この記事でわかること
- 遺留分や遺留分侵害額請求とはどのようなものか知ることができる
- 遺留分侵害額請求を行うためには時効があることがわかる
- 遺留分侵害額請求の時効が成立しないようにする方法がわかる
遺留分という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
遺産分割を行う際にまったく揉めないでスムーズにいく場合もあれば、遺留分をめぐる争いとなる場合もあります。
ここでは、遺留分をめぐる争いとなった場合にポイントとなる、遺留分侵害額請求について解説します。
また、遺留分侵害額請求の時効と、その時効が成立しないための注意点についてもご紹介します。
遺留分侵害額請求の時効は、相続を知ったときから1年、相続を知らなかったとしても相続開始から10年と決まっています。
時効を過ぎてしまうと、遺留分侵害額請求はできないので、注意しましょう。
目次
遺留分侵害額請求権とは?
相続が発生した場合、被相続人の財産を相続することができる法定相続人には、最低限相続することのできる割合があります。
この割合のことを遺留分といいます。
遺留分がある相続人は、配偶者のほか第一順位の法定相続人である子供、第二順位の法定相続人である直系尊属です。
第三順位の法定相続人である兄弟姉妹については、法定相続人になっても遺留分はありません。
遺言書に書かれた分割方法に従って財産を分けた場合に、この遺留分を下回る財産しか相続できない場合があります。
この場合、遺留分に満たない財産しか相続できなかった人は、財産を取得した人に遺留分に満たない金額の支払いを請求できます。
この請求権のことを「遺留分侵害額請求権」というのです。
なお、遺産分割協議によって遺産を分けた場合、全相続人がその協議の内容に同意したものとされるため、遺留分は発生しません。
したがって、この場合は遺留分侵害額請求権も発生しないこととなります。
遺留分侵害額請求の消滅時効はいつまで?
遺留分侵害額請求権は、相続人にとって自分の権利を守るために重要な権利です。
ただし、いつでも遺留分侵害額請求ができるのでは、遺産分割の内容がいつまでたっても確定しないという問題もあります。
そこで、遺留分侵害額請求を行うための時効が定められています。
遺留分侵害額請求権の消滅時効期間
遺留分侵害額請求を行うことができるのは、遺留分権利者が相続開始や遺贈等を知った日から1年以内とされています。
相続開始とは、被相続人が亡くなったという事実を指します。
ただ、場合によっては自分に相続権が発生していることを知らないまま時間が経過してしまう可能性もあります。
たとえば、第一順位の相続人が全員相続放棄をしたために、第二順位の相続人に相続権が発生したというようなケースです。
このようなケースでは、自分に相続権があることを認識し、かつ遺留分が侵害されていると認識してから1年以内となるのです。
遺留分が問題となることが多いのは、法定相続人以外の人に財産を遺贈・贈与した場合です。
このような場合でも、初めは財産の贈与が行われていることに気づかなかったり、遺言書が発見されなかったりすることがあります。
しかし、贈与や遺贈の事実が明らかになったら、そこから1年以内にその贈与や遺贈を受けた人に遺留分侵害額請求できるのです。
遺留分侵害額請求権の除斥期間
遺留分侵害額請求権には除斥期間が設けられています。
相続開始の時から10年を経過すると、遺留分侵害額請求をすることはできなくなります。
この10年間という期間は、どのような状況にある人も関係ありません。
極端に言えば、ある日突然遺留分が侵害されていることを知っても、10年経過した後では遺留分侵害額請求をすることはできません。
ただ、実際にはそのようなケースはほとんどありません。
10年間何もしないで権利が消滅する前に、1年間の時効が成立するか、遺留分侵害額請求を行うかのどちらかです。
なお、一度でも遺留分侵害額請求権を行使すれば、10年間経過して除斥期間が成立することはありません。
遺留分の時効を中断させられる?
遺留分侵害額請求権は、法律上「形成権」と呼ばれる権利であるとされています。
この形成権とは、単独の意思表示によって法律効果を生じさせることのできる権利のことをいいます。
単独の意思表示で成立する権利であるため、遺留分侵害額請求権を一度でも行使すればその時点で法律上の効果が生じます。
遺留分侵害額請求を行って具体的に相手方との合意が成立しなくても、その権利自体はすでに発生している状態となるのです。
その後、実際に遺留分侵害額についての支払いが行われるまでの時間がかかっても、時効が成立することはありません。
なお、遺留分が時効で消滅しないようにするためには、遺留分侵害額請求権を行使するしかありません。
本来、遺留分侵害額請求を行うには、口頭でもメールでも、どのような手段であっても問題ありません。
ただし、遺留分侵害額請求権をめぐる裁判になる可能性もあり、その場合は時効で消滅したかどうかが争点となります。
そのため、遺留分侵害額請求権を行使する場合は、必ず相手方に行使したことを認識できる状態にしておく必要があります。
そのためには、内容証明郵便を請求する相手方に送付するようにします。
こうすることで、相手方が遺留分侵害額請求されていることを知らなかったとはいえない状態となるのです。
複数の相手方に遺留分侵害額請求権を行使する可能性がある場合は、それぞれの人に対して内容証明郵便を送るようにしましょう。
時効を迎えないために注意したいポイント
遺産をめぐる争いとなっている場合には、遺留分侵害額請求以外にも様々な主張をすることがあります。
しかし、その主張を間違えてしまうと、遺留分侵害額請求権が消滅してしまうこともあるため、気をつけなければなりません。
遺言書が無効だと主張する場合
遺産分割をめぐる争いをする場合には、遺言書の有効性をめぐって争いとなることも少なくありません。
自宅で見つかった自筆証書遺言が有効に成立するかどうかの争いを、裁判所ですることもあります。
遺言無効確認調停や訴訟を行う場合、その争いは長期間にわたることが多く、相続が発生してから1年以上の時間がかかることも珍しくありません。
裁判所で遺言無効確認調停や訴訟を行っている場合、その遺言書の有効性が問題となっているため、遺言による遺贈も有効に成立していないと考えるかもしれません。
しかし、遺言無効確認調停などを裁判所で行っている間も、遺留分の消滅時効が停止することはありません。
そのため、遺言書の有効性が確認された時には時効が成立し、遺留分侵害額請求を行うことができない場合もあるのです。
このようなことを防ぐためには、あらかじめ遺留分侵害額請求を行う内容証明郵便を送付しておくようにします。
遺言無効確認調停や訴訟を起こす際には、忘れないようにしましょう。
贈与や遺贈の無効を主張する場合
贈与や遺贈が有効に成立していないのであれば、そもそも遺留分侵害額請求を行う必要がない場合もあります。
そのため、遺留分をめぐる争いをする際には、その原因となった贈与や遺贈の有効性をめぐって争いとなることも考えられます。
このように、贈与や遺贈の有効性が確認されていない場合でも、遺留分侵害額請求権の時効は成立してしまう可能性があります。
確実に時効が成立しないようにするためには、やはり内容証明郵便を送付しておく必要があるのです。
遺留分侵害額請求権と金銭債権化について
遺留分侵害額請求権の時効は、相続を知って1年・相続を知らない場合は相続開始から10年です。
しかし遺留分侵害額請求権を使うと、同時に金銭債権化が発生して、時効が5年になります。
金銭債権化は「お金を請求できる権利」と意味します。
ややこしいですが、遺留分侵害請求権を使えば、そのまま遺留分の財産を受け取れるわけではありません。
遺留分侵害請求権を使うことで、「遺留分の財産に相当するお金をもらえる」という状況になります。
遺留分の財産に相当するお金をもらえる権利が、金銭債権化です。
例えば父親・母親・子供A・子供Bの家族がいたとします。
父親が亡くなって、遺言で「不動産はすべて子供Aに相続する」と書かれている場合に、母親・子供Bは遺留分侵害請求権を使います。
不動産を相続した子供Aは、母親・子供Bに対して遺留分の財産を渡さなければいけません。
このとき、不動産を分割して渡すのではなく、遺留分の財産に応じたお金を渡しても問題ないです。
なぜなら遺留分侵害請求権を使ったら金銭債権化が発生しているため、不動産そのものではなく相応のお金を渡すことが認められているからです。
不動産や株は分配すると権利関係が複雑になるというデメリットがあるため、金銭で解決できる仕組みになっています。
ただし金銭債権化の時効は5年なので、もし5年を過ぎていたら、遺留分の財産をもらえなくなるかもしれません。
まとめると「遺留分侵害請求権を使うと金銭債権化も同時に発生して、時効が5年なので注意が必要」ということです。
相続で悩んだら弁護士に依頼しよう
遺留分侵害請求権や相続について悩んでいるなら、弁護士への相談がおすすめです。
下記で弁護士に相談するメリットを紹介します。
期限内に手続きを進められる
遺留分侵害請求権や相続の手続きは、時効が決まっています。
時効を過ぎると、権利は失われて、相続財産をもらえるなくなるかもしれません。
さらに相続時には、葬儀の手配・手続き、相続財産の把握・法定相続人の確定・話し合いなどやることがたくさんあります。
バタバタしてしまい手続きの期限を過ぎる可能性が高いです。
そこで弁護士に依頼しておけば、スムーズに手続きを進められるため、時効を過ぎてしまう心配もありません。
早い段階で弁護士に依頼して、任せられる手続きは任せるのが確実でしょう。
他の相続人と交渉してくれる
相続では、他の相続人と話し合って、相続内容を決めなければいけません。
話し合いがスムーズに進めばいいですが、親族だけで話し合うと感情的になってトラブルが起きるケースもあります。
そこで弁護士に依頼すれば、間に入って他の相続人と交渉してくれます。
余計なトラブルを防げたり、スムーズに交渉・手続きを進めてくれたりするので「なるべくトラブルを避けたい」という人は弁護士に依頼しましょう。
まとめ
相続によるトラブルは、誰にでも発生する可能性があります。
そして、当事者になる場合には誰もが自分を被害者だと考えることでしょう。
しかし、このようなトラブルに巻き込まれた場合に大事なのは、法律の定める内容を知り、冷静に対応することです。
遺留分がある人は誰なのか、そしてその遺留分を主張する際にはどのようにすべきかを知ったうえで行動する必要があります。
遺留分侵害額請求ができる期間についてもきちんと把握したうえで、まずは話し合いで解決できる方法を模索していきましょう。