以下の費用がかかります。

内容証明郵便の送付費用

内容証明郵便を送付する際には、一般的な手紙を送付する場合よりも費用がかかります。

具体的な金額は書面の枚数によっても異なりますが、通常は1,000円~2,000円程度です。

調停の申し立て費用

調停を申し立てる際には、1,200円の収入印紙代がかかります。

それとは別に、連絡用の郵便切手を裁判所に納める必要があります。

切手代は500円~1,000円程度ですが、裁判所によって金額や切手の組み合わせが異なるため、あらかじめ申立先の裁判所で確認することが必要です。

その他、戸籍謄本などの必要書類を取得するための実費も必要になります。

訴訟の提起費用

訴訟を提起する場合にも印紙代と郵便切手代がかかりますが、調停申し立ての場合よりも少し高額になります。

印紙代は、訴訟で請求する金額に応じて定められています。

例えば、請求額が100万円の場合は1万円、500万円の場合は3万円です。

郵便切手代は裁判所によっても異なりますし、相手方(被告)の人数によっても異なりますが、被告1名の場合は6,400円程度です。

ただ、以上の費用については、勝訴すれば相手方の負担とすることが判決で言い渡されることもあります。

弁護士費用

遺留分侵害額請求をする際に高額の費用がかかるとすれば、弁護士に依頼する場合です。

どの程度の費用がかかるかは弁護士によって異なりますが、内容証明郵便の作成・送付のみを依頼する場合は3万円~5万円程度が相場です。

相手方との交渉を依頼する場合は、おおまかな相場ですが、着手金として10万円~30万円程度、報酬金として20万円~50万円程度がかかります。

なお、報酬金は相手方から回収した金額の○%+〇万円といった形で決められる場合が多いです。

裁判手続きを依頼すると、さらに追加で着手金が10万円~15万円程度かかるのが一般的です。

以上の他に、実費や弁護士の交通費、日当などがかかることもあります。

請求する際の必要書類

次に、遺留分侵害額請求をする際の必要書類についてご説明します。

遺留分侵害額請求書

相手方に内容証明郵便を送付するときは、「遺留分侵害額請求書」と題する書面を作成するのが一般的です。

内容や様式に決まりはありませんが、ご参考として一例を掲げておきます。

調停を申し立てる際の必要書類

遺留分侵害額の請求調停を申し立てる際には、以下の書類が必要です。

  • ・申立書
  • ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • ・相続人全員の戸籍謄本
  • ・遺言書のコピーまたは遺言書の検認調書謄本のコピー
  • ・遺産を証明する書類(不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、有価証券の写し、借金の額がわかる資料など)

状況によっては、以上の他にも裁判所から提出を求められることがあります

訴訟を提起する際の必要書類

遺留分侵害額の請求訴訟を提起する際には、「訴状」という書類を作成する必要があります。

その他にも、調停の場合とほぼ同様の書類を証拠書類として提出します。

遺留分減殺請求をする際の期限や注意点

遺留分侵害額請求はいつまでもできるわけではなく、民法で期限が定められています

また、その期限に関わりなく、遺留分侵害額請求ができなくなることもあるので注意が必要です。

請求権は1年で時効消滅する

遺留分侵害額請求権は、相続が開始したことと、減殺すべき贈与または遺贈があったことを遺留分権利者が知ったときから1年が経過すると、時効消滅します(民法第1048条前段)。

被相続人が亡くなっても、遺留分権利者が相続の開始や贈与または遺贈があったことを知るまでは、時効期間は進行しはじめません

ただし、相続開始から10年が経つと、後ほどご説明する除斥期間によって請求権は消滅します。

遺留分権利者としては、相続開始や贈与または遺贈があったことを知ってから1年以内に遺留分侵害額請求権を行使すれば、時効の進行が止まります。

ただ、権利を行使した証拠を残すために、内容証明郵便を送付しておくことが大切です。

相続開始から10年の除斥期間で権利が消滅する

遺留分権利者が相続の開始や贈与または遺贈があったことをずっと知らなくても、相続開始から10年が経過すると遺留分侵害額請求権は消滅します(民法第1048条後段)。

民法の規定上は10年の期間も消滅時効のように記載されていますが、こちらは除斥期間にあたると考えられています。

時効期間と除斥期間の違いは、権利を行使することによって時効期間の進行は止まりますが、除斥期間の進行は止まらないということです。

したがって、被相続人が亡くなってから10年が経つと、もう遺留分侵害額請求はできなくなってしまいます

遺留分侵害額請求ができなくなるその他のケース

以上にご説明した時効期間や除斥期間が経過する前でも、以下の事情があるときは遺留分侵害額請求をすることはできなくなります。

  • ・相続放棄をしたとき
  • ・相続欠格に該当するとき
  • ・相続人から排除されたとき

相続放棄とは、その相続について一切の相続権を放棄することです。

相続欠格とは、被相続人を脅すことによって遺言をさせたり、遺言書を偽造したりするなど一定の不正な行為をした相続人の相続権が剥奪される制度のことです。

相続人廃除とは、被相続人に対して虐待や侮辱をしたり、その他著しい非行を行った相続人の相続権を被相続人が剥奪することです。

これらの事情に該当する人は、相続人となりません。

相続人ではなくなることによって遺留分も認められなくなるため、遺留分侵害額請求はできなくなるのです。

まとめ

遺留分は一定の相続人の生活保障するために認められたものですが、何もしなければ侵害された遺留分を取り戻すことはできません

遺留分侵害額請求をするにも、期限が定められいるので早めに適切な手段で請求することが必要です。

相手方が素直に請求に応じないことも多いので、内容証明郵便の送付だけではなく、調停や訴訟も視野に入れて早めに対処しましょう。

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