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最終更新日:2022/12/13

遺留分減殺請求に時効はある?消滅時効や除斥期間、時効を止める方法も解説

弁護士 福西信文

この記事の執筆者 弁護士 福西信文

東京弁護士会所属。
相続手続等の業務に従事。相続はたくさんの書類の作成が必要になります。
お客様のお話を聞き、それを法律に謀った則った形式の文書におとしこんで、面倒な相続の書類を代行させていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/

この記事でわかること

  • 遺留分減殺請求・消滅時効・除斥期間など、相続に関する専門的な言葉の意味がわかる
  • 遺言などで自分が相続対象からはずされていた場合でも、親族関係によっては一定額の相続財産を得られる権利があることがわかる
  • 時効を中断し、遺留分減殺請求できる期間を延ばす方法がわかる

相続に関して、遺留分減殺請求という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。

遺留分減殺請求を端的に言うと「一定の法定相続人には、どんな場合でも、最低限受け継げる財産が定められているが、本人から請求をしないと遺留分は受け取れない。

つまり何もしないと何ももらえない」という制度です。

さらに、請求手続きに関しても後ほど書きますが、法律専門家である弁護士でないと、難しい部分も多くあります。

遺留分減殺請求に関しては、手続きの期間が「相続を知った日から1年以内」か「相続開始の日から10年以内」となっています。

そのため、相続があったことをすでに知っており、自身に遺留分があることがわかっている場合は、早めに請求を行う必要があります。

また、自分に遺留分が存在するか不明な場合は、書籍を読むなり、弁護士に相談するなりし、確認を行う必要があります。

ちなみに、専門家に相談をする場合は、事前に、必要な資料を確認し、予約をした上で訪問することが重要です。

事前に戸籍やその他必要資料などを持参しておくことで、二度手間もなく、より精度の高いアドバイス・対処方法を教えてもらいやすくなります。

いくら権利があっても、請求が遅れたことで、請求権が消滅時効にかかって、本来は貰えるはずだった相続財産を取得できなくなる恐れがあります。

せっかくの権利が行使できないというのは、もったいないですよね。

当記事では、この「遺留分減殺請求」制度に関して、詳しく説明していきます。

遺留分減殺請求とは

遺留分減殺請求という制度は、意外と知られていない傾向があります。

名前が、「遺留分減殺請求」という、非常にいかめしいものであることに加え、名前から何を請求するのか直感的にわからない制度です。

なかなか一般の人には馴染みにくいと思います。

この遺留分減殺請求が生じるのは、遺産相続が起点となります。

まずは、「遺産相続」という切り口から考えてみましょう。

遺産相続争いが原因で遺留分減殺請求につながりやすい

現在は、相続人(亡くなった人)の資産の多寡を問わず遺産相続争いも多くなっているということを聞きます。

相続人それぞれが、自分の権利を主張し、「貰えるものは貰う」という姿勢の人も増えました。

また、本人が「穏便に」と思っても、配偶者側は直接の血族ではないので、「きちんと貰えるものは貰う」と強硬な姿勢に出る場合があります。

地方だと、今でも「ハンコ代」という形で、家を継がない子どもが、法定相続分や遺留分よりも少ない数百万など一定のお金を相続することで、それ以上はお金などを請求しない、という風習が残っているところもあります。

これはある意味で、ことを荒立てたくない田舎ならではの風習と言えます。

数代、十数代続く歴史のある家ほど、家が続くように、相続を穏便に済ませるケースが多いです。

ただ、都市や地方都市の場合はもう少しドライ・現実的なケースも増えています。

都市・地方都市の場合は、被相続人である子どもなどもすでに家を持っていて、家を相続してもしょうがない、それより現金をという現実的なニーズが多いと言うことは聞きます。

近いからこそ、余計に争いが泥沼化することも

いずれにせよ、親子間・兄弟間の仲が良ければいいですが、近い関係であるからこそ、過去のことも含め、相続が「争続」になるケースも少なくありません。

相続の割合でもめる、特定の人だけに相続分が片寄る、特定の人だけ相続分がないなど……。

このように、被相続人の誰かが不公平感を感じる状況で出てくる、「せめて一定の額は相続したい」という意思を実現する手法が、遺留分減殺請求なのです。

この「遺留分減殺請求」を説明する前に、まず「法定相続分」「遺留分」という言葉を理解することが必要ですので、それぞれの言葉について解説します。

法定相続分とは

法定相続分とは、法律上、定められた財産の相続割合です。

配偶者は常に法定相続分を有します。

たとえば、夫・妻に子どもが2人というケースで夫が亡くなった場合、妻の法定相続分は2分の1、子ども2人の相続分はそれぞれ4分の1となります。

子どもがいないケースであっても、配偶者は最低半分以上の法定相続権を有します。

一方配偶者以外の他の親族であれば、必ずしも法定相続権を有するとは限りません。

まず子どもが第一順位、子どもがいない場合は親が第二順位、親もいない場合は兄弟姉妹が第三順位という順番になります。

  • ・まず子どもがいれば配偶者と子どもが相続権あり(第一順位)
  • ・子どもがいなければ、配偶者と親が相続権あり(第二順位)
  • ・子どもも親もいなければ、配偶者と兄弟姉妹が相続権あり(第三順位)

という順番で、「子ども→親→兄弟」という順番で相続権が回ってきます。

配偶者は常に法定相続分の権利を有しますが、子ども・親・兄弟姉妹に関しては、それぞれ先に続く相続人がいない時点で、初めて相続権・遺留分減殺請求の権利(兄弟姉妹は遺留分・遺留分減殺請求権を有しない)が回ってくるということは注意が必要です。

法定相続分はあくまで一つの基準

法定相続分はあくまで「法律で定められた一つの基準」です。

遺言書が存在したり、法定相続人全員の合意があったりすれば、法定相続分とは違った内容で、遺産を分けることができます

また、法定相続人には、兄弟姉妹を除き「遺留分」が存在します。

遺留分とは

遺留分は、兄弟姉妹を除く法定相続人が、最低限主張できる相続分の権利になります。

たとえば、「配偶者と子ども2人の相続で、1人の子どもだけ、遺言で法定相続分を無視して相続分をゼロにされた」などは、遺留分の侵害にあたります。

配偶者と子どもがいる場合は、配偶者が4分の1、子どもが4分の1を子どもの人数で割るという形となります。

上記のケースであれば子どもには「8分の1の遺留分」、つまり遺言等にかかわらず相続財産の8分の1を請求できる割合が存在するわけです。

とはいえ、無条件でその遺留分が相続できるわけではありません。

権利を行使しないと、遺留分を受け取ることはできなくなります。

遺留分減殺請求という形で、権利を主張しないと、遺留分の相続はできない

遺留分が存在する場合は、「遺留分減殺請求」を行う必要があります。

この遺留分侵害請求は、遺留分を侵害された人やその代理人(弁護士など)が相手に対して請求することで行使できます。

遺留分減殺請求は、相手方の特定や、他の手法の検討と併せて考慮する方が望ましいので、一般の人が行うより、弁護士など法律専門家に依頼した方が良いでしょう。

もちろん、権利を行使するかしないかは、本人の意思次第です。

遺留分を行使せず、そのままにしておくことも問題はありません。

遺留分の減殺請求が可能な期間

民法では、以下の条文があります。

減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。
相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。

引用:民法 第1042条

ポイントは、「贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間」か「相続開始の時から10年を経過したとき」が、請求可能な期間であるということです。

加えて、「行使しないときは」という文章があります。

この「行使」は遺留分減殺請求権の行使です。

相続に納得がいかない場合は、相続を知った日から1年以内に、遺留分減殺請求を他の相続人に対して「行使」する必要があります。

内容証明や弁護士を通した通知などで、「私には遺留分がありますので、遺留分減殺請求を行いますよ」と通知することで、減殺請求権の時効を中断させ、場合によっては遺留分の支払いを行わせることができる可能性もあります。

ただ、遺留分減殺請求を受け取った相手方は、まず間違いなく良くない印象を抱きます。

ある意味、遺留分減殺請求を送るということは、他の相続人に対する宣戦布告であると言えますし、内容によっては、相手を逆に刺激し、場合によっては訴えられるケースもゼロではありません。

ですので、遺留分減殺請求を行う際は、法律専門家の弁護士に依頼し、遺留分減殺請求以外の方法も含めた、総合的な相続への対応を行うことが無難と言えます。

たとえば、裁判所の調停などで、遺留分ではなく法定相続分の所まで相続する金額を上げることができれば、遺留分減殺請求で遺留分を得るよりも大きな金額を相続できます。

遺留分減殺請求権の「消滅時効」

遺留分減殺請求に関しては、前述の通り、知ったときから1年以内に行使しないか、相続開始より10年を経過しても行使しないことで、時効となり消滅します。

注意すべきは、相続が開始されたことそのものを知っていても、遺留分減殺請求の対象になる贈与・遺贈があったことを知らなかった、もしくは知らされていなかった場合は、「知ったとき」には該当せず、消滅時効は進行しないということです。

加えて、遺留分を有する人が、贈与・遺贈があったことをすでに知っていたとしても、亡くなったことを知らされていなかった、つまり「相続の開始を知らなかった」場合も、知ったときに当たりませんので、消滅時効は進行しません。

消滅時効に当たるポイントや起算点などは、特に注意して確認する必要があります。

できれば、弁護士などと相談し、いつが遺留分減殺請求の起算点になるかを確認すると良いでしょう。

なお、相続開始から遺留分減殺請求をせず10年を経過した場合は、時効の中断など関係なくなり、遺留分減殺請求は「原則」認められなくなります。

この「原則」の例外部分については、次の「除斥期間」の話で詳しく説明します。

遺留分減殺請求権の「除斥期間」

遺留分減殺請求には、「除斥期間」というものが存在します。

先ほど紹介した、「相続開始から10年」が除斥期間にあたります。

原則として、相続が発生したから10年も経って、そこからまた何かを争うというのは、色々と混乱にもなりますし、相続した財産も無くなっていたり、変わっていたりする可能性があります。

ですので、相続の区切りとして、除斥期間が設けられていると言えます。

ただし例外もあります。

この10年の期間の間に、遺留分減殺請求権を行使することで、除斥期間による遺留分減殺請求権の消滅を止めることができるのです。

遺留分減殺請求の行使および時効を止める方法

それでは、遺留分減殺請求の行使および時効を止めるために、具体的には何をすれば良いのでしょうか。

手順を箇条書きで書くと、

  • 1 相続人や遺贈を受ける者、相続財産を確定する(相続人は、自身も相続人であれば、戸籍を市区町村役場で取得することができる)
  • 2 必要に応じ、遺産確定の訴えを起こし、どの財産が相続財産に当たるかを特定させる
  • 3 相続人・遺贈を受ける者に対し、遺留分減殺通知請求を行う
  • 4 遺留分減殺請求の通知を相続人・遺贈を受ける者に内容証明郵便で送付
  • 5 調停などに移行する前に、相手方と交渉し、もし合意が取れれば和解書を作成、遺留分を受け取る
  • 6 当事者や代理人間の交渉が決裂した場合は、遺留分減殺調停の申立書を作成
  • 7 遺留分減殺調停を行う
  • 8 話し合いがまとまれば調停調書を作成、まとまらない場合は、遺留分減殺請求訴訟を提起

という形で進んでいきます。

なぜ意思表示を内容証明郵便で行うのか

遺留分減殺請求を行うには、請求を行う相手を特定し、「遺留分の減殺請求をしますよ」という意思表示を行うことが必要です。

意思表示に関しては、電話・メール・郵便などでは不十分です。

現代ではメールなら証拠が残るではないか、という意見もありますが、遺留分減殺請求の意思表示に関しては、公的に記録を残す方法で通知しておかないと、確実な伝達はできないのです。

その確実な伝達方法が、「内容証明郵便」です。

内容証明郵便が送付され、本人もしくは家族などが受け取ると、送った側は受け取ったことがわかります。

また、送付したという履歴も郵便局に残り、後で確認することもできますので、言った言わないの水掛け論がなくなります。

送ったことが記録される内容証明郵便を利用して、遺留分減殺請求の対象となりそうな人全体に送ることが必要です。

時効を止めることはできるが、遺留分を受領するというゴールにたどり着く必要性

時効を中断しても、肝心な遺留分の請求、そして受領ができないと、意味がありません。

内容証明郵便を送っても、相手が遺留分を支払おうとしない場合は、5~7の調停や訴訟調停など、弁護士に依頼しないと相当厳しいフェーズに移行します。

1~4のプロセスに関しても、一般の人にはなかなか難しいかもしれません。

弁護士など専門職からならともかく、一般の人から遺留分減殺請求の内容証明郵便が届いたとしても、送られた相手方が対応してくれなければ意味がありません。

また、誰が遺留分減殺請求の対象かというのを正確に特定したり、きちんと対象者に内容証明郵便を送ったりして、遺留分をきちんと受け取るという出口までのフローを考えると、最初から弁護士に手続きを一任することが確実かと思われます。

遺留分減殺請求と遺言・遺贈の関係性と注意点

遺留分減殺請求に関して、遺言・遺贈が無効(たとえば、自筆証書遺言で、内容に瑕疵があったなど)である場合でも、遺留分減殺請求の時効はそのまま進んでいきます。

遺言の内容に問題があるからと言って、時効が停止するであろうと判断するのは危険です。

また、遺留分が絡む相続では、遺留分を侵害された側が「そもそも遺言自体が無効ではないか」と、訴訟等を起こすケースもあります。

遺言に関して訴訟を起こすことで、遺留分減殺請求についても、消滅時効が中断するのではないかと考える方もいるかもしれませんが、あくまで遺留分減殺請求に関しては別途行わないといけません

遺言の無効に関する訴訟と遺留分減殺請求については、別建てで進んでいきます。

もちろん、弁護士に遺言の無効に関する訴訟を依頼している場合は、遺留分減殺請求や消滅時効についても配慮しながら手続きを進めていくと思われますので、弁護士に依頼している場合は、基本的に心配する必要はないでしょう。

まとめ

このように、遺留分減殺請求は、ただ請求を行えば遺留分がそのまま支払われるというものではありません

相続人の特定、書面の送付や時に調停・裁判など、弁護士が関与するのが確実な局面が極めて多いです。

また、相続開始を知ってから1年という条件もあるため、遺留分を請求したいと思ったら、早急な対応が必要となることは、特に注意するようにしてください。

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弁護士 山谷 千洋

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弁護士 石木 貴治

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弁護士 中野 和馬

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