この記事でわかること
- 遺留分とは何かについて理解できる
- 孫が代襲相続で遺留分を請求できる場合がわかる
- 孫が貰う遺留分の計算方法や請求方法がわかる
人生100年時代のいま、財産を相続する方が病などで先に亡くなるケースもあります。
そんなとき、亡くなった方(被相続人)の財産は誰が相続するのか、そして相続分はどのくらいなのでしょうか。
民法では、被相続人より先に子がなくなった場合や、兄弟姉妹が先に亡くなった場合に、親に代わって子が相続できる制度があります。
これを代襲相続と言いますが、代襲相続において遺留分があるのか、誰に遺留分が認められているか、わかりづらいのではないでしょうか。
そこでこの記事では、遺留分の基本的な知識、被相続人の孫が代襲相続で遺留分を請求できるケースについて詳しく解説します。
孫が遺留分を請求するときの計算方法や請求方法についても解説しますので、孫の遺留分について知りたい方はぜひ参考にしてください。
遺留分とは
遺留分とは、「法定相続人に認められた最低限の取り分」のことです。
遺留分の内容を見ていきましょう。
遺留分を害されるケース
遺留分が害されるのは、被相続人の遺言や生前贈与がある場合です。
たとえば、被相続人Xが、長男Aに全財産を相続させるという遺言をのこしたとしましょう。
Xの相続人は他に次男Bがいます。
このケースでは、AとBはどちらも法定相続人であるにもかかわらず、Xの遺言のために、Bは相続できません。
このように遺留分を害する遺言も無効ではありません。
遺言は、被相続人の生前の意思を尊重するための制度だからです。
この点を勘違いしないようにしましょう。
なお、遺留分を害する生前贈与があったとしても、それも無効にはなりません。
しかし、Bにしてみれば「相続できる」という権利を一方的に奪われたことになります。
そこで、遺言や生前贈与の自由と、法定相続人の権利を調整するためにBには遺留分が認められます。
遺留分を侵害されたBは、後述する方法により遺留分侵害額の請求をすることができます。
遺留分を有する人と割合
遺留分権利者や遺留分割合は、法定相続分や法定相続人とは違うので注意しましょう。
まず、遺留分権利者は、配偶者、子(代襲相続の場合は孫、ひ孫など)、直系尊属です。
被相続人の兄弟姉妹に遺留分は認められません。
次に、遺留分割合ですが、妻のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合は遺留分を算定する財産の価額の2分の1となります。
なお、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合は、先述の通り、兄弟姉妹に遺留分は認められません。
そして、直系尊属のみが法定相続人の場合は遺留分を算定する財産の価額の3分の1の遺留分となります。
遺留分と法定相続人・法定相続分は違う
以下、法定相続人、相続順位、法定相続分についても確認しておきましょう。
遺留分とは違いますので注意してください。
配偶者と子(第1順位) | 配偶者が2分の1、子が2分の1 実子、養子、婚外子も平等な法定相続分を有する |
---|---|
配偶者と直系尊属(第2順位) | 配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹(第3順位) | 配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1 (被相続人と父母を異にする兄弟姉妹は他の兄弟姉妹の2分の1) |
なお、第1順位の法定相続人がいなければ第2順位、第2順位の法定相続人がいなければ、第3順位の法定相続人が相続します。
代襲相続とは
代襲相続とは、被相続人の子や兄弟姉妹が法定相続人で、法定相続人が被相続人より先に亡くなっている場合、相続人に代わって相続する制度です。
代襲相続人となる人
子の代襲相続人は孫やひ孫など直系卑属です。
直系の子孫であれば代々、代襲相続します。
これに対して、直系尊属に代襲相続という考え方はありません。
つまり、被相続人に子がいないケースで、父母も亡くなっているけれども祖父母が存命ということでも祖父母は相続人になりません。
このケースでは、被相続人に兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹が相続人となります。
また、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人の場合(子も、子の代襲相続人も、直系尊属もいないケース)、被相続人の兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、1代限り代襲相続が認められています。
代襲相続できるケースとできないケース
ここまでで、代襲相続人となる人がわかりました。
次に、代襲相続における注意点を確認しましょう。
それは、相続放棄と相続欠格・廃除があった場合の代襲相続の違いです。
相続放棄した人の子や孫は代襲相続できない
法定相続人は、相続を承認したり放棄したりできますが、相続放棄した人の子や孫は、代襲相続人となれません。
相続の承認・放棄には、単純承認と限定承認、相続放棄があります。
単純承認と限定承認は、法定相続人や法定相続分に影響を及ぼしませんが、相続放棄をした相続人は、法定相続分が認められません。
相続放棄をした相続人は始めから相続人ではなかったとみなされるためです。
したがって、相続放棄をした人の子や孫は代襲相続が認められていないので注意しましょう。
なお、代襲相続が認められない「相続放棄」とは、正式に家庭裁判所に申述した場合のことです。
覚書を書いたり遺産分割協議で相続しなかったりした場合は、「相続放棄」には当たりません。
被相続人X | Bの子(Xの孫)は、代襲相続できない |
相続人 子A、子B | |
子Bが相続を放棄 |
相続欠格や廃除の場合の代襲相続
相続放棄と違い、相続欠格や相続廃除があっても、代襲相続は妨げられません。
相続欠格は代襲相続できる
民法に定められた一定の事由に当たると、法定相続人になれませんが、この事由を相続欠格事由と言います。
相続欠格事由に当たると、当然に相続人資格がはく奪されます。
相続欠格事由の例は以下の通りです。
- ・故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせたもの
- ・詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- ・相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続欠格は代襲相続を認めています。
廃除された人の子や孫は代襲相続できる
被相続人の遺言などにより、一定の事由に当たる相続人に相続させない手続きが相続人の廃除です。
「被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたとき、推定相続人にその他の著しい非行がある」法定相続人を、廃除することができます。
ただし、相続人の廃除は意思表示では足りず、遺言をのこすか、または被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の審判を申し立てなければなりません。
相続人の廃除は、手続きが必要な点が、当然に相続人資格はく奪となる相続欠格事由と違います。
廃除は代襲相続を認めています。
代襲相続 | |
---|---|
相続放棄 | 認めない |
相続欠格 | 認める |
廃除 | 認める |
孫やひ孫は遺留分を請求できる
ここまでで代襲相続が認められる場合と認められない場合がわかりました。
次に、代襲相続で遺留分請求が認められるケースを確認します。
代襲相続によって孫・ひ孫は遺留分を請求できる
被相続人の子が相続開始前に亡くなっていたり、相続欠格・廃除に当たっていたりする場合、被相続人の孫が代襲相続できます。
代襲相続人である孫は、子と同じ法定相続分や遺留分を有します。
したがって、孫が代襲相続人となる場合、遺留分が認められています。
たとえば、被相続人Xの相続開始前にXの長男Aが亡くなっているケースでは、Aに子aがいれば、aが代襲相続人となります。
Xが全財産をXの次男Bに相続させる旨の遺言をのこしていると、aは遺留分を害されています。
このケースでは、aがBに遺留分侵害額請求ができます。
甥・姪には遺留分が認められない
被相続人に子も直系尊属もいない場合で、被相続人の兄弟姉妹も相続開始前に亡くなっていたり、相続欠格・廃除に当たっていたりするケースでは、被相続人の兄弟姉妹の子が代襲相続できます。
つまり、甥、姪が代襲相続人になります。
しかし、兄弟姉妹には遺留分がありませんから、甥、姪が代襲相続人になったとしても、遺留分は認められません。
たとえば、被相続人Xには子も直系尊属もなく、妻YとXの相続開始前に亡くなった兄Aの子aがいるケースで考えましょう。
このケースでは、Yとaが相続人となります。
aは、Aの代襲相続人になるからです。
しかしXが全財産をYに相続させる旨の遺言をのこしていたらどうでしょうか。
兄であるAには遺留分がないので、aはYに遺留分侵害額請求をすることはできません。
遺留分を孫が貰うときの割合と計算方法
あくまでも、遺留分を害する遺言や生前贈与に不満がなければ、遺留分の問題は生じません。
遺留分は法定相続分のように当然に受け取るものではなく、後述する遺留分侵害額請求という意思表示が必要です。
たとえば、先述のケースで考えましょう。
例
- ・被相続人Xの相続開始前にXの長男Aが亡くなっている
- ・Aには子aがいる
- ・Xが全財産2,000万円をXの次男Bに相続させる旨の遺言をのこしている
このケースでは、aは4分の1の遺留分を有しているので、Bに遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は遺留分を算定するための財産の価額(被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額)の2分の1が、子が遺留分権利者の場合の全体的遺留分です。
この全体的遺留分に法定相続分割合を乗じます。
AとBの法定相続分は2分の1なので、aの遺留分は4分の1です。
このケースでは、aの具体的遺留分額は500万円となります。
遺留分の請求方法
最後に、遺留分侵害額の請求方法について確認しましょう。
遺留分侵害額の請求は内容証明郵便がおすすめ
遺留分侵害額請求は、書面でなくても、口頭でもおこなうことができますが、書面を作成して相手に送付するほうが好ましいでしょう。
遺留分侵害額請求は、内容証明郵便を利用し配達証明など、内容や相手に到達した日の証明になる方法が一番良いとされています。
遺留分請求に相手が応じないときは調停を利用する
遺留分侵害額請求の相手方が任意に遺留分相当額を払ってくれない場合は、調停・審判を利用することになります。
家庭裁判所の調停の利用
相手が遺留分侵害額請求に応じないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てる方法があります。
家庭裁判所で調停員を通して話し合うので、調停は冷静に話し合う場となります。
調停が成立しない場合は審判に進みます。
なお、令和元年7月1日以前に、「遺留分減殺請求」という制度が「遺留分侵害額請求」という新制度にかわりました。
制度が変わる以前、令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合、遺留分減殺による物件返還請求等の調停を利用しなければなりません。
遺留分侵害額請求は早めに行う
相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないとき、相続開始のときから10年間行使しないときは、遺留分侵害額請求権は消滅します。
遺留分侵害額請求は早めに行う必要があります。
まとめ
ここまで、遺留分の意味、代襲相続とは何か、代襲相続人になれる人やなれない人などを解説しました。
遺留分で大切なのは、兄弟姉妹に遺留分はないということです。
また、兄弟姉妹の代襲相続は1代限りである点も注意が必要です。
孫が代襲相続人となるケースでは、遺留分を侵害されていれば、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額請求は、遺留分を害する遺贈の受遺者や生前贈与の受贈者に対しておこないます。
しかし、すべての遺贈や生前贈与について遺留分侵害額請求ができるわけではありません。
孫の遺留分が害されていたとしても、遺留分侵害額請求の相手方や、遺留分額の確定は慎重におこなわないと、トラブルの種になります。
代襲相続人である孫の遺留分侵害額請求をする際は、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。