この記事でわかること
- 遺留分対策の重要性について理解できる
- 遺言書作成のポイントをおさえることが自分でできる
- 遺言書を作成するときの公正証書の重要性がわかる
遺留分とは、相続人が最低限もらう権利のある相続分のことを言います。
遺言を残す側としては、たとえば特定の誰かお世話になった人に相続財産をすべてあげたい、ほかの人には1円もあげたくない、と思うかもしれません。
確かに、遺言書の内容については自由に書くことができます。
一方、実効性を考えると、遺留分対策をしておいたほうが、より一層遺言書の実効性を高めることができます。
具体的には、どのような対策があるのでしょうか。
わかりやすく解説します。
目次
遺言より効力を発揮する【遺留分請求】とは?
まず、遺言書の効力について考えてみましょう。
遺言書は、被相続人の意思を示すものです。
遺産について、どのような分け方をしてほしいか、指定することができます。
ただし、遺言書は一方的に書くものなので、たとえば相続人全員で遺産分割協議をやりなおして、遺言書と違った遺産の分け方をすることも可能です。
遺言書を書く側としては、本当に遺言書が実行されたかどうかは、自分の死後のことなのでわかりません。
遺言書は、確かに内容を自由に書くことができますが、死後に実効されてこそ意味があるものだと言えるでしょう。
遺留分請求は相続人の権利
さて、遺言書より効力を発揮する遺留分請求とはどのようなものでしょうか。
遺留分請求は、民法に定められた相続人の一種の権利です。
遺産相続について、相続人には、最低限もらえる部分があります。
最低限もらえる部分ですから、たとえ被相続人であっても一切遺産をあげないということはできません。
もっとも、相続人本人が自分の遺留分を放棄することは可能です。
ただし、それも自分の意思に基づいて放棄することができるのであって、誰かに命令されたからとか、強制されることはできません。
あくまで自主的にするものです。
遺留分の割合は、以下の通り法律で決められています。
(遺留分の帰属およびその割合)
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
遺留分は、相続の開始を知った時から1年、相続が発生した時から10年経過すると消滅します。
永遠に続く権利ではありません。
遺留分請求をされたくない場合は要対策
遺留分請求をされたくない、遺言書の内容通りに遺産を分けてほしい、という場合は対策が必要です。
たとえば、遺言者が子供のAさんだけに遺産を渡したいと思っているとします。
しかし、もう一人の子供Bさんには、これまで仲が悪かったので1円もあげたくありません。
遺産の内容は、主に家屋と土地です。
Aさんは、遺言者と一緒に住んで遺言者の身の回りの世話をしてきました。
遺言者としては、Aさんに家に住み続けてほしいのでAさんに家屋と土地を残したいのです。
さて、遺言者は遺言書に、「全ての遺産をAに譲る」と書きました。
さらに、付言事項のところ(遺言書の中の、法的効力はないお手紙のような部分)に、これまでBがしてきた親不孝を書いて、親不孝者だから遺産はいっさいやらない、と書いてしまいました。
遺言者の死後、遺言書がもとになった遺産相続トラブルが起きてしまいました。
結論から言えば、Aさんは土地も家屋も相続できませんでした。
家に住み続けることもできなくなってしまったのです。
なぜでしょうか。
Bさんから遺留分侵害額請求をされてしまい、土地と家屋を売却し、そのお金の一部をBさんに渡さざるを得なくなったためでした。
今回の一例のように、遺留分侵害額請求が絡むトラブルが起こると、遺言者の意思が実現されない可能性があるのです。
遺言書に遺留分対策が必要となるケース
遺言者に遺留分対策が必要となるケースは、以下の通りです。
- ・遺産を渡したくない人物がいる。
- ・遺産を特定の一人に集中させたい。
- ・全財産を自分の支援する団体や企業などに寄付したい。
これらのケースでは、相続人から不満が出る可能性があり、遺留分の侵害の恐れがある内容であるため、遺留分の対策が必要になります。
遺留分対策のための遺言書の書き方
前述の通り、遺留分とは相続人の権利であって、遺言書よりも強い効力を持ちますので、一切遺産を渡さないということは不可能と考えてください。
基本的な考え方としては、遺留分に相当する部分をまずは計算し、遺留分に相当する部分については遺産を渡したくない人に手当てするという方向性です。
先ほどの例であれば、土地と家屋についてはAさんに渡すけれども、Bさんには保険金が渡るようにします。
もしくは、ほかの価値のありそうなもので、遺留分に相当する金額分をBさんに渡るように遺言書で指定します。
遺言書の付言事項には、Bさんへの文句は書きません。
書きたい気持ちはあるかもしれませんが、ここでもし書いてしまうと、Bさんが逆上しAさんとトラブルになってしまうかもしれません。
できるだけ穏便に、なぜAさんに遺産を多めに残そうと思ったのか(Aさんに生前とてもお世話になったから、など)、Bさんには少ないがこれで我慢してほしい、自分の考えを尊重してほしい、というお願いを書くといいでしょう。
相続トラブルは、感情のもつれが原因になることもあります。
遺留分侵害額請求をしようと思わせてしまうような遺言書の書き方にも問題があることは否めません。
できる限りの理解を相続人に求めていく、という姿勢を忘れないようにしましょう。
自筆遺言書よりも効力がある【公正証書】
ところで、遺言書には以下の3種類があります。
- ・自筆証書遺言
- ・秘密証書遺言
- ・公正証書遺言
この中で、最も証拠能力があるのが公正証書遺言です。
公正証書遺言は、遺言書を公正証書として作成します。
公正証書とは、公証人がその書類の存在と原本であることを証明したものです。
公正証書遺言を作成する場合は、弁護士や司法書士、行政書士に依頼するほか、公証役場で相談することも可能です。
公証役場では、公証人が遺言書の形式面の作成のサポートをしてくれます。
公正証書は偽造が大変難しいため、証拠としての能力は一番高いことが特徴です。
相続分に偏りのある内容の遺言書を作る場合は、偽造が疑われると大変なので、公正証書で遺言書を作成してください。
公正証書があるのに遺留分を請求された時
遺言書を公正証書で作成していても、遺留分を請求されることはあります。
この場合、どうしたらいいのでしょうか。
遺言書の偽造は疑われないにしても、そもそも遺言書の内容に納得のいかない相続人が、調停や訴訟に持ち込む可能性はあります。
もし、遺留分の請求が来て、話し合っても解決しなさそうな場合は、自力で解決しようとせず早めに弁護士に相談してください。
弁護士に相談する場合の料金の目安ですが、旧弁護士報酬規程によると、以下の通りです。
経済的な利益の額とは、「対象となる遺留分の時価相当額」を言います。
現在、弁護士報酬については、事務所ごとに報酬基準が異なります。
しかし、旧弁護士報酬規程に基づいて報酬を決めているところもありますので、参考にしてください。
1 訴訟事件(手形・小切手訴訟事件を除く)・非訟事件・家事審判事件・行政事件・仲裁事件 着手金 事件の経済的な利益の額が
300 万円以下の場合 経済的利益の 8%
300 万円を超え 3,000 万円以下の場合 5%+9 万円
3,000 万円を超え 3億円以下の場合 3%+69 万円
3 億円を超える場合 2%+369 万円
※3
※着手金の最低額は 10 万円報酬金 事件の経済的な利益の額が
300 万円以下の場合 経済的利益の 16%
300 万円を超え 3,000 万円以下の場合 10%+18 万円
3,000 万円を超え 3 億円以下の場合 6%+138 万円
3 億円を超える場合 4%+738 万円引用:(旧)弁護士報酬規程
遺言書がない場合にできる遺留分対策
遺言書がない場合にできる遺留分対策を考えてみましょう。
遺言書がないのですから、遺産分割協議で決めていくことになります。
あくまで当事者の話し合いが中心になりますが、遺留分を計算しておき、何ももらえない人が出ないように調整していくのが良いでしょう。
もちろん、相続人を説得して、偏りのある相続の仕方をしてもかまいません。
遺産分割協議をいかにまとめるかが重要になります。
遺言書は無いにしても、生前に何を考えて、このような遺産の分割の仕方になったのかを、相続人同士で情報共有しておくことが大事です。
絶対にしてはいけないことは、相続分を放棄させようとすることです。
相続放棄にしても、遺留分を放棄するにしても(遺留分の放棄は生前に限られますが)、誰かに強制されてすることではありません。
粘り強く理解を求めてください。
交渉が暗礁に乗り上げそうになったら、弁護士の力を借りてください。
こじれてしまって裁判になってしまうと、費用も時間もかかります。
まとめ
今回は、遺留分対策のための遺言書の書き方とポイントをご紹介しました。
遺留分は、相続人の権利でもあるので、勝手に放棄させたりすることができません。
また、遺言書の実効性を考えると、誰か一人に遺産を集中させるためにほかの人には一切遺産を渡さないとか、遺産をどうしても渡したくない人がいるのでその人の分だけ相続分を0円にするということは難しいのです。
もちろん、相続人同士で合意があれいればいいのですが、何ももらえない人は決して良い気はしないでしょう。
本当に財産を残したい人に残すことを重要視するならば、遺留分対策はしっかりしておくことをおすすめします。
もし、遺言書が存在せず、故人が生前に偏りのある遺産分割を希望していた場合については、しっかりと相続人同士で話し合ってください。
なぜそのような分割方法をわざわざとるのか、故人の意図をくみ取って配慮できると良いのですが、難しい展開になりそうな場合は弁護士に相談してください。