この記事でわかること
- 遺留分の内容や割合がわかる
- 遺産相続時の財産評価や計算方法がわかる
- 遺留分侵害額(減殺)請求の方法がわかる
遺言を作成する際には、その内容を自由に決めることができますが、一人の相続人だけに全財産を相続させるなど、不公平な遺産相続の内容になっていたら誰でも納得できません。
そのため、相続人を守るために、財産の一定割合を「遺留分」として最低限保証する決まりがあります。
遺産相続を円滑に進めるために、遺留分の計算方法やそれが侵害されたときの請求方法などについて簡単に解説します。
遺留分とは
遺留分とは「最低限の相続財産を相続人に確保するための制度」であり、これによって、相続人間の関係性においてできるだけ公平な遺産相続が行われるように設けられたものです。
遺留分が認められる人(遺留分権利者)
遺留分が認められる人(遺留分権利者)とは、以下の相続人となります。
- (1)配偶者
- (2)子(または子の代襲相続人である孫)
- (3)父母や祖父母などの直系尊属(養父母を含む)
遺留分が認められない人
一方、以下の相続人には遺留分が認められません。
- (1)兄弟姉妹(またはその代襲相続人である甥姪)
- (2)相続欠格になった人(代襲相続はできます)
- (3)相続廃除になった人(制度としてはありますが、実際はほとんどありません)
- (4)相続放棄した人(代襲相続もできません)
【相続人のパターン別】遺留分の割合
次に、遺留分の割合を見ていきましょう。
わかりやすいように、相続財産の総額が6,000万円とした計算の例も併せて紹介します。
総体的遺留分
遺留分を計算するときは、まず遺留分全体が相続財産のどのくらいの割合になるかを見ます。
これを「総体的遺留分」といいます。
相続人が、父母などの直系尊属だけの場合は相続財産の1/3、それ以外の場合は相続財産の1/2が遺留分の合計になります。
個別的遺留分
総体的遺留分に法定相続分の割合を掛けたものが、相続人各々の遺留分となり、これを「個別的遺留分」といいます。
式で表すと、以下の通りとなります。
個別的遺留分の割合=総体的遺留分の割合×法定相続分の割合
個別的遺留分を合計すると、総体的遺留分になります。
遺留分の早見表
これまでの結果を表にまとめると、以下の通りとなります。
遺留分の早見表
相続人 | 総体的遺留分 | 個別的遺留分 | |||
---|---|---|---|---|---|
配偶者 | 子 | 父母 | 兄弟姉妹 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | - | - | - |
配偶者と子 | 1/2 | 1/4 | 1/4 | - | - |
配偶者と父母 | 1/2 | 1/3 | - | 1/6 | - |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 1/2 | - | - | なし |
子のみ | 1/2 | - | 1/2 | - | - |
父母のみ | 1/3 | - | - | 1/3 | - |
兄弟姉妹のみ | なし | - | - | - | なし |
それでは、相続人の組み合わせ別にそれぞれ具体的に見ていきましょう。
相続人が配偶者のみの場合
相続人が配偶者のみの場合は、配偶者の遺留分は相続財産の1/2です。
相続財産が6,000万円の場合、配偶者の遺留分は3,000万円となります。
相続人が配偶者と子の場合
相続人が配偶者と子の場合、その遺留分は配偶者、子ともに1/4ずつです。
相続財産が6,000万円の場合、配偶者の遺留分は1,500万円、子全員で1,500万円となり、子が3人のときは按分するため、各500万円となります。
なお、相続人である子がすでに亡くなっている場合、その子(被相続人から見て孫)がいるときは、孫が代襲相続となり、その遺留分は子と同額です。
この場合、孫が複数人いるときは、さらにその人数で按分します。
上記の例で3人いる子の内、1人がすでに死亡してその子(孫)が2人の場合は、配偶者の遺留分は1,500万円、子2人の遺留分は各500万円、子(故人)の子(孫)2人の遺留分は各250万円となります。
相続人が配偶者と父母の場合
相続人が配偶者と父母の場合、その遺留分は配偶者1/3、父母1/6です。
相続財産が6,000万円の場合、配偶者の遺留分は2,000万円、父母が1,000万円となり、父母が共に健在の場合は、各500万円となります。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、その遺留分は配偶者が1/2ですが、兄弟姉妹にはありません。
遺留分は配偶者のみに認められます。
相続財産が6,000万円の場合、配偶者の遺留分は3,000万円、兄弟姉妹は0円となります。
相続人が子のみの場合
相続人が子のみの場合、子の遺留分は1/2です。
相続財産が6,000万円の場合、子の遺留分は子全員で3,000万円となり、子が3人のときは按分するため、各1,000万円となります。
相続人が父母のみの場合
相続人が父母のみ場合、父母の遺留分は1/3です。
相続財産が6,000万円の場合、父母の遺留分は2,000万円となり、父母が共に健在の場合は、各1,000万円となります。
相続人が兄弟姉妹のみの場合
相続人が兄弟姉妹のみの場合、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので、遺留分はありません。
遺産相続時の財産評価・計算方法
次は、遺留分算定の基礎となる遺産相続時の財産評価とその計算方法について解説します。
遺留分を計算する際に、遺産相続が開始された時点での財産だけを対象にしてしまうと、被相続人が特定の相続人に多額の援助をしていたり、死亡する直前に他人(相続人に限りません)に財産のほとんどを贈与していたりする場合に、「相続人に一定の財産を確保する」という遺留分制度の目的が達成されません。
そこで、民法では遺留分算定の基礎となる財産額が規定されています。
遺産相続時の財産評価
民法では、遺留分を計算するための財産額について、相続開始の財産に贈与した財産を加えた額から債務の全額を控除した額と規定されています。
これを式で表すと、以下の通りになります。
遺留分を算定するための財産の価額=(被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
相続開始時の財産
相続開始時の財産は、その時点での財産全てを合算すればよいのですが、条件付きの権利や存続期間の不確定な権利については簡単に計算できません。
そこで、こういった不確定な権利については、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従ってその価格を定めることになっています。
相続債務
贈与財産の前に、先に相続債務について解説します。
遺留分を算定するための財産の価額から控除される相続債務とは、被相続人の借金・ローン、損害賠償債務、未払いの罰金や税金などマイナスの財産のことです。
保証債務については、財産の一部なのですが、基本的に主債務者が債務を履行すると考えられるため、控除の必要はありません。
贈与財産
遺留分を算定するための財産の価額に加算する贈与財産については、生前贈与の内容や実施した時期によって細かく規定されています。
- ・特別受益に当たらない贈与:相続開始前の1年間にされたもの
- ・特別受益に当たる贈与:相続開始前の10年間にされたもの
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、それ以前のものであっても加算されます。
なお、特別受益に当たらない贈与の相手は相続人以外の人も含まれます。
ちなみに以前は、特別受益に当たる贈与については、その期間に関係なく遺留分の算定対象となっていましたが、民法改正によって、2019年7月1日以降の相続については、相続開始前の10年間にされたものに限定されました。
特別受益
特別受益とは、被相続人から特定の相続人に対して、事業資金や住宅購入資金の援助などを行うことです。
しかし、例外など判断も難しく、大学の学費については、最近になって特別受益に当たらないと判断されるようになったり、形式上贈与ではない生命保険金についても、相続人間で著しい不均衡がある場合は特別受益性が認められたりするなど、複雑になっています。
特別受益に当たるか否かについては、慎重に判断しましょう。
特別受益の評価
特別受益に当たる贈与がされた財産の評価は、相続開始の時点となります。
その財産を焼失や売却などをしてなくなっていても、また、価格が増減していても、相続開始の時点の算定となります。
例として、贈与当時に1,000万円の不動産を生前贈与された場合、相続開始時に500万円の価値になっていたら、500万円の特別受益があったことになり、相続開始時に1,500万円の価値になっていたら、1,500万円の特別受益があったことになります。
また、上記の不動産が相続開始時に1,200万円の価値があったときは、たとえ焼失や売却によって所持していなくても、1,200万円の特別受益があったことになります。
ただし、贈与された財産が受贈者(相続人)の行為によるものではない、たとえば、地震などで建物が倒壊してしまったなどの場合は、特別受益はなかったことになります。
なお、現状では考えにくいですが、贈与された現金についても、貨幣価値が異なっている場合は、相続開始時の貨幣価値に換算した金額で評価することになります。
遺留分の計算方法
ここまで解説してきた内容によって、最終的な遺留分が計算できます。
おさらいの意味を含め、全て式で表すと、以下の通りになります。
- (1)個別的遺留分の割合=総体的遺留分の割合×法定相続分の割合
- (2)遺留分を算定するための財産の価額=(被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
- (3)遺留分=((2)遺留分を算定するための財産の価額)×((1)個別的遺留分の割合)
遺留分侵害額請求(減殺請求)の方法
前章までで、遺留分の計算ができました。
では、実際に遺言に指定された相続分が、遺留分と比べて少なかった場合はどうすればよいでしょうか。
遺留分侵害額と遺留分侵害額請求
遺言で指定された相続分が、遺留分より少なかった場合、遺留分権利者は、その差額について金銭で支払いを受けることができます。
この差額を「遺留分侵害額」といい、遺留分侵害額を支払ってもらうための意思表示のことを、「遺留分侵害額請求」といいます。
以前は、遺留分の侵害を求めることを「遺留分減殺請求」と呼び、相続財産である不動産の共有などが可能でしたが、民法改正により、2019年7月1日以降の相続では、「遺留分の侵害については金銭で支払う」ことが規定されたため、「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。
遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額の計算方法について、民法には「遺留分から遺贈または特別受益に当たる贈与と、実際の相続分を控除し、遺留分権利者が承継する債務(遺留分権利者承継債務)を加算する」と規定されています。
式で表すと、以下の通りになります。
遺留分侵害額=遺留分-(遺贈または特別受益に当たる贈与の価額)-(遺留分権利者が相続で得た遺産の価額)+(遺留分権利者承継債務の価額)
具体的な例を挙げて計算してみましょう。
- ・相続人は配偶者と長男、長女
- ・遺産相続時の相続財産は1億2,000万円
- ・相続開始時の被相続人の債務額は4,000万円
- ・被相続人から長男へ特別受益となる贈与は2,000万円
- ・債務は全て配偶者が承継
- ・遺言で指定された相続分は、配偶者8,000万円(自宅+預金)、長男3,000万円(自社株式+預金)、長女1,000万円(預金のみ)
このケースにおいて、遺留分を算定するための財産の価額は、相続財産+特別受益-債務額なので、1億2,000万円+2,000万円-4,000万円=1億円となります。
相続人が配偶者と子の場合なので、その遺留分は配偶者、子(合計)ともに1/4ずつですから、遺留分は以下の通りです。
- ・配偶者 1億円×1/4=2,500万円
- ・長男 1億円×1/8=1,250万円
- ・長女 1億円×1/8=1,250万円
この場合の遺留分侵害額は、遺留分-特別受益-相続分+承継債務なので、
- ・配偶者 2,500万円-0円-8,000万円+4,000万円=△1,500万円
- ・長男 1,250万円-2,000万円-3,000万円+0円=△6,250万円
- ・長女 1,250万円-0円-1,000万円+0円=250万円
となり、マイナスの場合は遺留分を超える遺産相続をしているので、配偶者と長男の遺留分侵害額はありませんが、長女には250万円の遺留分侵害額があり、それを請求することができます。
遺留分侵害額請求の具体的方法
遺留分侵害額が明らかになった場合は、その侵害額を侵害者に請求をします。
法律にはその方法が決められていませんので、口頭や電話、メールなどで伝えることも可能ですが、後々裁判などになった場合の証拠にもなるため、「配達証明付内容証明郵便」を送るのがベストです。
協議交渉
まずは、直接協議交渉を行います。
要するに「話し合い」です。
相続人間で合意ができたら、「遺留分侵害額についての同意書」を作成し、支払いを実施して終了となります。
ところが、協議交渉によって相手が遺留分を支払ってくれるケースは多くありません。
平然と時間稼ぎをしたり、話し合いを拒絶したりすることもあります。
調停
直接協議交渉で合意できない場合、相手方の住所の管轄地にある家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。
そうすると、家庭裁判所から選任されている調停委員が間に立って調停を進めてくれます。
調停で合意ができれば、裁判官によって調停が成立し、支払いが実施されて終了となります。
訴訟
調停で合意できない、相手が調停に応じないなど、調停が不調に終わった場合は、「遺留分侵害額請求訴訟」を申し立てます。
裁判官が遺留分など詳細を評価して相手に支払い命令を下します。
命令なので、当事者間の合意は不要ですし、支払いも義務付けられます。
遺留分侵害額請求の期限
遺留分侵害額請求には期限があります。
民法には、「遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する。
相続開始のときから10年を経過したときも、同様とする」と定めています。
各々、消滅時効と除斥期間と言われています。
消滅時効
消滅時効は、「遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間」とありますが、時効は中断できるので、1年以内に「配達証明付内容証明郵便」を送ったことでそれが可能となります。
しかし、1年間という短い期間が設定されているので、相続のことを知ったときには速やかに行動を開始する必要があります。
除斥期間
一方、10年間という除斥期間には、中断や停止がなく、期間の起算点も権利発生時点で「相続開始を知ったとき」ではありません。
たとえ、被相続人が亡くなったこと自体を知らなくても、相続開始から10年経過してしまえば、遺留分侵害額請求はできないことになります。
遺留分の放棄
相続の紛争を回避したり、事業承継で経営権を特定の相続人に集中させたりするために、相続の開始前に(被相続人の生前に)遺留分を予め放棄することができます。
しかし、自由に放棄を認めてしまうと、被相続人や他の相続人の威圧的な言動などによって遺留分の放棄を強制される恐れがでてきます。
そのため、遺留分の放棄は家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分の放棄は、遺留分侵害請求権のみを放棄することで、相続そのものを放棄することではありません。
相続が開始されれば、そのまま相続人になりますし、遺産分割によって財産を相続することも可能です。
また、代襲相続の場合、被代襲者が遺留分の放棄をしたときは、代襲相続人も遺留分はありません(遺留分侵害請求権はありません)。
なお、遺留分の放棄は、他の遺留分権利者の遺留分には影響しません(遺留分放棄の分が増加することはありません)。
まとめ
ここまで、遺産相続時の遺留分について、その内容や割合、計算方法、侵害があった場合の対応などについて解説してきました。
内容も複雑でその量も多いため、簡単に理解するのは難しいと思いますので、まずは、何度も読み返していただくとわかりやすいかもしれません。
少しでも不明な点がありましたら、必ず弁護士などに相談されることをお勧めします。