この記事でわかること
- 遺留分がもらえない5つの理由とその背景
- 遺言や財産隠しなど、遺留分が得られない場合の具体的な対処法
- 遺留分請求の時効と、権利を守るための注意点
「本来もらえるはずの遺留分が、なぜか受け取れない…」
遺産相続の場面で、こうした疑問や不安を抱える方は少なくありません。
遺留分は、特定の相続人に法律で保証された遺産の最低限の取り分ですが、場合によってはもらえないことがあります。
この記事では、遺留分がもらえない理由を5つに絞ってわかりやすく解説します。
さらに、遺言や財産隠しなどで遺留分が得られない場合の対処法や、請求時に注意すべき時効についても詳しくお伝えします。
遺産分割を進めている方にとって、知っておく必要があるポイントをまとめました。
遺留分のしくみを理解し、適切な行動を取るための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。
相続人が遺留分をもらえない理由5つ
遺留分は、配偶者、子(その代襲相続人)、直系尊属(父母や祖父母)に認められる権利ですが、特定のケースでは受け取ることができません。
ここでは、法律上の理由と遺産に関する理由に分けて、5つのケースを解説します。
法律によって遺留分が認められないケース
特定の状況では、法律のルールにより遺留分そのものが認められません。
代表的な理由を説明します。
相続欠格に該当する場合
相続欠格とは、重大な行為により相続権を失うケースです(民法891条)。
たとえば、被相続人(亡くなった方)に対する虐待、重大な侮辱、遺言の作成を詐欺や脅迫で妨害した場合が該当します。
具体的には、暴力を振るった子は相続欠格とされ、遺留分を含む相続権を失います。
欠格は裁判所の判断が必要となり、単なる不仲では適用されません。
相続廃除された場合
被相続人が生前に「廃除」を申請し、家庭裁判所で認められると、相続権を失います(民法892条)。
たとえば、子が親に長期間の虐待や重大な侮辱を行った場合、廃除が成立し、遺留分も請求できなくなります。
廃除は家庭裁判所の審判によって初めて効力が生じ、要件を満たさなければ認められません。
具体例として、長期間にわたり親に重大な侮辱や虐待を行った場合、被相続人が家庭裁判所に廃除を申し立てることができます。
これが認められた場合、子は遺留分を含む相続権を失います。
こうしたケースでは、廃除の申請前に弁護士に相談し、被相続人との関係修復を試みることで、廃除の申請を回避できる場合もあります。
兄弟姉妹である場合
遺留分は配偶者、子、直系尊属にのみ認められ、兄弟姉妹やその子(甥や姪)には権利がありません(民法1042条)。
たとえば、親が遺言で全財産を第三者に遺贈した場合、子には遺留分がありますが、兄弟姉妹にはありません。
このように、法律では遺留分の対象者が明確に定められています。
本人の選択や遺産の状況による理由
相続人の行動や遺産の状態によって、遺留分がもらえない場合もあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺留分放棄をした場合
遺留分は、相続開始前に家庭裁判所の許可を得て放棄可能です(民法1049条)。
たとえば、親子間で話し合い、子が遺留分を放棄する代わりに生前に財産を受け取るケースがあります。
放棄が認められると、相続時に遺留分を請求できません。
放棄は自由意思に基づく必要があり、強制された場合は無効になる可能性があります。
遺産がゼロまたは著しく少ない場合
遺留分は遺産の一定割合(通常は法定相続分の1/2)ですが、遺産自体がない場合は請求できません。
たとえば、被相続人が生前に全財産を贈与した場合や借金で財産がなくなった場合、遺留分を計算する基となる遺産がゼロになります。
ただし、意図的な贈与による場合は対処法(後述)があります。
なお、遺産がゼロ、または債務超過の場合は、「相続放棄」も選択肢に入ります。
相続放棄は家庭裁判所で手続きする必要があり、相続の開始があったことを知った時から原則3カ月以内に行わなくてはなりません。
遺留分を検討する前に、相続すべきかを慎重に判断しましょう。
遺留分がもらえない場合の対処法
遺留分がもらえない状況でも、ケースに応じた対処法があります。
遺言による財産の移動と、生前贈与や財産隠しに分けて解説します。
遺言による遺留分侵害への対処
遺言で第三者に財産が渡り、遺留分が侵害された場合は、「遺留分侵害額請求」によって金銭を請求できます。
遺留分侵害額請求を行うには、まずは内容証明郵便で請求の意思を伝えるのが一般的です。
通知書には請求内容や遺言書、財産目録を明記するとスムーズです。
ただし、通知後6カ月以内に調停や訴訟などの裁判上の手続きを行わないと、完成猶予の効果が失われます。
遺言で財産が第三者に渡された場合、遺留分を取り戻す方法があります。
具体的に見ていきましょう。
遺言で財産がすべて第三者に渡された場合
遺言で遺産が慈善団体や第三者に遺贈され、遺留分が侵害された場合、「遺留分侵害額請求」が可能です(民法1046条)。
たとえば、親が全財産を友人に遺贈した場合、子は遺留分の範囲で金銭を請求できます。
手続きは、遺言内容の確認、遺留分侵害の計算、弁護士への相談を経て、調停や訴訟で進めるのが一般的です。
こうしたケースでは、専門家の支援が有効です。
遺言で特定財産(不動産など)が遺贈された場合
遺言で不動産などが第三者に遺贈された場合も、遺留分侵害額請求で金銭を請求できます。
たとえば、親が自宅を特定の団体に遺贈した場合、子は遺留分の範囲で金銭を請求可能です。
遺言の有効性を確認し、遺贈財産の評価額を基に請求額を確定します。
調停や訴訟では専門家のサポートが不可欠となるでしょう。
生前贈与や財産隠しへの対処
生前贈与や財産隠しにより遺留分が侵害された場合、取り戻す方法があります。
どのように行うのか解説します。
財産隠し(生前贈与など)があった場合
特に相続開始の1年以内に行われた贈与は、遺留分を侵害する目的がある場合、遺留分算定の対象となります(民法1044条)。
また、相続開始から1年以上前の贈与でも、被相続人と受贈者が遺留分権利者の利益を害することを共謀していた場合には、遺留分侵害額請求の対象となります(民法1044条)。
たとえば、親が亡くなる直前に全財産を特定の子どもに贈与した場合、他の子は遺留分侵害として遺留分侵害額請求が可能です。
銀行取引明細や契約書を確認し、弁護士に相談して請求手続きを進めます。
生前贈与が多額で遺産が少ない場合
生前に多額の贈与で遺産がゼロの場合、遺留分侵害額請求で贈与の一部を取り戻せる可能性があります。
ただし、相続開始の1年以上前の贈与は、侵害の意図を証明しなくてはなりません。
財産隠しが疑われる場合、まず銀行口座の取引履歴や不動産登記を調査しましょう。
弁護士に依頼し、不正な贈与を証明する証拠を集めれば、遺留分を請求できる可能性が高まります。
早期の調査で、隠された財産を特定することが重要です。
遺留分の請求は時効に注意

遺留分侵害額請求には時効があり、早めの対応が必要です。
ここでは、時効の基本ルールと対処法を解説します。
遺留分請求の時効ルール
遺留分請求には、時効の期間や起算点を理解することが重要です。
詳しく説明します。
時効の期間と起算点
遺留分侵害額請求の時効は、相続開始かつ遺留分侵害を知った時点から1年、または相続開始から10年です(民法1048条)。
たとえば、2025年6月に親が亡くなり、遺言で財産が第三者に渡されたことを同年7月に知った場合は、2026年7月までに請求が必要です。
知らなかった場合でも、10年で権利が失われます。
こうした時効のルールを踏まえ、早めの行動が大切です。
時効を防ぐための対処と注意点
時効を回避する方法と注意すべきポイントを解説します。
時効を止める方法
時効を止めるには、請求の意思を相手に伝える(内容証明郵便など)か、調停や訴訟を提起する必要があります。
たとえば、遺留分侵害を知った後、弁護士に相談し、内容証明で請求通知を送ることで「完成猶予」(時効の進行を一時的に止める措置、民法第150条の2)となり、6カ月間は時効の完成が猶予されます。
これにより、時効が一時的に停止し、請求を続けるための時間的余裕が生まれます。
ただし、通知後6カ月以内に調停や訴訟などの裁判上の手続きを行わない場合は、完成猶予の効果が失われます。
弁護士と連携し、スケジュールを管理して迅速に対応しましょう。
注意しなければならないポイント
時効の起算点は「遺留分侵害を知った時点」です。
遺言や贈与の存在を知らなかった場合、知った時点から1年が適用されます。
生前贈与が原因の場合、事実の確認に時間がかかることもあり得ます。
遺産分割の際は、遺言や財産の状況を早めに調査し、時効に注意しましょう。
まとめ
遺留分は相続人の権利を守る重要な仕組みですが、受け取れないケースも存在します。
相続が開始したら、まずは遺言書や財産の状況を確認しましょう。
遺留分に不安や疑問がある場合、速やかに弁護士などの専門家に相談し、時効前に具体的な行動を起こすことが大切です。
専門家のアドバイスを受け、適切な手続きを進めて、自身の権利を守る第一歩を踏み出してください。















