この記事でわかること
- どうしても遺留分放棄してもらいたい場合にできることについて理解できる
- 遺留分を放棄して欲しいと言われたときの対応が自分でできる
- 遺留分に関するトラブルを避ける方法がわかる
自身の父母などの葬儀が済んだ後、遺産相続の話になったとしましょう。
そこで急に、遺留分を放棄して欲しいと言われたあなたは、即座に拒否しました。
周りの兄弟姉妹は、どうしてもあなたに遺留分を放棄してもらいたいようです。
そこであなたは、今放棄するタイミングだったかと言うところも含めて気になり出しました。
さて、このような場合、遺留分の放棄をしても問題ないでしょうか。
そもそも、遺留分の放棄とはどのような制度なのでしょうか。
また、遺留分を放棄してもらいたい側としてはどのようなことができるのでしょうか。
詳しく解説していきます。
目次
遺留分の放棄とは
「遺留分」とは、遺産相続した財産の中で、最低限もらえる部分のことをいいます。
ただし遺留分を受け取れる権利をもった人は、亡くなった方の配偶者・子供に限ります。
もし遺言書に「財産はすべて他人に相続する」と記載されていても、遺留分を受け取る権利を持った人は「自分は遺留分をもらうべきだ」と請求できます。
民法に定められている制度であり、相続人の権利の一つと考えてよいでしょう。
結論から言えば、他人が強制的に放棄させるということはできません。
遺留分とは民法で定められた権利である
遺留分について民法で規定された部分をみてみましょう。
「千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一」「第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。」
このようにあることから、兄弟姉妹の間で相続が起った場合には、そもそも遺留分という制度がありません。
また、直系存続のみが相続人の場合は、被相続人に財産の3分の1が遺留分になりますが、それ以外の場合だと被相続人の財産の2分の1が遺留分になります。
計算方法としては以下の決まりがあります。
「第千二十九条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第千三十条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」
ポイントとしては、相続開始前の1年間にした贈与についても算入して計算するということです。
当事者双方が遺留分権利者の取り分をわざと少なくしようとした贈与については、1年前よりも前の贈与も計算に入れます。
今回取り上げる、どうしても遺留分放棄をさせたい場合には、もしかすると遺留分権利者の取り分をわざと少なくしようと思って、生前に贈与を受けていたケースもあるかもしれません。
このようなケースは要注意で、もし遺留分権利者から遺留分を請求された場合に、贈与にかこつけた遺留分の侵害であると言われる可能性もあります。
遺留分を放棄する場合とは
遺留分を放棄する場合とは、具体的にどのような場面のことをいうのでしょうか。
被相続人が、もしくは故人が相続を望んでいない人物に遺留分を放棄させたい場合と、相続人本人が放棄を望む場合とがあります。
ただし、誰かから遺留分を放棄させるということは基本的にできません。
本人が遺留分を自ら放棄すると言うことはあり得ます。
放棄する前に確認したいこととして、行使しないまま時間の経ってしまった遺留分減殺請求権(現在の遺留分侵害額請求権)は消滅する運命にあります。
「第千四十二条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」
したがって、遺留分侵害額請求権を行使しないで欲しいという話が出てくるのは、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ってから1年間が経過するまでのことです。
もし相続トラブルがすでに長期化している場合は、そもそも遺留分侵害額請求ができない可能性もあるということです。
遺留分の放棄は、たとえ本人が希望していたとしても家庭裁判所が認めない場合があります。
他人に言わされていて本人の本心では遺留分を放棄したくないかもしれないからです。
「第千四十三条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。」
このように、遺留分の放棄についてはかなり慎重な運用がなされています。
遺留分の放棄は、ただ意思表示しだだけではダメで、さらに家庭裁判所への申し立てが必要です。
また、相続の開始前(被相続人の生存中)に家庭裁判所の許可を得て,あらかじめ遺留分を放棄することができます。
相続が起こってから遺留分放棄をすると言うのは、制度的に間違った話です。
遺留分放棄は、被相続人となる人が生きている間ではないとできません。
したがって、相続が起こってから遺留分放棄をして欲しいというのは制度的に無理があります。
遺留分侵害額請求権を行使しないで欲しいと頼むことはできますし、そうこうしているうちにそもそも遺留分侵害額請求権が消滅すると言うことはあり得ます。
遺留分放棄が難しい理由・手続きの方法
遺留分放棄が難しい理由は、本人が希望していたとしても家庭裁判所の許可を得なければ放棄できないということと、放棄する時期が被相続人となる人が生きている間に限られていることの2点です。
被相続人となる人が生きている間に、相続人となる予定の人に遺留分の放棄をするように交渉するというのは、なかなかできないものではないでしょうか。
また遺留分の問題が実感としてわかるのは、やはり相続が始まった後のことです。
相続が始まってから始めて、遺留分という制度を知ったり、遺留分を放棄してもらいたいと思うこともあるでしょう。
現実は、遺留分は被相続人が生きているうちではないと放棄できません。
死後に遺留分を放棄する制度はありませんが、先ほど解説したように時効により消滅するのを待つことはできます。
それでも、相続の開始があったことを知ってから1年は最低限消滅しないわけですから、時間がかかります。
もっと言えば、本人が「自分は遺留分を請求しない」「遺留分を放棄する」と言うことは可能です。
これには特に家庭裁判所の許可は不要です。
ただ、この記事を読んでいる方の中には、なかなか本人から遺留分を放棄するという一言をもらえない方も多いのではないかと思われます。
時効による消滅を待っていると、相続税申告などの期限に間に合わなくなるかもしれません。
それは、どうしたらよいのでしょうか。
遺言書の遺留分放棄への効力
遺言書で、遺留分放棄をするように書かれていた場合はどうなるでしょうか。
その場合でも本人の自由意志の方が優先されます。
遺言書で遺留分放棄をするようにと書かれていても、それを無視して遺留分を請求することは可能です。
ただし、どのような理由で、遺留分請求が起こるかもしれない遺産の分け方をしたのかをきちんと書き表してあれば、遺留分請求をしにくくなることは事実です。
もし調停や裁判に持ち込まれたとしても、裁判官の印象として「ここまで説明してあるのに、それでも遺留分侵害額請求をするのだな」と思うことはあるでしょう。
つまり、遺言書に遺留分放棄のことが書いてあったからといって効力は絶対ではありません。
また、遺言書で遺留分放棄のための対策がしてあることがあります。
家を誰々に渡す代わりに、遺留分相当額の宝石を誰々にあげる、といった内容です。
この場合は、遺言書の通りにしたくない場合どうすればいいでしょうか。
遺言書があっても遺産分放棄を求める方法
遺言書で遺留分対策がしてあっても、それでもその対策すら実行したくない場合もあるかもしれません。
遺産分割協議を相続人全員で行った結果、遺言書の通りにしないことは可能です。
ただし、その場合遺留分侵害額請求をされることがあるかもしれません。
この場合で、遺留分放棄を求める方法は本人への説得です。
本人を遺留分侵害額請求しないように説得するのが一番現実的かと思われます。
その際、遺留分放棄を強要したと言われないように、遺留分侵害額請求されないための代わりの財産を渡すとよいでしょう。
つまり、遺留分に見合うような交換条件を出せるかどうかがポイントとなります。
遺留分放棄したくない場合にできる事
今まで見てきたように、遺留分は誰かから放棄を強要されるものではありません。
あくまで自分の自由意志に基づいて放棄するかどうか決めるものです。
さらに、相続が始まった後だと遺留分の放棄は制度としてできません。
遺留分を放棄したくない場合にできることとしては、消滅時効にかかってしまう前に、遺留分侵害額請求を行うことでしょう。
請求は、簡単な方法としては内容証明郵便などで請求する方法がありますし、裁判上の請求でももちろん構いません。
遺留分放棄をしたくないのであれば、権利が消えてしまう前に行動しましょう。
遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄に似た「相続放棄」もあります。
どちらも相続において財産を受け取る権利を放棄することを意味しますが、実は内容が全く異なります。
- ・遺留分放棄:遺留分を受け取る権利を持った配偶者・子供が「遺留分を受け取る権利」を放棄する(相続自体は継続する)
- ・相続放棄:相続そのものを放棄すること
まず遺留分放棄は、遺留分を受け取る権利を持った人が、遺留分に対して相続を放棄することです。
例えば全体で1000万円の相続があった場合に、Aさんの遺留分が100万円だとします。
Aさんが遺留分放棄をすれば「100万円を受け取る権利があるが、その権利を放棄する」ことになります。
遺留放棄をしたとしても、相続する権利は残っており、相続の話し合いにも参加できます。
遺留分放棄はあくまでも「遺留分を受け取る権利を持った人が、その権利を手放す」だけの行為になります。
これに対して相続放棄は、相続自体をやめることです。
相続放棄をすれば、相続自体に参加できなくなり、相続の話し合いでも発言権は一切ありません。
亡くなった人の配偶者や子供であったとしても、相続放棄した段階で相続とは関係のない人になります。
ただし亡くなった人に負債があり、借金が相続される場合に、相続放棄しておけば負債を背負う必要がありません。
相続放棄は相続する財産がマイナスだったときに利用される方法になります。
遺留分放棄で困ったら弁護士に相談しよう
もし自分が遺留分放棄を要求されたり、遺留分放棄を要求したりしたい場合は、弁護士への相談がおすすめです。
なぜなら相続問題について精通している弁護士なら、的確なアドバイスや交渉ができます。
双方の目的をすり合わせて、落とし所を見つけるのも弁護士の仕事なので、専門家に任せることで余計なトラブルを避けられます。
弁護士に依頼するためには費用もかかりますが、多くの事務所では初回の相談を無料で受け付けているため、気軽に相談してみましょう。
自分で無理に交渉したり時間や手間をかけたりしてしまうと、そもそも相続税の納付期限に間に合わないかもしれません。
相続税の手続きは決めることが多いのに期限が短いため、早い段階での弁護士依頼が確実でしょう。
まとめ
今回は、遺留分侵害額請求について放棄させたい人と、放棄したくない人がそれぞれできることをご紹介しました。
まとめると、遺留分侵害額請求をしないで欲しい側としては、遺留分に見合う何かしらの財産的に価値あるものを提供できるかどうかが重要なポイントになります。
一方、遺留分を放棄したくない人は、そのままにしておくと遺留分が時効により消滅してしまいますから、自分は遺留分を放棄しないことを意思表明する必要があります。
さらに、実際に遺留分侵害額請求をすることも可能です。
遺留分は個人の権利ですから、他の人が放棄させたり、放棄を強要したりすることはできません。
権利であると言うことをしっかり押さえた上で、どのように相手を納得させるかを考えてください。
あまりよい案が思い浮かばない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。