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相続争いは時に泥沼化してしまい、人間関係に取り返しのつかない傷を残してしまいます。
仲が良い兄弟姉妹なので遺産相続トラブルとは無縁だという人もいますが、実際のところはいざ相続の場面になると争いになってしまうことも多いのです。
今回は、相続争いを未然に防ぐために、よくあるパターンとその対処法をご紹介します。
なぜ相続争いが起きてしまうか
相続争いが起きてしまう理由は、これまでの人間関係が良くなかった、土壇場で財産が欲しくなってしまったなど様々です。
相続が発生する前は大して欲しくなかった財産でも、ちょうど相続のタイミングで子どもの進学が重なって資金が必要になったり、もともと兄弟姉妹間でもめていて遺産相続にも波及したり、といったことがあります。
相続争いの原因は、挙げればきりがありません。
つまり、どのような原因であっても相続争いにつながってしまうことはあり得ますし、どのような人にとっても身近な問題であるということです。
相続争いを予防するには
相続争いを予防するには、基本的には相続される側が準備をきちんとすることです。
例えば遺言を作成したり、なぜそのような遺産の分け方になるのか日頃から子どもたちに話をするなどして、理解を求めたりすることが挙げられます。
ところが、しばしば相続される当事者は悠長に「法律通りに分けてくれればそれでいい」と考えていたり、「遺言なんて縁起が悪い。
もっと歳をとって具合が悪くなってから作ればいい」と考えていたりすることがあります。
本来であれば、相続争いを最初に予防できるのは相続される側の人間ですが、このようなケースの場合は予防策を期待できません。
反対に、相続する側として相続争いを予防するためにできることは、よくある相続争いのパターンと対処法を知っておくことです。
そうすれば、生前にできる対策をとってもらうよう被相続人にお願いしたり、相続人間で調整が必要なことであれば話し合うなど、事前に策を講じることができます。
専門家の力を借りる
相続に関わる専門家はたくさんいますが、相続で紛争が起こった、起こりそうだというときは弁護士に相談しましょう。
弁護士は依頼人の味方となり、依頼人にとって最も有利な方法を考えてくれます。
紛争にはならないものの、自分たちだけで書類を残すのが不安というときは、相続に詳しい行政書士に相談してはいかがでしょうか。
裁判所に提出する書類に関連することや、不動産に関する相談は司法書士に対応してもえます。
どのような遺産分割の方法であれば節税になるのかという疑問には、税理士がアドバイスをくれるでしょう。
遺産分割で悩んだときは、早めに専門家の力を借りることをおすすめします。
次の章では、よくある遺産相続トラブルをご紹介します。
よくある遺産相続トラブル
遺産の分け方で納得がいかず裁判に
遺言書が残っていればその通りに遺産を分ければ良いのですが、遺言が残っていない場合は相続人同士で話し合って誰がどの財産を引き継ぐのか決め、遺産分割を行います。
ところが、それぞれに欲しいものやいらないものがあり、誰がどの財産を引き継ぐのか話がまとまらないことがあります。
資産が現金預金だけであれば、分割しやすいのですが、分割しにくい不動産だけであった場合、どうなるでしょうか。
主な財産といえば家だけ、しかも兄弟姉妹のうち誰かが住んでいて、その人が引き継ぎたいというケースもあるでしょう。
この場合、他の兄弟姉妹は資産をもらえないことになります。
何ももらえない人は、当然自分も何かしら欲しいと言い出すでしょう。
また、引き続き住み続けたいという本人は、追い出されるかもしれないと思ってしまうのではないでしょうか。
このようなケースでは、話がまとまらず最悪の場合は裁判になってしまうことがあります。
そして裁判になった場合、他の兄弟姉妹たちは最低限もらえる遺産分(遺留分)をもらう権利がありますので、家に住み続けたい人は他の家族に遺留分を支払わなければなりません。
これを支払う能力がなければ、家を出て行くことにもなりかねないでしょう。
対処法
以上のような場合は、遺留分について考えておく必要があります。
何ももらえなかった兄弟姉妹が納得いかないのは当然です。
遺留分を用意する方法としては、生前に代わりの財産を贈与しておいたり、生命保険を活用して保険金の中から遺留分相当の金額を用意したりする方法があります。
また、大前提として遺言を残しておくことが重要です。
遺言では、なぜその財産をその人に承継させるのか、他の人の分はどうなるのかといったことを詳しく書いておくといいでしょう。
その上で、遺留分への対策をすることをおすすめします。
思わぬ相続人の登場で協議が難航
生前に結婚を複数回していたことが、他の家族に知られていないというケースが案外あります。
例えば戸籍類が必要になったときは夫が必ず処理していたので、妻は戸籍を見たことがなく、まさか夫に前婚の家庭があったとは思っていなかったというようなケースです。
この場合、亡くなってしまった人を責めることはできませんし、前婚の家族の子どもにも相続権はあるのですから、遺産分割協議を進めていくことになります。
しかし、思わぬ相続人の登場で戸惑ってしまい、人間関係が壊れるきかっけになることもあります。
こうした場合は、できるだけ円満に協議を進めていくしかないのです。
協議が難航して長引けば税制上の優遇措置も使えなくなり、良いことはありません。
対処法
もし前婚を隠したまま死亡すれば、確かに被相続人が気まずい思いをすることはないかもしれませんが、その分遺された人が苦しむ可能性が高いです。
そのため、心当たりがあれば意を決して離婚歴を伝えておきましょう。
一方、相続人の立場としてできることは、他の相続人の存在をまず受け入れることです。
もし相続の仕方で相手が「納得がいかない」と言ってきたら、丁寧に話し合うことが先決でしょう。
相続の場面では、相手が強硬な主張をしてくることがよくありますから、一旦落ち着いて話し合ってみてください。
当事者同士の話し合いが難しい場合は、弁護士などの専門家を間に入れることをおすすめします。
介護などの負担が偏っていた場合
被相続人の介護を誰か1人が負担してきた場合、その人は特別に多く遺産をもらえるはずであると考えることがあります。
ところが、他の相続人から見ると自分の取り分が減ってしまうと考えるでしょう。
このような場合はどうしたら良いのでしょうか。
対処法
この場合は、主に生前の対策に限られます。
介護などの負担が相続人の1人に偏っていた場合、相続が発生してからその相続人の貢献度(寄与度)を裁判所に認めてもらうには、かなりの手間や時間がかかるので、現実的な手段ではないかもしれません。
そこで、生前に介護の負担分を生前贈与という形で残しておけば、相続の場面で他の相続人と均等になってしまっても、該当する相続人としては納得しやすいでしょう。
遺産として多めに渡したいということであれば、遺言を作成し、なぜその人だけ多いのか、どのような貢献があったのかを書いておくという方法があります。
生前贈与との関係で納得がいかない
特定の相続人が生前贈与で遺産をもらっていた場合、生前贈与を受けられなかった相続人から不満が出る場合があります。
対処法
何か事情があっての生前贈与だとしても、他の相続人は納得がいかないこともあるでしょう。
もし、その生前贈与が特別受益に当たるのであれば、生前贈与を受けた相続人の取得分を減らして調整します。
生前贈与を受けた本人からしてみれば、特別受益にはあたらないと主張したくなるでしょう。
このようなケースでも、遺言で生前贈与の旨も記載しておくことをおすすめします。
誰が事業を引き継ぐかで揉める
被相続人としては誰か1人に事業を引き継いでほしくて、経営資産を集中させるため、結果として1人が相続財産を独り占めすることになってしまうというケースです。
対処法
何ももらえなかった人はもちろん納得できないでしょう。
何も対策をしていなければ法定相続分どおりに遺産分割されて経営資産を集中できませんし、遺言を作ったとしても、やり方によっては他の兄弟姉妹から遺留分を請求され、結果として経営に支障が出てしまうことがあります。
この場合、生前に家族信託を利用し経営権だけを後継者に譲ったり、保険を活用して遺留分対策をしたりするなど、方法は色々あります。
相続に事業承継が関係するケースは複雑になるので、その分野に詳しい専門家の力を借りることをおすすめします。
相続権のない人が口を挟んできて揉める
相続人の配偶者などが口を挟み、話がこじれてしまうパターンは意外とよくあります。
対処法
こうした場合、たしかに相続人の配偶者に権利はありませんが、丁寧に説明していくしかありません。
例えば、亡くなった人の息子である相続人の妻が相続に口を出してきて困ったので、他の相続人が叱責したとします。
しかし、何かしらの意見がありそれを表明しただけの妻としては、心外でしょう。
これがきっかけで夫婦仲が悪化し、離婚に繋がってしまう可能性もあります。
このようなことがないよう、話し合いによって誰もが納得できるような落としどころを探していくことが最も望ましいです。
遺言書の内容で揉める
これまでの内容と関連しますが、遺言書はあるものの、その内容に納得がいかない人がいる場合があります。
対処法
そもそも、被相続人は自由に遺言を遺すことができます。
もちろん、相続人同士で協議をして別の方法で遺産分割をしても構いません。
まずは、遺言を書くこと自体や、その内容は自由だということを理解しておきましょう。
第三者に遺贈をする内容に納得がいかない
財産の全額を寄付するなどという内容に納得がいかない場合についてです。
対処法
この場合、最低限もらえる遺留分については主張することができます。
被相続人が遺留分を考慮しない遺言を作成することはできますが、その場合でも相続人はしっかり遺留分を主張する権利がありますので、ご安心ください。
遺言が偽物と疑われる
これは、被相続人が自分で作成した遺言にありがちなトラブルです。
遺言書が偽物かどうかを争うには、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟が必要です。
対処法
この場合は、公証役場で公正証書として遺言を作成してもらうことをおすすめします。
そうすれば、偽造の心配もありません。
遺言が実行されずに放置
遺言を実行するのは大変手間がかかるものです。
忙しくて放置しているうちに、法定相続分について名義を勝手に替えられて第三者に売られてしまうなどすると、もう遺産を取り返すことができなくなる場合があります。
対処法
このようなケースでは、誰が責任を持って遺言を実行するのか、遺言執行者を決めておくことが重要です。
遺言執行者を誰とするのかは、遺言の中に記載できます。
解決のポイント
遺産はもともと被相続人のものであって、相続人のものではありません。
相続でありがちなのは、いつの間にかそれぞれの財産が自分のものだと思い込むことです。
自分のものだから絶対もらえるはずだという思い込みが、相続トラブルを招いてしまうことも多いのです。
気持ちの問題と法律の問題の境目
そもそもの問題の発端が人間関係の悪さであることはよくあります。
もし不満に思うことがあるなら、まずは何について不満に思っているのか、よく考えてみることが重要です。
また、相続される側としては、自分はいなくなってしまっても、自身の行動が後に遺された人の人間関係に大きく影響するのだということを、今のうちから自覚しておくことが重要なのです。
まとめ
今回は、ありがちな相続トラブルと対処法についてご紹介しました。
しかし、これらの事例は万人に当てはまるわけではありません。
自治体によっては、相続に関する無料相談などを実施していることもあります。
少しでも気になることがあれば、専門家への相談を検討してみてください。