この記事でわかること
- 遺留分について詳しく理解できる
- 遺留分を侵害してしまう遺言内容がわかる
- 生前にできる5つの遺留分対策がわかる
遺産の分け方をめぐって相続人同士がもめないよう、遺言書を残す方も増えています。
日本公証人連合会の公表によると、2020年(令和2年)の遺言公正証書の作成件数は9万7,700件であり、前年より下がったものの過去の経緯をみると増加傾向にあります。
一方では遺言によって発生するトラブルも増えており、原因の多くは偏った遺産配分や思わぬ第三者の登場です。
大抵の相続人はある程度の予想を立てているため、自分の取り分が想像以上に少ない、または想定外の人物に高額配分された場合は黙っていられないでしょう。
相続財産には最低限の保障となる遺留分があるため、取り分の少ない相続人が「多くもらいすぎ」の人を相手に遺留分侵害額請求する場合もあります。
このような事態にならないよう生前対策を練っておきたいところですが、一体どのような方法があるでしょうか?
今回は遺留分への対策をわかりやすく解説しますので、相続対策や遺言内容に悩んでおられる方はぜひ参考にしてください。
目次
遺留分とは
法定相続人には遺留分が認められており、法定相続分の1/2になっています。
表にすると以下のようになりますが、兄弟姉妹や甥・姪の遺留分は認められていません。
相続人/遺留分 | 配偶者の遺留分 | 子の遺留分 | 両親の遺留分 |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | – | – |
配偶者と子 | 1/4 | 1/4 | – |
子のみ | – | 1/2 | – |
配偶者と両親 | 2/6 | – | 1/6 |
両親のみ | – | – | 1/3 |
遺留分は遺言でも侵害できないため、遺産の配分に著しい偏りがあった場合は「遺留分の侵害」として侵害額を請求できます。
また遺留分には生前贈与や特別受益も考慮するため、故人から多額の資金援助をしてもらった相続人は、他の相続人から遺留分侵害請求される可能性が高いでしょう。
なお、かつての遺留分は現物請求でしたが、2019年7月の法改正で金銭請求が可能になっています。
遺言書の作成だけでは遺留分対策にはならない
遺言書を作成する際には、「かわいい孫には沢山の財産をあげよう」といった感情移入も出てきます。
中には愛人へ全額を譲るといった極端な例もありますが、遺言者の想いが遂げられる反面、残された家族や受遺者の間で大きなトラブルになるでしょう。
以下のような行為は遺留分侵害額請求に発展しやすいため、遺言内容や生前贈与には注意してください。
- ・遺贈(遺言による財産分与)、相続分の指定や寄付
- ・死因贈与
- ・相続発生前1年以内の生前贈与
- ・特別受益として認められる生前贈与
- ・遺留分の侵害を知った上で行われた生前贈与
とはいっても遺留分まで想定した生前贈与はなかなかできないため、遺留分対策として遺言内容を調整しても無理が出てしまうでしょう。
遺留分を侵害しないよう配慮しつつ、遺言以外の対策も考えておかなければなりません。
生前からできる遺留分対策5つ
遺留分への対策には5つの方法があり、いずれも生前に実行できるものです。
遺言を使う方法もありますが、生命保険の活用や遺留分そのものを減少させる方法もあるため、家族構成や財産状況に応じて使い分け、または併用してください。
またどの方法にもメリットやデメリットがあるので、迷ってしまう場合には相続弁護士などの専門家へ相談してみましょう。
遺言書の付言事項を活用した遺留分対策
付言事項には遺言者の想いを記すことができるので、遺言作成の際には活用してください。
主な相続財産が自宅のみの場合、以下のような付言事項を残せば、遺留分をめぐったトラブルを回避できるかもしれません。
事例付言事項の例
長男には妻や家の面倒をみてもらいたいため、不動産すべてを譲ることにしました。
○男や○子には十分な財産を残せませんでしたが、妻の希望でもあるためどうか理解してください。
遺産の分け方が公平ではないため不満もあるかと思いますが、長男も妻の面倒や墓守りなど財産相応の責任を負うことになります。
兄弟同士がもめることなく、いつまでも家族全員が仲良く暮らすことを父はあの世から見守っています。
付言事項に法的効力はありませんが、遺言者の意図を汲み取ってもらえれば円満解決の可能性もあります。
生命保険を活用した遺留分対策
被保険者の死亡によって支払われる死亡保険金は、遺留分を計算する上での基礎財産に含まれません。
遺産配分にどうしても偏りが出る場合は、遺留分侵害額請求される可能性の高い相続人を保険金の受取人にするとよいでしょう。
契約者と被保険者が同一(自分で自分に保険をかける)であれば、支払った保険料だけ遺産も減るため、遺留分そのものの減少にも繋がります。
また、遺留分侵害額請求された場合は支払い原資にもできるでしょう。
ただし、相続財産に占める保険金比率が異常に高い場合は要注意であり、過去には遺留分の基礎となる財産に含めた判例もあります。
養子縁組による遺留分対策
養子は実子と変わらない法定相続人であり、孫や息子の嫁と養子縁組すれば、第1順位の相続人が増えることになります。
相続人の増加は遺留分の減少に繋がるため、具体的には以下のような効果があります。
【相続人が実子2人だけの場合】
- ・相続財産:9,000万円
- ・1人あたりの遺留分:2,250万円(それぞれ9,000万円の1/4)
【養子縁組で相続人が3人になった場合】
- ・相続財産:9,000万円
- ・1人あたりの遺留分:1,500万円(それぞれ9,000万円の1/6)
養子縁組が遺留分の減少のみを目的としている場合、無効になる可能性が高いので要注意です。
一方、相続人が増えると相続税の基礎控除も増えるため、節税対策としても有効ですが、孫を養子にすると孫の相続税が2割加算されてしまいます。
養子縁組には相続に強い弁護士や税理士など、専門家の意見を参考にするとよいでしょう。
遺言執行者専任による遺留分対策
先に解説した付言事項と合わせ、遺言執行者を選任した遺留分対策も有効です。
遺言内容を確実に実現したい場合は、家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任しますが、弁護士などの法律職が関与すると相続人の納得を得やすくなります。
遺留分の侵害額請求には感情的な部分も多いため、中立的な第三者が関わることで論理的に話し合いを進められるでしょう。
利害関係者だけで話し合うと、解決に至らないまま長期化する恐れもあるので、遺言執行者の選任は早めの検討をおすすめします。
遺留分放棄を活用した対策
相続発生後の遺留分侵害額請求が予想される場合、請求する可能性の高い相続人に権利を放棄させることもできます。
遺留分放棄は、権利者本人が家庭裁判所に申し立てる必要があり、許可を得る要件には以下の3つがあります。
- ・遺留分放棄について合理的な理由がある
- ・遺留分権利者本人の自由意思による放棄である
- ・特別受益など相当な対価が遺留分権利者に与えられている
あくまでも権利者本人の意思になるため強制はできず、遺留分対策としては難しい方法になるでしょう。
権利者の性格にも影響されるため、権利放棄の合理性をじっくりと説明する必要があります。
まとめ
相続の話題は各メディアで採り上げられる機会が増えたため、遺言書を作成する方も多くなっているようです。
また2015年の法改正によって基礎控除が引き下げられ、一部の相続税率が上がったことも遺言書の増加に繋がっているといえます。
遺言書の書き方など参考になる専門書も出版されていますが、いざ自分が書くとなると不安がつきまとい、何度書き直しても納得がいかない方も多いでしょう。
遺言書は残された家族の人生にも影響するため、遺言者本人の意思とともに相続の知識も必要になります。
遺留分をめぐったトラブルが想定される場合は、まず相続に強い弁護士など専門家へ相談してください。
遺言者だけでは気付かなかった解決策もアドバイスしてくれるため、納得できる遺言書を作成できるでしょう。