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最終更新日:2022/12/15

遺言書の遺留分減殺請求の時効はいつ?時効を止める方法や注意点を解説

弁護士 山谷千洋

この記事の執筆者 弁護士 山谷千洋

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/yamatani/

この記事でわかること

  • 遺留分減殺請求について理解できる
  • 遺留分減殺の請求方法がわかる
  • 遺留分減殺請求の消滅時効を止める方法がわかる

遺留分を侵害する遺言を書く場合に気になるのが、相続人間のトラブルです。

遺留分を侵害された相続人が遺留分を取り戻そうと他の相続人に対して遺留分減殺請求を行う可能性があるからです。

ただし、遺留分減殺請求を行うには期間制限があります。

一定期間内に遺留分減殺請求を行わない場合には、消滅時効が完成して遺留分を主張できなくなります。

そのため、遺留分を侵害された相続人は、消滅時効を止めようと手段を尽くすのです。

以下、遺留分減殺請求と消滅時効を止める方法について詳しく解説します。

遺留分減殺請求とは

遺言をする人は、法定相続分にとらわれることなく遺言で相続分を指定することができます。

これに対し、相続人には遺留分が認められています。

生前贈与や遺言、遺産分割などで遺留分が侵害される場合、相続人は遺留分減殺請求をすることで自己の遺留分を取り戻すことができるのです。

ここでは、遺留分および遺留分減殺請求について説明します。

遺留分は誰がどのくらいもらえる?

遺留分とは、一定範囲の法定相続人に保障されている相続財産の一定割合をいいます

被相続人に「相続財産処分の自由」があるのに対し、相続人には「相続を受ける権利」が認められています。

そのため、相続人保護の観点から一定範囲の法定相続人に最低限の財産を保障しているのです。

また、遺留分はすべての法定相続人に認められるものではありません。

遺留分を有するのは、亡くなった人の配偶者、子供、および直系尊属です

法律婚ではなく内縁関係にある場合は、配偶者には該当しません。

また、被相続人の子供であれば、養子や非嫡出子であっても遺留分が認められます。

相続が発生した時点ですでに子供が亡くなっているケースでは、遺留分は孫に代襲されます。

直系尊属とは、被相続人の父母や祖父母のことです。

なお、遺留分は兄弟姉妹には認められていません。

遺留分の割合は、相続人が直系尊属だけの場合は亡くなった人の財産の3分の1、その他の場合は亡くなった人の財産の2分の1です。

遺留分を主張する相続人(遺留分権利者)が複数いる場合は、これに民法に定められる法定相続分を乗じて配分します。

たとえば、配偶者1人と子供2人の場合、遺留分の割合は相続財産の2分の1です。

これに各人の法定相続分を乗じると、それぞれの遺留分の割合が算出できます。

このケースでは配偶者は法定相続分が2分の1ですので、遺留分は4分の1になります。

また、子供1人当たりの法定相続分は4分の1ですので、遺留分は8分の1ずつとなります。

遺留分の割合をまとめると、以下の表のようになります。

【遺留分の割合】

相続人の構成 相続人 法定相続分 遺留分
配偶者と子供 子供 1人 配偶者 1/2 1/4
子供 1/2 1/4
子供2人 配偶者 1/2 1/4
子供 A 1/4 1/8
子供 B 1/4 1/8
配偶者と直系尊属 配偶者 2/3 1/3
直系尊属※ 1/3 1/6
配偶者と兄弟姉妹 配偶者 3/4 1/2
兄弟姉妹※ 1/4 なし
配偶者のみ 配偶者 すべて 1/2
子供のみ 子供※ すべて 1/2
直系尊属のみ 直系尊属※ すべて 1/3
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹※ すべて なし

※複数名いる場合は人数で均等割り。子供に代襲相続人がいる場合は、子供と同様に算出。

遺言書で遺留分が侵害されていた場合の対処法

遺言で指定された相続分が遺留分を侵害する場合、遺留分が認められる相続人(遺留分権利者)は遺留分減殺請求をして相続財産を取り戻すことができます

遺留分減殺請求によって、法定相続人は当然に遺留分を取得すると解されています。

つまり、相続人は訴訟提起などの手続きなしに、法定相続人の意思表示だけで遺留分を取得します。

この場合、意思表示の方法についても特に決められた方法はありませんが、明確な意思表示として記録を残すために内容証明付の郵便などで行うのが通常です。

相続人が遺留分減殺請求をすると、相続人は相続財産に対して一定割合の遺留分を所有するにすぎないため、相続財産は他の相続人との共有となることも少なくありません。

共有状態となることで権利関係が複雑になり、自由に相続財産を処分できなってしまう不便を解消するため、平成30年の民法改正によって遺留分に相当する金銭の支払いで遺留分減殺請求を行うのが原則となりました。

遺留分の対象となる相続財産

遺留分の対象となる相続財産には、以下のものが含まれます。

  • ・相続開始時点で亡くなった人が有する遺産(現存遺産)
  • ・相続開始時点で亡くなった人が有する債務
  • ・相続開始前1年以内に行われた生前贈与
  • ・相続開始前10年以内に行われた特別受益分

なお、特別受益は、生前、被相続人から結婚や養子縁組、生計を目的とした資金として特定の相続人が受け取った不動産やまとまった金銭などが対象です。

生前贈与の一種ですが、結婚など目的が限定されています。

特別受益を受けた相続人がいる場合、相続人間の公平を保つため、特別受益分を遺産分割の対象となる相続財産に加えて他の相続人と相続分を分配します。

同様に、他の遺留分権利者との公平を保つため、一定期間内に行われた特別受益分を遺留分算出の基礎となる相続財産に含めて計算します。

遺留分の計算方法

ここでは、遺留分の具体的な計算方法を説明します。

遺留分の計算は、相続財産の価額に遺留分の割合を乗じて行います。

【計算式】
遺留分=相続財産の価額×遺留分の割合

まず、遺留分算出の基礎となる相続財産の価額を算出します。

相続財産の価額は、亡くなった人が相続開始の時点に保有していた現存遺産から債務を控除します。

なお、現存遺産には遺贈された財産も含まれます。

これに、相続開始前に行われた贈与を加算します。

対象となる贈与は、相続開始前1年以内に行われた生前贈与と、相続開始前10年以内に行われた特別受益分です。

負担付贈与についても、負担の価額を控除した贈与財産の価額を算入できます。

【計算式】
 相続財産の価額=(現存遺産-債務)+生前贈与+特別受益分

上記で算出された相続財産の価額に遺留分の割合を乗じることによって、遺留分の金額が計算できます。

相続人が配偶者と子供2人のケースでは、遺留分の割合は相続財産の2分の1です。

遺留分権利者ごとでは、配偶者が4分の1、子供1人当たりの遺留分が8分の1です。

【前提条件】

現存遺産:自宅(3,500万円)と金融資産(4,500万円) 8,000万円
債務:住宅ローン 1,000万円
生前贈与:子供2人に1,000万円ずつ(6カ月前)
特別受益分:子供Aの留学費用 500万円(8年前)

遺言により、配偶者が自宅(3,500万円)と金融資産2,000万円および住宅ローンを相続し、子供2人がそれぞれ金融資産を1,250万円ずつ相続することが指定されていたとします。

まず、遺留分算定の基礎となる相続財産の価額を算出します。

このケースでは、相続財産の価額は9,500万円です。

【計算式】
8,000万円-1,000万円+1,000万円×2+500万円=9,500万円

次に、遺留分の割合を乗じて、相続人それぞれについて遺留分を算出します。

このケースでは、遺留分は配偶者が2,375万円、子供1人につき1,187万円となります。

【計算式】
配偶者:9,500万円×1/4=2,375万円
子供1人当たり:9,500万円×1/8=1,187万円

減殺の対象と順序

相続人が遺留分減殺請求をした場合、減殺の対象となるのは遺留分の算出基礎となる相続財産です。

つまり、相続開始時の現存遺産と債務だけでなく、相続開始前1年以内になされた生前贈与や相続開始前10年前以内の特別受益分も減殺の対象となります。

ただし、生前贈与については、被相続人と受贈者の双方が贈与契約の時点で法定相続人の遺留分を侵害することを認識していた場合、期間の限定なく遺留分減殺請求の対象となることがあります。

また、遺留分を侵害する遺贈や贈与などがひとつでない場合も考えられます。

この場合は、最初に遺贈、次に贈与の順序で減殺されます。

なお、遺贈とは、遺言によって行われる贈与のことです。

生前贈与よりも新しく行われた遺言による贈与から先に減殺されることになります。

少し細かい話になりますが、遺留分を侵害する複数の遺贈ある場合、または遺留分を侵害する複数の贈与がある場合の減殺の順序にも決まりがあります。

遺贈の場合、侵害した遺贈すべてに対して目的物の価額に応じた按分で減殺が行われるのが原則です。

これに対し、贈与の場合は、新しく行われた贈与から遡って減殺されます。

遺留分を侵害する行為が遺贈か贈与かによって、減殺される順序が異なりますので注意が必要です。

遺言書にある遺留分の減殺請求の時効は1年

相続人は、決められた期間内に遺留分減殺請求を行う必要があります。

遺留分減殺請求権は、法定相続人が相続の開始があったことを知った日から1年以内、または相続開始のときから10年以内に行わない場合、時効より消滅します。

相続人は、遺留分を侵害する遺言があることを知ったときから1年以内に遺留分減殺請求を行わなければ、遺留分の救済措置を受けられなくなります。

遺留分減殺請求権の消滅時効・除斥期間に注意

遺留分減殺請求の消滅時効の起算日は、「相続の開始」と「減殺すべき贈与または遺贈があったこと」を知った日です。

単に被相続人が死亡したことを知っただけではなく、遺言で指定される相続分が遺留分を侵害していることを知った日から時効は進行します。

遺言があることを知っただけでその内容について知らされていない場合は、時効は進行しません。

また、消滅時効は中断することもあります

消滅時効が中断すると1年のカウントが止まり、中断事由が解消されると再び最初からカウントが始まります。

相続開始があったことを知った日から1年経過しただけでは時効が完成しない場合もあることに注意が必要です。

遺留分減殺請求には除斥期間も設けられています。

除斥期間は、一定の期間内に権利を行使しない場合に、法律関係の早期安定を目的としてその権利自体が自動的に消滅するものです。

除斥期間の10年が経過すると、相続人が相続の開始があったことを知らない場合や、中断によって時効が完成していない場合でも、遺留分減殺請求はできなくなります

遺留分減殺請求の消滅期間を止める方法

消滅時効は、中断事由が発生すると進行が止まります。

ここでは、消滅時効を止めるための中断方法を説明します。

民法では、消滅時効を中断させる方法として、請求、仮差押えまたは仮処分、債務の証人の3つを規定しています。

遺留分を侵害する遺言を原因とする遺留分減殺請求の場合は、3つの方法のうち、請求に該当します

遺留分減殺請求の消滅時効の進行を止める具体的な手段の一つとして、内容証明郵便を送達することがあげられます。

送付先は、遺留分を請求できる可能性がある人全員です。

相手が受け取ったことを客観的な記録として残すために、配達証明もつけて送付します。

内容証明郵便には、遺留分を侵害する遺言の特定、自分が遺留分権利者であること、遺留分減殺請求を行う旨と減殺対象となる相続財産などを明確に記載します。

消滅時効を確実に中断する方法は、訴訟の提起です。

内容証明郵便を送ってから話し合いで解決できない場合に訴訟で解決するケースが多いですが、内容証明郵便を送らずに最初から裁判所で争うこともできます。

ただし、遺留分減殺請求訴訟を行う前には、必ず調停の手続きを経なければなりません。

調停の申し立ては必ずしも時効の中断として認められないケースもあります。

相手との溝が深く、話し合いでは解決が難しいことが見込まれる場合は、調停期間中に消滅時効が完成してしまうことを防ぐため、事前に内容証明郵便を送っておくことをおすすめします。

遺留分減殺請求は始まりに過ぎない

ここまで、遺留分を侵害する遺言の存在を知ってから、消滅時効完成前に遺留分減殺請求を行うまでの流れを説明してきました。

しかし、本来の目的である遺留分の取戻しはここから始まります。

というのも、遺留分減殺請求を行うことで、自動的に現金や不動産が戻ってくるわけではないからです。

遺留分減殺請求によって、相続人は、遺留分の取戻しの対象となる相続財産についての不当利得返還請求権を取得します。

この不当利得返還請求権を行使しないと、遺留分の対象となる相続財産は取り戻すことはできません。

さらに、不当利得返還請求権にも消滅時効があります。

不当利得返還請求権は、遺留分減殺の意思表示である内容証明郵便や訴状が相手方に到達したときから10年以内に行使しない場合、消滅時効にかかります。

ただし、相続財産が不動産や動産などの物権であれば、消滅時効はありません。

まとめ

遺留分を侵害する遺言は、遺留分を侵害された相続人から遺留分減殺請求が行われる可能性があります。

遺留分減殺請求は1年の消滅時効がありますが、これを中断させるため、相続人は内容証明郵便を送ったり訴訟を提起したりすることが想定されます。

あわせて、遺留分を侵害する遺言や贈与・遺贈の無効確認訴訟も起こされる可能性があります。

ただし、遺留分減殺請求には除斥期間も定められていますので、相続開始後10年経過すれば遺留分減殺請求を受けることはありません。

遺留分を侵害する遺言を行う場合は、相続人間で深刻なトラブルとなるリスクを有していることを踏まえ、慎重に検討する必要がある他、あらかじめ相続人と話し合って理解を得ておくようにしましょう。

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